意識がゆっくりと浮上する。最初に感じたのは、こめかみを鈍く打つ痛み、そして鼻腔を満たす土埃と生々しい血の匂いだった。ミカサ・アッカーマンが重い瞼を押し上げると、ぼやけた視界いっぱいに心配そうにこちらを覗き込むアルミンの顔が映った。
「ミカサ!よかった、気が付いたんだね!」
安堵に息を吐くアルミンの声が、まだ現実感を伴わず遠くに響く。ミカサは軋む身体をゆっくりと起こしながら、霞のかかった頭で直前の出来事を手繰り寄せた。
脳裏に戦闘の光景が蘇る。エレンとあの
しかし全てを覆したのは、壁上から降り注いだ灼熱の蒸気と衝撃波。視界を白く染め上げた爆発の中心には超大型巨人の巨体が全てを薙ぎ払うように――。
「エレンは!?エレンはどこ!?」
思考が急速にクリアになるにつれ、エレンの安否だけがミカサの全てを支配する。感情のままにアルミンの肩を掴み、問い詰めるように叫んだ。爆風で喉が焼け、声がもれていることに本人も気づいていない。
「落ち着いて、ミカサ。大丈夫、エレンなら無事だよ。ほら、あそこに」
アルミンが指差した先には、戦闘の怪我人が横たわっていた。そこに混じってエレンの姿が見えた。戦いの代償か四肢は痛々しくもぎ取られていたが、断面から立ち上る蒸気と穏やかな寝顔が、彼が今なお生きていることを示していた。
「ジルケさんが爆発の直前にエレンをうなじから引きずり出してくれたんだ。急いでたからまるで芋虫みたいになっちゃったけど、命に別状はないって」
アルミンは痛ましげに眉を寄せながらも、わずかに安堵の表情を浮かべた。その言葉に、ミカサは弾かれたようにエレンのもとへ駆け寄る。
崩れ落ちるように膝をつき、まだ熱を帯びた彼の身体をそっと抱きしめた。
温かい。鼓動の音が聞こえる。
込み上げる安堵と同時にエレンをこんな目に遭わせた『鎧の巨人』――ライナーへの静かで底のない憎悪が、胸の奥で再び黒い炎のように燃え上がるのを感じた。
「……シュタイナー先生にお礼が言いたい。あの人はどこにいるの?」
エレンを抱きかかえながら、ミカサはアルミンに尋ねた。
「ああ……あそこにいるよ」
アルミンが視線で示した先には、リヴァイとジルケがコニーに何事か尋問している姿があった。コニーはひどく戸惑った様子で、それでも必死に何かを説明しているようだ。その場の空気は張り詰め、容易には近寄りがたい。
「ウトガルド城での出来事を改めて確かめているらしい。ライナーやベルトルトの特徴、人となり、交わした会話……どんな些細な情報でも確認しておきたいんだろう。ジルケさんらしいよ、本当……」
アルミンは以前の「ジル先生」とは違う人物を見ているように、ため息をついた。
「事情は分かったけど、なぜ今それを? ライナー達はもう去っていったのでしょう?」
「……ライナー達を追うためだよ。寝耳に水だろうけど、僕らはこれから壁外へ行く。エルヴィン団長達が到着するまでの間にミカサも装備を整えておいてほしい」
「……どういうことなの、アルミン。エレンはここにいる。これ以上危険を冒してあの二人を追いかける必要性は感じられないのだけど」
「クリスタだよ。ライナー達はすんでのところで彼女を攫って行ったんだ」
アルミンは一度言葉を切り、ミカサの反応を窺うように息を飲んだその時。伝令の駐屯兵がトロスト区から慌ただしく馬を駆って帰還した。
彼らがもたらした情報によればエルヴィン団長率いる調査兵団本隊はあと2時間以内に到着する見込みであり、それまでにクリスタ奪還作戦の準備を進めておくように、との指示も伝えられた(表向きは逃走した鎧の追撃、という名目だったが)。
次の作戦が迫る中、壁上には束の間の休息と戦いへの否応ない緊張が入り混じった空気が重く流れる。
そこへハンネスがミカサとアルミンの元へ歩み寄り、固形の野戦食糧を手渡した。
「ほら食え、腹減ったろ?」
ミカサは黙って受け取る。身体は鉛のように重く疲労は確かにあるはずなのに、喉の奥が詰まったように食欲は全く湧いてこなかった。
「にしても、訳わからんことの連続だな。エレンが巨人になった姿にも驚いたが、あんだけ派手にやられて死なねぇんだからたまげたもんだ。あいつは一体いつからあんな化け物になっちまったんだ?」
