一部の作戦行動および戦闘記録は、DA中央司令部による閲覧制限の対象となっております。
ただし、事件発生日から一定の時間が経過したため、【機密度:低】として一部開示が許可されました。
黄昏の空の下、人気のない廃校が黒い影のように佇んでいた。風にあおられた校庭の砂塵が、錆びた鉄棒や割れた窓ガラスを鳴らす。
錦木千束は腕を返して時計に目をやり、のんきな鼻歌を口ずさみながら、廃校の入り口に立っていた。
「ふっふっふ~♪ こういうの、探検っぽくてちょっとワクワクするよねぇ」
『千束、遊びじゃないぞ。足元に注意しろ。床は老朽化している』
無線越しのミカの声は、いつも通り低くて真面目だ。
千束は肩をすくめ、朽ちた木製ドアを押し開けた。
【喫茶リコリコ】
壁のスクリーンに映るのは、古びた校舎の写真。
ミカが指先で示す。
「ターゲットは旧第一市立中学校。6名の不審者が潜伏中。全員、拳銃以上の武装を確認している」
画面の隅には赤く「老朽化・立入禁止」の文字が点滅。
「建物は危険だ。特に床が抜けやすい。慎重に進め」
千束はカウンターに頬杖をつき、退屈そうにあくびをする。
「ふわぁ……昼間から肝試しかぁ。なんかワクワクするね」
「遊びじゃないぞ」
「はいはーい。わかってるってばぁ」
【廃校・廊下】
中に入ると、空気は思った以上に暗く湿っていた。
埃とカビの匂いが鼻をつく。
床板は所々が抜け落ち、コンクリートの地面がのぞいている。
妙に新しいベニヤ板で覆われた部分もあった。
「……あれ、これ罠じゃん。落とす気まんまんてか〜」
千束はしゃがみ込み、指先で床を軽く弾く。
下は空洞。足を乗せれば真っ逆さま、という仕掛けだ。
人工的な穴を避けながら、軽い足取りで三階へ向かう。
三階廊下の奥から、微かな光が漏れている。
古い扉の隙間から覗くと――
男女五人が、ノートパソコンや機材を前に動き回っていた。
部屋の奥のモニターには、監視カメラ映像や数値ログ。
その一つに、虹色のノイズがぐるぐると流れている。
下にはプログレスバーと数字――76%。
(ん? なんか、ゲームのロード画面みたい。てかもうすぐ終わるじゃん!)
千束は扉を静かに押し開けた。
しかし、古びた蝶番は容赦なく「ギィ」と鳴る。
(やば〜)
振り返った男の視界に、千束の笑顔が飛び込んだ。
「や〜っほ。放課後の校舎でコソコソ何してるのかなぁ?」
男たちは反射的に武器を構える。
ナイフ、拳銃、伸縮式警棒。
だが、千束はニコニコしたままだ。
「はい、動いちゃダメよ〜。おとなしくお昼寝しよっか?」
最初に飛びかかってきた男の手首をひょいとかわす。
千束は片手で拳銃を抜き、足を払った。
フランジブル弾が膝を撃ち抜き、男は崩れ落ちる。
「言ったでしょ~? 動くと痛い目見るって」
二人目が拳銃を構える。
千束は柱の影に滑り込み、床を蹴って側面から撃ち抜いた。
肩と手首に命中した弾の衝撃で、男は銃を落とす。
わずか十数秒。
5人は床に転がり、呻き声を上げるだけになった。
「1……2……3……あれ、1人足りなくない?」
その瞬間、扉の近くで人影が動いた。
男は躊躇せず、千束に向かって引き金を引く。
「ちょっと……こんなところで撃たないの!」
足元の床が「バキッ」と鳴り、片足が沈む。
弾丸は……当たらなかった。
反射的に身体を捻り、弾を放つ。
弾は男の額で砕け、真っ赤な花が咲いた。
糸が切れたように、男は崩れ落ちる。
千束は残りの男を手際よく縛り上げた。
「ふぅ~、やれやれ。……ん?」
モニターに近づくと、虹色のノイズは98%で止まったまま。
処理中のアイコンがくるくる回っている。
横にはラップトップに挿さったUSBメモリ。
「……これ、何だろ。動かしたらまずいかな……ま、いっか♪」
軽く引き抜いた瞬間、ノイズが消え、部屋は静まり返った。
「ふぅん、よく分かんないけど――お持ち帰りっと♪」
指先でUSBをくるくる回し、ポケットに放り込む。
『千束、状況は?』
無線のミカが呼ぶ。
千束は窓際に腰を下ろし、足をぶらぶらさせながら答えた。
「6人とも無力化~。それと変なもの拾ったよ。あ、なんかゲームみたいなの止まっちゃった。面白かった〜」
『とにかく帰投しろ。クリーナーが向かう』
「はぁい」
夕焼けに染まる校庭へと出ると、砂埃の中にワゴン車が停まっていた。
運転席の窓が静かに下がる。
「お疲れ。千束」
「迎えありがとう♪ コハク!」
千束は助手席に飛び乗る。
ハンドルを握る少年は、短く視線をポケットに落としただけで、何も言わない。
「帰るぞ」
千束は首をかしげながらも、シートベルトを締めた。
ワゴン車は静かに廃校を後にする。
【DA機密/中央司令部】
文書番号:DA-202203xx-AA
作成者:一条 琥珀(Lily Bell)
配布制限:中央司令部/■■■限定
件名:管轄地域任務成功報告
任務日時:2022年3月xx日 17:00~18:00
任務場所:東京都内・旧第一市立中学校
任務目的:
・テロリスト排除
・周辺市民の安全確保
任務経過:
(1) 17:12 三階廊下奥にて敵6名を確認
(2) 17:13 警告後、反抗したため制圧(非致死性)
(3) 17:25 テロリストを現場でクリーナーに引き渡し、現場処理完了
任務結果:
・市民被害なし
・物的被害最小限
所見:
・廃校は老朽化により即刻解体を推奨
・敵の動機・所属は不明、中央司令部で調査予定
添付資料:
1. 現場写真(黒塗り処理済)3枚
2. 監視ログ(部分)
署名:
一条 琥珀(Lily Bell)
電子印:LB2808
承認:
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電子印:■■■■■■
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