【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
「やっほー」
そんな気が抜ける言葉で、手を上げて執務室に入ってきたのはテンニンカだった。ドクターは手を止めた顔を上げる。彼女は好奇心旺盛な子犬のようにふんふんと鼻歌を歌いながら近づいてきた。
「なにやってるの?」
ひょい、と覗き込まれるが、机の上に広がっているのは専門的な言葉が多く使われた書類だ。機密事項は特にないので隠さないでいると、彼女はむむむ、と眉間に皺を寄せて口をへの字にした。いかにも「難しいです」と言っている表情に、ドクターはくすりと笑って机の中を漁った。見つけた菓子を書類を睨みつけているテンニンカの目の前に差し出す。
「ほら」
テンニンカは目の前に出現した菓子にきょとんとした顔をした後、むっとして眉を吊り上げた。
「ちょっと!」
握りこぶしを上げて、今度は「怒っています」という顔だ。
「私もう成人してるんだけど! 子供じゃないんだよ!」
だいたい、他の皆もさあ! 頭なでたり、おやつを渡してきたり! ちっちゃい子みたいに! 私は子供じゃないんだよ!
子供じゃない、とテンニンカは二度も言って地団駄を踏んだ。しかし擬音を当てはめるならば「ぷんぷん」とでも言うようなそれに、思わず口元が綻んでしまう。うんうんと子供の駄々に頷くように、手に菓子を押し付ける。
「はいはい」
「ちょっと! ドクター!」
「はいはい」
「もー! 聞いてよ!」
「はいはい、大将軍殿」
「うー、貢物のつもり?」
彼女が入隊する際に強固に主張した〝大将軍〟の名称で呼んでやれば、テンニンカは複雑な顔をしながらも怒気を収めた。そして、しかたないなあ、と言いながら菓子を受け取った。
ぴょん、と机の上に乗っかり菓子を口に含む。
「ん……、これおいひい」
小さな口をもごもごさせて、テンニンカは目尻を下げた。機嫌よく足をぷらぷらとさせて、実に幸せそうにする。先ほどまでの怒りっぷりがが嘘のようだ。身長が低いせいで子供扱いされるのだとテンニンカは考えているようだが、正直、それだけではないとおもう。ドクターはコロコロと変わるテンニンカの表情を眺めながらぼんやりと思った。
その視線が気になったのか、菓子で頬をパンパンにしながら「ん?」と見つめ返してくる彼女の手に、次の菓子を乗せる。
テンニンカは一瞬喜びに顔を明るくし、しかしすぐに訝しげにドクターの目を覗き込んだ。
「ドクター、あたしのこと、子供扱いしてない?」
「してない、してない」
「ほんと? ほんとに、ほんと?」
「ああ、ほんとに、ほんとだ」
ほんとかなあ? と首を傾げながらも、それよりも菓子への関心が勝ったのかテンニンカは手の中のものに夢中になった。それを見ながらニコニコしているドクターを誰かが見ていたならば、小さな娘を可愛がる親か、あるいは初孫に浮かれる祖父母のようだと言っただろう。まごうことなき子供扱いである。
もちろん然るべき場面では、テンニンカのことをひとりのオペレーターとして扱う。しかし戦場の外、日常の合間では、こういう扱いをしたって良いだろう。
大人は、嘘つきなのだ。