おっさんの大冒険   作:F-Shinji

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メインヒロイン登場!

誤字報告感謝です。


第二章:エ・ランテル編
008:おっさんと再会【挿絵+++】


 

 

……帝都アーウィンタールから、王国領エ・ランテルへの旅路は、意外にも極めて快適に過ごせていた。

 

実は、出発の際にカツラギが乗り込んだのは【オスク商会】の馬車であり、エ・ランテルに貿易に向かおうとしていた商隊に便乗したと言う事になっていて、すぐさま動き出してしまったのも、先に発っていた一行に追いつく為だったのである。

 

それにより、割と懸念していた野宿などの手間が一切なくなる一方で、商隊側には密かに噂されていた【剣術指南役】なる最強クラスの護衛(+魔術師)が付く事となり、お互いに利点しかない関係となっていた。

 

カツラギとしては、オスク商会的には彼の【秘書】となったアルシェが用意したゆえに何となく予想しており、思い返せばオスクにも【アレだけでは気が済まない】と言われていたので、絶対に何らかのサービスを寄越してくると思っていた。

 

よって、カツラギから商会の【剣術指南役】として動く気は無いのは変わらず、オスクもそれを理解している様だが、向こう側が差し出して来たモノは、素直に受け取ろうと妥協する事とした。

 

 

「(本人が近くに居ない以上は、現場の人間に断っても仕方ないしな……)」

 

 

そんなカツラギの旅の目的は、やはり悟を探す事。

 

彼【そのもの】が来ていない事が最も望ましいが、居ない可能性はゼロでは無いだろうし、コレから本格的に大陸全土を巡る訳だが……

 

見つからなかったら見つからなかったで、予め落ち着けそうな場所を探して置いて、潔く其処で余生を過ごす。

 

もしプレイヤーに出会ってしまっても、不干渉を貫ければ……とは思うが、そんなに旨くゆくかなと不安に感じる反面、たまには故郷の話をできる相手も欲しいと考える自分も居る。

 

そして、悟に会えた場合は……正直、あまり良く考えていない。

 

彼の姿が骨のままなのか、人間なのかすら予想できないのに、ナザリック地下大墳墓の事まで加わると、そもそも【巻き込まれていない】可能性に最も期待したい事から、もはやカツラギの脳味噌が考えるのを放棄する始末だった。

 

一方、アルシェ。

 

彼女は意外にも、カツラギに付いて行ってからの予定はノープランであった。

 

先日の告白の後は、彼の旅に同行する為に、勉強する事ばかりに必死になっていて、今は目先の事しか考えられない。

 

最も望ましいのは、最終的に【仲間】が見つからず、彼が帝都に戻ってくれる事だが、その可能性は極めて低く感じており、仮に現実になるとしても、果たして何年掛かるか想像がつかない。

 

よって、カツラギの従者と言う役割を、精一杯全うする……それにより、先ずは信頼関係を築いて、彼をもっと知る所から始めなければならない。

 

所謂、まだスタートラインに立った段階でしかないと言え、アルシェとしても、カツラギは優しい性格がゆえに、フォーサイトの3人に推すに推されて首を縦に【振らされた】と言う見解だった。

 

まだまだ彼は実力を隠しているだろうし、旅の目的である【仲間】についても、フォーサイトとして出会った日に【詳しく教えられない】と言われているので、後に彼の口から話してくれるのを待つしか無いのだ。

 

正直、仲間の性別が気になって気になって仕方ないが、知るのが怖くも有り、カツラギが今の状況にも関わらず焦っていない事を考えると、【性別は関係ない】と都合良く解釈して納得するしか無かった。

 

そんな訳で、神殿騎士は【気楽な旅】と言う感覚な一方、その従者は【憧れの人との無計画な旅】と言う認識で若干擦れ違っているが、道中は王国を中心とした雑談を交わしつつ、無難な一時を送ったのであった。

 

 

「(王国だと、よりカツラギ様の力を利用しようとする人間が多くなるのは間違いない……特に王国の貴族の中には、自分に仕えて当たり前・名誉だと信じ込んでいる奴まで居る……だから、接触しない・関わらないのが最善……それは既に伝えたけど……とても優しい人だから、止むを得ず接触されたとして、その際の丁寧な対応ですら、勝手に増長するのが王国の貴族の救えない所。ヘッケランを見習って、私が上手に誘導してゆければ良いけど……)」

