おっさんの大冒険   作:F-Shinji

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約一分強の出来事で、一話を使います。


012:おっさんと痴女【挿絵+】

 

 

————悟の通り魔に対する初動の動き。

 

 

先ずは、今やコンビニで商品を掴む感覚で使えてしまう《心臓掌握》によって朦朧状態を与え、それで怯んだ隙に、補助魔法が掛かりまくったカツラギが突撃し、一気に制圧してしまう展開に繋げてゆく。

 

相手が例えレベルが60だったとしても、魔法詠唱者で、かつ一人だった場合は、それだけで勝負がつき、仮に素早く立ち直ってカツラギの手から逃れたとしても、本命の左手の杖には事前に《魔法無詠唱化》を施しており、第十位階魔法では比較的、派手ではない(と思われる)攻撃魔法の《内部爆散》を唱える準備も整っている。

 

狙う部位は……盗賊系っぽいので、今回は(限定できるかは謎だが)足であり、相手が連続殺人犯だと言うのは承知の上だが、それでも人間のド真ん中にホクトシンケンを掛けるのは気が引けるのだ。

 

色々と飛び散っても《清潔》で割と何とか成ってしまうのだろうが、肉片や骨の一部は残るであろうし、何より殺すとスレイン法国の情報が聞けなくなるので、己の甘さを正当化している。

 

そんな訳で、早速、"こちら"では二回目の《心臓掌握》を発動させた直後、悟の脳内に瞬時に一つの真実が浮かんだ。

 

 

【コレ、アッサリ殺せるじゃん】————と。

 

 

ユグドラシルでは《心臓掌握》は多用しておらず、使用したとしても即死は通らない事ばかりであり、その場合は心臓を掴み損ね、代わりに微々たる反動を与えるのみである。

 

仮に数十人でワールドエネミーと戦っているとして、その際はとんでもない数のデバフがズラっと表示されるが、そんな中に即座に消える朦朧がポツンと追加されても、ほぼ影響がない程度だ。

 

しかし、人数有利で相手が人間かつ、本当に朦朧が"再現"されるなら効果は絶大であろうし、今回を機に試してみるべきだと思ったのだが……

 

 

「(はァ~ッ!? う、嘘だろ!? "こんなの"が通るのに粋がってたのか!? 俺が言ってた"只のバカ"そのものじゃないか……!!)」

 

 

————今のモモンガは、右手で心臓を掴めている状態。

 

 

つまり、通り魔の女には即死耐性が無かったのだ。

 

こうなってしまうと、後は拳を握るだけで対象は死ぬだろう。

 

だが、カツラギ達に《心臓掌握》ではまず死なないだろうと豪語していた事から、悟は(一瞬とは言え)まさかの現実逃避に移ってしまう。

 

 

……冒険者を狙った連続殺人。

 

鎧に打ち付けられているプレートの数を考えると、被害者は数十人。

 

コレが現実だったら、被害者が誰であろうと、政府が血眼になって探すと容易に想像でき、例え海外に逃げていても予算を湯水の様に投入して確保に動くだろう。

 

よって、こちらでも冒険者組合は勿論の事、リ・エスティーゼ王国が本気で動いていて、監視カメラもビックリな魔法を駆使して犯人の特定に移っていると予想しており、そんな"国家の本気"から容易に逃れ、街中で堂々と潜伏している者に【即死なんて通る訳が無い】と思い込んでいた。

 

しかし、実際のリ・エスティーゼ王国は、悟が噂を聞いた程度では把握できない以上に腐敗しており、殆どの貴族が冒険者の命など何とも思っていない為、市民に被害が及んでいない時点で現状で動く気は毛頭無く、何より通り魔が"こちら"の範疇ではとんでもない強者だった事が大きかった。

 

……とは言え、ユグドラシル視点では即死が通る時点で強者とは程遠いので、悟が此処まで警戒するのも、価値観の相違を考えれば仕方ないと言える。

 

