おっさんの大冒険   作:F-Shinji

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タイトルをシンプルなものに変更しました。


第一章:帝国編
002:おっさんの咆哮【挿絵+】


 

 

「まさか、本当にゲームが壊れてしまったのか……?」

 

 

《ゲームがブッ壊れてサーバーが駄目になる前に、サービスを終了する事にしたって感じでしょう》

 

 

カツラギは、悟が神妙な面(骨)持ちで言っていた事を思い出しながら、注意深く歩みを進めている最中だった。

 

ついさっきまでは、初期位置から動かずに、ログアウトの方法を探ったり、コンソールを出そうとわちゃわちゃとしていたが、ある程度試行錯誤した結果、これが《現実》だと断定する事とした。

 

その理由は幾つも有り、先ず、文字通りカラダが手足の様に動くので、試しに座ろうとしたら操作そのものが必要無かったのは勿論、途中で背中の剣の先端が地面に刺さってしまった事。(ゲームだったら少しめり込んでいた筈)

 

次に【聖なる狂戦士の鎧】の兜部分は、カツラギの任意でガチャガチャと鎧部分に納まる形で解放できるのだが、素顔を出した後に頭を触ってみると、頭部の感触に加え、ゲームだと当たり判定のみにしか触れられない筈が、指にサラサラとした髪の毛の感触が有った事。

 

そして、臭いまでもが感じられた事が、決定打となった。

 

尚、環境汚染された元の世界の地上に匹敵する臭い……腐臭が漂っていた為、すぐに《無臭(オーダレス)》を唱える事で対策している。

 

 

「悟君が巻き込まれていなければ良いが……」

 

 

仕方なく現実を受け入れた直後、彼が真っ先に心配したのは、悟の安否についてだった。

 

カツラギの考察では、以前、ナザリック大墳墓の内部に招待されていた時に緊急メンテナンスが発生した後に再ログインした際、予め自分で設定していたリスポーン地点でゲームが再開されたので、その弾かれた影響で《自分だけ》事故に巻き込まれのであり、悟は問題なくログアウトできたと《思いたかった》が、あくまで希望的観測に過ぎない。

 

つまり、この一人の状況で考えても答えなど出る筈が無いので、先ずは自分の安全の確保を優先させる為に、ひとまず人を探そうと歩みを進めていると言う訳だ。

 

そんな《この場所》は平野っぽい大地ながら、薄くはあるが常に霧が充満していて視界が悪く、最初はどの方向に自分が向かっているのか見当がつかなかった。

 

しかし《無臭》を使った時の様に、流石に方向くらいは知りたいと思って魔法を思い浮かべていると、ごく自然に《方位探知(コンパス)》を使えたので、今は何となく南に向かって歩いていた。

 

実を言うと、他の魔法や《無限の背負袋》の中のアイテムを駆使すれば、高速で走ったり、長時間飛行したりする事も可能なのだが、場所の雰囲気的に複数のレベル100の敵とエンカウントする事を恐れて大胆な方法を選ぶ事ができなかった。

 

 

「だけど悟君も、私と同じ状況かもしれないんだ……」

 

 

————気付いたら未知の場所に居て、ゲームのアバターを適応させた姿で一人ぼっち。

 

客観的に考えると、まさに絶望的な状況と言えるが、カツラギが意外と冷静でいられたのは、やはり人生経験と鈴木悟の存在が大きい。

 

また、全身鎧の内側で元から首に掛けていたシルバーのネックレス……男性用を意図しているので、地味な見た目ながら食欲や疲労が累積せず、睡眠も必要なくなるマジックアイテムの恩恵も凄まじいが、ゲームでは僅かな手間を省く便利アイテムに過ぎなかったのに、こうして《現実》でも効果が実感できてしまうと、むしろ不気味だと言える。

 

 

「!? ……とうとう出たか……!」

 

 

そんな中、カツラギが最も危惧していた状況に直面する。

 

所謂モンスターの出現であり、それは霧に紛れて不気味なほど静かに現れた。

 

