最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
「やぁやぁこんにちは。韋駄天のプロ、ナツカさんです」
「韋駄天のプロって最早なんだよ……。裏方のクロだ」
翌日。即ち
俺とナツカは、とある迷宮に訪れて配信を開始していた。
やってきたのは、極寒の迷宮。雲一つない蒼天の空と、どこまでも透き通る氷の大地によって構成された大地。
――此処はハクヒメ大氷原。
平常
俺達が此処にやって来たのは、もちろん
だが、この迷宮を選定した理由については、とある経緯がある――。
◆ ◆ ◆
「助けてください!」
――遡ること前日。
俺は、
常夜の『大空洞』の空の下、ホログラムのウインドウ越しの通話相手は真剣に答える。
『…………助けてほしい、とは?』
俺の懇願に、心春さんは真面目そのものだった。
「
心春さんの問いに、俺は言葉も真っ直ぐに答える。心春さんの表情が、不都合な事実に気付いたみたいに砕けた。
『あー…………例の裏企画……』
そう、企画そのものではなく……その裏企画が問題なのだ。
流石に残り二日で九基の迷宮を攻略するのは、普通にやればまず不可能。前にも言ったが、迷宮なんてものは一基攻略するだけでもだいたい三時間、長くて八時間くらいかかるのである。間をとって五時間半としても、九基ということは四九・五時間。今日を抜いたら残り二日なので、ノータイムで潜り続けたとしても時間が足りない。
ノルマ失敗して、俺が罰ゲームになるだけならいいんだよ。
正直、それはそれでオイシイまであると思ってる。ドッキリ的に勝手に設定した罰ゲームに仕掛け人が引っかかるっていうのも面白いしな。
ただし。
「一基は…………一基はマズイでしょ…………」
ギリギリ足りずにノルマ未達とかなら、視聴者も『惜しい!』ってなるし、惜しい分罰ゲームのくやしさ的なものも伝わりやすくなる。
だが、これがたった一基しか踏破してないとなったら話は別だ。
ワンチャン、忘れられてる。いや、多分確実に忘れられてる。
いやまぁ仕方がないという思いもあるよ。
だが…………ここまで霞んじゃってる状態で罰ゲームしても、視聴者は『あ、そう?』ってなるだけだろ!! それは…………完全に企画失敗だろ!!!!
その上、
「このまま慌てて期限ぎりぎりまで探索しても、未達成は目に見えてます。それじゃ、企画としては失敗だ」
『
「そんなVlogみたいなのだけじゃ足りないですよ!! ちゃんと企画主旨を完遂した上で面白くないと!!」
『プロだなぁ……』
まぁまだ
でも、『ガチる』と決めたのならそのくらいストイックにやりきらないと筋が通らない。俺はやると決めたら一〇〇点を目指す男である(時と場合による)。
あと心春さんが楽しんで見てるのは実の妹とその友達の日常風景だからという説がかなり濃厚なのでアテにならないし。
『なるほど問題意識は理解した。だが、何故私に? 流石に迷宮省でも連休を増やしたりはできないよ』
「流石にそんなことお願いするつもりはないです」
ゴールデンウィーク拡張なんてやったら社会は大混乱だもんね。いや、俺もいち陰キャ学生としてゴールデンウィークはあと三日くらい欲しい気持ちがあるが……。
……陽キャならこういうときに『早く学校始まらないかな』とか思うんだろうか。正気の沙汰じゃないと思う。
「そもそも、仮にここから企画を完遂したとしても、『新物質発見』のインパクトには勝てないです」
皮肉なことだが、『新物質発見』っていう俺達を押し上げてくれたハプニング自体が、俺達が元々企画していた
この状況から
「だから……『DTA』をします」
『……DTA』
DTA――ダンジョン・タイムアタック。
奇しくも、昨日やった
時間的余裕のなさをこれでもかとアピールし、攻略できるか否かというギリギリのせめぎ合いをリスナーに印象付けさせることで、企画の行く末に期待をさせるんだ。
……ただし、この方針には問題がある。
「とはいえ、俺はダンジョンのことをそんなに知りません」
ナツカと一緒に潜るようになって、この
DTAをやるには、そもそもの迷宮に対する知識があまりにも足りなさすぎる。そして、今から調べるには時間もない。……だが。
「心春さんなら、DTAをするのにオススメな短めの迷宮をご存知ですよね。ネット上の一般論じゃなくて、俺やナツカのレベルに見合ったものを。突然だし不躾なお願いで恐縮ですが…………力を貸してくれませんか」
もちろん、これは俺の問題だ。厳密にいえばナツクロチャンネルの問題だから俺『達』の問題だが、企画の成否に関しちゃあくまで俺個人の納得や満足の領分がデカいのは自覚してる。
だから究極的には心春さんが俺の願いを聞く道理はない。だから、こいつはダメ元だ。俺の人脈で頼れるのは、心春さんしかいない。……ヴィヴィアネさんにはちょっと今は頼みづらい状況だし。
俺の頼みに対し、心春さんはしばし無言を貫き……、
