【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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お姫様にはなれないけれど/エステル

 部屋の中からでも外のにぎやかな音は聞こえてきた。今日はロドスで大きな催し──祭りのようなもの──があり、職員もオペレーターもそちらに行っている。日が傾き始めた今はいつもならば業務時間だけれど、今日は皆休みになっている。こうやって仕事をしているのはエステルも含めて、ほんの少しだろう。

 顔を上げて窓の外を見ていると、ドクターが申し訳無さそうな顔で謝った。

「悪いな、せっかくの日なのにこんなところに居させて」

「ううん……、もともと私が頼んだことだし……」

 そうだ忙しく方々を飛び回っているドクターに、エステルが時間を作ってもらったのだ。開いている日が今日しかないというから、無理を言って入れてもらったのだ。むしろ謝るべきはエステルの方だった。きっと祭りに出ている他のひとたちも、ドクターがいなくて残念に思っていることだろう。

 しかしドクターはしゅんと肩を落とすエステルが祭りに出られないことに悲しんでいると思ったのか、「さっさと終わらせよう」とエステルを鼓舞するように笑ってみせた。それに「……うん」と答えて、エステルは再び作業に向き直った。

 

 日がとっぷりと暮れて、空が真っ暗になってしばらく。外でひときわ大きな歓声と笑い声が上がった。集中していたエステルも思わず肩を揺らしたほどだ。目を白黒させて窓の外を見る。ライトアップされた広場の中心で、人々が楽しそうにくるくると踊っていた。祭りは佳境を迎えているようだ。その熱気にエステルは手を止めて見入った。そのせいで、ドクターの問いにとっさに答えられなかった。

「外が気になるか?」

「…………えっ、あ!」

 何を言われているのかすぐに理解できず、二度、三度と瞬きをしているうちに答えるタイミングを逃してしまった。今更「ううん」と首を振っても嘘だと思われてしまうだろう。それに……興味のあるなしで言えば、興味はあった。ドクターに時間を作ってもらっている手前、エステルからはそんなことは言えないが。

 困って焦っていると、しかしドクターは気にした様子はなく言った。

「私達も踊るかい?」

「ええっ!」

 エステルは思わず立ち上がった。ぴん、と尻尾が張る。エステルのその様子に、ドクターは驚いた顔をした後、仕方ない子だなというような表情で笑った。優しい笑顔だった。

「……作業の目処はたっているし、ちょっとくらい遊んでも問題ないと思うよ」

 もしかしたらドクターは本気で踊るつもりはなかったのかもしれない。冗談として口にして、けれどエステルが予想外に嬉しそうにしたから優しくしてくれたのかもしれない。

 ドクターはゆっくりとエステルの前に手を差し出すと、まるで尊い人にするように膝を折ってみせた。

「お手をどうぞ、お姫様」

 呆気にとられてその手を見る。ドクターは「ちょっとキザすぎたかな」と照れたように笑った。エステルはドクターの手の上に、己のそれをおずおずと載せた。

 エステルは昔、ドクターに「小さい時からずっと、お姫様のようになるのが夢だった」と語ったことがある。馬鹿にされないまでも、呆れられるかもしれないと予想して無意識に身構えていたエステルに、しかしドクターは「へえ、いいね」とまるでこれからだって叶えられることのように頷いた。そんなものは無理なのに。今のエステルはお姫様とは程遠いところにいる。例えるならば「化け物」、とか。鉱石病によって奇形に変異してしまった大きな角──それを見て化け物だとか、怪物だとか言われるのだ。この角がある限り、「お姫様」なんて叶わない夢のはずだ。けれどエステルはドクターのその言葉に、少しだけ救われた。

 壁を隔ててにぎやかな音楽が届く。それに合わせてエステルとドクターは踊った。といっても、エステルは凶器になる大きな角を持ち、そしてドクターはそれほど運動能力は高くない。つまりは激しい動きはできず、子供のようにただ揺れる拙いダンスだったけれど。

 エステルは自分の角がドクターに当たらないように注意しながら、ゆらゆらと揺れた。こんな近くに他人を感じることがなかった。それもドクターを、だ。恥ずかしさに動きがぎこちなくなったが、相手のドクターが気にせずに自然体なので、いつの間にか肩の力が抜けていた。そして同時に、せっかくなのだから楽しまなくては、と思う。

 ドクターと踊りながら、エステルは自分がかつてとかなり変わったことを自覚した。昔のエステルならば、こんなふうに誰かと一緒に踊ることを、純粋に楽しめなかったはずだ。自分の異形を恥じて。相手が自分の異形をどう思っているか気にして。

 けれどこのロドスに来てそれなりの時間が経った。その間に、エステルは少しだけ自分の異形を許せるようになった。

 鉱石病にならなければ、こんな角にならなければ、ロドスには来なかった。みんなには会えなかった。そしてドクターにも会えなかったはずだ。お姫様にはきっとなれない。それでも今の、みんなを護れるような、ドクターを護れるような自分も嫌いではない。そう思えるようになった。

 音楽が止む。エステルとドクターはゆっくりと手を離した。貴族がやるように、一礼。

「楽しめたか?」

 エステルは頬を桃色にしてこくりと頷く。そうしてドクターの「良かった」と笑う声に、喜色がそのまま零れたようにはにかんだ。

 




良いお年を
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