アレから、カツラギはフォーサイトの協力を得て、報酬となるほぼ全ての特定部位を回収できた。
一部、カツラギの強力な(手加減)攻撃によって、割と強力なアンデッドであっても特定部位が回収できない程、損傷・消滅していたケースも有り、各々が残念がっていたのはさて置き。
ロバーデイクの説明を受けながら慣れない作業をした為、カツラギの効率は悪かったが、ヘッケラン達には慣れたものらしく、そこまで長い時間は要さなかった。
しかし、全員が大きな革袋に戦利品を一杯に詰めた末に、何とか持ち帰れる程の規模となった為、非力なアルシェにはロバーデイクが《下級筋力増大》を継続的に掛けるなど、搦め手も使う必要が出て来たが、柔軟に対応しているとも言えるので、チーム全体の高い練度が伺えた。
続いて、カッツェ平野駐屯基地を目指して北に向かっている際には、ロバーデイクが隣を歩きながらカツラギに"この世界"の知識についても丁寧に説明してくれた。
その中には地名がそうで有った様に【知っていて当たり前】の常識的な事も多々含まれていたが、ロバーデイクはカツラギの質問に全て答えてくれる。
対して、カツラギはアレだけ規格外な言動をしておきながら、自分の事は話しておらず、フォーサイト側にも現段階では質問されなかった。
それが何故かと言うと、特に大きな革袋を背負っているカツラギとロバーデイクを、残りの三人がやや離れて守る様に歩いているから……
つまり、カツラギの事情は全員で共有したい為、落ち着ける駐屯基地で話して貰う予定にして、今現在はカツラギに情報を提供する事を優先させたのである。
冒険者やワーカーの世界にとっては【情報】も大事な商品だが、その辺の村人でも知っている様な事で喜んで貰えるなら、真っ先に教えてしまう方が恩を売れると言う判断だ。
尚、これはカツラギからの印象を良くする為のフォーサイトの狡猾な作戦に見えて、ただロバーデイクが神殿騎士と名乗ったカツラギへの喰い付きが凄まじかったゆえの展開となっている。
「ふむ。アルシェ殿は、相手の魔法力を探知かつ……何位階まで使用可能か判別できる【タレント】と言うモノをお持ちなのですか……」
そんな情報とは言えない【常識】だが、カツラギにとって重要を通り越して【必須】だったのは間違いない。
特にパワーバランス関連については驚きの連続であり、冒険者で言うと上から三番目のミスリル級の強さ……帝国では指折りを自負するフォーサイトでさえ、カツラギが相手にしたアンデッドの群れには逆立ちしても対応できそうに無いらしく、他の上位のワーカーチームと協力しても、ほぼ確実に押し負けて撤退する羽目になると断言した。
また、魔法に置いても"こちらの世界"では第三位階魔法を使える時点で超優秀であり、英雄の領域を超えた【逸脱者】と呼ばれる存在でも、使用できる魔法は第六位階までとの事。
それを教えてくれたロバーデイクは第三位階信仰系魔法までを使える天才だが【何時かは第四位階魔法の領域に踏み込んで、更に多くの人を助けたい】と、鼻息を荒くしつつ力強く語っており、とてもじゃないが【今、自分に第十位階魔法《沙羅双樹の慈悲》の効果が掛かってまーす♪】と言い出せる空気では無かった。
それよか何時まで効果が続くの~? ……と、優秀過ぎて引いているくらいである。
話を戻し、ユグドラシルには無かった生まれつきの才能……アルシェの持つ、相手の最高使用位階を見抜く【タレント】については、完全に運に助けられたと言って良かった。
実はカツラギの纏う全身鎧には、アルシェの看破を無効にする効果【も】付属されていたが、仮にその効果が無かったら、フォーサイトは即座に撤退して事実を帝国に報告し、カツラギはカッツェ平野から生まれた悪魔の化身として討伐対象になっていた可能性すら有る。
しかし、アルシェはカツラギが魔法を使えないと判断したので、それをアイ・コンタクトでフォーサイトで共有した結果、無理して教える必要など無かったが、カツラギの丁寧な性格も有って【教えても良い】と判断され、ロバーデイクの口から告げられたのである。
この偶然が重ならず、鎧を脱いでいた時に、同じタレントや似た魔法を使える者に正体を知られてしまったら、街中で大混乱を招いていた事だろう。
「(こりゃ、鎧を着ていない時は、指輪で隠さないとな……)」
