羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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第10話「さざめく違和」

 

放課後の聖華学園。空は夏の夕陽に照らされ、赤く染まっていた。校舎の窓ガラスに反射した光が、廊下に長く伸びている。

 

白崎透花は、帰り支度を終えた鞄を肩にかけ、いつものように校門をくぐった。その背後から、足音が軽やかに近づく。

 

「透花! 一緒に帰ろうよ」

 

天道樹花だ。明るい声に、透花は自然と笑みを浮かべた。

 

「うん、いいよ」

 

校門を出て、駅へ向かう道すがら、二人の影が長く伸びていく。

 

「ねえ、今日さ、保健室行ってたよね?」

 

「……うん。ちょっと、立ちくらみしただけ」

 

「最近ほんと調子悪そう。ちゃんと寝てる?」

 

心配そうに覗き込まれる視線を受けて、透花は一瞬だけ視線をそらす。

 

(戦いの疲れ……なんて、言えるはずもない)

 

「……大丈夫だよ。ありがとう」

 

そのとき、二人の前方の細道から、男がふらりと現れた。制服姿の生徒——だが、何かが妙だった。

 

樹花が小さく眉をひそめた。

「……あの人、知り合い?」

 

「いいえ……」

 

透花の声が低くなる。ゼクターが微かに震えた。

 

(ワーム——間違いない)

 

「……あの人、ちょっと怖いね。樹花、あっちのコンビニで飲み物でも買ってきて。私もあとで行くから」

 

「え、うん……じゃあ、アイスティーでいい?」

 

「ありがと」

 

樹花は小走りに角を曲がり、遠ざかっていく。透花はその背中を確認してから、静かに息を吐いた。

 

(ごめん……巻き込みたくない)

 

ゼクターが、淡く脈動する。

 

男が、ふと首を傾げた。その目が光る。人間ではない、無機質な輝き。

 

周囲に人気がないのを確認し、ゆっくりと皮膚が割れる。脱皮——ワームの本性が現れる。

 

[STAND BY]

 

髪飾りが起動し、蝶のゼクターが頭上を舞う。

 

「変身」

 

白と黒の装甲が身体を包み、仮面ライダーリュミエールが現れる。透花の内にあったわずかな迷いが、戦いの光に塗り替えられた。

 

ワームが素早く間合いを詰めてくる。地面を這うような低い姿勢。前脚の刃がきらめき、振るわれた。

 

透花は紙一重で回避。背中に風が走る。身体が重い。肩に残る倦怠感が、反応をわずかに鈍らせていた。

 

(ダメ……昨日の戦闘の疲労がまだ残ってる)

 

ワームの第二撃。すかさずリュミエールは装甲を翻し、受け流す。

 

「ライダーウィング!」

 

鋭く展開された光の羽が、斜めに斬りつける。しかしワームは素早く跳び退き、鋭利な舌のような突起を投げつけてきた。

 

「くっ……!」

 

脇腹を掠めた衝撃。バランスを崩し、よろめくリュミエール。その隙を突いて、ワームは跳躍し、空中から蹴りを放つ。

 

瞬間、透花の脳裏に樹花の顔が浮かぶ。

 

(ここで、負けるわけには——)

 

[CAST OFF]

 

「クロックアップ!」

 

[CLOCK UP]

 

静寂が世界を包む。時間が収束し、すべてが遅延する。リュミエールはその中で、息を殺してワームの裏を取る。

 

だが、ワームもまたクロックアップに順応している。刃が交差し、空中で火花が飛ぶ。踏み込めば、すぐそこに死がある緊迫の中、透花は冷静に動きを読み切る。

 

(この速さの中でも、呼吸の乱れがある……右——)

 

ワームの腹部へと向けて、宙を滑るように駆ける。

 

「ライダーウィング——!」

 

展開した光の翼が、一直線にワームを貫いた。

 

時間が解凍され、衝撃が爆音と共に解き放たれる。

 

爆発。ワームは灰となり、夜風に消えていく。

 

変身を解いた透花は、制服の襟を整え、深く息を吐いた。

 

(……危なかった。いつもなら、もっと……)

 

地面に残った小さな爪痕を見つめながら、内心の焦燥を抑え込む。力の限界、そして体調の不安。そのどれもが、彼女の心を静かに削っていく。

 

***

 

駅前。

 

紙袋を提げた樹花が、公衆電話の横にあるベンチに腰掛けていた。手には折りたたみ式のミニアルバムがあり、その写真をめくっていた。写真には文化祭での笑顔の透花や、文芸部の先輩たちとの思い出が残されていた。

 

「透花、遅いな……さっき変な人がいたけど、平気だったのかな」

 

「ごめん、待たせた」

 

「うわ、びっくりした。いきなり後ろから来ないでよー」

 

「ふふ……ごめん」

 

二人は歩き出す。いつもと変わらぬ、日常の帰り道。

 

だが透花の胸の内には、一つの問いが消えなかった。

 

(なぜ、あの場所にワームがいた?)

(頻度もおかしい。学園周囲に偏りすぎている)

(偶然にしては、出来すぎ……誰かが、私を見ている? それとも——)

 

バタフライゼクターが、静かに髪飾りへと戻っていった。

 

 

 

 

 




プロットは大方出来てる。出来てるが、形にするのがとても難しい…。やらなければならないことから目を逸らして書いてるのがこの作品です。早く完結させないと私生活に影響が(もう既に出始めている)
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