羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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唐突に湧いてきたカブト欲を満たすために書いてみました。自己満足の投稿です。
久しく原作を見ていないので時代背景やキャラに齟齬があるかもしれませんが、流して読んでもらえると幸いです。


第1話「羽音の届かぬ場所」

 

 

世界は、誰にも気づかれないうちに、静かに形を変えていた。

 

 

きっかけは、渋谷への隕石落下だった。

 

大気を引き裂き、昼の空を真紅に染めたその天体の来訪は、当初「天災」として処理され、多くの命を奪った。

 

だが、本当の“災厄”は、そこから始まったのだ。

 

 

“ワーム”——人に擬態し、裏側から社会を侵食する、未知の知的生命体。

 

彼らは人間に成りすまし、その存在を気づかれぬまま、社会の一隅へと溶け込んでいく。

 

 

それを狩る者たちが現れた。

 

ZECT。仮面ライダー。

 

特殊な力を持ち、秘密裏にワームを排除する戦士たち。

 

 

しかし、これはそのいずれにも属さない、一人の少女の物語である。

 

 

 

 

東京都内。郊外に位置する聖華学園中等部。

 

その教室の一角に、少女がひとり、静かに座っていた。

 

 

白崎透花(しらさき・とうか)。

 

中等部2年、文芸部所属。クラスではやや目立たない存在。

 

静かで、おとなしめ。

 

教師からの評価は「優等生」だが、同時に「やや内向的」とも記されている。

 

 

彼女の胸元には、蝶を模した金色の髪飾りがそっと輝いていた。

 

控えめなアクセサリー。けれど、それは彼女にとってただの装飾品ではなかった。

 

 

——それは、彼女に「戦う力」を与えた、選ばれし証。

 

 

誰にも知られず、誰にも気づかれないまま。

 

透花は仮面を纏い、ひとり戦っている。

 

 

たった一度きり、目の前で“日常”が崩壊する瞬間を見てしまった少女は、

 

それ以降、誰にも告げぬまま、真実を追う者になった。

 

 

彼女が守ろうとするのは、

 

親しい友人との何気ない会話。

 

あたりまえに交わされる「おはよう」と「さようなら」。

 

その、壊れそうな“日常”という名の奇跡。

 

 

 

 

夕刻の空に、羽音が響く。

 

だが、その音に気づく者はいない。

 

なぜならその羽音は、誰にも届かぬ場所を、静かに通り過ぎるだけだから。

 

 

戦いは今日も、何事もなかったかのように、日常の裏で始まっている。

 

 

——これは、

 

 仮面をつけ、仮面を外すことを恐れながらも、

 

 それでも前に進もうとする少女の、

 

 一つの物語である。

 

 

仮面ライダーリュミエール

 

羽ばたく蝶は、ただ静かに、真実のために舞う。

 

 

 

 

 

夕暮れの帰り道。

 

秋の気配が忍び寄る夕風に、街路樹の葉が静かに揺れていた。

 

 

白崎透花は、静かに歩いていた。

 

隣を歩く天道樹花は、今日も変わらず元気いっぱいで、週末の予定について楽しげに話している。

 

 

「ねえねえ透花、土曜の放課後って空いてる? クラスの子たちとカラオケ行こうって話しててさ」

 

 

「……うん。たぶん、大丈夫」

 

 

「よしっ、じゃあ予約入れちゃうね!」

 

 

にこにこと笑う樹花の横で、透花は微かに頷く。

 

ただ、その笑みはどこか遠くを見ていた。

 

 

(……また、感じる)

 

 

胸の奥で、ふるえるような羽音がする。

 

それは“気配”。

 

他人には察知できないほど微細な違和感が、透花の中でざわめきを上げていた。

 

 

(この感覚……あの日から、ずっと消えない)

 

 

ふと交差点の向こう、スーツ姿の男性が目に留まる。

 

足取りは自然だが、周囲の「時間の流れ」と微かにズレている。

 

 

(……ワーム)

 

 

彼女は立ち止まり、静かに呼吸を整える。

 

