私はこの手で地獄への道を舗装してしまったのではないか。
その問いは、もはや思考の断片ではない。決して外れることのない楔となり、私の胸の奥深くへと打ち込まれている。
良かれと信じた選択がことごとく裏目に出る。
何気ない励ましの一言がヒルフェンを死地へと追いやり、絶望の淵にいたクサヴァーさんの命を繋ぎ止めた結果が皮肉にも『始祖奪還計画』という最悪の遠因を作ってしまった。
私が関われば関わるほど、物語は取り返しのつかない悲劇へと突き進んでいく。
世界は残酷だと開き直れたらどれほど良かったろう。
いっそ私という存在がこの盤上から消えれば、惨劇への道は断ち切れるのではないか。そんな虚しい考えに囚われ、夜更けにふと目を覚ます。
視線は机の引き出しへと吸い寄せられる。その奥に仕舞った、軍から支給された一丁の拳銃。まさか使う日が来るはずがないと、受け取った日には乾いた笑いを浮かべたはずの冷たい鉄の塊。
その引き出しに手を伸ばしかけたことすら、一度や二度ではなかった。
それでも、その最後の選択だけはできなかった。呪いのように脳裏をよぎるのはかつて自分が友に投げつけた言葉だった。
『生まれてこなければ良かったなんて二度と言わないで』
医者として、人として、確かにそう叫んだはずだった。その言葉が今ブーメランのように鋭く弧を描いて戻り、私自身の魂をこの無間地獄に縛り付けている。
そんな私の懊悩など意にも介さず、歳月は静かに、だが確実に流れていった。
私の右腕としてセラは誰よりも信頼できる看護師へと成長した。その献身的な働きぶりは軍病院の冷たい空気の中にあって、唯一の温もりだった。
マガトや軍上層部との緊張を孕んだ協力関係も、互いの利害が一致する限りにおいては続いている。彼らとの会話は常に腹の探り合いで、一言交わすたびに神経がすり減る思いだった。
そんな日々に、ある日海の向こうから一通の手紙が届いた。ヒィズルに残ったハンスからだった。
薄く頼りない便箋に綴られていたのは、彼が現地の女性と結婚し、新しい家族を築いたという喜ばしい近況。忘れかけていた温かい感情の雫が乾いた心にぽつりと落ち、染み込んでいくのを感じた。
『先生のおかげです。あの戦場で先生と出会ったからこそ、今の僕があります』
彼とはもう長いこと会っていない。だが、あの実直で少し不器用な青年ならば、きっと異国の文化に戸惑いながらも持ち前の真面目さで乗り越え、ささやかな幸せを噛み締めているのだろう。その光景が目に浮かぶようで、私の口元には久しぶりに自然な笑みが浮かんでいた。
『追伸。アズマビト家は、先生が開発された検査法に不可欠な薬草の独占供給によって、莫大な利益を上げているそうです。先生に感謝したいと、キヨミ様が涎を垂らしながらおっしゃっていましたよ』
手紙の最後は彼らしい人の好いユーモアで締め括られていた。
かつてあれほどヒィズルを蔑んでいたホフマンが、何かと動き辛い立場の私に代わって、使節団の長として再び彼の地を踏んでくれている。今では使節団を起点に、医療を超えて様々な分野での交流が加速し、両国の発展に貢献していると聞いた。
ラルスは反マーレ色の強い国で革命軍の新たな拠点を築く任務に就き、クサヴァーさんも『獣の巨人』を継承し、今も孤独に研究に没頭しているらしい。彼は模範的な振る舞いを続けたことで軍部の監視も緩み、以前よりは穏やかな日々を送っていると聞く。
誰もがそれぞれの場所で、それぞれの時間を生き、前へと進んでいる。
だが、その一つ一つの出来事が、もはや私の心に大きな感慨をもたらすことはなかった。
そのすべてが定められた結末へと向かうための、ただの準備期間のように思えてならなかったのだ。
