ー明星桜花sideー
冬休みはあっという間に過ぎ、始業。
怒涛の一年次も、気づけばあと3ヶ月となっていた。
飯田が、早速クラスメイトに指示を出した。
「明けましておめでとう諸君! 今日の授業は実践報告会だ。冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁ皆スーツを纏いグラウンドαへ!」
飯田が言うと、教室のドアがカァンと開きイレイザーが入ってくる。
「いつまで喋って──…」
「先生ー!! あけおめー!!」
イレイザーが生徒達を注意しようとすると、芦戸がイレイザーに挨拶をしコスチュームを持って教室の外に出た。
それに続けて、蛙吹もコスチュームを持って外に出る。
「本日の概要伝達済みです。今朝伺った通りに」
珍しく自分が指示をする前に動いている生徒達を見てイレイザーが意外そうな表情を浮かべていると、飯田が既に今日の授業の概要を全員に伝えた事を報告した。
珍しく飯田がしっかり機能していたので、上鳴が感心する。
「飯田が空回りしてねー」
「マニュアルさんが保須でチームを組んでリーダーしていてね。一週ではあるが学んだのさ…物腰の柔らかさをね!」
飯田は腰を高速でクネクネと振って謎のダンスを披露するが、案の定滑っていた。
「あー空回った」
「すぐチェーン外れる自転車みてェ」
平常運転の飯田に、上鳴と瀬呂が呆れ返る。
やれやれ、さて更衣室へ行こうかね
ーthird personー
女子が女子更衣室でコスチュームに着替えていると、葉隠が麗日に話しかける。
「お茶子ちゃん、コスチューム変えたねえ! 似合ってるねえ!」
「ホント? よかったああ」
葉隠が言うと、麗日は少し照れくさそうに喜ぶ。
麗日から籠手を預かっていた耳郎だったが、その重さに思わず声を上げる。
「これ重!! うららかリスト」
「ワイヤー入っとる。私の“個性”なら重さハンデにならんから」
「うわ重!!」
「そっちは浮かす用の武器。投げられるものがない時とか役に立つかもしれんやろ?」
耳郎が麗日の籠手を重がると、麗日が答える。
一方で、麗日のポーチを持っていた葉隠も重がっていた。
ポーチには、トリモチや火薬などが入ったピンポン玉サイズの鉛玉がいくつか入っていた。
「こっちは何が…」
「あ━━!!」
芦戸が麗日のサポートアイテムを持ち上げると、麗日が慌てて止める。
芦戸が持ち上げたアイテムからは、オールマイトのキーホルダーが落ちた。
「これって…」
そのキーホルダーは、クリスマスパーティーで麗日が引いた緑谷のプレゼントだった。
すると、恋バナ好きの芦戸が嬉しそうな顔をする。
「やはり」
芦戸が興味津々といった様子で麗日の方を振り向くと、麗日が慌てて芦戸に詰め寄る。
「違うの芦戸ちゃん! 本当に…違うんだ。これはしまっとくの」
ー明星桜花sideー
俺がコスチュームに着替えている横で主に緑谷のパワーアップの話で盛り上がっていた。
「また新技出たのか! はえー!」
「まだ完全には形になってないけどね。不意打ちに対応したり、予測を立てたりできるようになったんだ」
切島が驚いていると、緑谷は自分の掌を見つめて微笑む。
それにコートを羽織りつつ俺が
「緑谷もそうだが
轟、爆豪も着実に力をつけている
無論俺もそうだがな
緑谷に関して言えば元より予測は得手としている
そこに判断材料が増えたことでそれが正確になったと言うわけだ」
と言うと
上鳴が
「皆強くなってるのは当たり前よ
じゃなきゃヒーローなんか務まんねぇ」
と言う
それに俺が
「ふっ、それはそうだな
珍しく良いことを言うものだ」
と言うと上鳴は
「珍しくってなんだ!珍しくってぇ!」
と騒いでいる
俺はそれを無視して更衣室を出た
ーthird personー
その頃、相澤はプレゼントマイクこと山田の運転する車に乗ってタルタロスに向かっていた。
「もっとスピード出ないのか」
「うるせーな落ち着けよ」
気が立っているのか相澤が苛立ちながら山田を急かすと、山田も苛立ちながら答える。
相澤は、USJでの出来事を思い出し表情を歪めながら口を開く。
「USJで戦った…そんな素振り…微塵も────…趣味が悪いにも…程がある」
「俺ぁ…塚内さん達の勘違いに賭ける」
2人がタルタロスに着くと、塚内とグラントリノがいた。
塚内達は、2人をタルタロスの奥へと案内する。