 

 

……それなりの距離の快適な道中ゆえに、互いに様々な思考を巡らせるのは馬車の旅の【あるある】であり、駐屯基地から帝都への移動でも通った道だ。

 

だが、今回【も】色々と考え抜いた計画や予定が、すぐさま吹っ飛ばされる事になるとは、この時の2人は知る由も無かったのである。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

……リ・エスティーゼ王国の東に位置する、(領地及び)都市エ・ランテル。

 

三重の城壁に守られた城塞都市で、隣国のバハルス帝国・スレイン法国の領土に面している事も有り、今日も今日とて交通量が非常に多い。

 

ゆえに検問所には、夕方ながらも順番待ちの列ができていたが、オスク商会の馬車なのも有ってか、カツラギ達は容易に城壁の中に入れてしまった。

 

自分に続いて門番に【商会の秘書】なる(オスクの忖度で作って貰った)身分証明書を見せたアルシェが、何となく胸を張っている様に見えたのは、さて置き。

 

此処で商隊は、積荷を納品してからエ・ランテルでの商売に移ると言う事で、彼らはカツラギとアルシェの護衛に感謝する一方、2人は快適な旅に礼を言い、互いに頭を下げる形で別れたのだった。

 

そして、城壁外周部から内周部を目指して歩みを進めてゆく中、カツラギが正面を向いたまま口を開いた。

 

 

「……良い人達だったねェ」

 

「そうですね……護衛と言っても、形ダケ……探知魔法程度しか使っていませんでしたが、かなりの気遣いをしてくれました」

 

「ところで、アルシェ君。オスク殿は、宿の都合もつけてくれたと言ってたよね?」

 

「はい。取り引き先の商人が屋敷の部屋を手配してくれるとの事で、其処をエ・ランテルでの活動の拠点にしてはどうかと……」

 

「既に話が纏まっているなら、遠慮すると先方に悪いし、その恩恵には甘えざるを得ないか」

 

「私としても、オスクさんには【カツラギ様が望まれないのではないか】と申したのですが……」

 

「アルシェ君が気に病む必要は無いさ。安宿に泊まらなくて済むと、ポジティヴ……前向きに考えよう」

 

「ポジティヴ……(時より、カツラギ様は聞いた事が無い言葉を使う……コレが、ユグドラシルの知識?)」

 

 

————この後、城壁内周部にも問題無く入れたが、屋敷へはまだ距離が有り、2人は会話を再開する。

 

 

「それで、明日からは早速、情報収集だね」

 

「お仲間……主に【特別】な者に関連する情報収集ですか……恐らくエ・ランテルでは、悪い意味で多く出て来ると思います」

 

「多く? 帝国だと、余りにも少なかった気がしたけど……」

 

「王国の【お国柄】が原因ですね……帝国では、衛兵や平民は勿論、ワーカーだって結果を出せば、身分の枠を超えて騎士などに出世できます。それが大きなモチベーションとなっていて、専業軍人が多いと言う特徴も伴い……厄介事は瞬く間に解決される傾向にあります。特に周辺都市では顕著であり、何時かは帝都で務めれる事を夢見ているのか、衛兵達の行動は非常に早く、例え対処できなくとも大きな話題となり、冒険者やワーカーに仕事が回って来るケースにも成り得ます」

 

「そう言えばカッツェ平野のアンデッドは、バハルス帝国の場合だと、基本的に専業軍人が討伐しているそうだけど……?」

 

「はい。対して、王国は全て冒険者任せです。よって、帝国側では専業軍人が容易に解決できる程度の厄介事を、王国の場合は何時までも放置している事例が多々有るそうです……」

 

「アルシェ君。リ・エスティーゼ王国に訪れた事は?」

 

「ワーカーの仕事で、一度だけ……」

 

「フム。つまり、王国で【帝国では瞬く間に解決される】事件が起きても、対応が遅いドコロか放置するので、それが【特別】な者による影響かの判別が難しいと言う事か……」

 

「はい。残念ながら、殆どの場合、実際に確認しなければ分からない可能性が高いです。逆に帝国領内で有れば、ワーカー……フォーサイトでの経験を活かせたのですが……」

 

「でも、私としては、帝国での捜索が早く終わり過ぎたダケで、王国の様な状況が普通だと思っている。アルシェ君。すまないが、知恵を貸して貰えるかい?」

 