カツラギの纏う【聖なる狂戦士の鎧】はワールドアイテムよろしく耐性が極めて優秀だが、同時に装備可能部位が大幅に減ってしまい、指輪などとの併用ができなくなる。
ユグドラシルで防具が装備できる部位は基本的に頭・顔・胴・装身具三ヶ所・内着・腕・手・指輪右(一ヶ所)・指輪左(一ヶ所)・腰・足・靴……課金で指輪が増加可能となっているが、カツラギの場合は胴(全身鎧で埋まる)・装身具一ヵ所(首だけ)・内着しか装備できなくなるのだ。
これも、初心者には難しい【バトルに応じて都度アクセサリーを変える】必要を無くす為の悟の配慮が有ってこそだったが、今回は最後の最後で詰めが甘かったと言える。
……と言っても【異世界で鎧を脱いだ後の使用位階バレ】まで想定する事など、誰であろうと到底無理な話である。
何せユグドラシル末期では過疎っていた事も有り、視界に入った者はほぼレベル100であるし、神殿騎士の見た目な時点で第十位階信仰系魔法を使う事など一発で分かる上に、それが脅威でも何でも無いのだから。
「(後三十年以上若ければ、違った行動を選んでいたかもしれないが……)」
どうやら無駄に強大な力を得て転移してしまった様だが、カツラギとしては面倒事を避けて悟を探す事に集中したいと思っている。
もっと若い者だったら溢れるバイタリティで、第十位階魔法だろうと遠慮なく駆使して英雄街道を突き進んでいただろうに、何故自分なのかと。
それに、悟以外のレベル100のプレイヤー……相性が良くない限りは、初心者の自分では間違い無く負ける(カツラギから見ると)猛者達が飛ばされている可能性も高いし、未知の化け物も居るかもだし……特に後者にもなると、ユグドラシルには一瞬で自分を消し飛ばすワールドエネミーも居た為、どうしても慎重にならざるを得なかった。(範囲挑発を使ってるけど)
「!? ロバー……デイク? 悪いけど……」
「あァ。補助が切れましたか? アルシェ。すみません、直ぐに掛け直します……《下級筋力増大》」
「それなら私からも。《下級敏捷力増大》」
「なッ!? カツラギ殿、貴方も信仰系魔法が使えたのですかッ?」
「はい。ユグドラシルにはタレントの概念が無かったので意外でしたが……実は私の鎧には、アルシェ殿のタレントに対して耐性が有った様なのです。しかし、タレントの性能ゆえに、口で説明しても信じて頂くのは難しいと思っていたので、コレを機に実演した次第です」
「お、驚いたな。あんなに強い上に、補助魔法までお手のモノなんてよッ」
「凄~ッ……つ、使えるのは、第二位階ですか?」
「……第三位階までを嗜んでおります」
「あちゃ~ッ、ウチに入って貰えねェのが残念でしょ~がないぜ」
「うん。流石に、実力が離れ過ぎてる……そ、それより、ありがとう……ございましたッ」
「いえいえ。礼には及びません」
「~~ッ……」
想定外の補助を貰えた事で、アルシェがペコりとお辞儀をし、カツラギが笑顔で応えると、彼女はパタパタと配置に戻って移動を再開する。
その様子を、ロバーデイクは微笑ましく思った。
アルシェは自分の事を基本的にロバーと呼び、あえて悪く言うと人付き合いが苦手なタイプと言えるが、カツラギの類を見ない人当たりの良さに、素っ気ない従来の態度を【彼に見られる事自体】恥じているのか、すぐ自分の呼び名を言い足したり、敬語を付け加えている様子が面白いのだ。
あのヘッケランも、フォーサイトの面子の為にか、何時もの態度を繕いながらも目は泳ぎっぱなしだし、イミーナも事あるごとに彼を小突く【お決まりの遣り取り】を控えていて、言葉遣いも丁寧になっているぐらいだ。
……勿論、ロバーデイク自身も、カツラギの在り方に感銘を受けている自覚が有る。
「カツラギ殿は神殿騎士と仰られておりましたが、やはり、制限などは有るのでしょうか?」
「いえ。私の故郷では、自由裁量(辻ヒールとか)が認められておりましたね」
Lv100エネミーとの【軽い】戦闘後に少し休憩していたら、通りすがりで《大治癒》が飛んで来る。
"この世界"の視点では、空前絶後の日常であった。
「そ、それは素晴らしいッ! 冒険者組合や帝国の神殿勢力にも、見習って欲しい所ですね」
「まさか冒険者組合にも、そんな制限が有るとは思いませんでした」