正直、魔物が存在しない世界にも期待していたが、今現在、注意深く歩いていなかったら奇襲を受ける可能性も有り得た事から、むしろ身近な存在なのかもしれない。

 

見た感じは低級アンデッドのスケルトンが一体……ユグドラシルではチュートリアルを終えた時点で相手にならなくなるザコだが、敵は見かけによらない事を学習しているカツラギは、油断なく剣道の中段の構えの要領で武器を構えると、悟からのアドバイスを思い出す。

 

 

「(戦闘に入る場合は、魔力が許す限りは、必ず《あの魔法》を事前に掛けるべし……!)」

 

 

沙羅双樹の慈悲(マーシー・オブ・ショレア・ロブスタ)

 

 

両手で構えた剣を、そのまま手前に寄せ、剣先を真上に向けると言う、テンプルナイトさながらのポーズで第十位階魔法を発動させたカツラギ。

 

効果はリジュネ・即死耐性・リレイズが複合で掛かる。

 

カツラギのステータスだと、燃費の悪いコレを使うダケでMPの殆どが無くなってしまい、戦闘中に他の信仰魔法を併用するのは難しくなるが、逆に複数の魔法を駆使する悟の様に難しい操作が必要無くなるとも言えるので、初心者でもある彼にとっては、むしろMPを持て余さない的な意味で重宝する魔法と言えた。

 

その意図で悟は、無駄に面倒なルートのビルドでカツラギに《沙羅双樹の慈悲》を取得させたのだろうが、ゲームでは勿論、今の現実ではとんでもない保険となるので、前述のアドバイスをしてくれた悟には、早くも"この世界"では足を向けて眠れない気分だ。

 

そんな訳で、事前準備は万端。

 

初戦闘ゆえに恐怖を抱きつつも、神殿騎士としての感情も含まれているのか、カツラギは臆せずに全力でスケルトンに斬り掛かるが……

 

 

「えっ?」

 

 

"この世界"のパワーバランスを考えると当然だが、スケルトンは想像を遥かに超えた脆さだった。

 

足元に近付いて来た蟻を、全力で踏み潰した後に近い、空しい感覚だけが残った。

 

それに首を傾げたのも束の間、カツラギは歩みを続け、更に何度かスケルトンと遭遇したが、戦闘の結果は全く同じだった。

 

 

「初心者用の狩場だったのか……? だとしたら、ついていたな……アンデッドとは相性が良いし、色々と試す事が出来るかもしれない」

 

 

この狩場では、地面では無く霧からアンデッドが出現するので、警戒を解く訳にはいかないが、戦闘を問題無く切り抜けられたと言うのは本当に大きかった。

 

《沙羅双樹の慈悲》の効果も切れていない事から、次第にカツラギの心には余裕が生まれてゆき、続いて思い浮かんだ《敵感知》や《不死者探知》などを始め、色々と魔法を併用しつつ遭遇戦を繰り返していった。

 

未だに人とは出会えず、街道や人里の形も見えないが、いずれは飛行できるネックレスや《完全視覚》の存在に気付き、一息つけるのも時間の問題と予想できるが……

 

 

「《不死者探知》に反応は有るけど、対象が霧だから意味が無いっぽいが……此処は、ひとつ《スキル》も試してみるか?」

 

 

カツラギが思う……これから使おうとしているスキルは挑発系なので危険かもしれない。

 

神殿騎士が返す……此処のアンデッドは格下ばかりだし、余程の事が無い限りは心配無い。

 

カツラギが思う……万が一、強力なアンデッド達に囲まれてしまったら、どうするんだ?

