穏林高校 怪奇譚   作:山下敬雄

23 / 29
第23話 転期

 平日の穏林高校で、いつもの昼休みいつものメンバーが集うこの1-Dの教室で、金閣寺は椅子に掛け自分のスマホに映るショート動画を見ていた。

 

「カクジ、野球ばっかしか見てないじゃん」

 

 湊天が彼の隣にひょっこりと顔を出し、彼のスマホ画面に流れてくるボールの縫い目と指先がアップで延々と映るその映像のことを指摘した。

 

「あぁー、そりゃ最近投げ方とかちょっと調べてただけで、レコメンドがそうなってるだけだ。どこかの野球星人のアイツのせいでな」

 

「金閣寺くーん! ナイスバッピんぐ!」

 

「やめろそれ、いらねぇ。──って増やすな」

 

 野球部の宗海斗から片手の指で作った簡易なハートを送られた。この頃臨時でお呼ばれさせがちな宗のバッティング練習に付き合うために、金閣寺は動画を見てご要望の変化球の握りを独学で修得しようとしていたようだ。

 

 指ハートを増やされても困る。湊に富宮に中川、自分に向けて増やされたそれぞれのハートを金閣寺は虫を払うようなジェスチャーで散らした。

 

 友人がはたしてどんなショート動画を普段見ているか、それは学生たちにとってとても気になるところだ。

 

 そんな学生たちの「気になる」を解消するために、今回は彼、金閣寺歩を対象とした抜き打ち検査が行われていた。五十音順でこの企画のトップバッターを切る予定であった阿部加奈が欠席のため、急遽彼の番が回ってきたとのことだ。

 

 はた迷惑なその思い付きの企画の立案者は誰であるのか、グループ内の富宮麗華以外の誰であってもおかしくはない。

 

 金閣寺の掛けた席の近くを囲み一つの画面に映るショート動画を見ている八つの目。

 

 「何も出てこねぇよ」と椅子に座る金閣寺は呆れながらスマホを操作し、これまでの履歴からレコメンドされた動画を仕方なく垂れ流す。

 

 賑やかに騒ぐ茶髪の彼の集いに、何をやっているか気になった藤乃春が静かに近づいて来た。

 

「そういえばフジノンって何が好き? ショート動画?」

 

「ショート動画? さぁ」

 

 湊から問われた藤乃はさっぱりと、分からないと答えた。金閣寺もそれは少し気になったが、やはり彼女はミステリアスでありたいようだ。

 

 藤乃はショート動画なるものに興味を示したのか、金閣寺の席の後ろから彼の趣味を眺めるギャラリーに加わった。

 

 早くこの取り調べじみた時間が終わってくれないものかと、金閣寺がスマホの画面を上にフリックすると、野球関連の動画から突然脈絡なく猫が現れた。

 

「ね、ねこさん?(かわいい)」富宮が囁いた。

「さびしいのか金閣寺?」中川が平然なフリをして尋ねる。

「はは、ペットかいたい? 相談、のる?」湊がふざけた。

「おい金閣寺! まさかカノ」宗の大袈裟なリアクションは、

 

「うるせぇっ!」

 

 金閣寺は耳元でごちゃごちゃ集るそいつらに、怒声を飛ばし対抗した。

 

 これも彼のアカウントに紐付きレコメンドされた動画だというのならば──。すかさず金閣寺を取り囲む友人たちが、各々好き勝手な疑いを感想にし、おもしろおかしく膨らませていく。

 

「ふふ、かわいい」

 

「だってよ!」

 

「……」

 

 藤乃が続けて流れる猫の動画を見て、「かわいい」と言った。数百万再生されたかわいい瞬間を凝縮し集めたものだから、その彼女の口からつぶやかれた感想は意外でもなく当然でもある。

 

 「だってよ」と、宗海斗が何故かうれしそうにつづけて言う。今、かわいいとつぶやいた彼女も、普段のミステリアスさとのギャップがあってかわいいものだと、その坊主頭は言いたげだ。

 

