羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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第18話 「誤解の刃」

 

 

迫り来る刃の軌跡を、透花は反射的に身を翻して避けた。

 

神代剣――仮面ライダーサソードがマスクドフォームの姿で透花を睨み据える。

 

その目には迷いなど欠片もなく、獲物を逃さぬ狩人の鋭さが宿っていた。

 

透花は後退しながら叫ぶ。

 

「待って!私はワームなんかじゃない!」

 

「言い訳は聞かん」

 

剣の声は冷徹だった。

 

「昨日の夕方、樹花を襲った奴だろう。性格や話し方を変えても、俺の目は誤魔化せん」

 

透花の脳裏をよぎるのは――昨日、樹花が遭遇した“自分によく似た誰か”のこと。

 

まさか、それが彼に誤解を与えてしまったのか。

ワームに擬態されている相手は、通常既に死んでいる場合が殆どだ。

 

「だからそれは――」

 

「戦う気がないなら、ここで終わりだ」

 

サソードは一歩踏み込み、甲殻を思わせる重い足音が路地に響く。

右腕から伸びるサソードヤイバーが夕日を受けて赤く輝いた。

 

(ここじゃまずい……人を巻き込む)

 

透花は迷わず背を向け、全力で駆け出した。

 

住宅街を抜け、薄暗い路地を曲がり、辿り着いた先は古びた廃工場。

 

割れた窓から冷たい風が吹き込み、錆びた鉄骨が不気味に軋む。

 

 

「逃げ場はないぞ、ワーム」

 

サソードの声が、金属の反響と共に響いた。

引きずられるようにしてサソードヤイバーが地面と火花を散らし、緊張感を高める。

 

 

――やるしかない。

 

 

透花は頭上に手を伸ばし、バタフライゼクターを呼び寄せる。

 

「来て……!」

 

羽音とともに、小さな蝶型のゼクターが空を切り裂き、彼女の掌へ舞い降りた。

 

その瞬間、剣の視線が一瞬揺れる。

 

「……ゼクターだと?」

 

 

[Stand By]

 

「変身!」

 

光の羽が舞い、仮面ライダーリュミエール・マスクドフォームがそこに現れる。

 

サソードは一瞬戸惑ったようだが、すぐにその仮面の奥から憤怒の感情が湧き出る。

 

「ワームが、ライダーになるだと?ふざけるな!」

 

激昂したサソードが剣を傍の柱に叩きつける。老朽化した柱は容易く倒壊し、周囲に土埃が舞う。

 

廃工場の空気は錆の匂いと油の臭気が混ざり、足元には砕けたガラスや鉄片が散らばっていた。

その中で、仮面ライダーサソードとリュミエールが向かい合う。

 

「……やっぱり話を聞く気はないのね」

 

「当然だ。ワームに情けをかける理由などない」

 

 

サソードがサソードヤイバーを肩の位置に構える。

その姿勢は無駄がなく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。

 

リュミエールも間合いを探りながら、己の剣を構える。

 

最初に動いたのはサソードだった。

 

床を蹴る音とほぼ同時に、一閃。

 

金属が空気を裂く音が耳を打ち、リュミエールは紙一重で横に跳び、反撃の蹴りを放つ。

 

ガンッ!

 

サソードは刃の腹で蹴りを受け流し、逆に腕を払って距離を詰める。

 

「遅い」

 

間近で振り下ろされた斬撃を、リュミエールは咄嗟に引いた剣を盾に受け止めるが、火花が飛び散り、衝撃で足が後ろへ滑った。

 

サソードは連撃に移行。

 

斬り上げ、突き、袈裟斬り、水平斬り――

 

その全てが一瞬の隙を狙う鋭さで、リュミエールは翅と剣を駆使しながらなんとか防ぐ。

 

だが、押し負けていくのは明らかだった。

 

「くっ……なら!」

 

リュミエールは大きく跳び上がり、羽ばたきと共に工場の梁へ着地する。

深く息を吸い込み、体に纏う装甲を意識的に解き放った。

 

「キャストオフ」

 

[CAST OFF]

 

装甲が剥がれ落ちる音が響き、柔らかな光を帯びた翅があらわになる。

 

透けるような輝きを放つ翼が広がり、彼女は身軽な素体へと変化した。

 

[Change Butterfly]

 

「これで……もっと自由に動ける」

 

身軽になった体を活かし、大きく跳び上がり宙へ舞う。

 

そのまま翼を大きく羽ばたかせ、一気に加速。

 

翼が光を帯び、急降下しながら連続の蹴撃を放つ。

 

サソードはこれを剣で受け止めるが、数撃目で受け損なった一撃が胴へと入る。

距離を離され、胸を抑えるサソードに対し、リュミエールは油断なく翅を広げ、剣を構える。先ほどまでと比較し、単純な手数は倍にも及ぶ。

 

だがサソードは真っ向から迎え撃つ構えを取った。

 

「……なら、そのお前の速さを受け止めてやる」

 

彼の手元でゼクターが作動音を響かせる。

 

「キャストオフ」

 

[CAST OFF]

 

衝撃音と共に装甲が弾け飛び、破片が床へと散らばる。

 

その瞬間、サソードの姿はより軽量で俊敏なライダーフォームへと変わっていた。

 

[Change Scorpion]

 

今度はリュミエールの方から攻め立てる。

左右の翅と、手に持った剣の三方向から攻撃の手を加え、反撃する隙を与えない。

 

だがサソードも、たった一本の剣でこれを的確に捌く。

 

壁際まで追い詰められたところで同時攻撃が来るも、これを一振りで弾き、肩に装着された蠍の鋏によるタックルを見舞う。

 

再び距離が開き、リュミエールがもう一度追い詰めようとしたところで、自身の異常に気が付く。

 

(何…?身体が……痺れ?)