そしてジーク・イェーガーが五歳の誕生日を迎えた年の冬、運命の日は訪れた。
その夜革命軍のアジトに呼び出された私を待っていたのは、張り詰めた空気と、机に広げられたパラディ島の古びた地図だった。湿ったカビと安い煙草の匂いが混じり合う地下室に、数人の幹部が集まっている。
その中心でエレンは政府中枢から得た最新の情報を、温度のない声で共有し始めた。
「――マーレが動く」
その一言で、部屋の空気が凍りついた。誰もが息を呑み、次の言葉を待っている。
「近代兵器の伸長はもはや軍の保守派ですら認めざるを得ない現実となった。巨人の時代はいずれ終わりを迎えるだろう。列強諸国が新たな時代の覇権を賭けて資源の奪い合いを始める中、マーレが目を付けたのは――パラディ島だ」
クルーガーは地図の一点を、ごつごつとした指で強く指し示す。まるで、その島を指先で握り潰そうとするかのように。
「あの島には古来より莫大な地下資源が眠っていると伝えられてきた。軍上層部はその資源確保と、壁内に存在する『始祖の巨人』を奪取する計画をついに最終承認した。その第一手として、大陸各地の収容区からマーレに忠誠を誓う『戦士』を選抜するようだ」
始祖奪還計画。マーレの戦士。
原作で聞き馴染みのある単語が、一つ、また一つと現実のものとなっていく。私はこれまでいくつもの小さな選択で、人々の運命を変えてきたつもりでいた。
しかし、どれだけささやかな石を投じようと歴史という大河の流れは決して変わらないというのか。
グリシャが復権派を指導し、ダイナが彼と結ばれ、ジークは生まれ、そして今マーレが破滅への引き金を引こうとしている。
幹部たちが固唾を飲んで見守る中、エレンは最後の宣告を下した。
「俺達革命軍もマーレの策に乗る。王家の血を引くジークを、マーレの戦士にするのだ」
うぉぉぉぉ、と。部屋が揺れるほどの雄叫びが上がった。積年の悲願への第一歩だと、獣のような歓喜の声が壁に反響する。
熱狂に満ちたその部屋で、私とエレンだけがその計画の先に待つ本当の地獄を見据え、静謐を保っていた。
狂気に満ちた雄叫びはまるで私の罪を断罪する叫びのように、耳の奥で木霊した。
◇◇◇◇
「お疲れ様です、先生。コーヒー、淹れましたよ」
「ありがとう、セラ。いつも助かるわ」
「とんでもないです!先生の研究のおかげでマーレを覆っていた混乱が収まったって皆さん感謝してるんですよ!先生は本当にすごいです!」
一点の曇りもない、純粋な尊敬の眼差し。そのあまりの眩しさに私はいつも少しだけ目を伏せてしまう。その称賛が、私の罪悪感を縁取る美しい棘のように感じられてならなかった。
「そういえば聞きました?今日から戦士候補生の訓練が始まるそうですよ」
「……ええ、私も駆り出されるからね。研究室に籠りきりだったから、久々の臨床の場だわ。少し緊張する」
私の声が自分でも気づかぬうちに少しだけ低くなる。セラはそんな私の内心には気づかず、あっけらかんと言った。
「これでまた、忙しくなりますね!」
「……そうね」
温かいマグカップを両手で包み込みながら、私は窓の外に目をやった。
これから、幼い子供たちがマーレの兵器として育てられていく。その光景を想像し、自然と眉間に皺が寄る。
「セラは、子供は好き?」
唐突な私の問いかけに、セラは器具を消毒液に浸す手を止めずに、こともなげに答えた。
「大好きですよー!でもエルディア人の子供は別ですね!私の両親、巨人に食べられちゃいましたから」
憎悪というにはあまりに乾いた、それでいて揺るぎない響き。そのあまりにあっけらかんとした口調に思わず言葉を失う。
そういえばセラに聞いたことがある。彼女はマーレの植民地政策によって併合された小国の出身だった。