「!? も、勿論ですッ。それと……足を引っ張らない様に、気を付けます!」

 

 

————色々と余裕の無い王国での探索は、まさに前途多難と言えそうだが、それでも2人は前向きそうだった。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

「どうも、初めまして! 私はバルド・ロフーレと申しますッ。カツラギ殿、アルシェ殿。遠路はるばる御足労頂き、光栄の極みで有りますッ」

 

 

アルシェの案内で、部屋を用意してくれていると言う屋敷にまでやって来ると、ロフーレ商会の【バルド】と言う中年の男性が、笑顔で2人を出迎えてくれた。

 

どうやら、バルドはオスク商会に近年稀な大口の取引を持ち掛けて【頂いた】代わりに、商会の【剣術指南役】とその【秘書】がエ・ランテルに滞在する間は部屋を貸し与える様に頼まれていて、それを喜んで引き受けたとの事。

 

更には余程、美味しい取引なのであろう……先程のオスク商隊との取引のついでに、エ・ランテルでの情報収集をも(購入する的な方法で)行ってくれるとの事で、それに甘える事にした2人は、初日は直ぐに(一人部屋で)休んで一日を終えた。

 

翌日の二日目はバルドからの(彼は留守だったので間接的な)接待を受けつつ、空いた時間は地図や王国関連の書物などを確認して時間を潰し、いざ三日目の午前……

 

屋敷の応接間にて、ソファーに座っている2人は、商隊との取引から戻って来たバルドと机を挟んで向かい合い、彼が仕入れて来た情報を聞かせて貰っていた。

 

 

「先ずは何方でも知り得る……死を撒く剣団。戦時以外は野盗をしている犯罪者集団であり、私の商会も何時、損害を被るか気が気では有りません。更に、其処に所属している【一人の剣士】の腕が非常に立つらしく、壊滅させたいにしても、なかなか冒険者の頭数が揃わないとの事です」

 

「アルシェ君?」

 

「……仮に、帝国で確認された場合は、すぐさま帝国騎士団が招集され、壊滅させるべく動くと思います。万が一、壊滅した場合でも、何としてでも【その剣士】を殺す為に主席宮廷魔術師が動く可能性も高いですが……王国の戦士長が派遣されるかとなると、何時になるやら……」

 

「未だに一回目の討伐隊の派遣すら行われていない以上、自分で確認しに行く以外で、早急に真相を知るのは難しいと言う事ですか。しかも、歩いて3時間の場所に塒の洞窟が有るそうですが、そんな連中が放置されているのですか……? バルド殿ッ」

 

「えェ……情けない限りですよ。帝国ならば……と言うのが、関係者の口癖です。続いて、冒険者を狙った【通り魔】の噂です。まだ、市民には被害が及んでいない様ですが……」

 

 

……30分後。

 

 

「以上が、私が仕入れた情報の全てで御座います」

 

「非常に有益なお話でした。バルド殿。本当に助かりましたよ」

 

「……有難う御座います」

 

「とんでも御座いませんッ。この程度の【おもてなし】しかできずに恐縮でしたが、どうか、このままエ・ランテルでの滞在をお楽しみ頂ければと思います!」

 

「バルド殿。もう、行ってしまわれるのですか?」

 

「今回の取引で、備蓄していた食料の在庫が一気になくなりましたのでね。また、仕入れに出向かなければならないのです。ですが、お貸ししている部屋の方は御自由にお使い頂いて結構! 我が屋敷の使用人達の間では、頼もしい【用心棒】……いえ、神殿騎士殿に滞在して頂けていると、評判になっておりますので!」

 

「(まだ二日なのに……)そうですか。かたじけありません。それでは、また御会いできる事を楽しみにしておりますッ」

 

「こちらこそ! ですが、カツラギ殿・アルシェ殿。危険な案件に関わられる場合は、くれぐれも御注意ください!」

 

 

情報の提供を終えた事で、次の業務に移ろうとするバルドと握手を交わし、彼が立ち去るのを見送ると、カツラギはアルシェと話の内容を整理する。

 

ひとつ。

 

エ・ランテル近隣の洞窟を塒にする、死を撒く剣団に所属している【一人の剣士】が非常に強いらしいので、出来れば後で確認したい。

 

ふたつ。

 

冒険者を狙った【通り魔】の噂が広まっているが、正体が全く分からないゆえに腕が立ちそうなので、怖いけどなるべく確認したい。

 