 

神殿騎士が返す……逃げる事は決して悪い事では無いが、私ならば討ち取れると信じている。

 

今のカツラギには自覚が無かったが、誇りある神殿騎士としての感情も混ざり始めていた。

 

現に彼は《自分の判断》でスキルを試す決断を下したとしか思っておらず、一旦、剣を背中に収めると、両手を広げてスキルを発動させた。

 

 

野獣の咆哮(ビーストズ・ロア)

 

 

スキル扱いゆえか、人間が発したとは思えない程の低く重い声が、辺り一帯に木霊した。

 

それは所謂、レベル依存で距離が伸びる範囲挑発スキル。

 

低レベルだと114mとやや長い程度の距離だが、レベル100ともなると514mもの広い範囲を挑発できる。(人間に効果があるかは要検証)

 

レベル100の狩場では敵を引き付け過ぎて決壊するので使用は御法度だったが、低級狩場なら試せると思ったのだ。

 

見渡す限りの霧ゆえに、何も効果が無い可能性も高そうだったが……

 

どうやら霧が反応した様で、カツラギの周囲から多くのアンデッドが発生し、全て彼を標的にしている様だった。

 

辺りを覆いつくす程では無いが、数は優に百を超えており、スケルトンと比べれば格段に強いスケルトンウォリアー、エルダーリッチ、スケリトル・ドラゴンまでもが発生している。

 

カッツェ平野を良く知る者が見みれば……いや、そうでなくとも悪夢の様な現象と言え、仮に間近で見させられたら腰を抜かしてしまいそうな光景と言えた。

 

しかし、彼らは自分達の安息を妨げた《元凶》を殺すまでは、対象者以外は無視して追い続けるのが救いと言える。

 

 

「おいおい……こんなに効果が有るだなんて、驚いたな……」

 

 

それに対し、一瞬、茫然としてしまったカツラギだったが、臆す事無く再び武器を抜くと魔法の詠唱に入った。

 

あの数のアンデッドなので、試すつもりだった魔法を使い終えても相当な数が残ったが、後は体を十二分に動かす機会となった。

 

尚、後に現地人に対するカッツェ平野の認識を聞いたカツラギは、以後、二度と其処で《野獣の咆哮》を使用する事は無かった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

カッツェ平野の北に領地を広げるバハルス帝国。

 

その帝都アーウィンタールの【歌う林檎亭】を拠点とする四名のワーカーチーム【フォーサイト】は、カッツェ平野のアンデッド狩りに精を出す……予定であった。

 

アンデッドの撃破による報酬目当てに、カッツェ平野すぐ北の丘陵地域に聳える巨大要塞、帝国の【カッツェ平野駐屯基地】を一時的な中継地点とし、意気揚々と南下を始めたモノの、異様な程、アンデッドとの遭遇率が低く、その事実にチームリーダーの二刀戦士の男性、ヘッケラン・ターマイトはたまらず口を漏らす。

 

 

「オカしいな……此処らで暫く掃討はされてなかったのは、確かな情報な筈だったんだが……」

 

「此処まで何も無いと、何だか不気味ですね。今迄は、この辺りまで進む前には消耗やら何やらで、とっくに引き返していましたし……」

 

「しかしだ。今更、手ぶらで帰るって訳にもいかねえ」

 

「同意です。久しぶりの遠征と言う事で、此処まで念入りに準備して来たんですから」

 

 

偽情報を掴まされたのかと、リーダーとしての責任をも感じ始めたヘッケランの言葉に、元上級神官のロバーデイク・ゴルトロンが反応する。

 

コレもどっかの神殿騎士が南下ついでにアンデッドを掃除していた……即ち、ルートが丸被りしていた為なのだが、一行は知る由もない。

 

ちなみに、戦利品すら落ちていないのは、元凶の攻撃が強力過ぎて、アンデッドの塵すら残らなかったからである。

 

 

「でも……気を付けて。カッツェ平野の中央にゆく程、強力なアンデッドが出る可能性が有るから……」

 

「おう!!」

 

「はいッ!」

 

「えぇ……」

 

 

僅かに歩みを速めるヘッケランとロバーデイクの背を追いながら、没落貴族の魔術師、アルシェ・イーブ・リイル・フルトが口を開く。

 

それに対して2人の男は元気良く同意の返事をしたが、残りの一人、副リーダーのハーフエルフのレンジャー、イミーナは静かに応えるのみ。

 