そして、その戦災で負った傷を治療したのは他でもない
「……それなのに、よく私の仕事を手伝ってくれるわね。研究には、大勢のエルディア人兵士の協力が不可欠なのに」
「それはそれ、これはこれです」
セラはようやくこちらを向いて、にこりと笑った。その笑顔には何の裏もない。
「先生がいつも救おうとしているのは目の前の命です。その命がマーレ人だろうと、エルディア人だろうと、先生のやることは変わりません。私が尊敬しているのは、そういう先生の姿ですから」
憎しみと尊敬を、その小さな胸の中で矛盾なく両立させている。その精神の在り方に、私は感嘆を通り越してある種の畏怖すら覚える。
この少女は私が思うよりもずっと強く、複雑な世界を生き抜くためのしなやかさを持っているのかもしれない。
いや、彼女のことを私は分かっていたつもりになっていただけなのだろう。
(もし私がエルディア人だと知ったら……この子はどんな顔をするのかな)
そんな残酷な想像がふと頭をよぎる。泣きながら私を罵るだろうか。それとも案外すんなり受け入れてくれるのだろうか。
(この子なら、あるいは……)
意味のない問いだ。私は自嘲気味に笑みを浮かべ、その思考を振り払った。
その時窓の外から、教官の鋭い号令が響き渡った。
釣られるように視線を向けると、広大な訓練場で幾列にも並んだ子供たちの姿が見えた。年の頃はまだ十にも満たないだろうか。その小さな手に不釣り合いなほど長大な銃を握りしめ、必死の形相でぬかるんだ大地を行進している。
彼らが新たな戦士候補生たち。マーレ軍という巨大な機械に組み込まれる、幼い部品たち。
その集団の中に、ひときわ小さな、けれど決して目を逸らせない金髪の少年がいた。
他の子供たちよりも体格は劣り、足取りはおぼつかない。何度もぬかるみに足を取られ転びそうになりながら、彼は歯を食いしばって前へ進もうとしている。
その姿は痛々しいほどに必死で、その瞳は何かに怯えているようだった。
原作では「驚異の子」と呼ばれ、世界を破滅へと導くことになる男。
「ジーク……」
私の唇から、無意識にその名がこぼれ落ちる。
未来を知る私にとって、彼は憎むべき世界の敵のはずだった。なのに……今、目の前で泥にまみれ、ただ必死に生きようと足掻く小さな背中を見ていると、憎しみの感情など一欠けらも湧いてこなかった。
そこにあるのは、あまりにも過酷な運命を背負わされた一人の子どもに対する、どうしようもない憐憫の情だけだった。
◇◇◇◇
戦士候補生たちの訓練が本格化して数ヶ月が過ぎた。マーレ軍中央病院の窓から見える訓練場の光景は、いつしか私の日常の一部と化していた。
泥と汗にまみれた子どもたちが、未来の兵器へと鋳造されていく様をただ無力に見つめる日々。
その光景は鈍い痛みのように胸の奥にありながら、もはや私の心を大きく揺さぶることはなくなりつつあった。
慣れとは恐ろしいものだ。
だが、その中で私の視線はいつも一つの小さな背中を追っていた。
ジーク・イェーガー。
彼は他の候補生に比べ、体力も要領も明らかに劣っていた。教官の罵声、仲間からの嘲笑。その全てを彼は小さな体で受け止め、血が滲むほど唇を噛みしめて耐えていた。
ジークが他の子よりも頻繁に医務室へ運び込まれてくるようになったのは、必然と言うべきだろう。
「また怪我をしたの、ジーク」
その日も訓練が終わると、彼は医務室に現れた。泥だらけの顔で唇を固く結び、膝の擦過傷を差し出す。
日常と化した光景に、私は手際よく消毒の準備を始めた。
「痛むでしょう」
消毒液を含ませたガーゼを傷口に当てると、彼の肩が微かに震える。
「……平気です」
いつもと同じ強がる声と、青い瞳の奥に宿る年齢不相応の孤独。