 金閣寺は何も言えず。「にゃんにゃん」と鳴き流れつづける愉快な猫動画たちを、引き攣った笑顔で見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 茶髪の彼の引き攣っていた表情は、いつの間にか口角を自然と上げていく。

 

 友人グループ一行は、金閣寺歩厳選の猫ショート動画集に癒された。やはり猫という動物のもつ魅力と可愛さは老若男女に通じることが再確認できた。

 

 野球に猫、この男の趣味に特に変わったところはない。ここ日本ではどれも人気コンテンツ、どれも王道、金閣寺歩という男の履歴にはやましいことなど一つもないことが、このショート動画の鑑賞会でギャラリーたちへと間接的に証明されつつあった。

 

 無論、のほほんと手に収まる一台のスマホで鑑賞会を開いていた訳ではない。金閣寺歩は、反撃の機会を頭の片隅に密かにうかがっていた。

 

(湊に中川、こいつら『えぐいよ?』『えぐいぞ?』とかクールにひとことづつ他人事のように言ってはぐらかしていたが、一体どんな恥ずかしい動画を普段隠れて見てやがるか……よし、クイックからの牽制球で暴いてやるか)

 

 たのしいたのしい猫動画の鑑賞会はここまで。抜き打ち検査には抜き打ち検査を、因果応報を。金閣寺はこの企画をいつぞやの【バヤ高イケメン珍図鑑企画】の時のような第一弾だけで終わらせはしない。

 

 狙い定めた標的は、いつも一歩引いた良いポジションにいる腐れ縁。中川透の横顔に盗み見るように目をつけた金閣寺が、企みを敢行しようとした、その時──

 

 子猫がすやすや眠りこてっと転ぶショート動画は、オートマティックに切り替わり、次の動画を金閣寺のスマホに再生した。

 

 

【速報:配信界のお笑いかいぶつニシナナさんが体調不良で活動休止か!?】

 

 

 いきなり脈絡のないホットなニュースが流れてきた。

 

「まじ? はは、チャンネル登録してるのに、ざぁーんねんじゃん」

 

「悪口芸人は案外メンタルが弱いってことなのか? かくいう俺もざんねん」

 

「へぇ、ナカガワも?」

 

「ン──さぁな? はは」

 

 湊と中川はその顔をよく知る人気芸人の突然の活動休止の報せに、金閣寺のスマホ画面を後ろで覗きながら、できたての生の感想を寄せた。

 

「カレ、有名?」

 

「えっ、ニシナナのこと知らないのかよ藤乃さん!? はは、芸人だよ芸人、配信とかで人気の『だがぁ!』とか『お笑い防御力』とか言ってる。ははは、なんかやっぱ藤乃さんってそういうとこ──これだよな」

 

「ん、それは?」

 

「こ、こここれはそのぉー! ははははははは(金閣寺ぃー、なんでツッコまねぇ!)」

 

 藤乃春はお笑い芸人ニシナナのことを知らない。そして、藤乃春は今、宗海斗に説明終わりに披露されたその交差する指の意味を知らない。

 

 いつもは構う坊主頭の野球部員が自爆しているのにも構わず、金閣寺は椅子に掛けながら黙ってその動画を見ていた。

 

「わっ、脇腹痛が悪化して入院だって書いてる」

 

 富宮は他のウェブニュースサイトに載っていたトップ記事を、自分のスマホで調べひらいた。

 

「職業病か? 笑うことを仕事にするのも大変なんだな」

 

 中川が金閣寺の横顔をちらっと覗くと、連動して湊もそうした。

 

「カクジも大変?」

 

「あぁ……って、だれが芸人だ」

 

「おい金閣寺ぃー、ソレをッ! さっきオレにツッコめ!!」

 

「あ? ……すまん、なんつった?」

 

「おい、エラーだぞエラー! まったくたのむぜ? それこそニシナナみたいにぱーーーーんって! キレよく! 見逃さず! 球際は激しく! あと──」

 

 片耳に入る宗の注文を聞き流しながらもう一度、噂の渦中の人物が映るショート動画を再生した。機械的な音声が淡々と原稿テロップを読み上げていく。

 

(ニシナナ……アイツが? ……天罰か……なんてな?)

