【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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わたしを見つけて/マンティコア

 マンティコアは部屋の隅にひざを抱えて座った。ここは資料などが置かれる書庫のような部屋だ。西日が差し込むようになった時間帯だと、外のざわめきが壁を隔てて不明瞭な音として伝わってくる。部屋にいるには落ち着かず、人恋しい時によくここに足を運んだ。

 ゆっくりと目を閉じて、尻尾を体に巻き付けるようにする。そうして動かずにいると、マンティコアの形はゆるゆると部屋に溶けていくように消えていった。

 視認しづらい、というのはマンティコアの能力だった。たとえ目の前でナイフを持って立っていても、敵にそれを気づかれない。熟練の者が攻撃する段になってやっと気配が読めるようになるというほどのステルス性能。鉱石病がもたらした驚異の能力であった。

 この能力はマンティコアの武器であり、そして厄介なところでもある。

 敵に気づかれないのと同じく、味方にも気づかれないのだ。元々気配が薄いのもあって、マンティコアは他者との関係を築くのが得意ではなかった。その上コミュニケーションも不得手だ。つまりは他者に見つけてもらいにくく、仲良くなるにも難しい人間である。

 仕方がないな、と思う。マンティコアの価値はこの能力だ。この能力があるからこそロドスのオペレーターとして活躍できている。能力なくして己の価値があるのかと聞かれると、マンティコアは黙り込むしかなくなってしまうのだ。

 けれどやはり寂しい、とも思う。実体が霞のようなものだけれど、他者に存在を証明してほしかった。マンティコアがここに生きているのだと、知ってほしかった。そうでなければ生きていないのと同じではないか。誰の目にも見えない幽霊。それはぞっとする考えだった。

 能力なくしてはマンティコアの価値はないが、能力があっては他者と関われない。ジレンマだ。鬱々と考え込んで、いつまで経っても答えが出ない問題である。

 そんなことを考えてしばらくした頃、部屋のドアが開いた。入ってきたのはロドスの指揮官──ドクターだった。

 なにかのバインダーの束を抱えている。どうやら資料を返しに来たらしい。マンティコアは音を立てずに部屋の隅からその様子を見守った。

 ドクターは手慣れた様子で資料を棚に戻していった。マンティコアの方へと視線がくることもあったが、その瞳はマンティコアを素通りしていく。いつもどおりの光景だ。

「あれ?」

 しかし不意にドクターが手を止めた。首を傾げて、じっと部屋の隅──マンティコアの座る場所を見る。視線は合わないが、たしかにこちらを向いている。まさか、とマンティコアは小さく肩を揺らした。しかしすぐに首を振る。熟練のオペレーターでも気づかないのに、戦闘能力がほとんどないドクターが気づくはずがない。

 が、ドクターが発したのは己の名前だった。

「…………マンティコア?」

「えっ」

 思わず立ち上がる。急激な動作にステルスが解けた。ドクターと目が合う。にこりと笑われて、マンティコアの頬が薄く染まった。

「ど、どうして、分かったの……?」

 もしかして特殊な能力でもあるのだろうか。きゅう、と心臓が痛む。マンティコアは胸元で手を握りしめてドクターを見つめた。

 しかしそのひとはあっさりと首を振った。

「いや、ただ推理しただけだ」

 いつも物が置いてある位置に、それがなかったから。そして人ひとりしゃがめそうな空間が空いているから、と。

 そういえばマンティコアは座るためにダンボールを動かした。今の今まで、そんなことは忘れていたけれど。

 ドクターは苦笑いをして「もしかしたらと呼んでみたんだ」と言った。黙り込んだままのマンティコアに眉を下げる。

「迷惑だったか?」

「ううん!」

 マンティコアは彼女にしては珍しいほど勢いよく首を振った。そしてもう一度ゆっくり「ううん」と言う。

 突き上げるようになにかが体を巡った。それはなにかと考えて、きっと「喜び」だと思う。

 見つけてくれたことが嬉しかった。その方法は予想外だったけれど、ドクターが名を呼んだのはつまりはマンティコアを気にかけてくれていたからだ。その事実が、じわじわと胸にしみてくる。

 うつむいてきっと赤くなっているだろう顔を隠す。せっかくこうして気にしてくれているのだから、気の利いたことでも言いたいけれど、かっかと頬が火照るばかりで言葉が浮かばなかった。あの、その、と呟くばかりのマンティコアに、ドクターの手が差し伸べられた。ゆっくりと顔を上げる。

「ちょうど休憩しようと思っていたんだ。一緒にお茶でもどうだ」

「……うん、いき、たい」

 差し出された手に、マンティコアはおずおずと己の物を重ねた。

 

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