羽音は誰にも届かず 作:パピヨン
朝の聖華学園。
校門の前には登校する生徒たちの波があった。制服の襟を正しながら通過する誰もが、昨日と同じ日常を信じていた。
白崎透花もそのひとりだった。
けれど、彼女の瞳は人の波ではなく、植え込みの陰、空の反射、通り過ぎる靴音の微妙なズレにこそ注意を払っている。
——違和感は、そこに宿る。
「透花ー!」
校門の脇で声がした。
手を振るのはクラスメイトの天道樹花。
明るく人懐っこい少女で、透花とは中一からの仲であり、時に姉のようでもある存在だ。
「おはよ。今日、小テストだよね? 古典のやつ」
「……うん、忘れてないよ」
言葉を交わす。
透花にとって“日常”は、こうして守らねばならないものだった。
けれどその一方で、彼女は知っていた。
この世界には、“仮面”をかぶった存在が紛れ込んでいることを。
——ワーム。
放課後。
教室の窓から差し込む光が傾き始めた頃。
部活動の喧騒が廊下に響く中、透花は静かに教室を出た。
向かうのは、校舎裏のごみ集積所。
何気ない日常の中に、ほんの少しの異変が混ざっていた。
——ペットボトルの袋に、混ざっている金属片。
人の目にはただのゴミ。
だが彼女にはわかる。
それはワームが脱ぎ捨てた擬態の“皮膚”の破片。
(この中に、いる)
目を閉じ、周囲の音に神経を研ぎ澄ます。
遠くの校庭、鳴り響くホイッスル。
昇降口に響く靴音。
そして、背後から——風を裂くような、鋭い気配。
「——きた」
振り返ると同時、ワームが飛びかかってくる。
廃材の陰から現れたそれは、学生服をまとったまま、その形を崩しながら迫ってきた。
(やっぱり、生徒に擬態してた……!)
すでに亡くなっているその生徒を思い、覚悟を決める。
[henshin]
髪飾りに触れる。白銀の蝶が弾け飛び、ゼクターが舞う。
透花の身体を駆け抜け、戦闘体が展開されていく。
[Cast Off]
外装が弾け飛び、仮面ライダーリュミエールが姿を現す。
赤紫の複眼が、敵を捉えた。
(ここは校舎裏……他の人は来ない、けど)
グラウンドの方に行けば部活をしている生徒たちがいる。
(手早く終わらせる)
[Clock Up]
時間が伸びる。
風が止み、世界が静止する中——
リュミエールは駆ける。
足元に舞う埃、空気の揺らぎ、そのすべてを読み取る。
ワームもまた、動く。
やはり、ただの怪物ではない。
ワームもクロックアップしていた。
その中での一騎打ち。
拳を交え、蹴りが交錯し、ナイフのような脚部の一撃がスーツをかすめる。
(この動き……ただの量産型じゃない)
反射神経、行動パターン、読み合い。
まるで透花の戦い方を見透かしているかのような——
(まさか……私の情報が漏れてる?)
クロックアップ解除。
時間が戻る。
空気が一気に流れ出す中、ワームが態勢を崩した。
その隙を、透花は見逃さない。
「ライダーウィング」
[Rider Wing]
ゼクターが羽ばたき、リュミエールの背中に銀の羽根が展開する。
風を切るように踏み込み、空を裂く一撃がワームを貫いた。
ドンッ!!
爆発とともに、灰が舞う。
——静寂。
透花はゆっくりと変身を解除し、髪飾りを手に戻す。
(……この情報、どこから漏れた?)
自身に近づいてくる何かの気配を感じながら、すっかり日の沈んだ校舎を抜け出した。
誰にも知られず、ひとりきりで——
風を切る足音だけを残して。
モチベーションが途切れたときが更新の途切れるとき…完結を祈っていてください。