何時、アンデッドに奇襲されるか分からないカッツェ平野では、イミーナの役割は特に重要であり、常に周囲を警戒しているからである。

 

更には、新し目……かもしれない戦闘跡と、新し目……かもしれない足跡も目に入ったので、この時のイミーナは何時もよりも集中していた。

 

その緊張感は他の三人にも伝わっていたが……フォーサイト各々の懸念を搔き消すかのような出来事が、唐突に訪れたのだった。

 

 

————例の《野獣の咆哮》である。

 

 

「!? 皆、聞こえたか?」

 

「は、はい。微かにですが……」

 

「距離はかなり有りそう」

 

「どうするの? ヘッケラン。引き返す?」

 

 

————対して十数秒顎に手を添えた後、ヘッケランはこう判断した。

 

 

「道中の異常さを考えると、五年前の【伝説のアンデッド】かもしれね~な。だとしたら、その情報ダケでかなりの金になるらしいし、こうしよう。目の良いイミーナがほんの僅かにでもシルエットが視認できる距離まで近付いたら、アルシェに《鷹の目》を全員に掛けて貰う。そんで皆で特徴を確認したら、俺の指示と同時に全力で撤退。それで構わないか?」

 

「分かりました」

 

「了解」

 

「なら、私が先頭を進むわ。貧乏籤じゃ無いと良いけど」

 

 

【伝説のアンデット】とは大型のアンデット騎士、デスナイトの事だが、ヘッケランは詳しい情報は知らないにせよ、対応としては悪く無いと言える。

 

対峙すれば飛行できるアルシェ以外は高確率で殺されるだろうが、相当に距離を置く事を想定しているので、本当に伝説のアンデットだとしても無難に撤退できるだろう。

 

よって、咆哮の正体を探る為に、更に注意深く歩みを進めるフォーサイトだったが、更に意外な展開が一行を待ち受けていた。

 

咆哮が聴こえてから、暫くは不気味なほど静かだったが、南下を進めるに連れて、激しい戦闘によるモノと思われる音が響き始めたのだ。

 

それにより、全員で顔を見合わせて互いに頷くと、音が聞こえる方向へと走ってゆき、遂に見えたシルエットだが、その範囲は左右に極めて広かった。

 

だが大半はアンデッドと思われる残骸であり、戦闘の余波で時より宙を舞っていて、その中央辺りで激しい戦いが繰り広げられている様に見える。

 

 

「な、なんだありゃ……もしかして、誰かが戦ってんのか?」

 

「尋常じゃ無い数のアンデットですね……目視できるダケでもスケリトル・ドラゴンが4体も……」

 

「あのチーム、間違い無く全滅する……でも、私達が行ったって……」

 

「いや、違う……違うわ……戦士っぽい人が一人で戦ってる……!!」

 

「なッ!? じ、冗談だろッ? あの数だぜ!?」

 

「でも今、スケリトル・ドラゴンが一撃で倒された様に見えましたッ」

 

「い、一体……何が起きてるって言うの……?」

 

「だ~か~ら~ッ、言ってるじゃないッ! 戦士がッ、一人でッ、一方的に蹴散らしてんのよ!!」

 

 

冒険者の最高位であるアダマンタイト級ですら、一人でスケリトル・ドラゴンを相手に出来るのは2体同時が限界だ。

 

それなのに、ロバーデイクが呟いた様に、いとも簡単に難度48の凶悪なアンデッドを倒してしまうと言う謎の戦士。

 

まさに空前絶後と言える現実に、ヘッケランですら、唖然として立ち尽くし、その光景を眺めているしかなかった。

 

その渦中の人物は、言うまでも無くカツラギであり、今はパワーをセーブする事も覚え、意図は知らずとも戦利品とされる箇所を残す程にまで手加減ができている。

 

露骨にアンデッドの数が減ってきた辺りになると、エルダーリッチを《シールド・ブーメラン》と言う投擲した盾が手元に戻るスキルで撃破したりもして、移動せず攻撃する事も覚えていた。

 

 

「お、終わった……のか?」

 