 

ふと翅を見れば、美しい光の翅の一部に毒々しい陰りがある。明らかに出力が落ちている。

 

「…まさか、毒っ⁉」

 

「今度はこちらから行くぞ」

 

リュミエールが構える間もなく、サソードの剣撃が迫る。跳び上がり両翅で身体を覆い防ぐリュミエールに対し、ブレードの切っ先を突き上げる。

 

ガキィン!

 

翼と刃が激突し、光の火花が四散した。

 

 

互いに弾き飛ばされ、床に着地する。

 

リュミエールの呼吸は乱れ、羽の先端が僅かに焦げている。

 

サソードは無言のまま、低く構え直した。

 

 

次の瞬間、視界が霞むほどの速度でサソードが踏み込む。

 

斜め下からの斬り上げ、踏み込みからの突き、そして背後へ回り込む高速移動。

 

リュミエールは必死に振り返って羽で受けるが、切断の衝撃が全身に響き、よろけたところを膝蹴りで吹き飛ばされる。

 

「観念しろ、ワーム」

 

「ッ!……私は、ワームじゃない」

 

「まだ言うか……なら、引導を渡してやる」

 

サソードはブレードを天に掲げ、サソードゼクターを剣に押し込んだ。

 

[Rider Slash]

 

紫電が刃を覆い、まるで雷を纏った蠍の尾のようにしなる。

 

「……あなたこそ」

 

歯を食いしばりながらも、リュミエールは剣を捨て、よろけながら宙に舞い上がる。

頭部のバタフライゼクターに触れた。

 

[Rider Wing]

 

傷付いた両翅大きく広げ、急降下の構え。

 

透花は苛立っていた。親友を狙う自身の姿をした存在の出現。見知らぬライダーに命を狙われる現状。

何より___自分のことを棚に上げた相手の発言。

 

「あなたこそ、ワームじゃない‼」

 

上空からの降下によって増大された一撃が、彼女の叫びと共に繰り出される。

迎え撃つは紫電一閃。

 

何度目かの翼と剣の激突。

電撃の斬撃と輝く光翼の衝撃がぶつかり合い、激しい閃光と轟音を生む。

膨大なエネルギーが、互いを吞み込もうと拮抗し合う。

 

「…俺が、ワームだと……?ふざけるな‼」

 

「ッ…⁉」

 

押し返される。

剣から滴る毒液が翅を徐々に侵食していく。

リュミエール側から光が失われていく。

 

「ワームは俺の獲物だ。ワームはすべて、俺が倒す!」

 

雷鳴の斬撃がリュミエールの翅を切り裂いた。

光の翅片が散り、彼女の身体は制御を失って落下。

 

鉄骨の床に激しく叩きつけられ、うつ伏せのまま動けない。

起き上がろうと地に手を突くも、支えきれず崩れ落ちる。

 

遂には変身が解除され、透花は完全な無防備へとなってしまった。

 

サソードは歩み寄り、再びブレードを掲げる。

 

「これで終わりだ」

 

[Rider Slash]

 

刃が振り下ろされようとした、その時――

 

「ライダーキック!」

 

[Rider Kick]

 

青い閃光が弾丸のように飛び込み、サソードの胸部を直撃。

 

爆発的な衝撃と共に彼は後方へ吹き飛び、鉄柱へ叩きつけられた。

防御も出来ずにその身に一撃を受けたサソードも、蓄積されたダメージに堪らず変身を解く。

 

 

顔を上げた透花の先に立つのは、青い装甲を身に纏い、左右に2本の角を携えた新たなライダーの姿。

 

現れたのは、戦いの神の名を持つZECT最後のライダー__仮面ライダーガタック。

 

変身が解けた神代剣の姿を見届けた彼は、腰のベルトから自身のゼクターを抜いた。

 

仮面が解けたその姿を見た瞬間、透花は目を見開いた。

 

「か、加賀美さん……?」

 

その声に振り向いた青年__加賀美新は慌てて駆け寄り、

 

「透花!大丈夫か?」

 

そう安心したような顔でこちらを見た。

そんな加賀美を見て、張りつめていた気をようやく抜き、透花は意識を手放した。

 

 

 

 

 





評価バーに赤色がついていて驚きました。ここまで高評価をいただけることを嬉しく思うと同時に、更新が滞っていることを申し訳なく思います。
プロットが迷走しており、まとまった時間が取れない今、次回の更新がいつになるかわかりませんが、気長に待っていただけると幸いです。
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