 

 金閣寺は、冗談めかしてか心の浅瀬であらぬ事をつぶやいた。

 

 それでもその他人の不幸を垂れてきた蜜のように味わうのは、少しだけ心が傷んだ。果たしてこれが明るいニュースかそれとも暗いニュースか、分からない。

 

 訝しむ表情をした金閣寺は、次の動画をフリックしめくった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤなヤツに天罰が下った。そんな単純な思考ではどこかもやもやと解決しない。金閣寺が大阪の劇場および楽屋にて、生で見たピン芸人ニシナナは、狡猾かつ緻密でしぶとそうなそんな良くも悪くも人間的な生命力に溢れたヤツだった。

 

 しかし、病には完全に勝てないのも人間の定めか。他人をたくさん笑わせてきたヤツが、脇腹痛などよく分からない症状を理由に活動休止するなんて、少し皮肉にも思えた。

 

 金閣寺はニシナナのニュースにざわめく友人たちを背に、複雑な感情を抱えながら、次の動画をフリックしめくった。

 

 次の瞬間、彼のスマホ画面は突如として、異様なリズムと色彩に占められた。

 

「アレ、──?」

 

 金閣寺の声は驚きに固まってしまった。

 

《【SMR優勝ネタ】天才お笑いJKアベカナ、まこととーげ▲▲…》

 

 そう書かれたよくわからないタイトルのショート動画が不意に金閣寺のスマホ画面に流れた。ニシナナのニュースの次なら、お笑い関連の動画だろうか。いや、それは、ただのレコメンドされた赤の他人が披露し奏でるお笑い動画ではなかった。その眼鏡、その帽子、その面影、そのいつもよりとびきり明るげな大声、彼の知らない赤の他人では──

 

「ねぇねぇ、このアベカナってわたしんちのアベカナ? 今PINEにメッセしたらデルカナ?」

 

 金閣寺のスマホ画面を前のめりに覗き込んだ湊は、椅子に掛ける金閣寺の右肩に手を置き、自分のスマホをテキパキと操作しだした。

 

「うん? 俺の目にはおれんちの阿部加奈だな? ひょっとして、これドッペルゲンガーか? 確かめるためせーので〝おめでとう〟って送っちまうか、ははは」

 

 中川も同じくそう見えたようだ。金閣寺の左肩に手を置きながら、自分のスマホで動画内に映る友人女子へと通信連絡アプリでメッセージを入力しだす。

 

「私の目にも? 加奈ちゃん……? すくーるまんざいろっく?? お、おめでとう??」

 

 〝おめでとう〟と言っていいのか、迷いつつも賛辞の言葉を送る。富宮もアベカナなるものが友人グループに属するあの加奈ちゃんに見えた。

 

「阿部が、うおっまじかよ!! まことかよ!! これってお笑いのセンバツみたいなヤツだろたしか!! 知らないけどッうおお送れ送っちまえ!!」

 

 宗も興奮気味にお祝いメッセージの送信を促す。人違いであっても、送る祝う言葉にデメリットはないのだ。

 

「これ、カクジはツッコミ? でてる? おめでとう?」

 

「いや……ぜんぜん……しらねぇ……ははっ──」

 

 動画の中からこぼれた大量の笑い声、壇上から会場を沸かせるその緑ハンチング、黒髪、眼鏡、スマホ画面に出力され映る彼女の姿は〝まこと〟なのだろうか。

 

 金閣寺には信じられない。信じられない驚きの光景が、約45秒再生された。

 

 金閣寺の席を囲む友人たちは笑う。何度も何度もアンコール視聴をしながら。

 

 彼も笑わざるをえなかった。友人としての祝福の笑み、予期もできなかった驚きの笑み、一言では言い表せない笑みを浮かべる。

 

 そして〝とーげ▲▲とーげ〟と繰り返される彼女の奏でるそのネタとそのリズムの摩訶不思議さに──

 

 笑わざるをえなかった。おもむろに茶髪をかきながら────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全国の学生たちのためのお笑い賞レース、スクールマンザイロック。正統派漫才から、コント、フリップネタ、あるいはリズムネタ、披露するネタの種類は問わず参加人数はピンでもコンビでもトリオでも。