万が一、無差別殺人を繰り返すプレイヤーだったら、即座に尻尾を撒いてエ・ランテルからアルシェを連れて立ち去ろう。

 

みっつ。

 

外周部の城壁内の巨大な【共同墓地】で怪しい動きが有ると言う噂が、巡回した衛兵隊や冒険者の間で立っているが、あまり信憑性は無いとの事。

 

バルド的には重要度が低かった様だが、もしかしたら【骨】の姿の悟が隠れているかもしれないので、カツラギとしては必ず確認したい。

 

よっつ。

 

エ・ランテルの北の幾つかの村が帝国兵に襲われたそうだが、王都より派遣された王国戦士長【ガゼフ・ストロノーフ】が見事に撃退し、大半の者を捕らえてエ・ランテルに帰還したとの事。

 

元から存在する強者ゆえに、彼とプレイヤーが関与している可能性は低そうだが、アルシェ共々、帝国兵が【そんな奇行】に走るのは妙に感じたので、できれば真相を知る為に、少なくとも【救助が間に合った村】には訪問したい。

 

ちなみに、ガゼフは既にエ・ランテルを離れている模様。

 

いつつ。

 

コレは最新かつ、そこそこ高くついた情報であり、昨日、美しい二人組の女性がエ・ランテルの検問所に現れたとの事。

 

しかも、冒険者志望の新人で、それぞれが魔力系と信仰系の魔法詠唱者を自称したらしい。

 

生憎、悟では無さそうだが、こちらの常識に順応しているプレイヤーの可能性もゼロでは無いので、冒険者組合に赴くのも悪く無いかもしれない。

 

むっつ。

 

エ・ランテルの北方に広がる魔境【トブの大森林】が、冒険者の間で騒がしくなっていると言う噂が立っている。

 

以前より強力な巨人・魔蛇・魔獣による【三すくみ】が形成されていると聞くが、それが崩れた可能性が有るらしい。

 

危険な場所と言うのは承知の上だが、ひょっとすると悟やプレイヤーが絡んだ可能性も有るので、確認した方が良いだろう。

 

ななつ。

 

何人かのロフーレ商会お抱えの給仕が、カツラギに一目惚れしている。

 

尚、コレはバルドのジョークであったが、アルシェに凄い目で睨まれていた。

 

 

「うわッ。思ったよりも、数多く挙がったな……」

 

「はい。それで、何処から確認してみましょうか? カツラギ様」

 

「う~ん……そうだなァ……」

 

「(流石にトブの大森林とかは、一人で行かれるのかな……仕方ないけど……)」

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

……冒険に必要のない荷物を屋敷に残し、身支度を済ませたカツラギとアルシェは、並んでエ・ランテルの城壁内周部を歩いていた。

 

カツラギは何時もの全身鎧に頭を晒した姿であり、左隣のアルシェも彼の従者かつ秘書ながら、フォーサイト時代から服装は特に変えていない一方、代名詞だった両手の大きな杖は、意外にもオスクから小型かつ性能が据え置きの物を支給されていて、現在はそれを腰に差している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そんな二人が目指すは、エ・ランテルの冒険者組合。

 

割と上等な身分を得た事も有り、今の所、冒険者に成る予定は無いが、先ずは【美しい二人組の魔法詠唱者】を確認する事にしたのだ。

 

対して、アルシェはあまり良い顔をしなかったが、カツラギが【仲間である可能性は低い】と発言した為、少なくとも最悪の事態は回避できると胸を撫で下ろしていた。

 

尚、魔力系の魔法詠唱者は、目立つのを懸念してか顔を隠しているそうだが、それが分かっている時点で【逆に】分かり易くなる。

 

また、特に街が騒がしく感じないのは、美人魔法詠唱者に関わった者以外は存在すら知らない事を意味するので、全くバルドの情報提供さまさまである。

 

 

「カツラギ様。例の魔法詠唱者を確認した後は……?」

 

「本来なら、有料でも良いから組合や酒場で情報を仕入れる予定だったけど、バルド殿から十二分に話を聞けてるし、何か依頼するとしても、さっき纏めた事を全て確認してから、フォーサイトにしたモノと似た内容に成るかな?」

 

「えっと……それに関しての、依頼料は? お金が必要なら、(全額持って来たし)私が出せますけど……」

 

