【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
部屋の外からバタバタと走る音が聞こえた。どうやらこの部屋を目指しているらしい。いったい誰だろうと、慌ただしい足音の主を予想するが、勢いよくドアを開けて入ってきたのは予想外の人物だった。
はあはあと荒い息で肩を上下させるのは、フェンだ。いつもの彼女ならば生真面目に毎度ノックをして、ドクターの了承の声があるまでは部屋に入ってこないというのに、今日は随分と急いでいたらしい。
彼女は大きく息を吸い込むと、一心にドクターを見つめて叫んだ。
「ドクター! ドクターが辞めてしまうって、本当ですかっ!?」
「………………ん?」
一体何事かと浮かそうとしていた腰が中途半端に止まる。ドクターがフェンの言葉を咀嚼しきる前に、フェンは早口で言葉を続けた。
「ドクターが、ロドスを辞めると、聞きましたっ」
全速力で駆けてきたのだろう、息が苦しいのか息継ぎで言葉が途切れがちになる。しかし眉根を寄せて苦しそうな様子は息苦しさだけではないかもしれない。彼女はひどく取り乱しているようだった。
ドクターがなにも言えずにいると、肯定されたとでも思ったのか彼女は顔をこわばらせた。そして叫ぶ。
「ロドスには、私達には、ドクターが必要です! ビーグルやハイビスは泣くだろうし、ラヴァやクルースも嘆くと思います。それに私だって……!」
顔を赤くさせ、目を潤ませたフェンが祈るようにドクターを見つめた。
「どうか、どうか……! 私が言っても仕方ないのかもしれないですが、辞めないでいただけないでしょうか?」
彼女の目からは今にも涙がこぼれそうだった。悲痛に顔を歪めて懇願してくる。
部屋に奇妙な沈黙が落ちる。ドクターは固まっていた動きを再開すると、フェンの前に立った。ゆっくりと口を開く。正直に言って気まずかった。
「…………なんの話だ?」
「っ! 秘密されていたのかもしれませんが、聞いてしまったんです。惚けずとも──」
言い募るフェンを手を上げて遮って、口を開ける。本気で分からないという表情をした。
「いや、本当になんの話だ? 私はロドスを辞めるのか?」
「えっ」
彼女と無言で見つめ合う。前のめりだったフェンは徐々にまっすぐと体を戻した。彼女は体の前で組んでいた手を落ち着かないように動かす。
「先程、ドクターの部屋から出ていった職員の方が話しているのを聞いたのですが……」
「少し前に、鉱石病へのアプローチの仕方を少し変える、という話はしたな」
「…………。では、ロドスを辞める予定は……?」
「今のところは全くないな」
フェンは形容し難いうめき声を上げて、顔を覆った。手の隙間から真っ赤な頬が見える。
「……失礼しました。私の勘違いのようです……先程のことは、忘れてください………」
常の凛々しい様子からは想像できないような彼女の姿だった。
その様子にドクターは低く笑った。彼女はしっかりしているようで、時折せっかちな気質のせいで早とちりをして想像もしないことをやったりする。おおかた今回もそのたぐいなのだろう。
しかし思わぬ彼女の本音が聞けた。
「いや、そんなふうに言ってもらえて光栄だよ。熱烈な引き止めだったな?」
「うう……、すみません、勘弁してください」
彼女は耳まで真っ赤に染めて、しゃがみ込んだ。膝に頭を付けるようにして体を丸めている。そんな彼女の様子にドクターは機嫌良く笑った。
ドクターもしゃがみ込むと手を差し出した。真っ直ぐと彼女を見る。
「フェン、これからもよろしくな」
彼女はそろそろと顔を上げると、ゆっくりとその手を握った。顔を隠していた手を外しているため、真っ赤な顔と、涙目が見える。目が合う。
フェンははにかんだ。
「……ええ、末永くよろしくお願いできればと、思います」