【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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イカサマ/ギターノ

「あれっ、ドクター! 珍しいですねっ」

 遊戯室の扉を開けて入ってきた珍しい来訪者に、中にいた人々は様々に驚きの声を上げた。

 ビリヤードからボードゲーム、様々な種類の娯楽本が置かれたその部屋は、一般職員に開放された遊戯部屋だ。任務の合間の空いた時間や、休暇の際に使われることが多い。昼は比較的年齢の若い職員が集まる。健全な時間である。──しかし夜になると、それは少し姿を変える。

 大きな丸テーブルの上に広げられているのはトランプ。席に付いた者たちの前には、チップが。悔しそうに顔を歪めている者もいれば、涼し気な顔でカードを眺めている物もいる。

 ──そう、賭けトランプゲームだ。

 ロドス内でも一種の娯楽として目こぼしされている。といっても身を持ち崩すほどのめり込めば評価に響くだろうが。

 こういった場に、ドクターはあまり顔を出さない。潔癖ゆえというよりは、ただ単にあまり時間がないというだけだろう。彼の人を必要とする仕事は日々湧いて出てくる。端から処理していっても、増えこそすれ減ることはない。別に起きてから寝るまでずっと仕事をしているというわけではないが、一般職員ほどはフリーな時間はなかった。いつか覗いてみたいと思っていたものの、中々機会が掴めず訪れられなかったのだ。だが今日はちょっとしたことがあったので、寄ってみた。

「楽しそうだな」

「おっ、ドクターも入りますか?」

 座っていたひとりが、でしたらこちらに、と席を譲ってくれたので、そこに座ることにする。どうやら負けがこんでいたらしい。机の上のチップはほとんど空だった。

 参加するに当たっての説明を簡単に聞き、金をチップに変える。

「じゃあ始めましょうか!」

「うむ、シャッフルはわらわでよいかの」

 すっと手を上げたのはドクターの隣に座っているギターノだった。しかしそれは素早く却下される。

「ダメダメ、ギターノはイカサマするでしょ」

「ふむ? そんなことはしたことがないがのう」

「どの口が言うんだかっ」

 ギターノの言を否定する口調は強いものの、言葉の端が笑っている。どうやらこれは彼らのいつもの掛け合いらしい。わいわいと騒がしくなった。

 ゲームが始まってしばらく。ドクターは失わないかわりに得てもいなかった。うまい具合にするすると逃げている。

 そんなドクターが中盤近くで突如動き出した。そしてそのまま周りに牙を剥いて襲いかかる。

 一戦、二戦とチップを増やしていく。

「ぐあ~、また取られた!」

 ドクターにチップを払いながら呻く今回の敗者の様子に、周りは笑いながらも目を光らせてドクターを見た。それを涼しい顔で躱している勝者に、ギターノはゆるりと話しかけた。彼女もドクターを追いかけるように着実にチップを増やしている。ドクターに勝利の女神が微笑みそうであれば、彼女は被害のなるべく少ないように勝負から降り、そして彼女が女神を引き寄せるときは、逆にドクターが降りる。

「ほほ、幸運の風が吹いておるのう、ドクター」

「ああ、おかげさまで」

 にこり、と気負いのない笑みが返される。彼女はそれに愉快そうに笑い、心の中でまったく恐ろしい御仁じゃの、と呟いた。

 そして最終局面。

 緊迫した空気の中、机上で、そして水面下での駆け引きを制して勝ったのはドクターだった。わあっ、とギャラリーから歓声が上がる。

 そして──。

「ほ、わらわにも幸運の風が吹いたようじゃ」

 次に上がったのはギターノ。テーブルの対戦者たちはうめき声を上げる。

 ドクターとギターノの前に、ほとんどのチップが置かれている。他の面々は燦々たる有様だった。そして今回の勝負で、ほとんどすべてがドクターと彼女のものになる。

「えー、ドクターもギターノも強すぎっ! ドクターはともかく、ギターノっ、イカサマしてないよねっ!?」

「カードに細工はしておらんぞ? 他の者も見ておったじゃろ」

「ああ、変な動作はなかった」

 カードに精通しているギターノは、実に巧妙に細工をする。常に悠々とした態度の彼女がカードゲームの際はよく緊張をする。負けず嫌い故に、神経を使って普段にない面持ちで挑むのだ。そして同じく負けず嫌い故に、気づかれないほど器用に不正をする。──滅多なことでは見破れないため、その『不正』も表に出ることはないのだが。

 それでも彼女とカードゲームを楽しむものは多い。いつにない彼女の様子を楽しむ者、そして後ろのギャラリーにも居るように彼女の『不正』を見破ってやろうと目を光らせて爪を研いでいる者。

 そして今回、ギターノの不正は行われなかったようだ。眉を下げながらチップを払う面々に、ギターノは「じゃが、わらわは二位か……。どうせなら一位になりたかったのう」とうそぶく。そんな彼女の影で、ドクターが小さく笑ったことに気づいた者はいなかった。

 ──そう、カードには(・・)、細工されていなかった。

 

 今日はこれくらいで、とドクターは遊戯室を出た。「勝ち逃げだー!」「また来てね~!」とワイワイと賑やかな声に見送られて部屋を後にした。その後ろに「わらわも、そろそろ失礼するぞう」とギターノが続いた。

 誰もいない廊下をふたりは隣り合って歩く。充分に離れてから、ギターノはくつくつと笑い出した。

「どうじゃ、わらわの占いは当たったじゃろう?」

「ああ、そうだな」

 ギターノの言葉に、ドクターも思わずといった様子で笑う。

 ──今日のドクターの運勢は……、うむ、夕食後に遊戯室へ行くと良いことがあるやもしれぬ。

 昼過ぎ、たまたま居合わせた先で、そう声を掛けてきたのはギターノだった。その時点で違和感は感じていた。なぜなら彼女の占いはもっと曖昧なものだ。ここまで直接的に示唆されたことはなかった。そして去り際の、悪戯を考える子供のような顔が気にかかった。

 そうして彼女の『占い』に従って遊戯室へ行ってみたところ、あれよあれよと賭けが始まる。そして最中に、ドクターの膝を叩いたものがいた。そう、ギターノだ。彼女は巧妙にドクターに己の手の内を教え、そしてドクターを共犯者にした。ドクターの手が悪ければ彼女の支援をし、良ければ彼女から支援を受ける。

 確かにカードには細工はしなかった。けれど、ヒトにしないとは言っていない。

 ギターノは愉快愉快と喉を鳴らした。そしてそれに付き合った相手に三日月に笑った目を向ける。

「ドクター、おヌシも悪よのう」

「その台詞、そっくりそのまま返す」

 そして悪戯を成功させた悪い大きな子供たちは、誰もいない廊下で笑った。

「どうだ? 今夜は一杯付き合わぬか?」

「いいな」

 くいくいと飲む仕草をする彼女に、ドクターは頷いた。断る理由がない。なにしろ彼らの懐は、『占い』のおかげで十二分に暖かなのだから。

 

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