『一つ聞いておきたいんだが、何故クロ君はそこまで企画の「成功」にこだわる? チャンネルとしては既に「ナツクロイト鉱石」という決定的な成功があるだろう』
心春さんは、真面目な調子で問いかけて来る。
それを受けて、改めて俺は自分の思考を整理してみた。
確かに、チャンネルの成功という意味では俺達はこの上ない成果を得ている。ナツクロイト鉱石の発見によってチャンネルは十分注目されているし、この期間で集中してナツクロイト鉱石についての配信を行ったことで話題を十分以上に活用できた自負もある。そのきっかけになっているのは
でも……………………このままじゃ終われないって気持ちがあるのも確かなのだ。
確かに降って湧いた偶然を生かしたのは俺達の力だし、その成果を貶すつもりはない。だが、偶然は偶然だ。
せっかく頑張って企画して、心春さんに
「言ってしまえば、ナツクロイト鉱石の発見は『ハプニング』だ。俺達の意図したものじゃないです。チャンネル発足最初の企画がハプニングで潰れたなんて……かっこつかないじゃないですか」
今回、チャンネルにとって最も大きな影響を与えたのはナツクロイト鉱石の発見。それはいい。発見したのはナツカの観察力であり、発掘したのは俺の応用力。広く活用できるように権利を放棄しお祭りにしたのは俺達の判断。全部、俺達の力だ。
だが、それで企画がなあなあになるのは許せない。ハプニングがあっても企画自体はきちんと、ちゃんとした形で成功させる。その上でハプニングも享受していきたい。
「俺達はダイバーとして活動するんです。なら、どんなハプニングがあっても自分達が始めた企画はきちんとやり遂げたい」
きっと、ナツカと活動していくならこんな波乱万丈な展開は日常茶飯事なのだ。何となくそんな気がする。
そんなアイツと一緒に活動していく上で、その度に自分達が計画した活動をできないんじゃ先が思いやられるからな。
…………それに、この作戦を思いついたときに、こう思ってしまったのだ。
この作戦なら、ただ
思いついてしまったのなら、やってみたい。結局は、そこに行き着くのかもしれない。
『…………ふむ、良い目だな』
素直に答えると、心春さんは頷いて笑った。
『動機が計画したことが上手くいかない苛立ちだったり、ハプニングに企画が上塗りされた劣等感からくる焦りだったりしたら、悪いが助力は断るつもりだった。挫折も経験だしね。しかし……その目は前向きな意志の目だ。その目で見据える先なら、私も楽しみだよ』
「心春さん!」
『ただ、分かっているのかい? いくらDTAとはいえ……いや、DTAだからこそ、九基もの迷宮をたったの二日で攻略するのはかなり骨が折れる。ましてナツカも一緒ならなおさらだ』
浮足立ちかけた俺に、心春さんは噛んで含めるように言う。
そこについては、望むところだ。むしろ道のりが厳しければ厳しいほど、企画としてはボルテージが上昇していくってものである。
「もちろんです。もちろん達成する気満々ですけど、ハードルっていうのは高ければ高いほど、飛べてもこけても盛り上がる」
『ダイバー根性だねぇ……。一応君、本職は
「ランクマでもそうじゃなくても同じですよ。リスナーの期待を自分の考えるオモシロでぶち抜くのがダイバーの本懐ってヤツです」
八年もそうやってやってきたのである。スタイルが変われどその本質は変わらないのだから、迷うことなんて何もない。
『ふむ、DTA向きの迷宮が九基か……。分かった。ピックアップするよ。ただ少し時間はくれ。どうせなら思いつきじゃなくてしっかりと吟味して協力したいからね。とりあえずこれは外せないっていう迷宮は一つだけ教えておこう。君達がそこに潜っている間に、残りも調べておくよ』
「了解っす! ほんと何から何まですみません」
依頼の対価とはいえ、
『気にするな。貸し借りの話ならぶっちゃけナツクロイト鉱石発見の功績で十分お釣りが来るし…………それに忘れているかもしれないが、私はそもそも君のファンだからね』
心春さんはそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。思わず照れる俺に、心春さんは続けて、
『あ、借りに思ってくれるなら迷宮省就職の件も検討して、』
「それじゃ、おつかれさまでーす」
ぶつり。
この後、慌てて通話を再開した心春さんに改めてお礼を言って、それから一つ目の迷宮――ハクヒメ大氷原のことを教えてもらった。心春さん、めちゃくちゃしっかりしてるけどやっぱところどころナツカのお姉さんだよね。
◆ ◆ ◆
「ナツカは忘れているかもしれないが、今回俺達は
珍しくカメラの画角の中に入り、俺は腕を組みながらナツカに言う。
真面目腐った俺に、ナツカは首をかしげて、
「そんなこと分かってますよ? 今更どうしたんですよ?」
「全然探索できてねぇやろがい!!」
ビシ! と。俺は呑気しているナツカに向けて勢いよく指をつきつける。
裏企画を知ってる俺ほどじゃないにしても、お前も少しは焦れや! 流石に一基しか探索できてませんでは企画崩壊すぎるだろ!