「……カツラギ殿の故郷では、冒険者にも自由裁量の権限が有ったのですか?」
「(設定は知らないし)存じませんね。神殿に仕える騎士の身でありましたから」
「そうですか。ところで……やはり、今後は冒険者に?」
「まだまだ、決めかねています。じっくりと考えますよ」
「それが宜しいでしょう。それはそうと、神を信仰する者とは貧しき————」
「(私にとっては、眩し過ぎる人だなァ)」
ロバーデイクは根っからの善人らしく、冒険者組合や神殿勢力の在り方を良く思っていない様だが、カツラギとしては割と納得できてもいた。
リアル(現代)的に言うと、関連施設を通さない治療行為は、医師免許も無しで手術をするのと近い感覚が有る上に、身近な人を無料で治療する一方、汗水流して働いて得た金を払って治療を受けた貧民は何なんだよと言う、非公平さによる疑問も生まれる気がしたからだ。
……とは言え、第二位階信仰系魔法に《病気治癒》というぶっ壊れた性能のモノが存在している時点で、リアルと比較して自分の意志を"この世界"の人間に強制するのは、根本的に間違っていると感じ、カツラギはロバーデイクの持論には何も口を挟まなかった。
対して、溜めていた鬱憤を粗方吐き出し終えたロバーデイクは、黙って聞いてくれていたカツラギに感謝しつつ【今迄、こんな事を話せる方は居りませんでしたので】と恥ずかしそうにしていたのは、さて置き。
自分の年が年なので、この様な重箱の隅をつつく様な【無駄な考え】は、今後何度も浮かんでしまうんだろうな……と、カツラギは心の中で苦笑しつつ、新たな質問をロバーデイクに投げ掛けるのだった。
「(しかし《下級治療薬》すら表に出せないのはもどかしいなァ……時と場合によりそうだ……)」
…………
……………………
カッツェ平野北の帝国の駐屯基地は、戦争時以外はアンデッドの討伐を行う冒険者やワーカー達にも宿泊施設を開放しており、しっかりと金を払えば休息や食事が行える。
そんな基地の城壁の造りを目の当たりにして、カツラギが感動したのも束の間、門を潜った五人。
その際、各々が背負っている収集品が入った革袋の大きさを見た、帝国警備兵達に【大漁だったな!】と冷やかされるが、先頭のヘッケランは軽く手を振って応え、ミスリル級の余裕を見せつけた……のだが、自分ではスケルトン一匹すら倒していないにも関わらず、中にはスケリトル・ドラゴンやエルダーリッチの報酬部位が多く含まれているとは、夢にも思われていないだろう。
しかし、駐屯基地には特定部位を持ち込んで報奨金を得れる施設が存在しないので、一旦荷物をフォーサイトが保有する馬車に放り込んでから、各々は酒場にへと向かった。
『————乾杯!』
そこで5人でテーブルを囲み、グラスを合わせると、ヘッケランの奢りとして大量に注文した食事が来る前の時間で、カツラギは改めて自分の境遇を説明する事とした。
自分は異国ユグドラシルの神殿勢力の騎士として、アテの無い旅をしていたが、ある仲間とのクエストの際、原因不明の転移魔法に巻き込まれて"この大陸"に来てしまったのだと。
勿論、リアルの事を話しても意味が通じる筈が無いのはロバーデイクとの会話で分かったので【神殿騎士カツラギ】としてのキャラの設定を一部借りており、旅の目的にはロール的に人助けも兼ねているが、実際には誕生したばかりゆえに一切行っていないので、あえてアピールはしなかった。
フォーサイト側にとっては彼の人柄から、数え切れない程の弱者を当たり前の様に救済している人間だと思われているのも、さて置き。
今更【転移】されてしまったのを悔やんでも仕方なく、つまりは一緒に飛ばされた【可能性】が高い仲間(悟)の捜索を優先したいと言う訳で、(そもそも居ない確率や名を変えている事を考慮して)それ以外は詳しく教えられない事を謝罪しつつ話を締めた。
ちなみに……【神殿騎士カツラギ】の本来の設定として、何年か前(適当)にRPGお馴染みの魔王(適当)に自分の住んでいた街を滅ぼされた上に幼馴染(適当)の妻を殺されてしまったが、絶望の淵から立ち上がり、仲間達と共に魔王を倒して平和を取り戻したのだが、失ったモノ(適当)も多く英雄と称えられるのを拒んで、あえて神殿や国には何も告げず、アテの無い冒険に旅立った途中で、都合良く転移に巻き込まれ【ユグドラシルのゲームの世界】に初期装備で現れたと言う、完全に意味の無い内容が考えられていたりする。
