【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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メリークリスマス!
クリスマスとはまったく関係ないですが!


嘘か誠か/マトイマル

「ドクター!」

 廊下の曲がり角から現れた相手に、マトイマルは喜色を含んだ声を上げた。よろよろと歩いてくる相手の前に、小さな旋風のような素早さで移動して顔を覗き込む。肩を揺らして笑った。

「随分と草臥れているようだな!」

 ドクターの目の下には隈があり、肩もこころなしか丸まっている。げっそりとした様子で、話を聞くところによると、どうやら先ほどまでロドスの頭脳陣たちとやりあっていたらしい。「マトイマルは、元気だなぁ……」とどこか黄昏れるように言うドクターは、徹夜をしてこれから寝るところらしい。部屋までついていっていいかと聞くと、問題ないと言われたので横を歩く。

 が、ドクターの一歩一歩が遅い。疲れが溜まっているためだろう。見かねて「運んでやろうか?」と聞くと、一瞬きょとんとした後、マトイマルの手を見て、次に顔を見て「……いや」と首を振った。

 大の大人を運ぶと言ったのがいけなかったのだろうか。しかしその後に手を見たのはなぜか。察しの悪いマトイマルでも、ドクターが何を思ったのかなんとなく分かった。マトイマルの怪力を危惧しているのだ。

 マトイマルは力が強い。戦場では頼もしいそれは、しかし日常ではそうではなかった。力がコントロールできないために、周りの物をよく壊していた。しかしそれを克服するために華道を習っている。最近では花を折ることもなく、美しく活けることができるようになっていた。

 その旨を申告して、胸を張る。

「大丈夫だ! 花よりもずっと丁寧に運ぶぜ!」

「……さすがに、花ほど軟じゃない。それに私には花と違って、きちんと足があるからな」

 しかしドクターは差し出した手をさらりと躱した。「足があるなら歩かねば」疲れが滲むものの、存外にはっきりした声がマトイマルの耳にさらりと入り込む。

「……そういうものか?」

「そういうものだ」

 なるほど、ドクターがそう言うのならば、そうなのかもしれない。マトイマルはドクターに全幅の信頼を置いている。そんな人が言った言葉だ、間違いではないだろう。たまにフェイントのように嘘を教えてくるから油断はならないが。

 マトイマルは考えることが苦手だ。だが、考えずにいたら騙されて死にかけた。それで人を疑うことを覚えたのだが、それを覚えたとしても、やはりマトイマルは疑うことが下手だった。最もらしく理屈をこねられると、なるほどそうなのかと簡単に騙されてしまう。体の良いカモで、前よりも騙されることは少なくなったものの、以前騙されやすいことは変わらなかった。

 しかしドクターは違う。マトイマルが騙されそうになっていることに気付けば警告を発してくれるし、マトイマルの性質を理解して導いてくれる。マトイマルはドクターのことが大好きだった。

 以前、そういったことをドクターに直接言ったことがある。

 あれは重要な任務を任されたときで、確か危険度から参加の可否はオペレーターに任されていたのだった。だがマトイマルはすぐに「是」を返したのだ。それに、ドクターはもっと考えなくていいのかと聞いた。マトイマルは「ドクターが言うことだから」と笑ったのだ。ドクターはマトイマルを騙さず、裏切らず、導いてくれる人だから、これは必要な作戦で、マトイマルを指定したのは、それがマトイマルにできると思ったからだろう、と。にこにこと笑うマトイマルに、ドクターは真剣な表情で忠告した。

『もっと疑ってくれ。私だって、ひどい嘘をつくかもしれないぞ。そもそも今まで何度か嘘をついたこともあっただろう……』

 マトイマルはキョトンとした。思い返してみれば確かにドクターは何度か嘘を付いたことがあった。だがそれはいずれもからかいと呼んで良いものだった。「砂サソリは美味い」とか「オリジムシにガソリンを与えるとバクダンムシになる」とか。後で本当のことを知って、憤りつつも笑える程度のもの。

 それに、ドクターがマトイマルにそうすることがあるとすれば──。

『ドクターが我輩にウソを付くのは、きっとそれが我輩に必要だからだろう?』

 マトイマルがにかりと笑うと、なぜかドクターは「はー」とため息を吐いて顔を覆った。その様子に、なにがいけなかったのか分からないが、もう少し言葉を重ねた方がいいのかもしれない、とまた口を開いた。

『ドクターは我輩のかわりに、考えてくれ! その代わり、我輩はドクターの代わりに戦うぜ!』

 あまり運動が得意ではないドクター。あまり頭を使うのが得意ではないマトイマル。補い合って丁度いい具合だ。だから今回の任務だって、やってみせると拳を握った。しかしそんなマトイマルの決意に、ドクターは微妙な顔のままだった。それに、マトイマルは眉を下げた。

『それともドクター、我輩を裏切る予定があるのか?』

『いや、ないが』

『だったら大丈夫だな!』

『いや、それが嘘という可能性だってあるだろう……』

『そうなのか?』

 難しいことは分からない。分からないが、ドクターならば信じられる。そう信じている。そう言うと、『どうすれば伝わるんだ……』と頭を抱えながらドクターは呻いた。

 そもそもマトイマルを騙すつもりならば、「自分を疑え」なんて言ってくるはずもない。マトイマルのためを思ってそう言ってくれているのだろう。そういうところも、マトイマルは嬉しかった。

 今もマトイマルの気持ちは変わらない。ドクターは信じられると思っている。しかし。

 のろのろと自分を横を歩いている相手を見る。

 しかし、「疑え」と言われたからには、たとえ己を騙さないだろう信じている相手だろうと疑ってみるべきかもしれない。ちょっとした悪戯心も湧いてくる。ひょい、ともう一度顔を覗き込んで、その青白さに眉を寄せた。二度、三度瞬きをして、ひょいと手を伸ばす。今度は避ける間もなかったようで、ドクターはあっけなくマトイマルに抱え上げられた。

「おいっ!」

「ドクターは大丈夫と言うが、顔色がかなり悪いぜ。歩くのはまた今度にした方がいい」

 マトイマルの腕の中でドクターはジタバタと暴れていたが、しばらくすると「もうどうにでもしてくれ……」と顔を覆って諦めたように大人しくなった。

 ドクターが歩くよりも倍近く早い時間で部屋まで付いた。布団に入れるとそのまま気絶するように眠りに落ちたドクターを見て、自分の考えは間違っていなかった、とマトイマルは満足そうに頷いた。

 

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