「二人も知ってる通り、脳無は人の手のよって身体を改造され、複数の“個性”に耐えられるようになった人間だ。ただし生きた人間じゃない。脳味噌から心臓に至るまでメチャクチャにされてる。脳無とは正しく人形。意志持たぬ操り人形」
「の、はずだった」
塚内が言うと、グラントリノも口を開く。
すると相澤がグラントリノを問い詰める。
「グラントリノさん。こっちは授業飛ばして来てるんです。簡潔にお願いします」
「相澤」
山田がグラントリノを問い詰める相澤を止めたが、相澤の肩を掴む山田の手は震えていた。
すると塚内が話し始める。
「必要な話だよ。順を追おう。気持ちの整理をつける為にも」
「こいつは敵ヴィラン連合の中核。口を割らせる事ができれば一気に大元を叩けるんだが、いかんせん肝心な事は一切話そうとしない。下らない話はするが、連合の不利になる情報については電源が落ちたかのようにストンと無反応になるんだ」
塚内とグラントリノが言うと、山田が尋ねる。
「…つまり?」
するとグラントリノが語り始め、牢獄の扉が開く。
そこには、黒霧が厳重に拘束された状態で収監されていた。
「あまりに精巧でそれと気付くまでに時間がかかった
複数の因子が結合され、一つの新たな“個性”になっていたんだ。そしてそのベースになった因子、かつて雄英高校で君達と苦楽を共にし、若くしてその命を落としたとされている男、白雲朧のものと極めて近い事がわかった」
塚内の口から語られた真実は、二人にとってはあまりにも残酷だった。
「つまり、黒霧は脳無で、白雲の遺体がベースになっている可能性が高いっつー事だ」
グラントリノが語ると、山田は動揺して叫ぶ。
「……『A組の3バカ』なんて呼ばれもしたよ……意味がわかんねェよ!」
オールフォーワンは以前、グラントリノ達に『優れた“個性”は雄英に収束する、合理的な話だろ?』と告げていた。
グラントリノはその事を二人に話す。
「『目立たず三ツ星レストランの残飯を漁るようなもの』だそうだ…恐らく遺体を火葬する過程ですり替え……脳無という狂気の玩具に変え、意味なんて……求めちゃいけねぇよ、DJ。そこには悪意があるだけだ」
「…わかんねェよ!」
グラントリノが話すと、山田が怒りを露わにする。
「今は眠ってる。“個性”を使おうとするからな」
「何で我々を? 『絆による奇跡』でも期待してるなら…大衆映画の見すぎでは?」
塚内が去り際に二人に伝えると、相澤はグラントリノに尋ねる。
するとグラントリノは黒霧を親指で差しながら話した。
「根拠がありゃあ『奇跡』は『可能性』になる。九州でエンデヴァーが倒した脳無、報告では明確な人格を有し、強者への執着を見せたそうだ。焼死体のDNA鑑定をした結果、あれの素体は地下格闘で生計を立てていたならず者だと判った」
「生前の人格を残してる…と。残念だが雄英で一戦交えてます。口調も違ったし、俺に対して何の反応も示さなかった」
相澤がそう言うと、塚内が二人に伝える。
「そういう実験をしてたのかもな。改ざん・或いは消去した記憶が命令遂行に与える影響──…とか。重ねて言うが、こいつが口を割れば大きな進展につながる。プレゼントマイク、イレイザーヘッド、白雲朧の執着を呼び覚ましてほしい」
塚内達は、相澤と山田をアクリル板で隔たれた部屋へと案内し、黒霧との会話の様子を監視カメラで窺った。
『思い出話でもしろってかァ!?』
「頼むよ」
山田が言うと、塚内が三人に頼み込む。
すると相澤が塚内に尋ねる。
『ご遺族には?』
「君達でダメなら」
塚内が言うと、相澤は覚悟を決めて“個性”を使う。
「こんな気持ち悪い話を親御さんに伝えてたまるか」
相澤が“個性”を使って黒霧を睨む
窓からその様子を見ていた看守は、黒霧の脳波を測定する。
「起きてます」
「始めてくれ」
塚内が言うと、黒霧は目を覚ました。
「おや…? 合宿襲撃以来ですかね…珍しい客だ。」
相澤が見ても、黒霧の姿は変わらなかった。
それは“個性”で黒い靄に変わっているのではなく、元から黒い靄状の姿をしているという事を意味していた。
山田は、それを見て声を上げる。
「やっぱ間違えてんじゃねえのか!? こいつと白雲に共通点なんざ──…」
「死柄木弔は元気ですか? 捕まったりしてませんか?」
「知っらね━━よ!」
「そう…残念です」
山田の話を遮って黒霧が尋ねると、山田がキレながら答える。
すると相澤が黒霧に尋ねる。
「奴が気になるのか」
「ええ。彼の世話が私の使命」