グリシャとダイナが課した「エルディア復権の救世主」という重圧が、この小さな少年を内側から蝕んでいるのは明らかだった。
両親の期待という名の呪いが彼の細い足に重く絡みついている。
「君はいつもそう言うわね。痛い時は、痛いと言っていいのよ?」
「マーレの戦士は弱音を吐きません」
そう言って彼は治療が終わるや否や、逃げるように足早に去っていく。他の候補生から一歩でも遅れを取りたくないのだろう。
「あの子、なんだかいつも何かに怯えているみたい……可哀想ですね」
隣で器具の片付けをしていたセラが、ぽつりとこぼした。その声には彼女がかつて語ったエルディア人への憎悪とは別の、一個の子供へ向けられた純粋な同情が滲んでいた。
だが、想いだけではどうすることもできない。訓練が終わった後、一人涙を堪えながら帰路につく彼の姿を、私は研究室の窓から何度も目撃していた。
夕陽に照らされた小さな影はあまりにも孤独で、儚く見えた。
いつもならここで目を逸らし、無力な自分に蓋をしていた。
だが、今日だけはできなかった。あの背中に、私は救えなかった命の幻影を見てしまったのだから。
「ごめん。後の仕事、任せてもいい?」
「え、構いませんけど……何かあったんですか?」
「ちょっと野暮用よ」
私はそれだけ言うと、衝動的に研究室を飛び出した。
夕暮れの鐘が鳴り響く中、夕日を背に一人道を歩くジーク。その足取りは重く、小さな肩は見るからに落ち込んでいる。
道行くマーレ人の中には彼の腕章を見て顔をしかめ、舌打ちと共に唾を吐きかける者もいた。ジークはそれに反応せず、ただ俯いて歩き続けた。
「ジーク!」
ようやく追いつき背後から声をかけると、彼はびくりと肩を震わせ、驚いたように顔を上げた。
「……先生? なんで、ここに……」
「君はまだ怪我人なの。無理は禁物よ」
「平気だって言ったじゃないですか」
「うるさい」
なおも戸惑う彼の手を、有無を言わせず握る。子供らしい柔らかな手が私の掌の中で小さく震えた。
手を繋いだまましばらく無言で歩いていると、高くそびえる壁が見えてくる。レベリオ収容区の入り口だ。
検問所のマーレ兵は私の顔を認めると、驚いたように目を見開き、慌てて敬礼した。成り行きとはいえ私は軍内でも改革派の寵児として扱われている。おおかた私の背後にいる将校にでも怯えたのだろう。
いつもならそんな肩書きなど鬱陶しくて仕方ないが、今回ばかりはありがたかった。
咎められることなく、私は初めて壁の中へと足を踏み入れる。
途端、空気が変わった。壁一枚を隔てただけで、世界の彩度が落ちたかのように錯覚する。建物の壁は煤け、道行く人々の顔には諦めと疲労の色が濃い。
すれ違うエルディア人たちは腕章をつけていない私の左腕と、その隣を歩くジークを見ては奇異の目を向け、蜘蛛の子を散らすように道を空けた。
好奇、憎悪、そして恐怖。あらゆる負の感情が混じった視線が無数の針となって突き刺さる。中には私の顔に気づき、「『白衣の女神』様だ……」と息を呑む者もいたが誰も声をかけてはこない。
ジークはそんな私を時折振り返りながらも、何も言わずに歩き続けた。やがて彼は一軒の小さな建物の前で足を止める。古びてはいるが、清潔に保たれた診療所だった。
彼が躊躇いがちにドアを開けると、消毒液の匂いに混じって、穏やかで芯のある女性の声が聞こえてきた。
「おかえりなさい、ジーク」
出迎えたのは気品のある顔立ちの美しい女性だった。
ダイナ・フリッツ。ヒィズルで相まみえてから七年。彼女の瞳の奥に宿る気高さは変わらないが、収容区での苦労でどこかやつれているように見える。
彼女は息子の後ろに立つ私――正確には私の軍服と白衣だろう――に気付くと、その表情を凍りつかせた。
