双影のヤタガラス   作:ファンの一人

1 / 14
現在開示可能情報
 一部の作戦行動および戦闘記録は、DA中央司令部による閲覧制限の対象となっております。
ただし、事件発生日から一定の時間が経過したため、【機密度:低】として一部開示が許可されました。 


第0話:報告 廃校にて

 黄昏の空の下、人気のない廃校が黒い影のように佇んでいた。風にあおられた校庭の砂塵が、錆びた鉄棒や割れた窓ガラスを鳴らす。

 

 錦木千束は腕を返して時計に目をやり、のんきな鼻歌を口ずさみながら、廃校の入り口に立っていた。

 

「ふっふっふ~♪ こういうの、探検っぽくてちょっとワクワクするよねぇ」

 

『千束、遊びじゃないぞ。足元に注意しろ。床は老朽化している』

 

 無線越しのミカの声は、いつも通り低くて真面目だ。

 千束は肩をすくめ、朽ちた木製ドアを押し開けた。

 

【喫茶リコリコ】

 

 壁のスクリーンに映るのは、古びた校舎の写真。

 ミカが指先で示す。

 

「ターゲットは旧第一市立中学校。6名の不審者が潜伏中。全員、拳銃以上の武装を確認している」

 

 画面の隅には赤く「老朽化・立入禁止」の文字が点滅。

 

「建物は危険だ。特に床が抜けやすい。慎重に進め」

 

 千束はカウンターに頬杖をつき、退屈そうにあくびをする。

 

「ふわぁ……昼間から肝試しかぁ。なんかワクワクするね」

 

「遊びじゃないぞ」

 

「はいはーい。わかってるってばぁ」

 

【廃校・廊下】

 

 中に入ると、空気は思った以上に暗く湿っていた。

 埃とカビの匂いが鼻をつく。

 

 床板は所々が抜け落ち、コンクリートの地面がのぞいている。

 妙に新しいベニヤ板で覆われた部分もあった。

 

「……あれ、これ罠じゃん。落とす気まんまんてか〜」

 

 千束はしゃがみ込み、指先で床を軽く弾く。

 下は空洞。足を乗せれば真っ逆さま、という仕掛けだ。

 

 人工的な穴を避けながら、軽い足取りで三階へ向かう。

 

 三階廊下の奥から、微かな光が漏れている。

 古い扉の隙間から覗くと――

 

 男女五人が、ノートパソコンや機材を前に動き回っていた。

 部屋の奥のモニターには、監視カメラ映像や数値ログ。

 その一つに、虹色のノイズがぐるぐると流れている。

 

 下にはプログレスバーと数字――76%。

 

(ん? なんか、ゲームのロード画面みたい。てかもうすぐ終わるじゃん!)

 

 千束は扉を静かに押し開けた。

 しかし、古びた蝶番は容赦なく「ギィ」と鳴る。

 

(やば〜)

 

 振り返った男の視界に、千束の笑顔が飛び込んだ。

 

「や〜っほ。放課後の校舎でコソコソ何してるのかなぁ?」

 

 男たちは反射的に武器を構える。

 ナイフ、拳銃、伸縮式警棒。

 

 だが、千束はニコニコしたままだ。

 

「はい、動いちゃダメよ〜。おとなしくお昼寝しよっか?」

 

 最初に飛びかかってきた男の手首をひょいとかわす。

 千束は片手で拳銃を抜き、足を払った。

 

 フランジブル弾が膝を撃ち抜き、男は崩れ落ちる。

 

「言ったでしょ~? 動くと痛い目見るって」

 

 二人目が拳銃を構える。

 千束は柱の影に滑り込み、床を蹴って側面から撃ち抜いた。

 

 肩と手首に命中した弾の衝撃で、男は銃を落とす。

 

 わずか十数秒。

 5人は床に転がり、呻き声を上げるだけになった。

 

「1……2……3……あれ、1人足りなくない?」

 

 その瞬間、扉の近くで人影が動いた。

 男は躊躇せず、千束に向かって引き金を引く。

 

「ちょっと……こんなところで撃たないの!」

 

 足元の床が「バキッ」と鳴り、片足が沈む。

 弾丸は……当たらなかった。

 

 反射的に身体を捻り、弾を放つ。

 弾は男の額で砕け、真っ赤な花が咲いた。

 

 糸が切れたように、男は崩れ落ちる。

 千束は残りの男を手際よく縛り上げた。

 

「ふぅ~、やれやれ。……ん?」

 

 モニターに近づくと、虹色のノイズは98%で止まったまま。

 処理中のアイコンがくるくる回っている。

 

 横にはラップトップに挿さったUSBメモリ。

 

「……これ、何だろ。動かしたらまずいかな……ま、いっか♪」

 

 軽く引き抜いた瞬間、ノイズが消え、部屋は静まり返った。

 

「ふぅん、よく分かんないけど――お持ち帰りっと♪」

 

 指先でUSBをくるくる回し、ポケットに放り込む。

 

『千束、状況は?』

 

 無線のミカが呼ぶ。

 千束は窓際に腰を下ろし、足をぶらぶらさせながら答えた。

 

「6人とも無力化~。それと変なもの拾ったよ。あ、なんかゲームみたいなの止まっちゃった。面白かった〜」

 

『とにかく帰投しろ。クリーナーが向かう』

 

「はぁい」

 

 夕焼けに染まる校庭へと出ると、砂埃の中にワゴン車が停まっていた。

 運転席の窓が静かに下がる。

 

「お疲れ。千束」

 

「迎えありがとう♪ コハク!」

 

 千束は助手席に飛び乗る。

 ハンドルを握る少年は、短く視線をポケットに落としただけで、何も言わない。

 

「帰るぞ」

 

 千束は首をかしげながらも、シートベルトを締めた。

 ワゴン車は静かに廃校を後にする。

 


【DA機密/中央司令部】

文書番号:DA-202203xx-AA

作成者:一条 琥珀(Lily Bell)

配布制限:中央司令部/■■■限定

 

件名:管轄地域任務成功報告

 

任務日時:2022年3月xx日 17:00~18:00

任務場所:東京都内・旧第一市立中学校

 

任務目的:

 ・テロリスト排除

 ・周辺市民の安全確保

 

任務経過:

 (1) 17:12 三階廊下奥にて敵6名を確認

 (2) 17:13 警告後、反抗したため制圧(非致死性)

 (3) 17:25 テロリストを現場でクリーナーに引き渡し、現場処理完了

 

任務結果:

 ・市民被害なし

 ・物的被害最小限

 

所見:

 ・廃校は老朽化により即刻解体を推奨

 ・敵の動機・所属は不明、中央司令部で調査予定

 

添付資料:

 1. 現場写真(黒塗り処理済)3枚

 2. 監視ログ(部分)

 

署名:

 一条 琥珀(Lily Bell)

 電子印:LB2808

 

承認:

 ■■■■■■

 電子印:■■■■■■




感想・評価
よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。