最強ランクマ勢のTS娘、クラスのポンコツ美少女と一緒にチャンネルを始めたらバズりました。   作:家葉 テイク

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08:風雲急/それは暗雲か慶雲か

 翌日、放課後。

 俺とナツカは二人で連れ立って迷宮へとやってきていた。

 先日までとは違い、首元にぶら下げた若葉のネックレスを揺らしながら、ナツカは右手を腰に当てて左手で(ひさし)を作りカッコつけて言う。

 

 

「ついにナツカさんのダイバー伝説第二章が此処から始まるんですね……」

 

「まだ序章の数行くらいだと思うけどな」

 

 

 俺もまた若葉のネックレスを垂らしながら、ツッコミを入れる。

 揃いのネックレスだが、何か可愛らしい理由があるというより──これは、ダイバー準備中を表すマークなのだ。

 基本法則の第三項により、『門』を潜ると()()()()()()装飾品類は大きさに関わらず全て探索者としての風貌に変換されてしまう。そのため実質的には持ち込めない。

 しかし、異界迷宮(ダンジョン)で採れた異界物質は異界迷宮(ダンジョン)から持ち出すことができ、『門』よりも小さければ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これを基本法則の第五項と呼ぶ。

 ちなみに、撮影用ドローンもそうだが、異界迷宮(ダンジョン)で使用する物品の多くは異界物質製である。このネックレスもまた先程『蜘蛛の巣(ターミナル)』中心街で購入したものだ。まぁ、この程度の外見変更なら、俺なら自力でいけなくもないが。

 

 ちなみに、(クロ)の口調については普段のまま通すつもりだ。異界迷宮(ダンジョン)は非日常的な環境だからか、リアルに比べて性格を取り繕わない人も多い。俺っ娘もそんなに珍しくないので、口調が荒っぽいからといって荼毘を疑われる心配もないのである。

 経験上、荼毘を疑われるきっかけとしては、立ち居振る舞いに生じる違和感の方が多いな。脚の開き方とか脇の締め方とか。そしてそれについて俺は大ベテランなので心配要らない。

 

 

「しかし、()()なぁ……」

 

 

 ──此処は初心者用の低難度迷宮『カーマシア砂漠』。

 平常異界深度(フロアレベル):2。基礎的な動きを覚えたくらいの異界迷宮(ダンジョン)ビギナーがオススメされる迷宮の一つである。

 黎明期の有名女性ダイバー『カーマシア』によって平定された此処は、常時人で賑わっているという活気のある迷宮だ。砂漠なのによく来るよ……と思いきや、異界物質で変換された肉体は通常の人体より熱に強いのと、砂漠と言いつつ砂の中に硬い足場の道が存在しているお陰で、意外と進みやすくなっている。

 砂漠の中に幾つもある道を探し当てて楽に探索を進めるもよし、あえて砂地を進んでいくもよし。『奥』にはピラミッドがあり、その中には迷獣(モンスター)もほどほどにいたり、ちょっとしたギミックがあったりと、難所も初心者向けなところなのだった。

 

 

「言っておくが」

 

 

 もうさっさと進みそうなナツカに、俺は言い含めるように釘を刺す。

 見ての通り、今日の俺は先日と同じように黒髪ロングのクールビューティ──黒子のクロの姿だ。黒は光を集めるので、正直めちゃくちゃ熱い。暑いではなく熱い。

 異界物質に置換された肉体だから大丈夫だが、そうでなければ今頃とっくに日射病でダウンしていただろう。

 

 

「今回俺は、コミュニケーションの協力はしないからな。お前が自力でダイバー準備を完遂させるんだ」

 

 

 本質的に、ナツカの為の施策だからな。色々とナツカの為に回る様に考案はするが、実際に手を動かすのはナツカじゃなきゃあ意味がない。

 ……決して、初対面の人間相手に自分から話しかけに行ったりするのに怖気づいている訳ではなく、だ!

 

 

「まぁまぁ、そこは別に問題ないですよ」

 

「あっさりしてんな……」

 

 

 全く問題なさそうに平然としているナツカに、俺は少々鼻白んだ。ただ、今回はそのくらいあっさりしていてもらわないと困る。

 何せ、今回は『現地のダイバー準備中の探索者達との交流』という条件を満たすために、()()()()()()()が存在する『カーマシア砂漠』をあえて選んだのだから。

 そのギミックというのが──

 

 

「ピラミッド参加者募集中でーす! 暇な方どうぞー! 経験者歓迎でーす!」

 

 