 

 そのお笑い賞がただのスクールマンザイではなくあえてロックと名の付く由来は、常識に囚われないそんな型破りで自由な表現者の登場を待ち望んでいたからか。

 

 そして此度開催された【第十回スクールマンザイロック】にて、映えある賞の頂に登りし者が勝負の壇上で披露した一風変わったそのネタは、ほんの数十秒のショート動画の映像切り取りから拡散され、雪だるま式に再生数を伸ばした。

 

 それはまるでお笑いシンデレラストーリー。界隈に現れた一人の若き天才女子が、ガラスの靴で坂道を駆け上がっていき、みすぼらしいドレスが瞬く間に華々しく色付いていくような──

 

 とんとん拍子に駆けていくガラスの靴は欠けない。笑い笑わせネタのシステムを改良しながら、そうして挫けずにたどり着いたのは、まだまだ登り続ける峠道の途中だった。

 

 ある日、全国放送のテレビ番組にて。息を落ち着かせ舞台袖に控える彼女は、またお馴染みの緑のハンチング帽を被り、新調した赤い眼鏡を耳にかけた。

 

 裏方大人たちの並び立つ暗がりのトンネルを抜けて、今、ひとりの女子高生が光り輝くステージへとテンションを上げて駆けだした。

 

 

 

 

 

⬛︎

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

 

天才お笑い女子高生ギャガーのアっっベカっっナでーす!!

 

まこととーげ▲▲とーげ! いぇいっ!

 

 

 

ミュージック、ミュージック、

 

にほんごで、にほんごで?

 

そうっ、おんがっく、おんがっく、

 

すたすたすたすたすたすたすたーとぉー!!⭐︎

 

⭐︎⭐︎

 

 

リズムかもん、リズムかもん、アベカナちっくなリズムかもん!

 

朝起きてぇ、朝起きてっ、電信柱にぶつかって! 七転び、七時すぎぃ、通りかかったハチ公に? 片足を、あげながら、がっつりしーしーされちゃった!

 

こういう日もあるさ、こういう日もあるさ!

 

ってぅーー、まこととーげ▲▲とーげ!

 

 

 

へいかもん、へいかもん、あたたまってきたんだろう? 日常に、隠れすむ、アベカナちっくワールドⅡ!!

 

沼地でぇ…沼地でぇ〜…どんぐり拾ってほほえんだ⭐︎食べたらお腹がPPで、密林ニシヘ駆けながら、コンビニえんすすとあなる、かわやのトイレかけこんで、スッキリお詫びの精神で、アーモンドチョコを買っちゃった?

 

こういう日もあるさ、こういう日もあるさ!

 

まことのまことっ、とーげ▲▲とーげ!

 

うまいっ! 198えん!

 

ブンメイさ、ブンメイさ、沼地に住むよりブンメイさ! はだしでいるよりブンメイさ!

 

どんぐりころころさようならぁーー!!!

 

⭐︎⭐︎

 

 

てことでぇ、てことでぇー! まことにまことにありがとう! 天才謙遜お笑いJKギャガーの、アベカナっ、でぇーーしたーー!!!

 

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

 

 

⬛︎

 

 彼女はそのリズムネタその風変わりなギャグとともに有名になった。天才お笑い女子高生ギャガーの長く誇らしい肩書を持つ、【アベカナ】として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある朝の情報番組は、怪物たちのひしめくお笑い界隈に輝く彗星の如く現れた彼女、近頃人気の女ピン芸人アベカナを番組のゲストで招き入れた。

 

「題して──最近話題、天才お笑い女子高生ギャガ―のアベカナは、どこがそんなに面白いの〜~? 教えて街頭インタビュー!! 我々ビットモーニングの面々がその彼女の謎に迫ってきました!」

 

 司会の男芸人が明るげな声で叫ぶ。ゲストのアベカナは指定の特別席に腰掛けながらも突然のサプライズ企画に驚いた。同時にハンチング帽に仕込まれた緑の猫耳をぴんと立て、芸人らしいお馴染みのリアクションをした。

 

