羽音は誰にも届かず   作:パピヨン

6 / 18
第6話「揺れる羽音」

 

日曜日の朝。聖華学園の生徒たちは思い思いの休日を過ごしている。

だが、白崎透花にとっては、いつもと変わらぬ緊張の一日だった。

 

部屋の窓から差し込む日差しを背に、彼女は鏡の前で髪を整える。胸元には、あの蝶の髪飾り。

 

(昨日、天道総司が現れた……ZECTにも、彼は一目置かれている存在)

(それでも、私にああまで言う理由は……)

 

考えがまとまらないまま、透花は軽く頭を振った。考えすぎは良くない。

今日は、天道樹花と一緒に出かける約束をしている。

 

***

 

駅前のショッピングモール。

透花と樹花は、制服ではなく私服姿で雑貨屋を見て回っていた。

 

「透花って、普段どんな本読むの? 小説? 雑誌?」

「……うん、小説が多いかな。あとは詩集とか」

「へぇ〜、文学少女だぁ」

 

何気ない会話。穏やかな空気。

けれどその最中、透花の耳元に再びあの羽音が届く。

 

(……また? まさか、こんな場所で)

 

「ごめん、ちょっと喉乾いちゃった。飲み物買ってくるね」

「ん、わたしアイスティー!」

 

人波の中を抜けるように、透花は裏手の搬入口へと向かう。

 

***

 

搬入口の陰。

 

そこに、ひとりのZECT隊員がいた。

男は透花に背を向けたまま、イヤーカフ型の通信機に向かって何かを報告している。

 

(ZECT……やっぱり)

 

だが次の瞬間、その男の背中がぐにゃりと歪み、甲殻が盛り上がる。

 

「……擬態、だったの?」

 

そう呟いた瞬間、ワームが振り返り、透花に向かって突進してくる。

 

[Stand by]

 

髪飾りが脈動し、ゼクターが舞い上がる。彼女は息を整え、冷静に構えた。

 

[Henshin]

 

仮面ライダーリュミエール、再び現る。

 

ワームは俊敏な動きで跳びかかってくるが、彼女はそれをいなして横へ跳ぶ。

 

「……っ、クロックアップ!」

 

[Clock Up]

 

世界が静まり返る。音も、光も、すべてが止まったかのように。

 

その空間の中、ワームもまた、高速で跳ね回っている。

(速い……けど、動きが単調)

 

リュミエールは羽を閃かせて上空へ跳び、そこから螺旋を描くように急降下。

ワームが避けきれず、一瞬の隙を見せた。

 

[Rider Wing]

 

真一文字に羽を開いてすれ違い様に一閃。

ワームの身体に裂け目が生じ、時間が動き出すと同時に爆発が巻き起こる。

 

灰が舞う。

 

***

 

ワームの残骸が風に散った直後、物陰から足音が近づく。

 

背後からの気配に振り返ると、そこにはひとりの男が立っていた。

黒のスーツにZECTのバッジ、顔には戦場帰りの疲れすら見せぬ冷ややかさ。

 

「仮面ライダー・リュミエール……。やはりお前だったか」

 

その声に、リュミエール——いや、既に変身を解いた白崎透花の肩がわずかに揺れる。

 

「……いつから見ていたの」

 

「さっきの戦闘の最中だ。派手に羽ばたきすぎたな」

 

男は端末を片手に歩み寄りながら、言葉を続けた。

 

「未登録ゼクターに接続する者……その行動理念と戦闘能力を、我々は監視している。命令でな」

 

「……天道総司の忠告を、あなたは無視するの?」

 

「天道総司が何を言おうと、ZECTの方針は変わらん。俺は、任務を果たすまでだ」

 

冷たい目で、透花を見据える男。その視線に、私情は微塵も感じられなかった。

 

「次は、本部が動く。君の在り方が問われる時が来るだろう」

 

「それでも、私は……戦う」

 

一瞬の沈黙。男は背を向けて歩き出し、足を止めずに言った。

 

「観測は終わりだ。次は——裁定の段階だ」

 

***

 

待ち合わせ場所に戻ると、樹花がベンチに座って待っていた。

 

「遅いよー! まさか迷った? ……てか汗すごいけど大丈夫?」

「……うん、大丈夫。ちょっと人混みが……」

「無理しないでよー? 具合悪かったら言ってね?」

 

「ありがとう」

その笑顔だけが、透花にとって救いだった。

 

でもその夜。

透花は体の奥に、微かに焼けるような違和感を覚えていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。