羽音は誰にも届かず 作:パピヨン
迫り来る刃の軌跡を、透花は反射的に身を翻して避けた。
神代剣――仮面ライダーサソードがマスクドフォームの姿で透花を睨み据える。
その目には迷いなど欠片もなく、獲物を逃さぬ狩人の鋭さが宿っていた。
透花は後退しながら叫ぶ。
「待って!私はワームなんかじゃない!」
「言い訳は聞かん」
剣の声は冷徹だった。
「昨日の夕方、樹花を襲った奴だろう。性格や話し方を変えても、俺の目は誤魔化せん」
透花の脳裏をよぎるのは――昨日、樹花が遭遇した“自分によく似た誰か”のこと。
まさか、それが彼に誤解を与えてしまったのか。
ワームに擬態されている相手は、通常既に死んでいる場合が殆どだ。
「だからそれは――」
「戦う気がないなら、ここで終わりだ」
サソードは一歩踏み込み、甲殻を思わせる重い足音が路地に響く。
右腕から伸びるサソードヤイバーが夕日を受けて赤く輝いた。
(ここじゃまずい……人を巻き込む)
透花は迷わず背を向け、全力で駆け出した。
住宅街を抜け、薄暗い路地を曲がり、辿り着いた先は古びた廃工場。
割れた窓から冷たい風が吹き込み、錆びた鉄骨が不気味に軋む。
「逃げ場はないぞ、ワーム」
サソードの声が、金属の反響と共に響いた。
引きずられるようにしてサソードヤイバーが地面と火花を散らし、緊張感を高める。
――やるしかない。
透花は頭上に手を伸ばし、バタフライゼクターを呼び寄せる。
「来て……!」
羽音とともに、小さな蝶型のゼクターが空を切り裂き、彼女の掌へ舞い降りた。
その瞬間、剣の視線が一瞬揺れる。
「……ゼクターだと?」
[Stand By]
「変身!」
光の羽が舞い、仮面ライダーリュミエール・マスクドフォームがそこに現れる。
サソードは一瞬戸惑ったようだが、すぐにその仮面の奥から憤怒の感情が湧き出る。
「ワームが、ライダーになるだと?ふざけるな!」
激昂したサソードが剣を傍の柱に叩きつける。老朽化した柱は容易く倒壊し、周囲に土埃が舞う。
廃工場の空気は錆の匂いと油の臭気が混ざり、足元には砕けたガラスや鉄片が散らばっていた。
その中で、仮面ライダーサソードとリュミエールが向かい合う。
「……やっぱり話を聞く気はないのね」
「当然だ。ワームに情けをかける理由などない」
サソードがサソードヤイバーを肩の位置に構える。
その姿勢は無駄がなく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
リュミエールも間合いを探りながら、己の剣を構える。
最初に動いたのはサソードだった。
床を蹴る音とほぼ同時に、一閃。
金属が空気を裂く音が耳を打ち、リュミエールは紙一重で横に跳び、反撃の蹴りを放つ。
ガンッ!
サソードは刃の腹で蹴りを受け流し、逆に腕を払って距離を詰める。
「遅い」
間近で振り下ろされた斬撃を、リュミエールは咄嗟に引いた剣を盾に受け止めるが、火花が飛び散り、衝撃で足が後ろへ滑った。
サソードは連撃に移行。
斬り上げ、突き、袈裟斬り、水平斬り――
その全てが一瞬の隙を狙う鋭さで、リュミエールは翅と剣を駆使しながらなんとか防ぐ。
だが、押し負けていくのは明らかだった。
「くっ……なら!」
リュミエールは大きく跳び上がり、羽ばたきと共に工場の梁へ着地する。
深く息を吸い込み、体に纏う装甲を意識的に解き放った。
「キャストオフ」
[CAST OFF]
装甲が剥がれ落ちる音が響き、柔らかな光を帯びた翅があらわになる。
透けるような輝きを放つ翼が広がり、彼女は身軽な素体へと変化した。
[Change Butterfly]
「これで……もっと自由に動ける」
身軽になった体を活かし、大きく跳び上がり宙へ舞う。
そのまま翼を大きく羽ばたかせ、一気に加速。
翼が光を帯び、急降下しながら連続の蹴撃を放つ。
サソードはこれを剣で受け止めるが、数撃目で受け損なった一撃が胴へと入る。
距離を離され、胸を抑えるサソードに対し、リュミエールは油断なく翅を広げ、剣を構える。先ほどまでと比較し、単純な手数は倍にも及ぶ。
だがサソードは真っ向から迎え撃つ構えを取った。
「……なら、そのお前の速さを受け止めてやる」
彼の手元でゼクターが作動音を響かせる。
「キャストオフ」
[CAST OFF]
衝撃音と共に装甲が弾け飛び、破片が床へと散らばる。
その瞬間、サソードの姿はより軽量で俊敏なライダーフォームへと変わっていた。
[Change Scorpion]
今度はリュミエールの方から攻め立てる。
左右の翅と、手に持った剣の三方向から攻撃の手を加え、反撃する隙を与えない。
だがサソードも、たった一本の剣でこれを的確に捌く。
壁際まで追い詰められたところで同時攻撃が来るも、これを一振りで弾き、肩に装着された蠍の鋏によるタックルを見舞う。
再び距離が開き、リュミエールがもう一度追い詰めようとしたところで、自身の異常に気が付く。
(何…?身体が……痺れ?)