「……エレンのことを悪く言わないで」
感情を抑えた低い声で咎めると、ハンネスは「おっと、悪かったよ」とばつが悪そうに頭を掻いた。
「まあ何はともあれ、お前ら三人が無事でよかった。今はしっかりと休めよ」
しかしミカサもアルミンも一向に食糧に手を付けようとしないのを見かねて、ハンネスは声を潜め、視線だけで問いかけた。
「……お前らはあの女とは知り合いなのか?」
ハンネスが顎で示した先では、コニーへの聞き取りを終えたらしいジルケが少し離れた場所でリヴァイと真剣な面持ちで話し込んでいる。これから始まる奪還作戦の詳細を詰めているのだろうか。その様子は先ほど以上に近寄りがたい鋭い雰囲気を醸し出していた。
「はい。ジル先生は……訓練兵時代にお世話になっていた医務官です」
アルミンがどこか遠い目をして答える。
「巨人になれるっつーのも前から知ってたのか?」
「それは……つい最近知りました。ストヘス区の一件で彼女が巨人の正体を明らかにしたので。今は調査兵団の庇護下で、協力してもらっています」
「そうか」
ハンネスは深く溜息をつき、壁外の広大な景色へと目を向けた。
「俺はやっぱり調査兵団の連中が好かん。得体の知れない人間と手を組む上、今度はわざわざ壁外へ出て鎧を追撃しようとしてやがる。そりゃあ奴らが弱ってる今を狙うのがチャンスという考えにも、理解はできるんだが……」
クリスタ奪還の件は黙っておいた方が良い。アルミンは目でミカサに訴えかけた。
「こっちが事情を聞いても、リヴァイ兵長もあの女もまともに答えやしねぇ……お前ら、よくあんな奴らと同じ組織に居られるな。今からでも遅くねぇ、駐屯兵団に来てもいいんだぞ?」
その言葉には調査兵団へのあからさまな不信感と、かつてシガンシナ区で共に過ごしたミカサ達への純粋で不器用な心配が滲んでいた。
ミカサ自身、兵団のやり方に思うところがないわけではない。エレンの身柄を巡る彼らの動きは常に危うさを孕んでいるし、今のジルケのように人類の味方とは言い切れない存在を同行させている現状も、手放しで信頼できるものではなかった。
だがエレンが兵団に留まることを望む以上、ミカサはただ見守るしかない。アルミンもそんな彼女の心中を察したのか、諦めたように苦笑いを浮かべた。
「そういう訳にはいきません。僕には……僕らには幼い頃からの夢がありますから。いつか壁の外の世界へ出て、この目で冒険するという夢が」
「……私はエレンに付いていく。エレンが外の世界を見たいと言うなら、私も壁外へ出る。それだけ」
ミカサは揺るぎない決意を静かに口にした。
二人の変わらぬ決意を聞き、ハンネスは「はっ」と短く息を吐くように笑うと、どこか呆れたような、それでいて少し寂しそうな表情を浮かべた。
「ああ、そうかい。お前らは昔のまんまだな。街の悪ガキ共と喧嘩してた頃となんも変わっちゃいねぇ」
そしてその場に腰を下ろし、遠い過去を懐かしむように目を細めて続けた。
「俺はなぁ、あの頃の日常が好きだったんだ。エレンに言わせりゃ、そんなもんはまやかしの平和だったかもしれんが……やっぱり俺は、役立たずの飲んだくれ兵士で十分だったよ」
ぽつりとハンネスはシガンシナ区での思い出話を語り始める。
巨人など現れなかった、何気なくも輝いていた日々。ミカサの胸にも、もう二度と戻らない失われた風景が鮮やかに蘇り、心が締め付けられる。あの日に戻れたら、と願わずにはいられない。それはアルミンも、きっと同じ気持ちだったろう。
「ハンネスさん……」
アルミンの声が風に掠れる。ハンネスは感傷を振り払うように顔を上げると、固く拳を握りしめた。
「決めたぜ。俺も奴らにあの日々を奪われたんだ。お前らが壁外へ出るというなら、俺も駐屯兵団として――」
「いや、その必要はない」
会話に静かに割り込んできたのは、いつの間にか近付いてきていたジルケだった。
彼女の目の下には深い隈とは別に、巨人化をした証である痕が波紋のようにうっすらと刻まれている。エレンが巨人化した後に何度も見たのと同じ模様だ。