「気持ちだけ受け取って置くよ。近いウチに、銀行にも行かないとな……」

 

「銀行ですか? 帝国には有りましたけど、エ・ランテルには有るのかしら……?」

 

「似たような施設でも良いさ。無かったら無かったで、適当なモノでも売るよ。それで、話を戻すけど、次は、明るいウチに共同墓地に行こうと思ってる」

 

「墓地、ですか……まァ、近いですからね……」

 

「うん。一番、近いからね……(悟君が【あの姿】のままなら、割と期待できる場所なんだけどなァ……)」

 

「むしろ、例の【通り魔】と遭遇する可能性の方が高そうじゃないですか……?」

 

「ハハッ。違いない!」

 

 

————カランッ。

 

 

神殿騎士カツラギと従者アルシェ。

 

まだまだ【ビジネスパートナー】と言う関係は変わっていないが、会話が幾度と重なれば、多少は軽口も生まれると言うモノ。

 

そんな2人が歩みを進める中、ようやく冒険者組合の入り口に差し掛かった際、唐突に真横から【物音】がしたので、必然的にカツラギが右を向くと、黒いフードを被っている(体つきから恐らく)女性が、杖を地面に落としていた様子が目に入った。

 

しかし、その女性は杖……地味ながら、何気に凄そうな逸品を拾おうとはせず、何故かカツラギの方を見て驚いている様に見える。

 

更には仲間と思われる、神官系の職業っぽい姿をしている茶色い長髪の女性も、カツラギを真っ直ぐみつめていた。

 

 

「(美しい二人組の魔法詠唱者……一人が顔を隠している……となると……)」

 

 

この時点では、カツラギは目の前の二人を【噂の魔法詠唱者】と言う認識しかしなかった。

 

しかし、新人の冒険者に不相応な杖……何処かで見た様な気がする、神官風の女性……

 

カツラギが更なる思考を巡らせようとした時、黒いフードの女性が此方に近付きつつ声を発した。

 

 

「あ、あのッ……すみません。貴方は、カツラギさん……ですか?」

 

「えッ? はい。そうですが……?」

 

 

————全く聞き覚えの無い声を発する女性……その声は、微かに震えている様な気がする。

 

 

「では……ユグドラシルと言う名に、聞き覚えは……?」

 

「!? あ、有りますッ。まさか、貴女は————」

 

「カツラギさああああぁぁぁぁ~~ーーんッ!!!!」

 

「うわわッ!?」

 

 

————プレイヤーさんですか?

 

カツラギがそう問おうと思った直後、黒いフードの女性は自分に走り寄って来ると、勢い良く抱きついて来た。

 

その直前、風圧で黒いフードが外れて彼女の素顔が露わになったが、カツラギにはその顔に見覚えが有った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『だとすれば、シンプルに聖母である、とか……美人だし』

 

『女神の方がしっくりくるかもしれませんね……美人ですし』

 

 

「(あ、アルベドォ~!?)」

 

「良かったッ、本ッッッッ当に良かった!! まさか、一緒に飛ばされてたなんて!!」

 

「(いや、でも一緒にって事は————)」

 

「こうなったのは自分ダケで良いって……カツラギさんは巻き込まれて無くて幸運だったと思う様にはしてたんですッ。けどッ、やっぱり心細くて……なのに、こんなに早く会えるなんて!! うわああああぁぁぁぁ~~ッ!!」

 

 

【モモンガと精神を入れ替える事が出来る】

 

 

「ひょっとして、さ……モモンガ君!?」

 

「ハイッ! モモンガです!! 今は、あッ、ヤバッ、こんな姿で————」

 

 

冒険者志望の新人で、それぞれが魔力系と信仰系の魔法詠唱者を自称する、美しい二人組の女性。

 

うち、一人が(恐らく)アルベドと精神を入れ替え、角と翼を隠して街中に潜入した、モモンガこと鈴木悟だったでゴザルの巻。

 

……となると、もう一人の見覚えの有る神官風の女性は、名前は憶えていないが……ナザリック地下大墳墓の戦闘メイドの一人で間違い無いだろう。

 

そんなアルベドの姿をした悟は、カツラギに名前を言い当てられると、涙を散らしつつ弾ける様な笑顔で応えたモノの、その直前は、隠していた素顔を晒して泣きながら彼の胸に飛び込み、大声で再会による喜びを爆発させながら体を押し付けていた為、当然の如く、周囲に居た大勢の人間からの注目を集めてしまっていた。

 

よって、悟は慌ててカツラギから両腕を離すと、真っ赤になりながら黒いフードを被り直そうとしたが……

 

 

「お"げええええぇぇぇぇッ!!!!」

 

「あ、アルシェ君~!?」

 

 

びちゃびちゃびちゃびちゃ!!!!

