【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
「ドクター! ごめん、ちょっと匿って!」
カタパルトがばたばたと音を立ててドクターの執務室に駆け込むと、部屋の主は驚いたように目を丸くした。返事を聞かないうちに、椅子の後ろに回り込んで息を潜める。充分に時間が経って追手がないことを確認すると、大きく息を吐いた。
「どうしたんだ」
「う~ん、ちょっと姉さんを怒らせちゃってさ……」
カタパルトが「姉さん」と呼ぶのは、自身の隊の隊長だ。癖が強い者ばかりの隊員たちを文句を言いながら束ねている。職員に「幼稚園の先生」と呼ばれているのを知った時は思わず吹き出してしまった。他の者達は方向性がそれぞれ違う尖ったやつらでそれぞれ好き勝手するので、言い得て妙というやつだ。自分は幼稚園児であるとは欠片も思わないが、問題児であることは自覚している。彼女とも度々衝突している。といっても、カタパルトが騒ぎを起こし、その報告を受けた『問題児たちの保護者』である彼女がガミガミと叱るのだが。半ばそうなると分かってカタパルトは行動しているし、彼女もそれは理解しているようだった。
だが今日はミスをした。ちょっとしたいたずらを仕掛けていたのだが、少し加減を間違えて意図しない方向に怒らせてしまったのだ。悪いとは思ったが、カタパルトも怒られたくない。東洋の鬼とかいう般若のような顔になった彼女を見て、すたこらさっさと逃げてきたのだった。彼女もさすがにドクターの執務室にいるとは思わないだろう。
しかし、事の経緯を聞いたドクターはなにやら気の毒そうな顔をした。そしてぽんと肩を叩く。「残念ながら」
「ここに逃げ込んできたら、これをやらせるようにと言いつかっている」
そう言って渡されたのは大量の書類だった。彼女が事前にドクターに根回しをしておいたのだろうか。その書類はカタパルトがなんだかんだと逃げてきたものだった。
「えぇー! 殺生な! えっ、やだよ。あ、あたし、別のとこに行くっ!」
「別に行ってもいいが、これを今日中に提出しないと給料が引かれる」
「えっ! なんで!」
「隊のリーダーから通知があったはずだが」
「……そーだっけ?」
こてりと首を傾げると、にこりとただ笑顔だけが返された。どうやら逃げられないらしい。
「ちくしょー!」
結局、カタパルトはぶうぶうと言いながらなんとか書類を片付け始めた。
執務室に転がり込んだときは、「やってしまった」「ヤバい」「逃げなきゃ」としか考えていなかったのだが、書類をやっている間に熱かった頭も冷えた。思い返してみると流石にやりすぎた。わざとではなく、いうなれば不幸なタイミングが重なってしまった末の惨事というやつなのだが、元々の原因はカタパルトだ。
時折手を止めながら書類を片付けていく。その途中で、手が止まった。
「あれ、これ……」
明らかにカタパルトの仕事ではない書類が混ぜられている。内容的に怒らせた彼女のものだ。脇に避けようとして、しかし手を止めた。
「う~、あ~……」
大きな息を吐いて顔を覆う。これはたぶん彼女の意趣返しだろう。さっきの今でこんな用意ができるとは思えないので、たぶん以前のやらかしに対するペナルティかなにかだ。いつもならば駄々をこねてみるのだが、今日ばかりは脳裏に般若の彼女の顔が浮かぶ。
「しゃーない」
カタパルトは覚悟を決めてペンを握った。
書類をすべて片付け終わる頃には、ずいぶんな時間が掛かっていた。
(これで許してくれるかな……。いやー、たぶん無理だよな~……)
ドクターに提出し、確認してもらいながら思う。どうすっかな……、と頭を悩ませているとドクターが口を開いた。
「うん、問題ない」
「うっす。それじゃ、あたしは帰ります」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
そう言ってドクターは何かを差し出した。カタパルトの開いた手の上にころんと大ぶりのチョコレート菓子が乗る。
「これは?」
「んー、ご褒美? 結構疲れただろう。美味しいから食べるといい。それに──」
そして続いた言葉に、カタパルトは目を丸くした。
執務室を出て、貰ったチョコレートを口に含む。とろりと滑らかに溶けて、確かに言う通り美味しかった。そして先程の言葉を思い出す。
──彼女の好物だぞ。
その上、どこで買えるかまで教えてくれた。
(まったく……)
食えない人だ。つまりはこれを持って彼女に会いに行けということだろう。あのひとは執務室から出ていないというのに、どこまで分かっているというのだ。
正直、見透かされているようで癪に障る。が、妙案なのも確かなことで。
(ま、いっか。おいしいし)
姉さんの性格的に、多めに渡せば隊員たちにも回ってくるだろう。つまりちょっとお高いお菓子を食べれると思えば悪くない。
後日、チョコレート菓子の箱を持って隊長に献上するカタパルトがいたとか、いなかったとか。