しかしナツカは平然としつつ、
「そんなこと言っても、ここからちょこちょこ探索する程度では焼け石に水では? ナツクロイト鉱石の企画だってあるんですし、取捨選択は大切だと思いますよ」
「ナツカの癖に正論を言いおって……」
『まぁまぁ プロの言う通りだよ』
『クロは十分頑張ってるし少しは休んでいいんじゃない?』
『迷宮探索の方は必ずしもクロが頑張らなくちゃいけないわけじゃないし』
『ナツクロイト鉱石の方に意識を集中させてもいいのよ?』
くっ……コメントの方も企画失敗をフォローする擁護モードに入ってやがる。
だが! 既に解決策は用意してあるのだ! 俺はブレーキをかけようとする声の一切を無視して、既定路線に話を運んでいく。
「確かにナツカの言うことも一理ある……。今更一基や二基の迷宮を踏破したところで、そんなの付け焼刃だしな。だが……それが五基や六基だったらどうだ?」
『おや?』
『話変わったな…』
『あぁ~……』
コメントも、俺に策があると察してきたらしい。俺は不敵な笑みを浮かべながら、地面に両手を当てる。するとそこから、ドローンが現れる。
「『花火ドローン』って知ってるか? 火薬を積んだドローンを飛ばして、空中で炸裂させることでより複雑な図柄の花火を作り出す機械だよ。実際の花火大会でも使われてるんだ。ハイテクだろ?」
俺はそう言って、都合四機の花火ドローンを滞空させる。
「『
俺は、滞空させた花火ドローン達に
新物質を搭載した花火ドローン――簡易風上ドローンが、風を吹き上げる。
「
前回の『ナツクロイト鉱石レギュ』は、ナツクロイト鉱石の回収に手間がかかりすぎるというけっこう致命的な問題があった。
そこで、俺は本家本元の『
元が同じ
これならば、花火用の火薬のついでにナツクロイト鉱石を運搬して浮遊することで、片付けの手間を考えずにナツクロイト鉱石の浮遊を探索に持ち込むことができる。
「ナツクロイト鉱石+DTA。この組み合わせを特化させれば、滞っていた
「おお! いつもの細かいところにこだわる悪い癖が出たかと思いきや、意外に一挙両得の妙案ですよ!」
「お前ホント一言余計な」
不届き者にはアイアンクローの制裁を加えつつ、俺はコメントの様子も確認する。
コメント欄は、『あ~思いついちゃったんだね……』『大変だと思うけどクロがやりたいなら応援する 大変だと思うけど』『休んでいいと思うけどなぁ……』など落ち着いたコメントがある一方で、『天才』『DTAにどの程度使えるか知りたいから数こなしてくれ』『プロが何回吹っ飛んで場外乙するか賭けない?』など楽し気に捉えているコメントもそこそこあった。
俺のことを心配するコメントについては、これからの配信でオモシロを見せつければ自然となくなっていくのでここでは無視する。
俺は手を叩いてギブを主張するナツカのアホから手を放し、
「っつーわけで、これからこのドローンを使って適宜ショートカットしつつDTAするぞ。今回は着地しても自乙しなくていいぞ」
「おお、助かりましたよ。このドローン、クロの操縦だからナツカさんは落ちかねないので」
「多分お前が操縦するよりは落ちにくいぞ」
足元に滑り込んだドローンによってナツカをお手玉することで安定性を証明しつつ、画角を再びナツカの方に集中させつつ、俺はリスナーに向けて改めて宣言する。
「……そういうわけで、ここからが真の
「いいから下ろすべきですよ! ナツカさんは韋駄天のプロでありお手玉のプロではないので!」
「お手玉のプロも別にお手玉されるわけではないだろ」