【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
部屋に透明な光が降り注ぐ。明けてまだそれほど時間が経っていないせいか、どこか色が薄いような気がした。
スカジは次の任務についてドクターが話すのを聞きながら、窓の外に視線を移した。冬が終わり、薄く芽を出し始めた緑に光りが反射して輝いている。木々の葉はまだ幼く、地面に落ちる影は細い。斑に陰陽が敷かれるそこを、なにを話しているのか笑顔の職員たちがあるいて行くのが見える。いつ崩れるとも分からない
「──スカジ?」
「なに?」
不意に名を呼ばれて、視線を窓から室内に移した。ドクターはわずかに眉を顰めてこちらを見ていた。
「話は聞いていたか?」
「ええ、問題ないわ」
こくりと頷くと「本当か?」というような視線を向けられるが、なぜそんな顔をされるか分からない。別に顔を向けていなければ話を聞けないわけではないだろうに。耳さえ無事ならば、あとの器官がなにをやっていたとしても音は聞こえている。
「じゃあ……」
「ねえ、その任務、厳しいの?」
「は? ……いや、特別そういうわけではないが」
「なら、私がいないといけないものかしら?」
「……いいや」
「だったら私、行かないわ」
「スカジ……」
咎めるような視線にわずかに首を傾げる。一体なにがいけないのか。数秒の沈黙の後、ドクターはまたこちらの名を呼んだ。
「スカジ」
その声色は過去にも何度か聞いたことのあるものだった。
──君は言葉が少なすぎる。
いつかだったか、このひとはスカジにそう言った。そんな風だと、人が離れていってしまうよ、と。
別に構わない、とその時は思った。スカジは厄災と対峙する身だ。他の者を危険な目に合わせたいとは思わない。自分の言動で近づいてこないというのならば、それは幸いだった。ロドスにはあくまで雇用されているだけで、それ以上の感情はない。そのはずだ。
スカジの親しい者は皆、不幸な事故にあっている。心を通わせ共に笑いあった友が、血に濡れて地に伏せる。嘆いたところで彼らを襲った理不尽がなくなるわけではなく、スカジは涙を流すことしかできなかった。そして決めたのだ。友を守るために、二度と友を作らない、と。
なぜならスカジには友を守れる自信がない。今までずっと守れなかったのだ。けれど次はうまくいくと、そんなことを考えることがどうしてできるだろう。だから他人と一線を引いた。関わらないようにした。これ以上相手が──そして自分が傷つかないように。
けれどドクターはそんなスカジを放っておかず、警告をしたというのに近づいてきて、スカジは諦めてしまった。遠ざけるのを諦めて、共に戦ってくれと願うことにした。〝戦友〟だ。スカジが友を失わないために、友も戦ってくれ、と。
それから少しだけスカジは変わった。他人を必要以上に近づけないことは変わらないけれど、無意味に反感を買うのは良くないという忠告を受け入れた。それでもスカジの言葉が少ないのは、生来のものもあり、そう簡単には直らなかった。そうした時、ドクターは嗜めるように名を呼ぶのだ。「──スカジ」、と。
まったく、言葉が足りないとこちらを注意するくせに、ドクターはといえばスカジの名を呼ぶだけなのだから、ずるい。
ふう、と息をひとつ吐いた。ほんの少し唇が尖るのは仕方がないことだろう。明瞭でない感情を、どうにか言葉に落として口を開く。
「もし行ったとしても、途中で貴方と別れるのでしょう?」
「ああ」
任務先の仕事でドクターの必要な部分を終えたら、別の任務に出る。だがオペレーターはそこに残って引き続き任務に当たる必要がある。
先程説明されていたことを確認すると、ドクターは頷いた。なんだ、分かっているならばそれ以上の説明は必要ないだろう、と口を閉じようとする。が、またじっと見つめられるので渋々続きを話す。
「そこでの任務は貴方の帰還よりも遅いでしょう?」
「……そうだな」
ドクターは途中で離脱し別の任務につくことになるが、それを片付けて帰還するよりも、残されたオペレーターたちの仕事の方が長くかかる。目線に促されてスカジは言葉を続けた。
「それに私、調整が少し残っているの」
先日の任務で大したことではないが負傷した。体を慣らすため、それ以上にまた同じことが起こらないように、その日は訓練室を借りる予定になっていた。やらずとも誰にも遅れをとるつもりはないが、せっかくだから受けておきたい。
「──だから私は、ここで待っているわ」
そう言うと、ドクターは驚いたように少しだけ目を見開くと、口元に笑みを浮かべた。ゆるりと瞳が暖かな色を帯びて、目が細まる。「分かった」と発せられた声は柔らかかった。
なんだって突然、そんなふうに態度が優しくなったのかは分からなかったが、相手が和らぐとスカジもなんとなく嬉しくなる。それだけで面倒でも言葉を足して良かったと思えるくらいには。
「スカジに〝おかえり〟と言ってもらえるように頑張るよ」
「ええ、そうして頂戴」