【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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特別/ミッドナイト

 積み重ねたダンボールを、ドクターはふらふらと運んでいた。顎の当たりまで隠れるほどで、往復するのは面倒だからと欲張ったのがいけなかった。視界は不明瞭、重さで重心が上手く取れない。指先は重さで白くなっていた。

「ドクター、手伝うよ。執務室までかな?」

 ふっ、と軽くなった。慌てて横を見ると、伊達男──ミッドナイトだ──がいた。ドクターが持っていた半分以上を引き受けてなお、ドクターよりも軽々と運んでいる。

「ああ、執務室まで頼む。すまないな」

「いいや、大した手間じゃないからね」

 ミッドナイトはドクターの歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれている。彼は軽薄とも取れる言葉遣いから誤解されがちだが、よく気が利く男だ。誰にだって余裕たっぷりに同じ調子で気遣ってみせる。

 が、今日のミッドナイトはなんだかいつもと様子が違った。困っている時にさっと手助けしてくれるのは同じなのだが、なんというか……。

(煤けてる……?)

 いつもは綺麗に伸ばされた背中が微妙に丸まっているし、表情もあまり覇気がない。薄く笑みを浮かべているのは同じだが、どこかどんよりとした空気を感じる。ありていに言うと、疲れているように見える。

(ミッドナイトの最近の任務はなんだったか……)

 ドクターはここしばらくの彼の仕事を思い出した。確か彼にはいくつかの任務に連続して入ってもらっていた。ミッドナイトはなかなかに立ち回りが上手く、普段のチームを離れて単独で他の隊と合同の任務をお願いしていたはずだ。

 その時の任務のメンバーを思い、ドクターは彼の疲労の原因がなんとなく分かったような気がした。彼らはいずれも個性的な者たちだった。ミッドナイトもまた〝個性的〟ではあるのだが、彼らの中に入ったならばミッドナイトは緩衝材として働いただろう。そんな任務が数度。疲れるわけである。

 彼自身にも自覚があるのか、ないのか。いや、きっとないのだろう。だからこんなふうにたまたま行きあったドクターの荷物を一緒に運んでやったりしている。

 彼の哲学は独特だ。以前に一度、なぜそんなふうに誰に対しても真心を尽くすのかと聞いたことがある。ミッドナイトは元ホストだ。ホストは客をもてなすのが仕事である。その前職の名残が、今もなお行きているのだと思っていたが。

 しかし彼が答えたのは予想外のことだった。

 幸せとはオーラみたいなものさ、と彼は言った。皆が幸せならばミッドナイト自身も幸せだし、ミッドナイトが幸せならば皆も幸せになるはず、と。

 ある意味理想的で、しかし傲慢な考えだ。しかし彼はそれを心の底から信じているらしい。彼の根底を貫く哲学であるそれゆえに、彼は他者を気遣う。

 その上、彼は皆が幸せになるための相手が、ミッドナイトでなくとも良いと思っている。同様に、彼が幸せになるために相対する相手が誰であっても良いと。客が求めるのはホストであって、ミッドナイトという個である必要がない、というのが彼の意見だった。それはホストであるミッドナイトにも言える。彼らは客であり、顔を持つ個である必要はない。互いにただ求めるものが与えられるのならば、相手がなにであっても構わないはずだ、と。

 だが、彼は変わった。それは彼の所属する隊の皆のおかげだろう。

「ああ、ちょっと待って」

 執務室に荷物を運び終え、部屋を出ていこうとするミッドナイトを呼び止める。足を止めた彼に、引き出しから取り出したものを渡した。

「ないんだい、これ」

「取引先から貰った菓子だ。荷物を運んでくれた礼と、あと最近の任務の礼だ。ひとりで多ければA6の皆で食べるといい」

 それなりに高価なやつだ。ミッドナイトを含めて舌が肥えている若干名にも満足な代物だろう。ドクターが食べてしまおうと思っていたのだが──ドクターにとってはどれくらいの量であっても菓子が多すぎるということはない──、彼に渡した方が良さそうだ。

 ミッドナイトは手渡された菓子の箱に、戸惑ったように頷いたが、A6の皆で、というところでわずかに口元をほころばせた。

「ああ……、ありがとう。うちのメンバーたちも喜ぶと思う」

 彼の中でA6は、誰でもいい相手ではない。個を必要としなかった彼を変えた者たちだ。隊の皆にとってミッドナイトでなければならないように、ミッドナイトも彼らでなくてはならない。〝特別〟だった。

 問題児たちの集まるA6と呼ばれるが、彼にとってはかけがえのない仲間たちだ。きっと思い思いの対応でミッドナイトを迎えてくれる。ドクターとしては酒でも飲みながら慰労会でもしたいところだが、こんな草臥れた様子のミッドナイトを夜まで待たせるわけにはいかない。酒の席でさえ、彼は真心を尽くそうとしそうであるし。今回についてはドクター自身が彼を労うよりも、彼の隊の方が適任だろう。

 疲労の色を覗かせながらも、足取りを軽くして部屋を出る男をドクターは微笑んで見送った。

 

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