【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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問いと答え/レッド

「レッドは、どっちがいい?」

「これ」

 ドクターに聞かれて、鶏肉の乗った皿を指差す。食堂のメニューだ。本日の日替わり定食は、鶏肉と豚肉の二択だ。ドクターはレッドの答えを聞いて、自分は豚肉を、レッドのトレーには鶏肉を乗せた。

 ──レッドは、どう思う?

 この頃良く聞く質問だった。

 なにが好きなのか? どんなところが好きなのか? なにをしたいか? どうなりたいか?

 いくつもの質問に、レッドは答える。

 ドクターはレッドに「自主性」を養ってほしいのだと言った。そして自分がどうなりたいかを常に考えてほしいと。それがレッドに下された命令(オーダー)だった。

 言われるがままにナイフを持つのではなく、己で選択してナイフを持ってほしい、らしい。言っている意味がよく理解できない。それでもドクターにそうして欲しいと言われたから、なるべく頑張ろうと思っている。

 もくもくと食事を取る。正面にいるドクターをちらりと見ながらも、周囲に気を配る。ぴくぴくと耳を動かした。

 この後には勉強がある。ドクターが作った問題を問いていくのだ。

 知らなかったことを知るのは面白い、と思う。褒めてももらえる。そうすると温かな気持ちになる。

 勉強をすることと、任務をすることは違うようで似ていると感じる。問題をひとつひとつ解いていくことと、下された任務を淡々とこなすこと。危険がない分、勉強は楽だが、じっと座っているのもそれはそれで変な気分になるけれど。ペンを持って問題を解くのと、ナイフを持って心臓に突き刺すのはあまり違いがない。

 ただ、その考えがどうやら特異らしいということには、このロドスで過ごす内に気付いた。だからといって考えが変わるわけではないが。

 ドクターはゆっくりと考えていけばいいと言う。自分は何が好きか、なにが嫌いか。なにがしたくて、なにがしたくないか。そしてひとにどう思ってほしいのか。

 レッドには家族はいない。家族とは、温かなものらしい。子供を庇護する。歩き方を教え、狩りを教え、生きるための術を教え、独り立ちするまで子供を支える。

 レッドに、ナイフの研ぎ方を教える相手はいた。だが、家族はいなかった。

 昔、ドクターに家族はいないのかと問われた。それにレッドは、いないと答えた。そしてしばし黙考した後、レッドはドクターにあなたは家族がほしいのか、と聞いた。

 あの時、のドクターの答えを今も覚えている。

 ドクターは、ロドスもまた家族のようなものかもしれないと言った。家族を知らないレッドには、それが本当かどうかは分からない。だが、そうだといいなと、今ではなんとなく思う。

 なにが好きで、なにが嫌いなのか。なにがしたくて、なにがしたくないか。

 どうしてそんな質問をされるのか、よく分からない。けれど聞かれるのであれば、好きなことは好きだと言うし、嫌いなものは嫌いだという。やりたいことは、聞かれることがなくとも別に気にせずやっているつもり。やりたくないこともあるにはあるけれど──風呂とか──、時には「やりたくない」と言ってもやらされるので、これに意味があるかよく分からない。ひとにどう思ってほしいのか、という問いにも答える。できれば仲良くなりたい。人と話すのは、どうやら楽しいことなのだと最近知った。

 食事を終えて、勉強部屋へ向かう。他の子たちはまだ来ていなかった。渡された課題を尋ねながらだが終わらせると、ドクターは採点して笑った。ノートには正解の印がいくつも並んでいる。

 ドクターが手のひらをレッドに向けた。レッドはその手を慣れた仕草で嗅いで、危険がないことを確認してから頭を下げる。

「ん、ドクターに撫でられるのは好き」

「そうか」

 心を言葉にする。いくつかある「好き」の中のひとつだ。わしわしと少し手荒に撫でるその手が、レッドは好きだった。

 もしも、と思ったことがある。

 ──もしも、レッドがウルフハンターでなければ。

 そうしたならば、レッドは家族というものを知ることができただろうか。違う道があっただろうか。

 レッドのその問いに、勉強のように聞いて答えてはくれなかった。自分で考えねばならない類なのだという。そういえば、その問いかけをしてから、こうやって「どう思う?」と聞かれるようになった気がする。

 なにが好きなのか? どんなところが好きなのか? なにをしたいか? どうなりたいか?

 いくつもの質問に、レッドは答える。

 けれど、答えられない時もある。

 眉を下げて黙り込むレッドに、ドクターはそれでも良いのだと笑った。いつか答えを見つければ良いと言う。そして答えは変わっても良いのだと言う。

 良く分からない。そう言ったレッドを、ドクターは今のように優しく撫でた。それ以上の説明は貰えなかった。どうやらこれもレッドが自分で考えねばならないらしい。

 幸いなことに時間はまだある。尽きる前に、探し出すのだ。

 温かな手が己の頭を撫でるのを受け入れながら、レッドは柔らかく目を細めた。

 

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