一方、冒険者組合としては必死も必死であり、意図的に張り紙には記していなかったが、間もなくアダマンタイト級の冒険者を投入して、事態を治めようと動いていたのは、さて置き。

 

 

「(悟君? ……どうしたんだ?)」

 

 

現時点でのカツラギは、背中の剣をそのまま、ファイティング・ポーズを維持した状態で動けないでいた。

 

事前の悟の指示では、彼女(?)の《心臓掌握》の影響を確認した直後に突撃するように言われていたからだ。

 

そして、自分の手を逃れて、かつ悟の追撃の(無詠唱の第十位階)魔法をも掻い潜った場合は、確保を諦めて剣を抜く許可も得ていたのだが……

 

グラプス・ハートと聞こえていながら、5秒ほどしても通り魔が"何かを受けた"様子が無いので、迂闊なのを承知で悟の方を見てみると、投影されたっぽい心臓を掴みながら、無表情で固まってしまっていた。

 

よく見ると、僅かに冷や汗をかいているのだが、この時点でのカツラギには見えていない。

 

 

「(心臓っぽいのを掴んでいる!? ……と言う事は……)」

 

 

何と、即死魔法が通っていた。

 

つまり、意外にも目の前の女は、小手先の技など必要無い、格下の相手に過ぎなかったのだ。

 

対して、悟は握り潰す……即ち、殺すのを躊躇している。

 

その理由として、悟の優しさ以外にも、彼の事だから、自信満々に言っていた予測が外れて焦っている事も考えられる。

 

更に加えて情報も……と、今は暢気に考えている場合では無いので、視線を正面に戻してみると……

 

 

「なッ、何だ……一体なにをッ、掴んでんだ? てッ、テメェ……!」

 

 

通り魔の女は顔を真っ青にして、激しく狼狽しており、スティレットを持ちながらも、両手は心臓の在る胸元に添えられている。

 

両足はガクガクと震えており、全身からはダラダラと汗が滴り落ちていて、余裕綽々だった面影は皆無である。

 

……それも無理はない。

 

通り魔の女は、今まさに、自分の心臓を掴まれている状況であり、悟が拳を握った瞬間に、成す術も無く死ぬのだから。

 

本当に心臓に触れられている訳では無さそうだが、即死魔法を受けている身として"詰み"と言うのが直感で分かるのだろう。

 

一方、術者の悟は(カツラギが)見た感じ《心臓掌握》をどうにか解除したいのか、突き出した右手をそのままプラプラとさせたが……

 

 

「!? な"、何やってんだゴラああああぁぁぁぁ~~ーーッ!!!!」

 

 

悟の動作を挑発か実行か、どう捉えたのかは分からないが、通り魔の女は大声を上げながら彼女(?)に突進する。

 

既に詰んだ状態であると何となく分かっていながらも足掻くのは、彼女の性分による防衛本能と言えよう。

 

しかし、カツラギと言う遥かに格上なタンク役が傍に居る以上、その刃は触れる事すら叶わない。

 

仮に剥き出しの素肌に当たったとしても《上位物理無効化Ⅲ》がONなので、即死が通る程度のレベルでは、モモンガには何のダメージも与えられないが。

 

 

「(ありゃッ、速いんだろうけど容易いなァ)」

 

「————ンぐぅッ!?」

 

 

カツラギとしては、予定外にも"相手が動いてから行動に移る"事となってしまったが、通り魔の女と悟の間に割り込むと、彼女の首を右手で容易に掴んでしまう。

 

武技を使用したエルヤーの動きすら"遠目から"問題無く追える彼にとっては、造作もない動きなのは知っての通り。

 

その"反動"で左手のスティレットが地面に落ち、間髪入れずにカツラギの右腕が天井に向けられる事で、女は宙吊りにされる形となり、彼が右手に多少の力を込める事でも、彼女の命は絶たれるであろう。

 

当然、女は苦しそうに息を漏らし、力なく左手をカツラギの右腕に添えるのみで、既に(無意味だが)右手のスティレットを振るう気力すら失われている。

 