尚、その【魔王】役に、悟が『はいは~い!』とオーバーロードにあるまじきテンションで立候補したが、丁重にお断りして置いた。
当然、NPCでは無いのでフレーバーテキストにすら残っていない完全な脳内設定だが、仮にゲーム内で文章として残されていたら【これが原因でマジで転移したのか】と疑心暗鬼にでもなったかもしれない。
「成る程……そりゃ災難だったな……いや、災難どころじゃねェか……」
「お、お仲間が無事だと良いのですが……」
「(ユグドラシル? ……に戻りたいとは言わなかった……強い人なんだ……)」
「立場が立場だし、今頃お国で大騒ぎになってるんじゃないですか……?」
「ハハッ。ご想像にお任せします」
この辺りで料理が次々と到着し、その後、カツラギが余りの美味しさに涙するハプニングが起きたが、無理もなかった。
彼の現実世界では食料品が高騰しており、社長職であった彼でさえ、節約思考ゆえに天然の食材など滅多に口にした事が無かったのだ。
勿論、それを見たフォーサイト側は驚愕し、特にロバーデイクは【アレだけの力を持ちながら質素な食事を心掛けていたのか】と感動すら覚えていた。
その後は王国や帝国の強者等の会話で大いに盛り上がり、やがて雑談や食事が落ち着いて来ると、ヘッケランは表情を改めて仕事の話を切り出した。
尚、この時点で、カツラギはフォーサイトと共に北上し、先ずは帝都アーウィンタールを拠点に人探しを始める予定としている。
「ところで、カツラギさんよ。今迄の話からすると、帝都で目立つのは避けたいって感じか?」
「えッ? はい。そうですね……仮に冒険者に登録するとしても、余り段階を上げない様にしたいです」
カツラギの返事に、ヘッケランは水を一口飲んでから、再び口を開いた。
「だとしたら、あんな量の特定部位を一度に売ったら、帝都の冒険者組合がひっくり返らんばかりの大騒ぎになるから、それは避けた方が良い。俺らフォーサイトが集めたんじゃない事は即座にバレるだろうし、帝国の連中は頭が切れるしで、必ずカツラギさんの戦果だと勘づく。そうなりゃジルクニフ皇帝は、間違い無く接触の機会を設けて来るだろう。最悪、どんな手を使ってでも、アンタを手に入れようとするかもしれない」
「ジルクニフ皇帝は、優秀な者なら村人でも好待遇で迎えると、自ら公表している程ですからね……」
「武力でカツラギ様をどうにかするのは無理だと思うけど、例えば……優しさに付け込む事も平然とされる……」
「鮮血帝って異名が独り歩きしてるけど、セコい手も大得意って事ですね」
「(割と遠慮が無いな……)フム。ならば……どうすれば良いでしょうか?」
「ワーカーには、ワーカーのツテッてのが有る。モンスターの特定部位は、帝都だと冒険者組合以外でも合法的に引き取ってくれる場所が多いんだ。北市場や中央市場とかでな。それらの場所で分散して売るのなら、いずれは足が付くにしても、かなりの時間を稼げる筈だ。だが、スケリトル・ドラゴンやエルダーリッチの戦利品は売却を急ぐと、バレる時間が早まるだろうから、高めの部位はフォーサイトの資産から買い取って、徐々に個別で売ってゆく事で誤魔化してゆけば良い。最初から倉庫に有りました~って言っときゃ、それを深追いするにしても税金の無駄だしな」
「買取に関して我々に【そう言う意図】は有りませんが、例えば冒険者が段階を少しでも早く上げたかったり、チームとしての客観的な評価を上げたい場合、その手の部位を購入する需要も有るのですよ」
「帝国の貴族だと御法度だけど、リ・エスティーゼ王国だと……」
「そうそうッ。自分の私兵部隊がスケリトル・ドラゴンを狩ったぞ~ッ、どうだ~ッて感じで、自慢する為に買ったりするんですよッ? 馬鹿みたい!!」
ロバーデイクと、言い淀んでいたアルシェに続いたイミーナの言葉は聞かなかった事にして、カツラギは一つの疑問を投げ掛ける。
「……とても良い手段な気がしますが、時間稼ぎにしかならないのですか?」
「あァ。【戦利品だけ】なら足が付かない自信も有ったが……説明させてくれ。カツラギさんは、転移で飛ばされた身の上だし、防具はそれしか持っていないんだよな?」
