【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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おいしい共犯者/ラヴァ

 鍵盤に指を走らせる。音の重なりが旋律となって弾ける。滑らかな指運びは一流とは言わないまでも、長い間親しんできたことがうかがえた。

 休憩室の一角。置かれたグランドピアノの前に座り、ラヴァは軽快さの中にクールさが交じる曲を演奏していた。

 誰もいない休憩室で、ラヴァはたまにピアノを弾く。楽器の演奏でアーツの練度が高まると聞いたからだ。そして鉱石病が精神へ与える影響も緩和するらしい。趣味と呼ぶこともできるかもしれない。自分の指で音楽を奏でるというのは悪くない。

 ──終幕。

 最後の一音の余韻が消えると同時に、拍手が聞こえた。

 はっ、と振り返ると、そこにはドクターがいた。にこにことこちらを見て笑っている。

「良かったぞ」

「……そうかよ」

 ラヴァはそっけなく答えた。嬉しい気持ちはあれど、態度に出すのは恥ずかしかった。ちらりとドクターを見上げる。

「なにか用か?」

 ふたりきりの休憩室に声がよく響く。

 特に急いだ風ではないドクターの様子に、緊急ではないのだろうと当たりをつけた。自分が呼ばれるような任務もなかったはずだ。

 ちょいちょいと指で来るようにジェスチャーされ、ラヴァはピアノを丁寧に閉じて、ドクターの元へ向かった。

 微笑ましげな目で見られるので、「なんだよ?」と強めの口調で聞くと、ドクターは「いや、」と微笑んだ。

「ピアノを丁寧に扱っていて、えらいと思ってね」

「……楽しみにするやつもいるんだ、当たり前だろ」

 子供扱いするなとか、そのセリフは何目線なんだとか、掛けたい言葉はあったものの、ラヴァは飲み込んだ。変に反応するのはカッコよくない。

 ラヴァは定期的にロドスで受け入れている鉱石病の患者相手に演奏会をしている。患者たちはラヴァの演奏でも嬉しそうに聞いて、拍手をしてくれた。その時のことを思い出して、小さく頬を緩める。

 と、ドクターの手が伸びてきて、くしゃりと頭を撫でられた。

「なっ! ……んだよ」

 そうは言いながら、ラヴァはドクターの手を受け入れた。ドクターは「わるい、わるい」と全く悪いと思っていなさそうに謝りながらもなお撫でる。他人に触れられるはあまり好きではないはずなのに、いつの間にか、ドクター相手には強く出られなくなっていた。

 しばらくして、ラヴァは口を開いた。

「…………そろそろやめろ」

 それに素直に引いていく手に、若干の物寂しさを覚えたものの、心の中で首を振った。

 ──なにを残念に思っているんだ! クールじゃないぞ!

 意識を変えるようにこほん、と咳をすると、ラヴァは改めてドクターを見た。

「で、なんだよ」

「ああ、おやつの誘いをしようかと思ってね」

 ──おやつ。

 その言葉に、目はキラリと輝く。これまでも何度かあったお茶会の誘いだ。

 ドクターはラヴァの姉に食事制限を受けているらしく、許可された以上の菓子は禁止されている。が、ラヴァがドクターが隠していた菓子をたまたま見つけてしまったのが始まりだった。そこで口を閉ざす代わりに賄賂のように菓子を渡され、今ではドクターは美味しそうな菓子を仕入れると度々ラヴァを誘うようになっていた。

「──アイツは?」

 言わずもがな、双子の姉のことである。抜かりない、とドクターは頷いた。胸を張って言う。

「彼女は今、別の任務で外に出ている」

「おおっ!」

 ラヴァもラヴァで、姉がいない間に食べられる甘いものを断る理由はなく──姉に見つかるといろいろとうるさい──、誘いに乗ることにした。

 共犯者たちは意気揚々と、(おやつ)の待つ部屋へ足を踏み出した。

 

 出された菓子にラヴァは思わず声を上げた。

「これ、よく手に入ったな!」

 大きなモンブランケーキ。ひと目見ただけで美味しいと分かるものだった。

 ドクターは食べる菓子に制限を設けられているくせに、どこからかこういうものを調達してくるのだ。聞いてもはぐらかされるので詳細は知らないが、ラヴァは職員の中に協力者がいるのではないかと睨んでいる。ラヴァもラヴァで、ドクターにお返しとして菓子を渡すことがあるので、きっとそういう相手が何人かいるのだろうと思う。

 それはそれとして、今はこのモンブランだ。ラヴァはドクターが一口食べたのを見て、自分もフォークを刺した。口に含む。

 ぱっと表情が明るくなった。ラヴァはいつもクールを気取っているが、こういう時は年相応の表情を見せるのだ。ドクターはそれを見るのが面白くて餌付けしているところもあるのだが、本人はそのことを知らなかった。

 夢中に食べるラヴァを見ながら、ドクターもまたフォークでケーキをすくった。口に広がる柔らかな甘さに、同じように頬を緩める。

 ぽつりぽつりと雨だれのように会話をしながら、ケーキを消費していく。味わうのに忙しく、時折沈黙が落ちるが気まずくはなかった。そう思える程度には、ドクターと一緒に過ごしている。

 最後の一口を終えて、ラヴァは、ほう、と満足の息を吐いた。

「ん、食べた食べた。…………なんだよ?」

 ラヴァは訝しげな顔をした。先に食べ終えていたドクターが、ラヴァの様子をにこにこと眺めているのに気づいたのだ。それにドクターは曖昧な笑みを浮かべると、なんでもないと手を振った。

 そのくすぐったいような視線で、なんとなく何を思われていたのかは分かる。が、口を開いて藪をつつくのも嫌だ。

 結局、ラヴァはため息を吐いて諦めた。

 それから、ただ茶を飲んで喋るだけの時間を過ごした。菓子を食べるも好きだが、この時間も、ラヴァは嫌いではなかった。

 カップの中が空になって、ラヴァは立ち上がった。

「うまかった。世話になったな」

 名残惜しい気もするが、相手にはこれから仕事がある。長く時間を拘束するのも悪いだろう。

 ドクターも立ち上がると、ラヴァを出口まで送った。

「また誘うよ」

「……ん、楽しみにしてる。アタシも今度なにか持ってくるよ」

「ああ」

 じゃあな、と手を上げる。ドクターの、またな、という声を背に聞きながら、部屋を出た。

 今日はケーキだったから、次はどうしようか。足取り軽く廊下を歩きながら考える。

 己からふんふんと無意識に鼻歌が零れるのを、ラヴァはしばらくの間気付かなかった。

 

 

 

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