「信じられません……どうやら、全滅させてしまった様ですね……」

 

「た、盾を投げて最後のアンデッドを倒してた……あんなの見た事無い……」

 

「ど、どうすんのよ? 味方とは限らない可能性も有るけど……?」

 

 

この時、フォーサイト側は動揺のあまり、特に行動を起こさず"謎の戦士の行動を待つ"と言う、仮にカツラギが敵対していたら既に詰んでいる、指折りのワーカーにあるまじき対応をしてしまった。

 

しかし、戦闘を終えたカツラギもカツラギで、その場で動かないヘッケラン達の様子を見て、次の一手に悩んでいた。

 

 

「(驚いていそうな感じだし、装備的に私と同じ境遇では無さそうだけど、街や地名の情報を得る為にも、何とか刺激しないで接触したいな……)」

 

 

カツラギは戦闘を終えたと同時に唱えていた《生命感知》の効果で、フォーサイトの四人組には即に気付いていたのだが、霧で良く見えないのでどうしかモンかと考えた直後に、都合良く頭に浮かんだ《魔法距離延長》と《完全視覚》をコッソリと掛けてみた所、やはり警戒しているのか構えてはいないにしても、各々が武器を手に取っていた為、その場で少し思考せざるを得なかった。

 

その際、やはりカツラギに自覚は無いが、神殿騎士の精神がロバーデイクの姿を見ていた事で、早くも一つの結論を導き出した。

 

即ち、謎の四人組ことフォーサイトに、全面的に警戒を解いて頂く方法を……である。

 

よって、カツラギは今回も《自分の判断》として兜部分を納めて素顔を晒すと、剣を地面に突き刺して一歩後退し、その場で跪いて《祈りのポーズ》を取った。

 

その唐突な動きに、ヘッケラン達は困惑して互いに顔を見合わせてから、再びカツラギに視線を戻したが、30秒以上経っても微動だにしないので、遂に痺れを切らしてゆっくりと距離を詰めた。

 

すると、必然的にシルエットだったカツラギの姿……頭部を曝け出した全身鎧の男の横顔が露わになるが、それを確認した直後にロバーデイクが慌てた様子で声を挙げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、あれは……そうかッ、そう言う事でしたか……!」

 

「どう言う事だ? ロバー?」

 

「皆、武器を収めましょう。あの方は戦いで悼みを感じられ、今はアンデッドを弔っておられるのでしょう」

 

「!? 銀白の……騎士様……?」

 

「確かに……此処まで粋な所を魅せられちゃうと……(弓やナイフを手に取ってるのは失礼かもね……)」

 

 

途轍もない数のアンデッドを一方的に殲滅する力を持ちながら、戦いを終えると真っ先に弔いの祈りを捧げる銀白の騎士。

 

カツラギとしては、大量の蟻を砂糖で釣っておきながら、纏めて踏み潰す様な事をしたに過ぎず、後から思い出すと恥ずかしい行為でしか無かったが、味方アピールの手段としては間違ってはいなかった様だ。

 

結果、4名の冒険者っぽい人達(実際はワーカーだが)の足音が近くなると、カツラギは心の中で胸をなでおろしつつ、ゆっくりと立ち上がって引き抜いた剣をチンッ……と背中に収めると、彼らの方へと向き直った。

 

その素顔……ユグドラシルでのカツラギは、やや赤みを帯びた茶色い短髪。

 

また、顔には頬や額に所々細かい傷が目立つ事から、鎧も傷だらけのなのも有って激しい戦いを何度も経験している歴戦の猛者なのだろうが、その一方、表情の第一印象は温厚と言って良いほど柔らかく、その雰囲気には"祈り"で感銘を受けた元上級神官のロバーデイクだけでなく、残りの三人も飲まれてしまう程の優しさが感じられた。

 

その正体は、ユグドラシルの人間:ディフォルトの茶髪キャラの【年齢】タブを18歳から30歳に弄ったダケであり、顔の傷に置いても、悟に《30歳って設定なら傷とか付けて置くと貫禄が出ますよ》と勧められて何となく選択したに過ぎず、所謂、創作キャラで言う《治せる環境が有るのに何故か消さない謎の傷》である。