「そうですね。一張羅です(悟君から貰った武器とか消耗品が沢山入ってる《無限の背負袋》については伏せてるけど、防具は本当にコレしか無いんだよな……)」
「帝都に着いても、それを脱ぐ気は無い……?」
「えぇ。トイレを利用する際や、ベッドで寝る時以外は」
「その立派な剣と、盾も同様……?」
「(収められない事も無いが……)はい」
「つまりだ。カツラギさんの装備が立派に見え過ぎるんだよ。効果は知らねえが、そんな上等なモンは見た事が無ェ。無数の傷も、拍ってドコロの話じゃなく、むしろ魅力を引き立ててる。何より目立つし、早い段階でマークされちまうのは間違いない」
「!? やはりですか。されど、自分の身を守る事に加え、【仲間】(と他プレイヤー)に真っ先に気付いて貰う為にも、極力この装備で行動したいと思っています」
「そう言うと思ったぜ……そんな訳で、特定部位の売却は喜んで引き受けるが、帝国から【ある程度】目を付けられるのを、回避する手段は提供できそうも無い。いっそ王国方面にゆく手も有るが、そっちはそっちで何事も無いとは言えないし、予定通り帝都を拠点にするって事で本当に構わないんだな?」
「考えは変わっていません。一応、身を隠せるアイテム(シズのマフラー互換)も持っておりますので、臨機応変に対応できればと考えています」
「そうか! だったら、俺達も腹を括るとするか! なッ? 皆!!」
「はいッ。望むところです……!!」
「うんッ(こんなにやる気を出してるロバー、初めて見た……それに、私も……)」
「平たく言えば荷物持ちと委託売却だけど、随分と美味しそうな仕事になったわね……」
「じゃあ、続いてビジネスの詳細だッ。先ず、お互いの取り分は————」
今後の予定が纏まると、続いて商談に入るカツラギとフォーサイト。
その最中にアルシェによって計算された売却予定総額からの取り分は、ヘッケランの提示した程々の割合に反して、カツラギはなんと異例の【半額】を払うと申し出た。
カツラギは既にロバーデイクから貨幣の価値や、それぞれの特定部位の売却平均額についても聞いていたので、何かの計算違いじゃないかと問われたが、ガチで道に迷っていた"あの時"のカツラギにとって、フォーサイトと出会えた事による恩恵は計り知れず……特に常識と情報は、あの程度の雑魚狩りで払い切れる感覚では無かったのだ。
しかし、ロバーデイクが露骨に遠慮したので、仕方なく一人頭1割として計4割に減らし、自分の実力の口止め料も含まれていると付け足し、ようやく納得して貰えたが、やはり破格である事実は揺らぎない。
対して、残り三人にとっては、まさに【棚ぼた】案件であり、ナンダカンダで各々が金に五月蠅い事も有ってかすんなり受け入れられ、商談をも纏まってからは周囲を巻き込んだ酒盛りへと発展し、カツラギの飲みっぷりに押されて便乗したロバーデイク(下戸)がブッ倒れたりもしたが、日が沈んだ辺りでようやくお開きとなった。
カツラギにとっては初日らしからぬ展開であり、情報量が多過ぎて酔いが回るのも早かったが、度重なる新鮮な体験に、素直に転移後の世界を楽しむ形でその日を終える事が出来た。
一方、直ぐに現実だと断定していながらも、もしかしたら夢であったと言う可能性にも僅かに期待しており、酒を飲んでいたのも、その可能性を煽る為であったが……
「……だよなァ……」
転移後の世界、二日目の朝。
場所はカッツェ平野駐屯基地の宿屋の一人部屋。
現実は非情であり、ベッド上でムクりと上半身を起こしたカツラギは、一言ぼやいた。
そんな彼の左手には、例の看破を防止する指輪がはめられており、本人は自然な感覚で薬指を選択していた。
「何時かは忘れそうで怖いなァ……とにかく、準備するか……!」
カツラギはベッドから出ると、直ぐに洗面を済ませ、指輪を外してから全身鎧を着用したが……
決して遠く無い未来に、鎧を脱いだ姿の彼の左手を見た際の女性陣がどう捉えたのかは、またまた別のお話。
ついでに、《沙羅双樹の慈悲》の効果は、朝起きたら何時の間にか消えていた。
アルシェ『ロバ×カツ良いよね……』
イミーナ『……いい……』
彼以降は聖王国編でもないと相性の良さそうなジョブの人は出ないしね、仕方ないね♂
次回、帝国でおっさんが貧乏少女に奇跡を起こす……!(といいな)