 

ずっと動きの無かったアルシェが、カツラギの真後ろで唐突に嘔吐したと思ったら気絶。

 

豊満そうな肉体を持った大人の女性が、カツラギに抱き着いた事で、更に精神的ダメージが加速していたのは余談として。

 

本来アルベドのビルドは【最硬のタンク】だが、一時的に精神を悟と入れ替えている際には【死の支配者】としてのビルドが適用されてしまう様で、その第十位階魔法を使える圧倒的なオーラを見た事で、堪らず今朝食べたモノをリバースしてしまったのだろう。

 

だが、この時点では、状況が状況ゆえに何故アルシェが吐いたのかを、誰も理解していなかったのが、不幸中の幸いだった。

 

また、冒険者組合の前で【とんでもない美人がイケメン騎士に泣きながら抱きついた】と言う事実が、アルシェのリバースにより、かなり有耶無耶になったのも嬉しい誤算と言えた。

 

 

「ヒェッ!? い、イキナリどうしちゃったんですかッ、その娘!? ……ルプスレギナ!!」

 

「はいっす! 《清潔》~ッ!」

 

「すまない。良くやった……ッてか、カツラギさんの知り合いなんですかッ?」

 

「あ、あァ、私の連れなんだ……とりあえず、落ち着いて話せる場所を知っている。モモンガ君、それと……ルプスレギナ君。冒険者組合に用事が有ったのは承知の上だけど、付き合ってくれるかい?」

 

「も、勿論ですッ。何処へでも付いて行きますよ……!(アレを物ともせず女の子を抱える気遣い、既に確保している拠点……流石だなァ……)」

 

「お世話になるっす~」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そんな訳で、アルシェを抱えたカツラギと、アルベドの姿をした悟と、(彼の落した杖を拾った)ルプスレギナの三人は、バルドの屋敷を目指して走り去ってゆくのであった。

 

後日、冒険者組合としては、期待の新人が直前で姿を消したゆえに残念がる一方……彼女達がロフーレの屋敷を出入りし始めた噂が広まった事で、商会の売り上げが地味に伸びる事となる。

 

また、アルベドの姿をした悟が第十位階魔力系魔法を使える事を知ったカツラギは、それが原因でアルシェが吐いたのではないかと言う事実を遠回しに伝え、悟がショックを受けてもフォローするつもりだったが、彼は【吐かれたのがカツラギさんじゃなくて良かった】と喜びながら自前の隠蔽効果の有る指輪をはめており、今や恩師と巡り合えた事でとんでもなくポジティヴになっていると言え、カツラギとルプスレギナを苦笑させていた。

 

 

「(モモンガ様と同行できるのは名誉な事っすけど、落ち込まれ過ぎてて正直、何て話したら元気を出して頂けるか分からなかったっす……だから、この再会は、素直に喜んどくべきなんすかねえ……?)」

 

 

————勿論、ルプスレギナも同様の効果を得る指輪を受け取り、2人の長い話が終わるまで、アルシェの見守りを任せられるのであった。

 

 

「(さて、悟君と再会できたと言う奇跡が起こった訳だけど……それを喜ぶのは、お互いの状況を照らし合わせてからだ。しっかし、アルシェ君には、何処まで話そうかな……)」

 

 

 

 




おっさんと悟君が再会した後の描写、長々と書くの辛いな……
せやッ! アルシェにゲロらせて、色々と有耶無耶にしたろ!!

……そんな訳で、今回の悟君は主に【骨の魔法を使えるアルベドの姿】でおっさんと冒険します。
(モモベドとはちょっと違う気がするので、サトベド?)

また、彼(?)のパートナーは諸事情によりルプスレギナです。
(カツラギの鎧は銀白と言われてるけど、銀製品じゃ無いのでセーフ)

次回は、転移した悟君がどう言うチュートリアル・ムーブをかましたかが明らかになります。
(カツラギの目的は早くも達成されてしまいましたが、アルシェはちゃんと続投予定)
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