幼女な公爵令嬢は元マフィアのドンらしい   作:ほにゃほにゃ

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プロローグ

目的なんてなかった。

ただ親がそうであったように、私もその道に進むのは必然であった。

 

だってそうだろう?

誰かの不幸の元で、血に汚れた金で私は育ってきたのだから。

 

それから目を背ける事は許されないと思うのだ。

 

「——私は、何よりも規律を愛している。こんな地獄でも、規律の元で適切に管理さえすれば少しはマシな地獄だからね。私の言っていることがわかるかい?」

「はっ、はっ、はっ、はっ……!」

 

薄暗い部屋の中、私は目の前で椅子に縛られている痩せぎすの男を見る。

視線を受けた男は、まるで蛇に睨まれたカエルのように竦みあがって肩で息をしている。

 

煙草を吸って、吐く。

煙が舞い、男にかかる。

 

「お前は、犬か?人間だろう?では喋れ、私の言っていることが分かるのか?」

「わ、わかりま――ぎゃっ!?」

 

男の足にナイフを突き刺す。

 

「では、なぜこのようなことをした?」

「も、申し訳——あぐ、ああああああああああああああああああ!?」

 

ナイフを捻り、筋肉をかき混ぜるように抉る。

男の涎と血が地面に落ちて、赤く濡らす。

 

「謝罪なんて、いらない。ただ私の質問に答えな。なぜこのようなことをした?」

「金、金が欲しかった……です!」

 

乱雑にナイフを引き抜く。

男が小さな悲鳴を上げるが、特に気にしない。

 

「首、首領《ドン》、申し訳ありません……だからどうか、命だけは」

「——次の質問、なぜ金が欲しかった?次は肩を抉る」

 

血に塗れたナイフを向けてやると、面白いくらいに怖がっている。

痛みとは、恐怖を植え付けるのに最適だ。

 

「お、俺の子供が……怪我をして……それで治療費が……」

「ふむ」

 

私は横に視線を遣る。

そこにはスーツ姿の女性。

 

私の秘書である彼女は私の視線に気づくと、すぐに頷いて返す。

 

「彼の言っていることは事実です。彼の息子は交通事故により生死の境を彷徨っている、と」

「そうかい。それは災難なことだったね」

 

男にそう言うと、パッと顔を明るくさせる。

……本当に、愚かな男だ。

 

「でも、それがどうしたというんだ?」

「え……」

「お前は規律を破った。私の家族《ファミリー》として活動しながらもね。どんな理由があろうとも、規律を破ったその一点だけで私はお前を許すことはない」

 

瞳孔が恐怖に揺れている。

一度は収まったと思われた発汗も、思い出したかのように滝のように流れていく。

 

「……こ、この!こんなことが!こんなことがあっていいはずが……!」

「さて次の質問だ。ああ、そう、これはお前が死ぬまでずっと続く。逆に質問に答え続けることができれば、少しだけは生きながらえることができるよ」

 

最初に抉った足からは失血が続いている。

処置をしなければ、死ぬまで続くだろう。

 

「せいぜい長く質問に答えて、生きることができているその間に、貴様の息子とやらに懺悔するんだね」

「は、こ、このクソアマ!ふざけるな!どうしてこんな残酷なことが――」

「——質問を続ける。お前は違法薬物を過剰に栽培し、売りさばいていた。私たちが調べて見つけた栽培場所は四か所。それ以外に栽培場所はあるかい?」

 

無い――と言おうとした男の耳を削ぐ。

ナイフは肩に向けていたので、無意識から訴えてくる痛みに男は悶絶する。

 

椅子ががたがた揺れるが、秘書がその椅子を押さえる。

 

「嘘を言うなよ?先程言った四か所だけでは、足りないんだよ。流通量よりも圧倒的に少ない。……もう一度だ。栽培場所はいくつある?」

「ぶ、ブルーズマンションに。204号室に栽培してる!これで五か所全部だ」

 

男は血交じりの唾と涙をまき散らしながら必死の形相で答える。

私は満面の笑みを浮かべて、一度男に向けていたナイフを下す。

 

「そうかそうか、五か所か――嘘だな」

「ひぎゃ……!?」

 

今度こそ肩を刺す。

カエルが潰れたような声を男は出す。

 

「本当は七か所。フラホフの家の地下に一つ。そして最後の一つはここ、ペニーハウスの204号室だ」

「な、なんで……!?」

 

――バレている、とでも今さらながらに思っているのだろうか?

目の前の男は、これまでに私の何を見てきたというのだろうか。

 

「話は変わるが……私の格好を見て気づかないか?私はいつも、白の装束を着ている。でも今はところどころが赤だ。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()

「っ!?」

 

がたがたと椅子が震えだす。

 

「まさかフラホフを……!?なんで――」

「——何でも何も、規律を乱した。ただそれだけ。ファミリーの絶対的なルールだ。規律を乱した者、一つの例外もなく殺す。お前もそれに同意して、そして今のお前と同じく規律を乱した者を()()していただろう?」

 

この男の仕事は、主に規律を乱した者の処理だ。

身内の処理はさぞかし辛い役目だっただろう。

 

「でもまさか自分だけは、献身的にファミリーに尽くしていた自分だけは処理なんてされないだろう?だなんて思っていないよね?」

「ひゃ、ひゃい……!!」

「ふぅん……」

 

人差し指を断つ。

 

「あがあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「じゃあ、どう思ったんだい?ああ、バレないとでも思ったのかい?もしそうならば、見当違いも甚だしい」

 

アキレス腱を断つ。

 

「うぐうううううううううううううううううううううううううううううううう!?」

「それとも、バレても何とか逃げられる、とか?」

 

眼球を突き刺す。

 