彼女が本当に『顎の巨人』の本体であるというのは疑いようのない事実らしい。ミカサはその事実を受け入れざるを得なかった。
そして、ジルケの視線が真っ直ぐにハンネスを捉えた。訓練兵時代に時折見せた穏やかさはなく、まるで別人のように冷徹な光がその青い瞳に宿っていた。
「ハンネス殿、あなたには別の重要な任務についてもらいたい。調査兵団が奪還作戦に赴いている間、エレン・イェーガーを命に代えても守ってほしい」
「ど、どういうことだ!? エレンはここに置いていくのか?」
「そうだ。エレンを敵にみすみす渡すような真似は避けたい」
ジルケの言葉は簡潔で、有無を言わせない響きを持っていた。
「……エレンを壁外に出さないのなら、わざわざ守る必要があるのか?」
「敵は壁外だけにいるとは限らない。この混乱に乗じて、兵士に紛れた敵性巨人がエレンを攫いに来る可能性も否定できない。リヴァイ兵長など調査兵団の実力者はこの後の鎧追撃に出向かねばならない今、万が一の場合に備え、信頼できる人間が彼を守る必要がある。あなたにはその役が適任だと判断した……ああ、これは私個人の頼みではない。あなたの上官の意向でもある」
そう言ってジルケが一枚の羊皮紙をひらひらと振ってみせる。先ほど伝令兵がリヴァイに渡したものだ。
そこには作戦立案に関する権限の一部を調査兵団上層部およびジルケ・クルーガーに委任する旨が、ピクシス司令のサインと共に添えられていた。ハンネスは言葉を失った。
「失礼ながら先ほどの話、少し聞かせてもらったよ」
改めてジルケはハンネスに向き直ると、静かに続けた。
「故郷を失ったあなたの痛み、そして今ここで戦おうとする覚悟は理解できる。だが、その覚悟をエレンを守るために使ってはくれないだろうか。鎧や超大型の討伐が成功したとしても、エレンを失えば我々に未来はない。彼の護衛は壁外での戦闘と同じ……いや、それ以上に重要な任務だ」
ハンネスの心情に寄り添いつつ、任務の重要性を説くその言葉には不思議な説得力があった。ジルケは彼の手をそっと取ると、射抜くような真剣な眼差しで言った。
「エレンを頼む」
その圧倒的な迫力と彼女の大胆な行動に気圧されたのか、ハンネスはややあって「……りょ、了解した!」とどこか上擦った声で力なく頷いた。
「……あ、あんた。結構いい女じゃねぇか……。さっきは誤解しちまってみたいたぜ、ハハ」
ジルケのわざとらしい演出を理解しつつも、なお抗えなかったのだろう。ハンネスは少し鼻の下を伸ばしながら、照れた様子で呟いてみせた
しかしミカサはそんな彼を冷え切った目で見つめる。その視線に気付いたのか、ハンネスは「ま、まあ、そういうことならエレンのことは任せとけ!」と咳払いをして誤魔化すように言い残し、他の駐屯兵の元へそそくさと立ち去っていった。
ジルケは興味なさそうにその背中を見送った後、アルミンに尋ねた。
「それで、ミカサには奪還作戦の概要を伝えたか?」
「はい……ですが、やはり背景を含めてきちんと説明しないと、ミカサも納得し切れていないようで。他の皆さんに伝えても同じでしょう……かといって作戦開始まで時間もない中、壁外の情報を不用意に兵団内に共有すれば、無用な混乱や軋轢を生む可能性も否定できません」
「同感だ。他の人間が私の言い分を鵜呑みにするとも思えんしな。彼らには表向きの通り、鎧の討伐に主眼を置いてもらおう。まあ、団長殿なら上手い具合に皆を地獄に誘ってくれるさ」
アルミンが懸念を口にすると、ジルケは他人事のように切り捨てた。
そしてミカサに向き直るジルケ。その瞳には感情の色がほとんど見えない。冷たいガラス玉のようだ。
「だがミカサ、君には全てを承知の上で作戦に臨んでもらいたい」
「はぁ……」
戸惑いながらもミカサは壁外の真実を知らされた。それは衝撃の内容の連続であり、彼女の常識をひっくり返すには十分だった。
一通り世界の真実を話した後、ジルケは本題に入ろうとばかりに口調を変えた。