対して、カツラギは複雑そうな表情をしながら、左手で優しく女の右手のスティレットを奪い取って軽く左に放り投げると、再び視線を悟の方へと移す。

 

すると、視線の先のモモンガは慌てた表情で、投影された心臓が浮いたままの右手と首をブンブンと振って【解除できない】事をアピールし、本当に連動しているかどうかは知らないが、彼女(?)が右手を揺らす度に、通り魔の女の体がビクンビクンと震えていた。

 

口にするのを恥じているのかモモンガは言葉は発さなかったのだが、カツラギは彼女(?)の動作で大体の意図を察し、通り魔の女に視線を戻すと口を開いた。

 

 

「……私がやろうか?」

 

「いえ、自分で殺ります」

 

 

これが何の罪も無い一般人が相手だったらカツラギも躊躇しただろうが、悟が躊躇うなら自分が首の骨を圧し折るのも辞さなかった。

 

彼は人間のままにしては、思ったよりも殺人を割り切れている様だが、コレも、神殿騎士の感情に引っ張られているに他ならない。

 

ユグドラシルでの神殿騎士は設定として、基本的に信者や同士にはカツラギの様に寛容では有るが、敵対する者に対しては"鎌倉武士"や"薩摩藩士"並みに一切の容赦が無く、それが連続殺人犯であれば尚更であった。

 

だが、悟がケジメをつける様であり、彼女(?)は覚悟を決めたのか、通り魔の女をシッカリと見ながら、最大まで開かれていた掌をゆっくりと、ゆっくりと閉じてゆくのだが……

 

 

「自業自得だ。同情はしないよ」

 

 

————通り魔の女にとっては、地獄への階段を降っている心境に他ならない。

 

 

「……うぁ……ゲホッ……あァッ……ゃだ、やだァッ……」

 

 

意識が朦朧としている中、長い黒髪の女と視線が合う。

 

その女は、自分の心臓(断定)を今まさに握り潰そうとしている最中であり、慌てて無意味な突進をする事から始まり、恐怖で涙している現在の様子すら楽しんでいるのか『ニチャァ……』とした笑みを浮かべている。

 

初見での雰囲気は完全に演技だった……最も軽そうな奴だと思っていたのに、己を凌駕するレベルの狂人だったとは……

 

自分を片手で持ち上げている全身鎧の(声からして)男も意味が分からない速さとパワーだし、初めから自分が敵う相手では無かったのかと、今や諦めすら感じていたが……

 

 

————無論、彼女(?)の性格については、見当違いである。

 

 

現在のルプスレギナは【最高のショーっすね】と思いつつ、心の底からニヤニヤとしているが、モモンガの『ニチャァ……』は只の"苦笑い"であり、それも、通り魔の女と目が合ってしまった事による後ろめたさから来たモノであった。

 

作戦としては生かして捕らえる方針だったと言うのに、まさかのガバガバ耐性に加え《心臓掌握》が解除できない事から【もう殺すしかなくなっちゃったよ】と言う心境による表情に他ならず、彼女(?)の全身からは(緊張やストレスによって)脂汗をも滲んでいたりする。

 

相手がどんなに外道であろうと、恩師の前で殺人をするのにも抵抗が有るのだ。

 

そんな訳で、今まさに、通り魔の女は、名も知られずに絶命させられる寸前まで来ていたが……ふと投影されていた心臓が、唐突に消え、固唾を飲んで見守っていたアルシェが即座に反応する。

 

 

「消え……た?」

 

「消えたっすね」

 

「!? ほ、ホントだッ! カツラギさんッ、時間経過で心臓が消えました!」

 

「……成る程、一分ってトコロか……命拾いしたな……って、うおっとッ!!」

 

 

死んだら死んだで、そのまま冒険者組合に突き出したが、捕らえられたからには、何かしらの情報が聞き出せるかもしれない。(蘇生はしない方針である)

 

カツラギにとっては、どちらでも良かったが、何にせよ、通り魔が"どうにでもなる相手"と分かったので、後の処遇は相談して決めれば良いか……と気持ちを切り替えると……

 

