羽音は誰にも届かず 作:パピヨン
都内某所、ZECT本部地下施設。
ホログラムに映し出されたリュミエールの戦闘映像が再生されていた。
「……映像の解析は以上です」
報告を終えたのは、ZECTの技術開発部に所属する若い研究員だった。
その映像を前に、数名の幹部たちが無言でモニターを見つめている。
「バタフライゼクター。ZECTに登録されていない独立型個体……存在そのものが異常だ」
「戦闘能力も高い。特に、ワームとのクロックアップ中の空間制御能力……
既存のライダーとは明らかに違うアプローチだな」
「だが、我々の管理下にはない。無視できる存在ではないが、味方とも言えない」
緊張感が張り詰める中、一人の男が口を開いた。
「そのライダー……名前は判明しているのか?」
「数日前、正体不明のゼクター保持者に対して、我々の調査員が個人で接触を図りました。また、それとは別に、天道総司との接触記録も確認されています。……こちらを」
研究員が別の映像を再生する。
リュミエールと天道総司が対峙する、先日の出来事だった。
「……天道、か」
幹部の一人が眉をひそめる。
「やはり彼も動き出している……。バタフライゼクターと彼女の関係を調査せよ」
「加賀美新にも共有しておけ。現場の混乱を最小限に抑えたい」
会議室を後にする者たちの中、若い研究員は静かに呟いた。
「仮面ライダーリュミエール……君は、敵か味方か」
***
その頃——。
聖華学園の一角、図書室。
透花は静かに本を開きながらも、思考を巡らせていた。
(ZECTは、わたしの正体に気づいている)
あの男——ZECTの監視員。彼の問いかけと言葉遣い。
あの一瞬で、透花は自分が既に監視対象になっていると悟った。
(なら、次は……どう動く?)
ゼクターは、何も語らない。ただ、彼女の意志に応じて舞うのみ。
その時、放送が鳴った。
『白崎透花さん、至急、職員室へ来てください。繰り返します——』
図書室の空気がわずかに揺れた。
珍しいことだった。彼女が校内放送で呼び出されるなんて。
ざわつく周囲を背に、透花は静かに立ち上がった。
(……こんな方法で来させるなんて、あからさまね)
誰かが意図的に自分を動かそうとしている。その確信だけが、透花の足を動かした。
***
職員室の奥。通常は来客応対や面談に使われる応接スペースに案内された。
そこで彼女を待っていたのは、一人の男だった。
黒いスーツに、整った短髪。ややくたびれたネクタイに、眠そうな目元。
「やあ、白崎透花さん、だよね?」
妙に親しげな口調。だがその眼差しは、一点の油断もない観察者のものだった。
「俺は加賀美新。ZECTに所属してるって言えば、わかるかな」
その名を聞いても、透花に特別な反応はなかった。ただ——
透花は黙って椅子に座る。彼の動きに警戒しながら、沈黙を守った。
「驚かせてごめん。急に呼び出されたら不安にもなるよな。でも、こうでもしないと君とは話せなかった」
(やっぱり、最初からわたしを……)
「最近、この学校の周囲で妙な出来事が多発しててさ」
そう言って加賀美は、数枚の写真を机の上に並べた。
焼け焦げた地面、崩壊したフェンス、焦げた羽根のような痕跡。
「これ、君が通学路にしてる場所の近くだ。偶然だと思うか?」
透花は、写真から視線を外さなかった。
無言で、それを一枚ずつ見つめた後、静かに目を閉じた。
「何が言いたいの」
「俺たちは、味方かどうかを見極めてるんだ」
加賀美は、真正面から透花を見た。
「力を持つ者が、どんな覚悟で立っているか。それが知りたい」
その言葉に、透花の指先がわずかに動いた。
(なぜこんな風に話すの……この人、本当にZECT?)
彼の態度はあまりに穏やかで、問いかけは誠実だった。
だからこそ、透花の胸に違和感が募った。
「言いたくないなら、それでもいい。無理にとは言わない。ただ、君が孤独な戦いを続けているなら——協力もできる」
一瞬、透花の瞳が揺れた。
だが、すぐに微かな笑みでそれを隠した。
「……そんなつもりは、ないわ」
そう言って、彼女は席を立った。
「そっか。じゃあ、また会おう。たぶん、近いうちに」
加賀美は追いすがることなく、ただ小さく手を挙げた。
***
学園の中庭。薄曇りの空の下。
透花は一人、ベンチに腰を下ろした。
ゼクターが、頭上で静かに羽を鳴らす。
(敵か味方か、そんなことより……私は)
彼女は空を見上げる。
(この空を守りたい。そのために、私はこの力を使う)
そう思った時。
ゼクターが光を帯びて、彼女の頭上を円を描くように舞った。
それはまるで、彼女の決意に応えるようだった。
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