 番組はさっそくスタジオ内のモニターに大きく映る世界を、ゲスト雛壇、テレビ画面の先の視聴者たちとともに鑑賞していく。

 

 

 

 大阪府、とある賑やかな市の街頭インタビューにて────

 

『眼鏡姿がかわいらしいわ。あんなに眼鏡が似合う子なかなかいないものっ』

 

 等身大のアベカナパネルを触り眺めながら年配の主婦がそう答えた。眼鏡芸人といえば彼女、女芸人といえば彼女、眼鏡女子といえば彼女と言えるほどアベカナの名は世間お茶の間の方々に認知されてきた。

 

『ハンチングがおしゃれ。まさに理想のハンチング女子って感じ。ほらっこの耳みてっ! アハハねこちゃんぴーーーーん』

 

 アベカナといえば眼鏡orハンチング帽。なんとその特製の帽子は、後ろのサイズ調整に用いるアジャスター部を触ると、隠された折りたたみ式の猫耳を立てることができる機能がある。普段使いも可能であり、それが便利かつかわいいのだと若い風貌のギャルがそうインタビューに答えた。アベカナの女子高生らしいアイデアの詰まったハンチング帽は、一部の若者たちに浸透しウケていた。

 

 モニターの映像は彼女をモチーフにしたアベカナ饅頭が売られているという駅地下のデパートへと潜入し、その特注の商品を紹介していく。

 

 眼鏡とハンチング帽は彼女の存在を示すトレードマーク。饅頭のひとつひとつに色んな表情をしたアベカナの似顔絵の焼印を押されている。一箱9個入り、税込798円で販売されていた。

 

 

 

 場面はまた切り替わり、それと同時にスタジオのアベカナの表情も何かを見つけたように、パッと目を見開いた。

 

 最後は撮り貯めた映像ではなく現地からの生中継。番組の制作スタッフが、在学する母校に訪問。穏林市、穏林高校の見慣れたなつかしい校門前にて──

 

「えっとね、なんというか、沼地でぇ〜…が、ふふっ、おもしろくて好き。あはは、あっ──こっちこっち!」

 

 校門前で待ち構えるカメラマンとアナウンサーに呼び止められたショートカットの女子高生は、アベカナのネタの中でもお気に入りのフレーズの一つをとても嬉しそうに答えた。

 

 さらにインタビュー途中でその女子高生は何かを手招いて呼んでいる。そしてカメラの前へと急いだようにぞろぞろとあつまり、やがて横並びに肩を組む五人の在校生徒たち。

 

「「「こういう日もあるさ、こういう日もあるさ!! ところでぇー、ところでぇー、さいきん連絡ないさ、阿部加奈連絡ないさ!! あははは」」」

 

 

(こういう日もあるのか──)

 

 

 茶髪の生徒は友人たちと肩を組みながら、アベカナのおなじみのネタを拝借し皆で合唱する。

 

 肩を組む友人たちは笑っている。マイクを向ける女性アナウンサーも、カメラを向ける大柄の男も釣られてみんな笑っている。

 

 肩を組む生徒たちを映しながらカメラが引いていく。スクールマンザイロックを優勝制覇した祝福の垂れ幕は、いつまでも穏林高校の校舎にタスキをかけるように飾られている。

 

 

 遠くなっても明るげな声と笑い声の重なる合唱はやまない。

 

 テレビに映る映像は、中継からまたスタジオの様子にもどり──

 

「さぁ、というところで。今、ご本人もくすくす笑っていましたね?」

 

「いや、ちょっと、いつもいた知り合いが、いつもみたいに元気そうだったんで! ──ふふふ、あとで連絡とりますっ!」

 

 アベカナは中継映像を見届けながら笑った。いつもいた母校は今遠く、いつも見ていた朝の情報番組のスタジオの内に今自分は両足を着けている。

 

 お笑いのことを真剣に考え出したあの時よりも、思い描いていた以上のずっと良い現実にアベカナの心と体は浸る。

 

 彼女のこぼす笑みは絶えない。これ以上幸せなことはなかったと思えるほどに、アベカナは笑いつづけた────

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。