「ミカサもニック司祭から聞いただろう?クリスタ・レンズの家系はこの壁の中における真の王家だ。君達『壁内人類』にとって……いや、君の幼馴染であるエレン・イェーガーの生存にとっても、彼女は絶対に失ってはならない存在なんだ」
そうだ。ストヘス区まで同行した司祭が口走っていたことをミカサは思い出す。クリスタが王家の血を引いている、と。
だがその時は混乱の最中で、その言葉の本当の重みを理解できていなかった。彼女がそれほどまでに重要だというのか?彼女一人のために、調査兵団はこれから多くの命を捧げなければならないのだろうか。
「その価値は十分にある。いいか、王家の血筋というのは我々エルディア人にとって特別な意味を持つ。巨人の力を完全に引き出し、行使するためにはその血が不可欠なんだ。そしてニック司祭の話を基にすれば、壁内において王政の影響下にない……つまり『不戦の契り』に犯されていない純粋な王家の末裔はクリスタ・レンズ――いや、ヒストリア・レイスただ一人だけかもしれない。彼女の存在なくして、我々エルディア人の未来はないと言っても過言ではない」
聞き慣れない言葉と、淡々と語られる新しい事実にミカサの思考は追い付かない。
横からアルミンが咎めるように口を挟んだ。
「ジルケさん、その言い方はやめてください。僕だって彼女の血筋が重要だということは理解しています。でも、それ以前に僕は同期としてクリスタを助けたいんです。あと……クリスタの目の前で、そんなこと言わないであげてくださいね」
「彼女を無事連れ戻せたなら、検討しよう」
ジルケはアルミンの訴えを受け流すと、さらに信じられない言葉を続けた。
「とはいえ、あの子にもいずれ相応の覚悟を持って、自分の運命を受け入れてもらう必要がある。新たな王として我々の神輿になってもらわねばならんのだからな」
アルミンでさえ言葉を失った。この人は一体何を言っているのだろうか。クリスタを王に?神輿に? 何を企んでいる?
「デケェ声でくっちゃべるんじゃねぇ、クソ隈女。他の奴らに聞かれたらどうするつもりだ。テメェの情報管理能力はどうなってやがる」
いつの間にか背後に立っていたリヴァイ兵長が吐き捨てるように言った。その声には隠しようのない苛立ちと、ジルケへの強い警戒心が滲んでいた。
「ご心配なく。駐屯兵団の皆さまにどうやら嫌われてるみたいでね、我々の周囲にいるのは気絶した者ばかりだ」
ジルケは周囲を一瞥してこともなげに言う。
「そういうことを言いたいんじゃねぇ。許可なく機密事項を喋るなっつってんだ」
「この二人は既にクリスタの素性を知っている。これくらいの情報を共有しておいても問題ないだろう? むしろ、今から我々がどういう道を進むのか、二人にも覚悟しておいてもらわないと肝心な時に判断が鈍る」
リヴァイは隠そうともせずに大きく舌打ちした。その音は壁上に響き渡る。
「エルヴィンの考えもまだ聞いてねぇだろうが。兵団としての方針も確定してねぇのに、嬉々として勝手なことを語るんじゃねぇ」
「いや、あの男ならば私の提案に乗るはずだ。我々がこの壁の中で生き残るためには、自らの滅びを甘んじて受け入れた現王政ではなく、外の敵と戦う覚悟を持った新たな王が必要不可欠――エルヴィン団長ほどの男ならば、その必要性を即座に理解するだろう」
「……やけに奴を評価するじゃねぇか」
「あの男には、それを信じさせる何かがある。だからお前も彼に従っているのではないのか?兵長」
ミカサはジルケの真意がよく理解できていない。だが恐ろしく、そして重大なことを言っているのは確かだった。
現体制の転覆――それを当たり前のように口にしてしまう彼女が恐ろしい。嫌な予感がよぎり、ミカサはジルケに鋭く尋ねる。
「確認させてもらいますけど、クリスタの奪還作戦にエレンは連れていかないんですよね? 嘘ついてないですよね?」
もし連れていくつもりならば刃傷沙汰も辞さない、という静かな覚悟が込められていた。ミカサはジルケを鋭く睨みつける。
しかし彼女は意外なほどあっさりと首を縦に振った。
「なぜ皆、私の言葉をそう疑うんだ……そもそもエレンは当分、巨人にはなれん。巨人の力はそれほど都合の良い代物でもない。戦力として期待できない以上、安全な場所に置いていくのが最善だろう。それに推定『始祖』を奴らに奪われるリスクは犯したくない」
