最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。 作:家葉 テイク
ハクヒメ大氷原は、黎明期の代表的DTA勢『
特徴としては、アイススケートのスケートリンクのようにつるつるとした氷で構成された一面の大地と、青々とした大空がある。
「おお……これは凄いですよ……」
では、何故そんな迷宮の平常
その理由は、この迷宮の地形にある。
――先程『アイススケートのスケートリンクのように』と言ったが、それはあくまでも地面の材質を表現したものであり、その
「これ、普通に進もうとしたらかなり骨が折れませんか?」
「そこをどうにか加速して飛び越えるのがこの迷宮の醍醐味だしな」
ハクヒメ大氷原は、ジェットコースターのように曲がりくねった地面と底が見えないほど深い
氷の大地を勢いよく滑り、ジャンプ台のように使ってクレバスを飛び越え『奥』に進んで行く――そういう踏破法が、この迷宮においての正攻法である。
この迷宮を発見した白姫も、まるでフィギュアスケートのように優雅な動きでこの迷宮を高速踏破する動画によって有名になったらしい。DTA界隈のことは俺もよく知らないので伝聞でしかないが……。
「もちろん、こんな迷宮をナツカが踏破できるとは思っていない」
「心外ですよ。ナツカさんはトリプルアクセルのプロです」
「韋駄天じゃなかったっけ?」
まず間違いなく落下地獄だからな。
そういう意味では、普段の探索ならば間違いなく(グダるので)選択しない迷宮だ。ただし――今の俺達には、心強い味方がいる。
俺は花火ドローンを飛ばしながら、
「そこで、これだ。花火ドローンに『ナツクロイト鉱石』を搭載させた。こうすれば地形の不利を無視して踏破できる」
「ええーっ、なんかギミックを無視してるみたいで、ずっこいですよ」
「んなこたぁない。『空中への妨害を伴うギミックがない』っていうのもこの迷宮の特色だ。地面がつるつるしててクレバスに落ちやすいのと同じくらい、迷宮の特色を活用した攻略法だよ」
もし吹雪のギミックとかがあったら、当然だが使えない策だからな。迷宮のギミックを無視して踏破するのがなんか無粋っぽいって気持ちは分からなくもないが。
とはいえ、これによってDTAにかかる時間が大幅にカットできるのならやらない手などない。
「いかにして迷宮のギミックを無視してこっちの攻略法を押し付けるかも、『クラシック』や『DTA』なんかのスタイルじゃ重要なポイントらしいぞ。俺達も倣おうじゃないか、プロとして」
「まぁプロならしょうがないですよ」
チョロっ。
なんだかんだと言いつつ、俺は花火ドローンを操作し、ナツカと俺自身を『ナツクロイト鉱石』の揚力によって持ち上げる。ふわりと数メートルほど浮かび上がるが、花火ドローンの操作に問題は全くない。今更だが、『ナツクロイト鉱石』の風に反作用の類はないみたいだ。よくわかんない性質である。
「おお…………これはまた、壮観だな」
高いところから見下ろすハクヒメ大氷原は、地上から見通すのとはまた違った威容を誇っていた。高い位置からだと、曲がりくねった大地やクレバスが一気に視界の中に納まるからな。なんというか、空撮写真で切り立った崖を眺めた時のような現実感のなさがある。
……探索中のダイバーが抱く感想としては、ちょっと危機感がなさすぎるか。
『ここの構造初めて見たわ』
『何あの道の構造』
『全ギミックスキップで草』
コメント欄も、前代未聞の攻略方法に沸き立っているようだ。中には、純粋に見慣れない景色や迷宮の雄大さに感嘆しているコメントもあった。確かに素晴らしい景色なので、これもしかしたら『空撮系ダイバー』みたいなカテゴリも需要があるかもわからんね。
「ただ、飛行できるからって難易度が平坦になるわけじゃあないぞ」
言いながら、俺はドローン操作にさらに力を入れる。
というのも、ハクヒメ大氷原の2Fは入り組んだ氷の螺旋がクレバスの中へと突っ込んだ先にあるのだ。ただ空を飛んでいればいいわけではなく、2Fに――ひいてはその先にある『奥』へと到達するためには、氷の螺旋にぶつからないよう細心の注意を払わなくてはならない。
「おー、クロ頑張ってますね。ナツカさんも応援しますよ」
「おう」
まぁナツカは今回飛行関連だと頑張りどころがないからね。応援しているだけでも殊勝というものである。
実際、ナツクロイト鉱石による飛行の本格運用は今回が初めてみたいなところはあるので俺もまだまだ慣れてはいないが……。
「大船に乗ったつもりでいな。
「はい?」
ゴウ!! と、ナツクロイト鉱石から放たれる風の
ナツカが体勢を崩してクルクル回転していた原理がこれだ。ナツクロイト鉱石の放つ『揚力』には明確な縦長の『範囲』が存在しており、その側面に触れると、『範囲』の側面をまるでらせん状の滑り台でも降りるようにして移動してしまうのだ。これと既存の『揚力』が噛み合うと、体勢バランスが崩れてクルクルと回転してしまうわけだ。
だが、その原理さえ分かっていれば移動速度の向上に利用することだって可能である。