ふと翅を見れば、美しい光の翅の一部に毒々しい陰りがある。明らかに出力が落ちている。
「…まさか、毒っ⁉」
「今度はこちらから行くぞ」
リュミエールが構える間もなく、サソードの剣撃が迫る。跳び上がり両翅で身体を覆い防ぐリュミエールに対し、ブレードの切っ先を突き上げる。
ガキィン!
翼と刃が激突し、光の火花が四散した。
互いに弾き飛ばされ、床に着地する。
リュミエールの呼吸は乱れ、羽の先端が僅かに焦げている。
サソードは無言のまま、低く構え直した。
次の瞬間、視界が霞むほどの速度でサソードが踏み込む。
斜め下からの斬り上げ、踏み込みからの突き、そして背後へ回り込む高速移動。
リュミエールは必死に振り返って羽で受けるが、切断の衝撃が全身に響き、よろけたところを膝蹴りで吹き飛ばされる。
「観念しろ、ワーム」
「ッ!……私は、ワームじゃない」
「まだ言うか……なら、引導を渡してやる」
サソードはブレードを天に掲げ、サソードゼクターを剣に押し込んだ。
[Rider Slash]
紫電が刃を覆い、まるで雷を纏った蠍の尾のようにしなる。
「……あなたこそ」
歯を食いしばりながらも、リュミエールは剣を捨て、よろけながら宙に舞い上がる。
頭部のバタフライゼクターに触れた。
[Rider Wing]
傷付いた両翅大きく広げ、急降下の構え。
透花は苛立っていた。親友を狙う自身の姿をした存在の出現。見知らぬライダーに命を狙われる現状。
何より___自分のことを棚に上げた相手の発言。
「あなたこそ、ワームじゃない‼」
上空からの降下によって増大された一撃が、彼女の叫びと共に繰り出される。
迎え撃つは紫電一閃。
何度目かの翼と剣の激突。
電撃の斬撃と輝く光翼の衝撃がぶつかり合い、激しい閃光と轟音を生む。
膨大なエネルギーが、互いを吞み込もうと拮抗し合う。
「…俺が、ワームだと……?ふざけるな‼」
「ッ…⁉」
押し返される。
剣から滴る毒液が翅を徐々に侵食していく。
リュミエール側から光が失われていく。
「ワームは俺の獲物だ。ワームはすべて、俺が倒す!」
雷鳴の斬撃がリュミエールの翅を切り裂いた。
光の翅片が散り、彼女の身体は制御を失って落下。
鉄骨の床に激しく叩きつけられ、うつ伏せのまま動けない。
起き上がろうと地に手を突くも、支えきれず崩れ落ちる。
遂には変身が解除され、透花は完全な無防備へとなってしまった。
サソードは歩み寄り、再びブレードを掲げる。
「これで終わりだ」
[Rider Slash]
刃が振り下ろされようとした、その時――
「ライダーキック!」
[Rider Kick]
青い閃光が弾丸のように飛び込み、サソードの胸部を直撃。
爆発的な衝撃と共に彼は後方へ吹き飛び、鉄柱へ叩きつけられた。
防御も出来ずにその身に一撃を受けたサソードも、蓄積されたダメージに堪らず変身を解く。
顔を上げた透花の先に立つのは、青い装甲を身に纏い、左右に2本の角を携えた新たなライダーの姿。
現れたのは、戦いの神の名を持つZECT最後のライダー__仮面ライダーガタック。
変身が解けた神代剣の姿を見届けた彼は、腰のベルトから自身のゼクターを抜いた。
仮面が解けたその姿を見た瞬間、透花は目を見開いた。
「か、加賀美さん……?」
その声に振り向いた青年__加賀美新は慌てて駆け寄り、
「透花!大丈夫か?」
そう安心したような顔でこちらを見た。
そんな加賀美を見て、張りつめていた気をようやく抜き、透花は意識を手放した。
評価バーに赤色がついていて驚きました。ここまで高評価をいただけることを嬉しく思うと同時に、更新が滞っていることを申し訳なく思います。
プロットが迷走しており、まとまった時間が取れない今、次回の更新がいつになるかわかりませんが、気長に待っていただけると幸いです。