「づあっああああああああああああ……!?あうああああああああああああ!?」

「まあいずれにせよ、舐められたものだ」

 

ナニを突き刺す。

 

「ひぎゃぅあああああああああ!」

「今では少なくなったが……女である私を軽んじる者はいたようだ。それはいけない、規律が乱れてしまう」

 

次はどこを刺そうか。

断とうか、抉ろうか、くり抜こうか。

 

「首領《ドン》、気絶しています」

「起こしな」

 

秘書は男にバケツに入った冷水を頭から被せる。

 

「…………」

「すまないね、こういうのは不得手なんだ。どうやればより凄惨に、どうやればより長く苦しめられるかとか、経験が乏しくてわかってないんだ」

 

冷水を浴びせられた男は、何も動かず何も言わない。

気絶を装っているのだろうが、一瞬だけ反応を示していた。

 

生物特有の動きだ。

痛みに我慢するために、体を強張らせる。

 

だからまだ、終わらない。

 

「さあ、次の質問だ」

 

――――――――――――

――――――――――

―――――――

 

「いつものように、見せしめにしておきな」

「はい」

 

二人の大男が、男の死体をずた袋に入れ持っていく。

血と油塗れのナイフを秘書に渡す。

 

「はあ、ようやく終わったね」

「お疲れさまでした、首領《ドン》。しかし途中から飽きていませんでしたか?」

「そりゃあ、ね。あまり甚振るのは趣味じゃないし」

「貴方が処理を体験してみたいと仰ったんですよ」

 

私は椅子に腰かけ、懐から取り出した煙草を口にくわえる。

秘書が呆れ交じりの視線をしながら、ライターを使って火をつける。

 

少し血の匂いがあるが、これもまた慣れると良い。

しかし微かに漂うアンモニア臭には慣れないが。

 

「……それにしても、これ以上ないほどの罰があるのに皆どうしてこうも規律を破りたがるんだろうかね。アウトローなんかになった足りない頭でも、考えなくとも分かるだろうに」

「……教えてあげましょうか?答えを」

 

私はちらり、と煙草を吹かしながら秘書を見る。

 

「どうぞ」

 

 

「貴方がいなければもっと、稼げるんですよ」

「残念だ」

 

人差し指と中指で挟んでいた煙草を、秘書の手の甲に押し付ける。

 

「うっ!?」

 

怯んだ一瞬の隙に、逆の手で秘書の手首を叩いて()()()を落とす。

地面に落ちる前にナイフをキャッチして、そのまま彼女の首を――裂く。

 

「……ど、じて」

「私が首領《ドン》になれたのは知略によるものじゃあない、圧倒的な武力だよ。そこらへんお前は勘違いしてたね」

 

例え秘書の動き出しが私より早くとも、それを容易く凌駕できるほどに私の動きが速い。

それに。

 

「もう一人——主犯格はお前だろう?お前に渡された資料には、不自然なところが見られた。これでは改竄をしています、自分が犯人ですと言っているようなものだよ。まあ、油断したところを殺ろうとしたことは評価に値するけど」

「……ぐ、ぞ」

 

秘書は首を押さえながら、地面に勢いよく衝突する。

 

「……父、さ……ごめ、かた……とれなか」

 

秘書だったものは、声を失い活動を停止した。

あまり興味が無かったから調べなかったが、彼女は私が殺した男の娘《むすめ》だったのか。

 

「……ふむ、これからは一応経歴も頭に入れておこう」

 

私はナイフを秘書の胸元に放り投げ、部屋を出る。

煙草を吹かしながら、監視をしていた部下に片付けを命ずる。

 

廊下を伝って外へと向かう。

 

「……うん?」

 

出口の扉を開ける直前、違和感に立ち止まる。

やけに体が重く、苦しい。

 

怠いわけでもない。

外傷があるわけでもない。

 

これは。

 

「……ガスか」

 

無色で遅効性の毒ガスが、あの部屋には充満していたのだろう。

二人分の処理の間ずっとあそこにいたから、致死量までガスを吸ってしまっていた。

 

秘書を侮っていたかもしれない。

まさか最初から共倒れ狙いだったとは。

 

人の執念とはかくも恐ろしい。

 

「……ちっ、煙草は我慢しておくべきだったね」

 

煙草さえ吸っていなければ気付けただろう。

あれは高揚によって感覚を麻痺させてしまう。

 

あと単純に煙が邪魔だった。

 

「……ま、いいだろ」

 

そうしてあっけなく私は死んだ。

 

―――――――――――

―――――――

―――――

 

 

 

 

――そう、思っていたんだけど。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ……!」

 

私は()()を上げていた。

ほとんど無い視界から覗く僅かな光に反射的に手を伸ばしていた。

 

「~~~~~~~」

「~~~~~、~~~~~~~」

 

周囲に誰かがいるが、水中にいるようにくぐもって良く声が聞こえない。

敵意は感じられず、それどころ溢れんばかりの信愛を感じさせる。

 

ほとんどわからないが、これだけはなんとなくわかる。

これはあれだ。

 

東洋の創作物にあったジャンル。

瞬く間に台頭し、そしてそのまま一大ジャンルとなった概念。

 

――異世界転生というやつだね。

 

私はマンガ、アニメ、小説とか創作物全般を好んでいたから異世界転生にも理解があるし、結構夢に見た。

 

ぶっちゃけマフィアとか辞めたかった。

カスみたいな馬鹿を相手にしなくちゃいけないから。

 

辟易していたけれど、首領として辞めるわけにはいかなかった。

だから異世界転生みたいに、自覚のあるまま違う人生を歩めたのならそれは最高だった。

 

ただ実際に体験してみるとなると、なんとも不思議な感覚だ。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ……」

 

そうして私は異世界に転生した。

 

 

 




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