双影のヤタガラス   作:ファンの一人

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《DA中央司令部》
 日本の治安維持組織「DA(Direct Attack)」の管理・統括を担う。大きく作戦局・情報局・開発局に分かれている。関東本部は作戦局に内包している。


第1話Scene1-1:監視社会の狭間にて

【喫茶リコリコ】

 まだ外は夜の名残を引きずっている。喫茶リコリコのカウンターに、コーヒーの香りだけがやわらかく漂っていた。薄明の店内、テレビでは早朝のニュースが淡々と流れる。

 

『先日起きた地震について、本日、独立行政法人・危機対応先端技術研究機構が会見を行いました。会見では、被害状況の確認と今後の余震への注意が呼びかけられています――』

 

 琥珀はマグカップを片手に、カウンターの向こうで画面をじっと見る。この人は、いつも大変そうだ。

 淹れたてのコーヒーをひと口。昔は、苦いだけで吐き出したくなる味だった。今は……ただ静かに、喉を落ちていく。不味いと思わなくなっただけ、俺もこっち側に馴染んだってことか。

 

 カップを置き、琥珀はちらりと時計を見る。

「もう、そろそろか」

 

 静かな店内に、足音が響く。ミカがゆっくりと姿を現した。杖をつきながらも、その佇まいには変わらぬ凛々しさがあった。

 

「おはよう、琥珀」

低く落ち着いた声。喫茶リコリコの店長、ミカだ。

「おはようございます、ミカさん」

 

 琥珀は立ち上がり、スナイパーライフルの入ったケースを持ち上げる。そのものの重さを確かめ、今日も変わらぬ一日の始まりを告げる。二人の間に、言葉は多く要らなかった。

 

「準備はできてるか?」

「いつも通り。準備万端」

 

 コーヒーの残り香が、二人を包み込むように漂った。店の外では、朝の光がゆっくりと世界を染め始めていた。

 

「じゃあ、行こうか」

 静かな決意を胸に、二人は外へと歩みを進めた。

 

【□□ビル屋上】

 

「着きました」

 

 狙撃ポイントであるビルの屋上に到着したことをミカに伝えると、すぐにトランクからレミントンM700を取り出し、組み立てを始めた。

 

「先に行ってますね」

 

 ミカの返事を待つ間も、手際よく狙撃準備を進める。屋上に響く音を最小限に抑えながら、銃の組み立てはまるで儀式のようだった。見慣れた動作だ。

 

「こちら、ミカ。狙撃ポイントに到着」

 

 インカム越しにミカの声が響く。おそらく、相手は楠木だろう。

 

 手早くスナイパーライフルを設置し、バッグから双眼鏡を取り出し、取引現場の状況を確認する。

 双眼鏡の向こうでは、リコリスが商人たちを射殺した後の光景が広がっている。

 一人、セカンドリコリスが商人の武装を解除しようとしているが、その背後には人質(あれはリコリスか?)がいる。めんどくさい事にならないといいが。

 

「琥珀。千束に電話してくれ」

 

 ミカの命令通り、スマホを取り出し、千束にコールする。6、7回目のコールの後にようやく、彼女の怠けた声が響いた。

 

『な~に琥珀。ちょっと早くない?』

 

「トラブル発生。現場に来いって」

 

『もう少しでコーヒーが落ちるとこだったのに』

 

 電話越しに、階段を駆け下りる音やエンジンをかける音が聞こえる。急いでいるようだが、正直、間に合わないだろう。

 

「そろそろ来る頃だが……リコリスがやばいぞ。どうする、撃つか?」

 

 無線の向こうでミカが質問している。

 どうするも何も、すでに商人の捕獲は失敗に終わっている。

 

 非常階段の方から足音が聞こえた。

 ファーストリコリスの赤い制服。

 彼岸花のように、赤い制服は映える。優秀さを物語る色だ。

 

『何階だっけ?』

 チサトが尋ねる。

 

「6階だ。早くしろ」

 

『ムカつくぅ。だったら琥珀が代わってよ!』

 

 悪態を吐きながらも、階段を駆け上がる音が遠くから聞こえた。

 速度が異常だ。リコリスらしい、通常の人間とは思えないスピード。

 

「アッ……」

 

 突然、取引現場に視線を戻すと、セカンドリコリスの一人がPKMを構え、乱射を始めた。

 弾が壁を、ガラスを、そして商人たちを貫いて飛び散る。

 建材が空中を舞い、窓が粉々に砕けた。

 

 ――こんなことをしたメンバーがどうなるか、分かりきっている。

 

 機関銃の音が右と左から交互に響き渡り、その音に合わせて爆発的な破壊が続く。

 

『おぉ!やるね~!』

 チサトの声が遠くから聞こえ、俺はもう、頭を抱えたくなった。

 

 これ以上ここにいる意味がない。

 

「帰還しろ」

 

 静かに命令を下す。

 無駄に戦線を拡大しても、リコリスが裏目に出るだけだ。

 

『はぁ!なにさま……』

 

 耳を貸さず、すぐに電話を切る。

 

 スナイパーライフルの収納を開始する。一分足らずで、ケースに収める。

 

 何事もなかったかのように、狙撃ポイントから撤退を始めた。


【機密/DA中央司令部】

文書番号:DA-202203xx-AA

作成者:■■■■■■

配布制限:中央司令部/■■■限定

 

件名:管轄地域任務失敗報告

 

任務日時:2022年3月dd日 05:30~07:00

 

任務場所:東京都内・〇〇ビル6階

 

任務目的:

 ・密輸銃火器(約1,000丁)の確保

 ・武器商人の確保

任務経過:

 (1) 05:40 ビル内にて武器商人12名を確認。うち2名は■■■■■■。

 (2) 05:55 商人と接敵。セカンドリコリス1体(添付資料:LC-03)が人質となる。

 (3) 06:05 ラジアータがウォールナットによるクラックを受け、通信途絶。

 (4) 06:10 セカンドリコリス(添付資料:LC-02)が独断で機銃掃射を実施、商人12名死亡。建造物損壊中度。

 (5) 07:00 現場収束。カバーストーリー「ガス爆発」にて一般報道処理。

 

任務結果:

 ・武器商人12名全員死亡

 ・銃火器確保失敗

 ・物的損害:中度

所見:

 ・当該リコリス(LC-02)の処分を検討

 ・アラート【武器取引】が誤情報であるか調査を要す

添付資料:

 1. 現場写真(黒塗り処理済) 5枚

 2. 任務担当リコリス情報(LC-01~05)

 3. 現場通信ログ(部分)

 4. 建造物被害報告

署名:

 ■■■■■■

 電子印:■■■■■■

承認:

 虎杖(司令)

 電子印:■■■■■■




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