このままでは、樹花が巻き込まれるかもしれない。

 

 

「……ちょっと、気分が悪いかも」

 

 

「えっ?」

 

 

「ごめん。先に帰ってくれる?」

 

 

表情はほとんど変わらないまま。

 

けれどその目は、はっきりと「お願い」を告げていた。

 

 

樹花は一瞬戸惑ったが、すぐに小さく頷く。

 

 

「……わかった。明日、またね」

 

 

その背を見送ったあと、透花は裏路地へと足を向けた。

 

 

人通りのない建物の隙間。

 

さきほどの男が、そこにいた。

 

 

「……ここならいい」

 

 

ポーチから、蝶の形をした金属のブローチを取り出す。

 

留め具が外れると同時に、かすかに電子音が響く。

 

 

[Stand by]

 

 

蝶型ゼクターが羽ばたくように起動し、宙へと舞い上がる。

 

透花の頭上へと降り立ち、その羽が展開した。

 

 

[Henshin]

 

 

紫がかった装甲が身体を包み込む。

 

重厚な輪郭。光沢のある甲殻。

 

仮面ライダーリュミエール・マスクドフォーム、顕現。

 

 

鋭く目を光らせるその姿は、静かに戦場へと降り立つ影だった。

 

 

 

 

それに呼応するように、男の姿が崩れ始める。

 

皮膚が裂け、灰色の甲殻が現れる。

 

人間に擬態していた殻が砕け落ち、異形の怪人が姿を現す。

 

 

——ワーム。

 

 

「確認……擬態型、脱皮済み」

 

 

リュミエールはその場から動かず、鋭く間合いを見極める。

 

敵が爪を鳴らし、突進してくる。

 

 

(……硬い)

 

 

マスクドフォームの分厚い装甲が攻撃を受け止めるが、反撃には時間がかかる。

 

リュミエールは一度跳び下がり、装甲に手をかけた。

 

 

[Cast Off]

 

 

[——Change Butterfly]

 

 

ゼクターが展開し、重装が弾け飛ぶ。

 

蝶の羽のような残光が舞い、装甲は軽やかなフォルムへと変わる。

 

 

仮面ライダーリュミエール・ライダーフォーム。

 

蝶の意匠を纏い、空気を裂くように舞い上がる。

 

 

[Clock Up]

 

 

一瞬、世界が止まった。

 

 

木々のざわめきも、風の音も、すべてが静止する。

 

ただ、彼女だけがその中を飛ぶ。

 

 

ワームの背後を取る。

 

手にしたウィングブレードが、連撃を刻む。

 

刺突、斬撃、跳躍。そして——

 

 

[Rider——Wing]

 

 

背中の放熱器官が翼状に展開され、光の蝶を描き出す。

 

空間を切り裂くような光刃が、ワームの身体を貫いた。

 

 

時間が動き出した瞬間、爆発音が空気を震わせた。

 

 

 

 

戦いが終わる。

 

灰となったワームは、跡形もなく風に消えた。

 

 

リュミエールは変身を解き、髪飾りを元のブローチへと戻す。

 

通行人のいない裏路地に、彼女の足音だけが響く。

 

 

 

 

翌日、聖華学園の門の前。

 

天道樹花が心配そうに立っていた。

 

 

「……あ、透花。大丈夫だった?」

 

 

「うん。少し休んだら落ち着いた」

 

 

「ふーん……ちょっと汗かいてない?」

 

 

「気のせい、かな」

 

 

ふわりと微笑んで、透花は髪飾りにそっと手をやった。

 

そこには、彼女だけが知る“もうひとつの世界”の気配がある。

 

 

(まだ、知られたくない)

 

 

それでも、守りたいものはある。

 

友人の笑顔も、平凡な一日も。

 

 

だから少女は、再び仮面の裏へと隠れる。

 

誰にも知られぬまま、羽音の届かぬ場所で——

 

真実と、静かな正義のために戦う。

 

 




プロローグと1話で分ける予定でしたが、文字数が足りなくてくっつけました。
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