羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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第11話「決意の温度」

 

一日の授業も終わり、各々が自由に時を使う放課後。赤く染まった空を仰ぎ見ながら、白崎透花は人気のない公園のベンチに腰掛けていた。

制服の袖口に、まだ新しい包帯がのぞいている。昨夜の戦いで受けた切創は、表面だけの傷とはいえ、体に残る疲労はごまかせない。

 

(少し……無理をした)

 

視界の端で、蝶が一羽舞っていた。

夕陽を透かすその羽ばたきに、透花はふとバタフライゼクターの姿を重ねる。

 

「……どうして、私は戦っているんだろう」

 

静かに問いかける。もちろん、答えてくれる者はいない。ゼクターは、あくまで無言の相棒だ。相変わらず擬態したまま動こうとしない。時々翅を伸ばすかのようにひらひら飛び回っているようだが、必要なときは戻ってくるので気にしない。

 

ふともう一度蝶へと視線を向けると、何やら近くでそれを狙っているであろう、カマキリの姿があった。

若干嫌な気分になりつつも、自然の摂理故に邪魔する気にもなれず、じっとその様子を伺う。

花弁に止まり、翅を休める蝶へ、じりじりと距離を詰めるカマキリ。

そして__

 

「透花っ!」

 

明るい声が中庭に響いた。

ハッとそちらを振り返ると、手を振りながら天道樹花が駆け寄ってくる。買い物を終えたらしく、小さな紙袋を手に提げていた。

 

「もう、どこ行ってたの? 探したんだよ」

 

「……ごめん、少し、風に当たりたくて」

 

言い訳のように笑う透花に、樹花はじっと視線を向けた。

そして、紙袋から取り出したペットボトルを差し出す。

 

「はい、これ。冷たいお茶。……昨日、ありがとね」

 

「え?」

 

「変な人がいたじゃん。覚えてるでしょ? あのとき、透花がいなくなって、でもすぐ戻ってきたときには、もう何もなかった……。ううん、なんでもない」

 

そう言って樹花は笑った。

だが、透花の胸の奥に、淡い緊張が走った。

 

(気づかれてる? まさか……)

 

バタフライゼクターが微かに光る。

と、そこに風が吹き、二人の前を何かが走り抜ける。

 

「……!?」

 

草の陰、街路樹の影。気配は消えた。だが確かに“何か”がいた。

 

「樹花。こっちの駐輪場、ちょっと寄ってから帰ってもいい?」

 

「え? あ、うん……透花、自転車じゃなかった気がしたけど……」

 

「落とし物、ちょっとだけ」

 

透花は歩き出す。背を向けたまま、声の調子だけは変えずに。

その目に、戦う覚悟の光が宿る。

 

(今のは……ワーム)

 

角を曲がり、樹花の視界から外れたのを確認。

バタフライゼクターが頭上を舞い、光をまとって展開する。

 

[STAND BY]

 

「変身」

 

白銀の光がその身を包む。仮面ライダーリュミエール、再び現る。

 

駐輪場、フェンスの外。

そこに立っていたのは、昨日倒したはずのワーム——かと思われたが、どこか様相が違う。似ているだけで別の個体のようだ。

そんなことも判別できないことに、集中力の低下と焦りを感じる。

 

一瞬の静寂——そして、フェンスを飛び越え、襲い来る。

 

透花はすぐに反応し、跳躍して距離を取る。だが、足の筋肉が悲鳴を上げる。

 

(痛……っ! 昨日の傷が……)

 

カマキリを模したような鋭い刃が目前をかすめる。透花は転がるようにして着地し、苦悶に眉を寄せる。

直ぐに終わらせなければ、異変を感じて樹花がこちらに来てしまうかもしれない。

 

[CAST OFF]

 

その意思を感じ取ったかのように、自動的に装甲が弾け、マスクドフォームからライダーフォームへと変貌を遂げる。外装が飛び散り、目の前のワームを吹き飛ばした。

軽量化されたボディで、透花は息を整える。

 

しかし、それを許さないように、ワームの姿が掻き消える。人には追えない高速移動。だがこちらも条件は同じ。

 

「クロックアップ」

 

[CLOCK UP]

 

時間が伸びる。

 

互いに加速された空間の中、リュミエールとワームは激しく交差する。

 

(攻撃の間隔が読めない……重い、足が)

 

思考が乱れているのを感じる。明らかに集中しきれていない。

 

ワームの刃が右腕を掠め、装甲の一部が砕け飛ぶ。

両腕に付属している刃の威力が桁違いに高い。まともに喰らえばダメージは必須。

懸命に避けつつ、背中の翅を展開。推進力を用いて、負傷による遅れをカバーする。

 

「……ッ!」

 

左右から迫る攻撃をかわし、

左の羽根でバランスを取りつつ、反撃に転じる。

 

リュミエールが斬撃を横から放つが、身体を後ろに倒すようにしてかわされる。

相手のワームの間合いの取り方が上手い。こちらの攻撃がほんの少しの差で届かない。

 

両腕を使って振り下ろしてきたタイミングを狙い、側面に当てるようにして再び切り結ぶ。

 

(……当てたい。終わらせなきゃ、今ここで)

 

渾身の踏み込み。翅を動かして体を宙へと浮かせる。押し返されたワームが完全に態勢を崩した。

 

「ライダーウィングッ!!」

 

[Rider Wing]

 

回転と共に、羽根を最大展開。

宙返りするようにして、真下から叩きつける一撃——

 

左右に両断し爆散。

 

[CLOCK OVER]

 

吹き飛ぶ風圧に煽られながら、透花は膝をついた。

パラパラと周囲の土埃が舞い落ちる。

 

「……っ、はぁ……はぁっ……」

 

変身が解除され、制服姿に戻った透花は、その場に座り込む。

脇腹には裂けた布と赤い滲み。

 

「……ごまかさなきゃ、樹花に……」

 

***

 

公園入口、残された樹花がひとり、鞄を抱えて待っていた。

 

「……遅いな、透花」

 

そのとき、息を切らせて戻ってくる姿。

 

「透花っ! 忘れ物は ……て、どうしたの、その制服……」

 

「え? あ、ちょっと変な風に転んじゃって……」

 

見かけほど痛くないから、と笑顔を作る透花。

だが、袖口の包帯と、今の傷。

 

「……なんか、最近よくケガしてない? 無理して、ない?」

 

「……ううん、大丈夫。本当に」

 

樹花は少し不安そうに見つめていたが、やがて言った。

 

「無理しすぎないでね。私、透花が辛そうなの、見たくないから」

 

その言葉に、透花は心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 

「……ありがとう、樹花」

 

二人は並んで歩き出す。

夕焼けが、彼女たちの影を長く引き伸ばしていく。

 

(戦う理由——それは、こうして隣で笑う人のため)

(傷ついても、守りたいものがある)

 

バタフライゼクターが、静かに羽ばたき、髪飾りへと戻っていった。

 

 

 





リュミエールの装備

蝶の翅を模したような、扇状の剣。切断力はあまり高くないが、大きさの割に(サソードの剣と同等程度)非常に軽く、他のライダーに比べて比較的非力なリュミエールでも高速での使用が可能。
必殺技のライダーウィングは、背部から展開される翅だけでなく、剣からも使用可能。ただし、両翅から繰り出されるものに対し、威力は半減程度にまで下がる。


やや単調な展開になってきた気もしますが、次話(かその次)あたりから原作のメンバーも登場してくる予定です。気長に読んでいただけると幸いです。
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