羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

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第5話「交錯の影」

夏の昼下がり。

聖華学園の校庭では、蝉の声が鳴り響いている。

その喧騒から少し離れた、図書室の一角。

白崎透花は、静かに本を読みながら、目線だけを窓の外へと向けていた。

 

視線の先には、正門前。

そこに、スーツ姿の男が一人、管理職を装いながら校内を出入りしている。

(ZECT……間違いない)

 

一見すれば学園関係者か、教育委員会の職員だろう。

だが透花は、あの無駄のない視線と歩き方に覚えがあった。

——ZECTの諜報員。

組織が独自に情報収集を行うとき、まず最初に動くのが、ああいう“影”だ。

(まだ私を特定しているわけじゃない……けど)

 

違和感のような不安が、胸の奥に沈んでいく。

 

その時。

「おーい、透花ーっ!」

 

ひょい、と窓から顔を出してきたのは、クラスメイトの天道樹花だった。

今日も元気そのものだ。

 

「購買行くけど、一緒に行く?」

「……うん、すぐ行く」

本を閉じ、透花は笑顔を作った。

 

***

 

昼食時。中庭の木陰。

透花と樹花は、パンを手に並んで座っていた。

 

「それにしてもさ〜、今朝のお兄ちゃんの朝ごはん、ちょっと不気味なくらい豪華だったんだよ」

「……豪華?」

「うん。スープはビシソワーズ、クロワッサンは自家製、あとなんかキッシュまであったの」

「お兄さん、料理得意なんだね」

「うん。めちゃくちゃうまい。でもちょっと、いや、かなり変わってる」

 

そのせいか今日は弁当忘れちゃってさーと、苦笑まじりにパンをかじる樹花。

その横顔を、透花は少しだけ羨ましげに見つめていた。

 

(平穏な日常。それを守るって、こんなにも難しいことなんだ……)

 

ふと、耳元で微かな羽音がした。

(……来た)

透花の表情がわずかに曇る。

 

「ごめん、トイレ行ってくる」

「あ、うん。先に戻ってるねー」

 

校舎の裏へ、足音を立てずに歩いていく。

 

***

 

人気のない体育倉庫の横。

影の中で、一人の男が皮を裂くように変貌していく。

 

甲殻に覆われた姿、四肢の末端から生えた鋭利な爪。

ワームだ。

 

[Stand by]

髪飾りが青白く脈動し、ゼクターが舞い上がる。

それを受け、透花は一歩踏み出した。

 

[Henshin]

白と黒の装甲が彼女を包み込み、仮面ライダーリュミエールが現れる。

 

一閃。

背中から展開した光の羽が空を裂き、ワームの動きを止める。

 

[Rider Wing]

翼と共に宙を跳び、相手の背後へ。

振り向いたワームの胴を、鋭く斬り裂く。

 

閃光。

爆発。

そして——灰。

 

「……未登録のライダー。やはり現れたな」

 

その声に、透花は振り返る。

校舎の陰。

そこにいたのは、先ほど正門にいたZECTの諜報員。

 

「ZECTに登録されていないゼクター反応を感知した。……名を名乗れ」

 

リュミエールは無言のまま距離を取る。

声を発することは、リスクにつながる。

仮面の奥で、静かに息を整える。

 

男が腰の通信機に手を伸ばした、その瞬間——

 

「——それ以上踏み込むのはよせ。身を滅ぼすのは、お前の方だ」

 

木の上から声がした。

2人が見上げると、そこには一人の青年が座っていた。

 

黒いジャケット。精悍な顔立ち。完璧に整えられた身だしなみ。

 

「て、天道総司……!? なぜここに……!」

 

「おばあちゃんが言っていた。蝶は一つの花のために舞うのではなく、世界のために羽ばたくものだと」

 

「……何の話を……」

 

「奴を追うのはやめておけ。お前たちには、理解できない」

 

青年はそれだけを告げて、ふわりと飛び降りる。

ZECTの男は、言い返すこともできず、ただその場に立ち尽くした。

 

リュミエール——透花は、ひとつだけ頷き、そのまま姿を消す。

 

***

 

聖華学園前。樹花が門の前で透花を待っている。

 

「おーい、遅かったじゃん」

「……うん、ごめん。なんか並んでて」

「ふーん、まあいいけど。帰ろっ!」

 

並んで歩く二人。

夕日が二人の影を伸ばしていく。

 

(天道総司……彼が、なぜ私をかばったのか)

(ZECTと一線を画す存在? それとも……同じ“選ばれた者”?)

 

答えのない問いを胸に抱えながら、透花は静かに歩を進める。

でも今だけは。

日常の中にいる“ただの友達”として。

仮面の下の彼女は、ひっそりと微笑んでいた。

 




結構勢いで書いてるところあるのであしからず。
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