 

実戦経験も【ついさっき、格下相手に無双してただけでーす】と言われても誰も信じはしないだろう。

 

さて置き、カツラギがどう話を切り出そうかと僅かに思考をする中、先に口を開いたのは、やはり神官風の男性であった。

 

 

「あのッ、お見事でした! 激しい戦闘をされていた様ですが、お怪我は有りませんでしたか?」

 

 

それに対し、カツラギは一瞬目を見開いたが、直ぐに笑顔を作り、左胸に右手を当てて軽く頭を下げると、こう答えた。

 

 

「御心配して頂いて、有難う御座います。この通り、何処も痛めておりません」

 

「そ、それは良かったですッ。私は帝都アーウィンタールのワーカーチーム【フォーサイト】のロバーデイク・ゴルトロンと申します! 貴方の様な高名な騎士殿と御会いできた奇跡を神に感謝したい次第ですッ。あの数のアンデッドなら、それなりの数が平野の外に出て来たでしょうし、それダケで、どれ程の命が救われた事か……!」

 

「俺はチームリーダーのヘッケラン・ターマイト。アンタみたいな強い騎士と出会えて光栄だ」

 

「わ、私……アルシェ・イーブ・リイル・フルトですッ」

 

「イミーナー……と申します」

 

「これはこれは、御丁寧に。私は流浪の神殿騎士、カツラギと申します。唐突で恐縮ですが、3点ほどお聞きしたい事が有るのですが、宜しいでしょうか?」

 

「はいッ。何でもお聞きください!」

 

「ロバー……お前なァ……」

 

「恥を忍んでお聞きしますが、此処は何と言う地名なのですか?」

 

「えっ? 【カッツェ平野】……ですが?」

 

「カッツェ平野……フム……」

 

「ちょッ、知らないのか!?」

 

「こ、こんな所に一人でおられたのに……?」

 

「アルシェッ、シ~ッ!」

 

 

カツラギは暫しユグドラシルの記憶を辿るが、聞き覚えの無い地名だった。

 

【帝都アーウィンタール】と言う場所も聞いた事が無いし、ユグドラシルとは違う世界の可能性が高そうだ。

 

対して、フォーサイトにとっては常識なので、ヘッケラン達は驚きを露わにする。

 

しかし、説明すると長くなり過ぎるので、カツラギはリアクションをスルーして質問を続ける。

 

 

「次に、ユグドラシルと言う名に、聞き覚えは有りませんか?」

 

 

カツラギの言葉に、ヘッケラン達は顔を見合わせた後、各々が首を横に振った。

 

この反応からすると、彼らは"この世界"の人間だと言う可能性が極めて高いと言える。

 

 

「そうですか。では最後に、最寄りの街の方角を教えて頂けませんか?」

 

「街とは少し違いますが、北に在る帝国の駐屯地が宿や食事をとれる場所としても機能しています。それ以外の街はやや遠いので、駐屯地から定期的に出ている馬車を利用して向かうのが宜しいかと存じますが……?」

 

「(き、北に向かうのが正解だったのか……逆に進んでた……)成る程。貴重な情報、かたじけありません。それではフォーサイトの皆様、私はコレにて失礼させて頂きます」

 

「!? ち、ちょっと待って……待って下さいッ」

 

 

挑発で引き寄せたアンデッドとの戦いを見られていたのは予想外だったが、運に恵まれて貴重な情報を入手できた。

 

よって、先ずは駐屯地とやらに赴いて、路上でも良いので落ち着ける場所を探してから、今後の身の振り方を考えよう。

 

そう考えを纏めると、カツラギはフォーサイトの面々に深々と頭を下げてから、その場を立ち去ろうとしたが、アルシェと名乗った少女が慌てた感じで声を掛けて来た。

 

対して、少なからず声を掛けられると思っていたカツラギは、足を止めて振り返る。

 