ミカサは内心で安堵したが、同時にエレンが「戦力外」と切り捨てられたような響きにどこか言い知れない不快感を覚えた。
「……シュタイナー先生。あなたの言葉のおかげで、私は女型からエレンを救い出すことができました。そして今回も……一応感謝します」
「礼はいい。それより、ヒストリア・レイスを必ず奪還できるよう今のうちに備えておいてほしい。アッカーマンの血を引く君の力には特に期待している。エルディアの未来の為にもぜひ心臓を捧げてくれ」
「エルディアに賭ける思いがあなたにとってどれほど大切なものか、私にはまだよく分かりません……。ただ……やっぱり今のあなたのやり方は好きにはなれない」
「……別に構わないさ。私はエルディア復権の為に最善だと信じる道を進んでいるだけだ」
ジルケは淡々と感情の欠片も見せずに告げた。その揺るぎない態度にミカサはこの先、彼女とどう関わっていくべきか深い不安を覚えた。
「……恐ろしい人だよ、ジルケさんは」
アルミンはリヴァイと共に去っていくジルケの背中を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「僕達に話しているということは、おそらく団長やピクシス司令も体制転覆の話を知っているに違いない。そして作戦の権限を与えられている現状を鑑みるに、団長達はジルケさんを排除しようとしていないと見ていい。脅威を煽って指揮系統の上から同じ志を植え付けようとしているんだろうか……だとしても、手慣れすぎている」
マーレにいた頃もこんな風に人を扇動していたのだろうか。アルミンは言い知れぬ寒気を込めて、ほとんど独り言のように呟いた。
「記憶を取り戻して一日も経っていないのに、既に兵団内部でこれだけ影響力を持とうとしているなんてね……。味方でいてくれるうちは頼もしいけれど、もし敵に回ったらと思うと……本当に恐ろしい」
ミカサの視線はただ一点傷つきながらも穏やかに眠るエレンの寝顔に注がれていた。その規則正しい寝息だけが、この過酷な現実の中で唯一確かなもののように感じられた。
これから始まるのは裏切り者達――かつての仲間だった者たちを追う、危険極まりない壁外への追撃。ジルケの話が真実なら、この先は壁内の体制そのものや、壁外の途方もない敵との衝突さえ待ち受けているのかもしれない。茨の道であることは間違いないだろう。
しかしどんな困難が待ち受けようと、どれほどの犠牲を払うことになろうと、この温もりだけは――エレンだけは絶対に守り抜いてみせる。それが、ミカサが生きる唯一の理由なのだから。
以前のジルケが言った「エレンを支えてあげて」という言葉が蘇る。
そうだ、自分にはそれしかない。エレンが進むと決めた道を、たとえそれが地獄であろうとも一番近くで支え続ける。ミカサは胸にそっと手を当て、その決意を改めて強く刻み込んだ。
あと1-2話奪還作戦編です。
どこが舞台の閑話が良い?(なるべく原作ネームドキャラを登場させる予定)
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革命軍
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レベリオの市民病院
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マーレ軍病院
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ヒィズル国
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ウォール教開拓地
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訓練兵団
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調査兵団(王政編後)