「クソみてーな使命だな! あんな陰気くせーガキンチョの面倒見るのが使命だなん……」
黒霧を指差して悪態をつく山田だったが、ハッとして左を見た。
相澤が鼻を擦って涙を堪えていた。
「苦ではありませんよ。放っておけないタチなんでね」
黒霧が言うと、相澤が話し始める。
「俺が、拾えないと…やりすごした子猫を、迷わず拾ってくるような奴だった」
相澤が生前の白雲の話をすると、黒霧はふいと顔を逸らす。
「話が見えませんね、何をされにここへ?」
「中途半端で二の足踏んでばかりだった。そんな俺を、いつも引っ張ってくれた」
「ここを教会か何かと勘違いなされてる」
黒霧は、相澤が何を言っても反応しなかった。
それでも相澤は話を続ける。
「お前はいつも明るくて、前だけ見てた。後先なんて考えず…! 死んじまったら全部終わりだってのに…! 俺、山田と先生やってるよ。生徒に厳しくあたってきた」
『除籍回数がえげつないって話だな』
「書類上じゃな」
グラントリノがマイク越しに言うと、山田が答える。
相澤が昨年全員除籍にしたA組の生徒達は、実はあの後全員復籍し2年A組の生徒として雄英に通っていた。
自己犠牲と命を捨てる事を履き違えた生徒達に望み通り一度“死”を与え、その上で更なる向上に努めさせるというのが相澤の教育方針だった。
2年A組の生徒達は、自分達の経歴に傷をつけた相澤に『イカレイザーヘッド』などといった渾名をつけて文句を言いつつも、全員自分達を正してくれた相澤に感謝していた。
「お前に……お前のような誰かを引っ張っていけるヒーローに…長く生きてほしいから! 白雲、でもまだお前がそこにいるのなら」
「!」
「なろうぜ…ヒーローに! 三人で!」
相澤は、目を真っ赤にして涙を流しながら黒霧に訴えかけた。
すると、黒霧の脳波が乱れ始める。
「脳波、波形に異常あり」
「つまり!?」
「動揺しています」
看守が報告するとグラントリノが尋ね、看守はグラントリノの問いかけに答える。
「脳無の製造元!! 死柄木達の居場所を!!」
塚内がマイク越しに指示を出すと、相澤が黒霧に尋ねる。
「誰がお前を変えた!? どこで脳みそをいじられた!? あの時──何も感じなかったのか!?」
すると黒霧は、動揺で声が乱れ始める。
「さっ、先刻から、何、を、仰って、い、る、のか」
「答えろ、白雲!!」
相澤が叫ぶと、黒霧が返す。
「私は黒霧。死柄木弔を守る者」
「お前は雄英高校2年A組!! 俺達とヒーローを志した」
「白雲朧!!」
「何を仰っているのかさっぱり」
相澤に続けて山田も叫ぶ。
すると黒霧ははぐらかすが、次第に黒い靄の部分が形を変えていく。
それを目の当たりにした二人は、思わず目を見開く。
それは、かつての二人の親友、白雲朧の顔だった。
「白…」
黒いモヤの中に浮かぶ白雲の顔を見た山田は、目を丸くして茫然としていた。
「モヤが形を──…」
「静かに!」
看守達も驚いていると、塚内が叫ぶ。
すると、黒霧は何かをポツポツと言い始める。
「しし、あ、ショシ」
「頑張れ!!」
相澤は、アクリル板を叩きながら叫ぶ。
すると黒霧の脳波が乱れ始め、黒霧はポツリと呟いた。
「病、院」
そう言うと、黒いモヤが霧散する。
「おい!!」
するとそこで糸が切れたかのように意識が途絶え、黒霧は応答しなくなった。
『イレイザーヘッド! プレゼントマイク!
ここまでだ、ご苦労だった!』
塚内が叫ぶと、山田は椅子に座り直して相澤に尋ねる。
「目…大丈夫か」
すると相澤は、涙を流しながら答える。
「… 渇いてしょうがねェよ…」
その後、塚内達はタルタロスの門の前で2人を見送る。
「病院、か」
「もう少し具体的な話を探れそうでしたが、お役に立てず申し訳ありません」
「とんでもない!」
相澤が塚内の手を握りながら言うと、塚内は笑顔で見送る
相澤は、黒霧の事をグラントリノに尋ねた。
「黒霧は…?」
「ショートでもしたかのように停止してる。ともかくかなりの進展だよ。あんたらもかつては生徒で、夢を追いかけた。辛い話をさせた。この恩には必ず報いる」
「脳無って…何なんですか。何の為にあんなものを…」
相澤が尋ねると、グラントリノが答える。
「わからない…ただ…これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない」
すると相澤が、一言塚内達に言った。
「進展、期待してます」
そうして相澤と山田は旧き親友と最悪の形で再会した