その直後、通り魔の女の股間から、何やら生暖かいモノが滴り落ちていたのに気付き、それが何か察したカツラギは慌てて左手を彼女の腰に添え、右手を首から放すと背中に移し、後ろを向いて膝を折ると地面に横たえさせた。

 

対して、女は意識は有った様で、即座に"アレ"をしたのを膝で隠すような、所謂"横座り"状態になるが、そのままルプスレギナが肥大化させたメイスを片手に背後をとる配置となった事もあり、完全に戦意を失っているのか、俯いたまま動こうとしていない。(アルシェはカツラギの背後に回り込んでいる)

 

【挿絵表示】

 

今や逃げる事は勿論、不可能……再度、誰かを攻撃しようにも、全身鎧の男に止められるだろうし、いざ距離を取って武技を使おうにも、一つ目を使おうとする前に、即座に心臓を握り潰されて終わるのが目に見えている。

 

……だが、不思議と生かされたと言う事は、この連中が、気まぐれで漏らした"スレイン法国"の情報が欲しいからに他ならず、黒髪の女は悪趣味にも自分が絶望している様子を楽しんでいながら、最初は対話を試みて来たので、改めて冷静に振り返れば、"追手"に負傷させられた事による苛立ちで、相手の観察を疎かにしていなければ、戦う事自体を避けれたかもしれなかった。

 

本来、同業者を多く殺している時点で、実力差的にも問答無用で殺害されても仕方ない筈だが、見ず知らずの女の情報を優先させている辺り、実際には冒険者達の命など、(貴族とは違うベクトルで)何とも思っていない可能性が高く、本当にそうだったとしたら、今所属している"組織"との関係次第では、交渉に入れた可能性すら有ったのだ。

 

加えて、スレイン法国と敵対していた・するつもりだとしたら、自分にとっても都合が良かったダケに悔やまれ、情報の提供次第では、ひょっとしたら彼女が必然と考えている"口封じ"で殺される結末を回避できるかもしれない。

 

心身ともに戦意を喪失した様子を見せながらも、俯きながら其処まで考えている、通り魔の女こと【クレマンティーヌ】であったが……

 

カツラギ&悟としては、犯行によっては何十人殺しても即座に殺されない"現実"の、こちらの常識では偽善とも言える、法律に引っ張られているゆえでの"情け"に過ぎないのは知っての通りだ。

 

一方、心の中で胸を撫で下ろしつつ、何時の間にか取り出していたハンカチで、額を拭いつつカツラギの隣にまで距離を詰めて来たモモンガは、床の様子を見てようやくクレマンティーヌの粗相=失禁に気が付いた様だ。

 

 

「!? あちゃ……無理もないか……ルプスレギナ?」

 

「お優しいっすねェ。《清潔》~ッ」

 

「(便利だなァ……本当に……)」

 

「……ゴホン。それでは、色々と質問する前に、何か言いたい事は有りますか?」

 

「何も無ければ、そう口にしたまえ」

 

「……!!」

 

 

————やはり、自分の考察は、当たっているかもしれない。

 

暢気な口調はともかく殺気すら感じないのは、昆虫観察でもしている感覚なのか、むしろ恐ろしい方向に解釈できるが、此処まで非常識な連中だからこそ、僅かな望みがある。

 

よって、生き残れる可能性に賭けて、クレマンティーヌは膝を正すと、額を床に擦りつけながら漏らすのであった。

 

 

「す、すみませんでしたッ。何でも話しますので、命だけは助けて下さい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

■おまけ■

 

モモンガ「今度の私は、ちゃんと殺しはしないつもりだったのにさァ?

情報吐いたら、リーダー次第で生かしてやるって約束したもんな?(してない)

なのに、何で即死耐性が無いの? そんなに弱かったら、君の事生かしてやれないよ……

(解除できないっぽいし)……もう、殺すしかなくなっちゃったよ……」




グラスプ・ハートはヘジンマールの時でもキャンセル(?)していた気がしましたが、こんな仕様にしてみました。
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