マーレ人の、それも軍病院の医師がなぜここに。
ダイナは咄嗟にジークを背後にかばうように一歩前に出る。その瞳には隠しようのない警戒が浮かび、顔から血の気が引いていた。
「……軍病院の先生がこのような場所まで……。あの、息子が何かご迷惑でもおかけしましたでしょうか?」
絞り出すような声に、私は首を横に振った。
「いえいえ、ご迷惑だなんて。訓練で怪我をされたようでしたので。少し足を引きずっていたのが心配になり、送らせていただきました」
ダイナが疑うようにジークへ目を向けると、彼も口裏を合わせるようにこくこくと頷いた。その後息子の膝に巻かれた真新しい包帯に目を落とすと、ようやく彼女の肩からふっと力が抜ける。
ただ親切な医師が息子を送ってくれただけなのだと、理解したようだ。
その過剰とも思える反応に、私は収容区の現実を垣間見た。
この壁の中では、マーレ人の親切心には何か裏があるのではないかと疑うことから始めなければ、心穏やかには生きていけないのだろう。
「……大変失礼いたしました。てっきり息子が何か問題を起こしたのかと……。手当までしていただき、本当にありがとうございます。マーレの先生がこのような場所にご足労いただくなんて、夢にも思いませんでした」
「お気になさらないでください。ジーク君は……その、少し自分を追い詰めすぎているように見受けられます。時折心配になるくらいに」
「そう……ですか。この子が、そこまでして……いいえ、私たちがそうさせているのかもしれません」
その瞳に一瞬、深い葛藤の色が浮かぶのを見逃さなかった。
「この子には私たちも大きく期待を寄せています。それが良くないのでしょう。そのくせ親子らしい時間を過ごさせてやれていないのではないかと……時々、胸が痛むのです。母親失格ですね」
「母親失格だなんて……そんなことはありませんよ。誰よりこの子のことを想っているのが、痛いほど伝わってきます」
私はジークの頭を撫でながら、できる限り優しい声で言う。エルディア復権を夢見る革命軍としてでも、地獄の未来を知る転生者としてでもなく、私自身の想いをそのまま伝えた。
「ですが親の期待は時に子供を縛る枷にもなります。この子はまだ、重責を背負うには幼すぎる。今はただ怪我をしたら泣いて、嬉しいことがあったら笑う……そんな当たり前の時間が必要ではないでしょうか――余計なお世話かもしれませんが」
「……あなたのような方が、マーレ軍にもいらっしゃるのですね」
ダイナは再び私の顔をじっと見つめ、不思議そうに小首を傾げた。
「あの。失礼ですが、どこかでお会いしたことはありますか?」
「……いいえ?」
ヒィズルで会った時の変装が甘かったのだろうか。私は内心の動揺を押し殺し、努めて平静に答える。
「人違いですよ。私がレベリオ収容区に入るのは、今日が初めてですから」
「そうですか……。いえ、あなたと話しているとなんだかとても懐かしい気がして……いけませんね。初対面の、それもマーレの軍医の方に愚痴ばかり……。どうかお忘れください」
ダイナはそう言って自嘲気味に微笑んだが、その瞳の奥の疑念は晴れていないようだった。
彼女が更に何かを言いかけた、その時。その言葉は診療所の奥から響いた快活な男の声に遮られた。
「おお、ジーク!今日は早いじゃないか。良かったな、これでたくさん歴史の勉強ができるぞ!」
息子への期待に満ちた、裏を返せば逃れられない呪いのような響き。
ダイナがはっとして後ろを振り返る。奥の男は、玄関先にいる私にはまだ気付いていないようだ。
「ん? どうしたんだ、ダイナ。お客さんか?」
そう言って姿を現したのは原作主人公の父親にして、ある意味で『進撃の巨人』の物語を始めた張本人――グリシャ・イェーガーだった。