俺は滑り降りながらドローンの角度を調整し、落ちて来た俺達の身体を受け止めさせる。すると、『揚力』は正しく機能を始めた。ドローン――ナツクロイト鉱石との距離が近づいたことで『揚力』は強まるので、俺達の身体は一気に吹っ飛ばされるように加速した。
「うっ、わっ、おおおおおお!? なんですこれ!? 急になんか凄い驚天動地ですよ!?」
「ま、使いたてだしこんなもんだな。そのうちもっと凄い運用してくる人が出て来るぞ」
『これ大丈夫なやつ?』
『あーこれ乙ったか』
『いや計算通りっぽくない?』
あ、急におっぱじめたもんだからコメント欄がついて来れなくなってきてる。いかんいかん、リスナーを置いてけぼりにして探索するんだったら、配信なしの探索と何も変わらんもんな。
「このナツクロイト鉱石の『揚力』には縦長の領域があって、側面に触れると何故か領域の側面を滑るように移動する力が働くんだよ。この前の配信とかでナツカがくるくるしてたのはこれが理由な」
「おお、解説パートですよ」
『えぇ…こわ…』
『え じゃあ今の挙動狙ってやったの?』
『勝手に開拓しないで…』
「で、ナツクロイト鉱石の『揚力』を至近で浴びると、バランスがとれる距離まで一気に引き離されるだろ? 側面を滑って接近⇒『揚力』をモロに浴びる流れを繰り返せば、瞬間的には普通にドローンで移動するよりも高速で移動できるって寸法なんだよ」
結局ドローンの移動範囲内でしか動けないから、長距離移動の速度はドローンの飛行速度に依存するんだけどな。
「つまり、応用技ということですね?」
「そういうこと」
まぁナツカに原理を理解させようとは思っておらぬ。
変に掘り下げても配信がグダるだけなので、早々に切り上げ俺は地上を見下ろす。詳しい話は多分この配信を見てる『調査』系の人達が検証してくれるだろ。
「凄い深さですよ。まさにどん底ですね」
「潜ると縁起が悪くなるような表現はやめたまえ」
俺達が見下ろす先では、氷の道が螺旋状に渦巻きながらクレバスの奥底へと沈んでいた。通常の探索では、勢いに乗って螺旋状の道を滑りつつコースアウトしないように進んで行くというかなりの難所だが、ナツクロイト鉱石を用いたとしても、下手に氷の道に接触してしまうと体勢がブレて吹っ飛んでしまうのでなかなかの難所になるだろう。
俺は慎重にドローンを操作しながら、螺旋の中心を潜り抜けるように道を進んで行く。
「おお……この景色もなんか幻想的ですね」
「こっちはドローン操作に集中してて景色なんか見てる暇ないけどな」
「もったいないですよ。クロもちゃんと見るべきでは?」
「お前が吹っ飛んでもいいなら、そうするが」
「景色はアーカイブの楽しみにとっておくといいですよ」
現金な奴め。……まぁそのつもりだが。
そんなこんな言いつつも、螺旋の氷原にドローンを擦って体勢を崩すというような初歩的ミスを犯したりすることもなく。
俺達は、ハクヒメ大氷原の奥底へと潜っていくのだった。
◆ ◆ ◆
その後も探索も、非常にスムーズに終わった。
まぁ当然だ。シンプルに進むのが難しいがゆえに
その日の探索は、ほぼ『俺とナツカの雑談配信 ~空から見上げた珍しい迷宮の景色を添えて~』といった感じになっていた。それはそれで面白かったので俺としては手応えを感じる限りだったが。
配信を終えた俺達は『大空洞』に戻り、人を待っていた。
『
その為のダンジョン情報については、心春さんに既に依頼していた。今は、その心春さん待ちなのだが――。
と。
その瞬間、俺は背後に突然気配が発生したのを察知した。
気配といっても、第六感とかそういうものではない。衣擦れの音・空気の流れ・ちょっとした動きの振動、そういった微細な感覚情報の集積体のことだ。
とはいえ、敵意はない。俺がゆるやかに振り返ると――そこには、まさしく和風美人といった感じの艶やかな黒い長髪をした女性が佇んでいた。服装は、黒いビジネススーツ。――迷宮省の人だ。
「……お待たせしました。浜辺は現在業務が立て込んでおりまして、代わりに私が担当させていただきます」
わっ……心春さんとの個人的な話のつもりだったのだが、別の迷宮省の人が出て来てしまった。なんかそうなると申し訳ないな……。心春さんも忙しいのに負荷かけちゃってたかな。
「それはそれは……。すみません、お手数おかけして」
「……ふふ。いえいえ。実際、私がやりたいって言ったんです。浜辺から話を聞きまして……。私も貴方がたのファンですし、何より
「そう言ってもらえると……」
俺が恐縮しきっていると、横にいるナツカがきょとんとしているのが目に入った。お前も恐縮せぇや。俺達の為にわざわざ時間を割いてくれてるんだぞ。
が、心春さんの代打の方はそんなナツカの方を見てむしろ楽しそうに笑、…………んん? なんか違和感が……。
「流石にナツカさんの方は、すぐに分かってしまったみたいですね。まずは自己紹介をさせてください。私、
代打の方――北条さんはそこで言葉を切り、さらに笑みを深める。
その笑みを見て、俺はようやく気付いた。この人――
「ヴィヴィアネ……と言った方が分かりやすい、かしらね?」
ヴィ…………ヴィヴィアネさん!?!?