羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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第12話「影の輪郭」

 

放課後の聖華学園。

 

空一面を覆う薄雲が、太陽の光をやわらかく遮っている。風は湿り気を帯び、校庭からは野球部の掛け声や、吹奏楽部の楽器の調律音が断続的に流れてくる。春先の放課後特有のざわめきの中、天道樹花は一人、図書室の窓際の席に腰を下ろしていた。

 

机の上には、授業で使った教科書とノートが無造作に置かれたまま。その横に、彼女の手の中で光を放つ携帯電話がある。

 

画面には「お兄ちゃん」の名前と、登録された番号。兄・天道総司に電話をかけるのは、そう頻繁なことではない。呼び出し音の間、樹花の指先は無意識に机の縁をなぞっていた。

 

やがて、受話口の向こうから、いつもの落ち着き払った声が響く。

 

「樹花か。どうした」

 

「……お兄ちゃん、今、少しだけ時間ある?」

 

わずかに声が揺れていた。それは、軽い相談というよりも、胸の奥にずっと引っかかっていた不安を、思い切って吐き出そうとするような響きだった。

 

通話先では短い沈黙が訪れる。数秒後、淡々とした、しかしどこか意味深な響きを伴った言葉が返ってくる。

 

「おばあちゃんが言っていた。雨の日の影ほど、本当の形が浮かび上がるものだ」

 

「……意味はよくわからないけど、今のは“聞いてくれる”ってことだよね」

 

口元にかすかな笑みが浮かぶ。しかしその笑みは、すぐに消えて真剣な表情に戻る。樹花は窓の外を一瞥し、周囲に誰もいないことを確かめると、切実な声を乗せた。

 

「友達がね、ちょっと最近……変なの。よくケガしてるし、ぼーっとしてるし、昨日なんて制服が破れてたんだよ? どう考えても、普通じゃないって」

 

受話口の向こうからは、静かな沈黙だけが返ってくる。その無言が、かえって樹花の胸を締めつけた。

 

「お兄ちゃん……透花に、何か起きてるんじゃないかって……そう思うの」

 

「心配するな。お前は、隣にいてやるだけでいい。それが、その子にとっての一番の支えになる」

 

その声は淡々としていながらも、不思議な温もりがあった。

 

一瞬だけ、樹花の胸に安堵の灯がともる。だが同時に、ただ黙って見ていることしかできない現実に、焦りのような感情も芽生えていた。

 

***

 

同時刻。

ZECT本部の監視室。

モニターに映し出されるのは、聖華学園の校舎裏。

仮面ライダーリュミエールの戦闘記録が、解析中のラベルと共にループ再生されている。

 

「白崎透花——仮面ライダーリュミエール。ZECTに所属しない、独立型のゼクター保持者……相変わらず、危険な存在だな」

 

低く、冷ややかな声が響く。

監視室に入ってきたのは、黒のスーツに身を包んだ青年——影山瞬。

その胸元には、ZECT隊員としての証が燦然と光っている。ザビーの資格者である彼の立場は、組織内でも上位にあった。

 

「制御不能な力は、たとえ味方でも危険だ。正体が割れていても、何を考えて動いているか分からない奴が一番厄介だ」

 

「ですが、現時点で彼女は明確に敵対行動を取っていません。市民の保護も優先しているように見えます」

 

監視員の一人が口を挟むが、影山は冷笑を浮かべた。

 

「善意? そんなもの、いざという時には簡単に裏切られる。矢車の時もそうだったろ」

 

前任のザビー資格者であり、完全調和を求めた男。隊の仲間を大切にする人望のある人間だったが、カブトの抹殺に固執するあまり隊を危険に晒し、ザビーに見限られた者。

 

「年頃の少女ってのも、判断を鈍らせやすい要素だ。……だからこそ、仮面の下に何があるか、本気で見極める必要がある」

 

別のモニターには、学園での透花の姿が映し出されていた。

制服姿の彼女が、何事もないふりで日常を過ごしている——だが、影山の目にはそうは映らない。

 

「仮面の下に何を隠しているか。監視を続けろ。行動パターン、交友関係、すべて洗い出す」

 

「本部への報告はどうしますか?」

 

「すでに報告済みだ。次に動くとしたら……俺だ」

 

***

 

その夜、白崎家。

 

透花は自室のベッドに腰を下ろし、手早く包帯を巻き直していた。

 

窓の外からは遠くの車の走行音と、風に揺れる木の葉のざわめきが微かに聞こえる。デスクスタンドの光に照らされた腕には、幾筋もの擦り傷と青痣が浮かんでいた。

 

(ZECTの動き……明らかに、私を警戒してる。何を見て、何を信じて判断してるのか、わからない)

 

視線が鏡へと向かう。そこには、どこか疲れた表情の自分。

頬に触れる指先が、ほんのわずかに震えている。

 

(でも、加賀美さんは——あの時、私を信じようとしていた。あんなふうに、優しく、まっすぐに……)

 

胸の奥が、ひそやかに疼く。

敵味方の境界が、自分の中で曖昧になっていくような感覚。

 

(ZECT……私の敵なの? それとも、ただ私が真実を知らないだけ?)

 

ふと、窓の外の闇に目をやる。

その瞬間、視界の端で何かが動いた。影のような、人影のような——確信は持てない。

だが、髪飾り型のゼクターがかすかに震え、小さな羽音を立てた。

 

透花は深く息を吐き、胸のざわめきを押し殺すように目を閉じる。

不安を抱えたまま、静かに眠りへと落ちていった。

 

 




話の区切り方難しい。
自分の中で影山のキャラが安定しない。というよりカブトのキャストがみんなして格好良かったり面白かったりするのが悪いと思うんだ。
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