 ピラミッドの『人数起動』ギミックである。

 この『奥』にあるピラミッドの内部には、ぴったり三人いないと起動しないギミックがあるのだ。その為、ピラミッドの中を最奥まで進みたかったら三人で行動する必要がある。

 もちろん、これは『カーマシア砂漠』においては常識となる攻略情報。なので、『カーマシア砂漠』では頻繁にああいった声かけが行われ、探索者同士での交流も盛んに行われているという訳だ。

 

 向こうの方で声をかけているのは、女子二人組の探索者か。首元に若葉のマークをぶら下げているから、ダイバー準備中だろう。

 一人は白髪の長髪、もう一人は紫髪の短髪。よく映えるカラーリングの組み合わせだし、コンビでチャンネルでもやる気なのかもしれない。

 今、複数人(パーティ)チャンネル多いしなぁ……。やっぱりデフォで複数人という安定した体制で迷宮に潜れるのが大きいんだろうな。安定してるとその分やれることも多くなるし。

 

 とはいえ、あっちが既に二人揃っているならこっちも二人だしであそこには合流できんな……。他に一人で組む相手を探していそうな人がいればいいのだが。

 なんて思いつつ、かといって別に声をかけるつもりは皆無な俺がナツカの方に視線を向けると──

 

 

「ほう、ダイバー準備中! 昨日アカウントを開設されたばかりと! それは素敵ですねェ~!」

 

「むふん。偉大なる一歩を踏み出したばかりなのです。小さい……けれど大きな一歩を」

 

「この子面白いですねェ~!」

 

 

 うわ!? なんか既に仲良さげに他人と喋ってる!?

 しかも……若葉ネックレスをつけてないから、ダイバー準備中じゃねえじゃん! ダイバー準備中同士の横のつながりを増やせと言っているのに……。……まぁデビュー済みダイバーの可能性もあるから、それはそれでいいのかもしれないが。

 しかし、今から入って行っても何か無理矢理感があるので、俺はナツカともう一人の会話の様子を遠巻きに眺めることにした。

 

 黒髪をセミロングにした、理知的な雰囲気の女性だった。

 砂漠に適応するかのようなノースリーブの白ブラウスに、深いスリットの入った紺のタイトスカート。脚全体を覆う厚いタイツは、ちょっとやそっとでは伝線しなさそうな頑丈な造りである。全体的に、極限まで活動的にしたOLという感じの格好だった。

 理知的な雰囲気──といったが、ナツカのように無表情という訳ではなく(ナツカはちっとも理知的ではないが)、常にうっすらと笑みを張り付けているような表情が印象的だった。それでいて感情は読み取りづらいのは、ナツカとはまさに正反対だ。

 なんというか……全体的に胡散臭い。

 

 

「それで、これからピラミッドに行くんですけど、暇なら同行しませんか? 一番奥まで潜ってみるだけですが」

 

 

 うわ!? もう誘ってる!? 判断速度が音速なのか!?

 

 

「へェ……面白そうですねェ。今集まっている人数は、アナタ一人だけなんですか?」

 

「いえ、そっちにも一人」

 

 

 そう言って、ナツカは俺の方へ指をさす。うわっ、急に話を振るなよ! 距離遠いし!

 仕方がなく、俺はナツカの方へ歩み寄りながら、

 

 

「どうも、同行人です」

 

「ンフフ、アナタも面白そうですねェ」

 

 

 女性は値踏みをするような目線で俺の方を見て、

 

 

「申し遅れました! 私、迷宮記者をしているKaleido(カレイド)と申します! アルファベットで、K、A、L、E、I、D、O。よろしくお願いしますねェ」

 

「わたしはナツカと言います! 以後お見知るといいですよ」

 

「クロです。まー……成り行きで一緒にいる感じです」

 

「あら、その割に随分気心が知れている様子ですが……。ま、その辺り詮索しないのが良い女ってヤツですかねェ」

 

 

 そうして、意味深な笑みを浮かべる女性──Kaleidoさんと同行することに。

 ちなみに、迷宮記者というのはその名の通り、異界迷宮(ダンジョン)関連の出来事を記事にする雑誌記者のことだ。一口に異界迷宮(ダンジョン)関連と言っても色々な種類があり、迷宮ごとの特色やオススメスポットを記事にする迷宮記事や、有名ダイバーを追いかけてその行動を記事にするダイバー記事、そしてまだデビューしていないかデビュー間もないダイバーを記事にする新人記事なんかもある。

 他にも色々種類があるが……おそらく、この人は新人記事のネタを目的に此処に来ていたのだろう。ダイバー準備中の探索者が多いし、此処。

 

 砂漠に埋もれた道の上を歩きながら、Kaleidoさんが問いかけて来る。

 

 

「それで、お二人はどういったご関係でェ? 先程は成り行きと言っていましたが」

 

「早速詮索してるじゃないですか」

 