 

「……はい?」

 

「この……これだけのアンデッドの特定部位……回収しないんですかッ?」

 

「特定部位を回収……?」

 

「カツラギ殿。宜しければ、私から説明しましょうか?」

 

「……宜しくお願いします」

 

「手短に頼むぜ? ロバー」

 

「勿論です」

 

「周囲の警戒なら任せて置いてッ(棚ぼたの可能性も有るし)」

 

 

冒険者と、そのドロップアウト組のワーカーがモンスターと戦うのは金の為であり、決して正義感や、心からの平和の為ではない。

 

故に討伐したモンスターの特定部位を持ち帰り、冒険者組合や関連施設に持ち込んで報奨金を得るのは、当たり前の行動であった。

 

強力なモンスターによっては、全身と言う全身が金に化け、たった一体の討伐ダケで1年以上生活できる事も有るハイリスク・ハイリターンの世界である。

 

つまり、カツラギの様に【これだけの数のアンデットを倒したままにして放置する】のは、アルシェ達にとっては絶対に有り得ない奇行であり、フォーサイトの中で特にお金に困っている彼女が真っ先に呼び止めたと言う訳だ。

 

当然、アルシェが言わなければ、残りの三人の誰かが必ず声を掛けたであろう。

 

……とは言え、ルール無用のワーカーともなると、法に触れない範囲で戦利品を掠め取る駆け引きと言う名の戦いも日常茶飯事だが、ノーリスク・ハイリターンにも流石に限度が有る。

 

そんな一般常識の説明を受けたカツラギであったが、路銀が欲しいと言う考えが有る反面、特定部位の説明はまだ聞いていないし、残骸の数が多過ぎるし、果てには場所が場所なので、このまま留まっていればアンデッドの新手が出る可能性も出て来る。

 

ゆえに正直、頭がパンクしそうな心境だったが、困った様子で首を捻るカツラギの意図を察したのか、頭上にランプを浮かべたヘッケランが、彼にある提案をした。

 

 

「それならカツラギさんよ。良かったら俺達と取引してくれないか?」

 

「取引……ですか?」

 

「あァ。先ず、俺らがアンタと一緒に、報奨金になる部位を集める。だが、流石に一人で全部は持ち切れないだろうから、全員で駐屯地まで運ぶのを手伝う。其処で対談の機会を設けて、改めて報酬についての交渉をしないか? 宿屋や食事の費用は、こっちで持つからさッ」

 

「!? それは……願っても無いお話ですね」

 

「良しッ。だったら決まりだな! 宜しく頼むぜッ? カツラギさん!」

 

「此方こそ、頼りにさせて頂きます」

 

 

今のヘッケランの提案には穴が無いし、ロバーデイクの説明も極めて丁寧で、とても分かりやすかった。

 

よって、彼らと共に行動にする事で、この世界の情報を効率よく知れてゆけるだろうし、カツラギとしては断る理由など無かった。

 

対して、肯定の返事を受けたヘッケランは、嬉しそうに指を鳴らすとカツラギに右手を差し出し、互いに握手を交わすと、ロバーデイク・アルシェ・イミーナもそれに続いた。

 

 

「それじゃあロバー、俺達は早速回収を始めるが、お前はカツラギさんに特定部位の説明をしながら進めてくれ。急がなくて良いからよ」

 

「分かりました!」

 

「ロバーデイク、カツラギ様にべったり……」

 

「あれダケ滅茶苦茶な強さな同業者様なら、仕方ないのかもね……何処の国の人なのかしら……?」

 

 

————これがカツラギと、コレから長い付き合いとなるフォーサイトとの運命的な出会いであった。




主人公カツラギの顔のイメージは、タクティクスオウガのミルディン。
テンプルコマンド等、1話で出た捏造職業もタクティクオウガの敵専用ジョブ。

アルシェが初見でゲロっていないのは、鎧に隠蔽する効果が含まれているからです。
次回からはぼくのかんがえたアルシェとかぞくのきゅうさいをお送りします。
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