「私は良い女である以前に、良い記者であることを心掛けていますからねェ」

 

 

 Kaleidoさんは適当に笑い、

 

 

「で? どうなんです? お友達……という割には、平均的な同性の友人よりも遠慮がなさげですよねェ。幼馴染……とか?」

 

「違いますよ……。コイツとはほんの数日前に初めて話したくらいだし。コイツと幼馴染とか、ストレスで蕁麻疹が出そう」

 

「お? やりますか? ナツカさんそういうの全然受けて立ちますよ」

 

「ほーう? この俺に勝てるとでも?」

 

 

 存在自体は新学期から認識こそしていたが、俺はぼっちだしナツカも陽キャグループじゃないしで会話の機会はゼロだったからな。話をしたのはあの時が初めてだ。

 ……本格的に知り合ってから、今日で三日目? 我ながら全然そんな気はしないが……。まぁ、ダイバーやってる同級生なんてコイツ以外見たことないからなぁ。

 

 Kaleidoさんは俺達の小競り合いを完全に無視して、

 

 

「数日前! それでその様子なら、お二方は随分とウマが合ったみたいですねェ」

 

「……そう思います? まぁ、ナツカさんも否定はしませんが」

 

 

 Kaleidoさんの茶々入れで、ナツカは矛を収めた。あっ、あいつあからさまに照れたな。分かりやすいヤツ……。

 ……俺は暑さを紛らわせるために頬を手で仰ぎながら、

 

 

「そういうKaleidoさんは、どうして此処に? やっぱり新人ダイバーの発掘とかですか」

 

「ンフフ、ご明察と言っておきましょうかねェ。私、週刊ラビュリントスで記者をしておりましてェ。新人ダイバーのコラムなんかを任せて頂いているんですよ」

 

 

 ……ほう。

 予想の範囲内ではあったけど、渡りに船かもな。此処でKaleidoさんに上手いことアピールできれば、ナツカの新チャンネルはかなりのスタートダッシュを決められるだろう。

 お前……この機会を逃すなよ! とナツカに視線を向けてみるも、当のナツカは俺から視線を向けられてもきょとんとしているだけだった。気付けよ! 今が大チャンスなの気付きなさいよ!! 千載一遇といっても過言じゃないぞ!?

 

 

「──ただ、今日は私お仕事ではなくプライベートとして来ているんですよねェ」

 

「あ……そうだったんですか」

 

「ンッフフフ! クロさん、露骨に残念そうですねェ!」

 

 

 あっ! 顔に出てたか……!

 

 

「あっ……すみません。やっぱりちょっと期待しちゃって」

 

「まったく。クロ、がっつきすぎはよくないですよ」

 

「テメェはテメェでもうちょっとがっつけな……!?」

 

 

 本来テメェががっつかないといけない立場だろうがよぉ、えぇ!?

 ……とナツカの頭を鷲掴みにしていると、

 

 

「…………ンフフフフ。ご安心を。プライベート、なのですが、私の趣味は、仕事とは関係なくこうやってダイバー準備中の探索者さん達と交流することでしてェ……」

 

 

 にんまりと、弧を描くような笑みを浮かべてKaleidoさんが言う。

 

 

「その中で見どころのある方を見つけたら、ついつい取材を開始してしまうのが私の悪い癖なのです。いやはや、仕事とプライベートの境界が曖昧というのは考え物ですねェ」

 

「つまり、天職ということですねぇ!」

 

「そうなりますかねェ」

 

 

 いつの間にか語尾が伝染りながらのナツカに、Kaleidoさんも気持ち朗らかな笑みを浮かべていた。

 Kaleidoさんはスッと視線を俺達の方に向けてから、再度進行方向へ視線を戻す。

 

 

「そして……()()()()()()()()()()()()()()()()。お二方さえよければ、同行している間に取材をさせていただいても? おそらく、半ページくらいのコラム記事になるかと思いますが」

 

 

 …………!

 来た! 何が琴線に触れたかは分からないが、絶好のチャンスだ! 此処を逃す手はない……!

 

 

「はい! 是非ともお願いします!」

 

「俺からも、お願いします!」

 

 

 二人して礼をすると、Kaleidoさんは胡散臭い笑みを深くしながら、

 

 

「ンフフ、ご協力感謝します」

 

 

 そう言って、足を止める。

 いつしか、眼前には此処『カーマシア砂漠』の『奥』…………ピラミッドが聳え立っていた。

 俺達の前に出たKaleidoさんは、くるりと振り返ってピラミッドを背に、こう続ける。

 

 

「では──改めて、よろしくお願いしますねェ。ナツカさん、クロさん」

 

 

 ──そうして、俺にとっても初めての探索取材が始まった。




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