【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
──夢を、見ている。
地面に、仲間たちが倒れ伏している。服を赤く染めて、彼らの顔は苦悶に歪んでいた。
前触れもなくやってきた敵に、私たちは為す術もなく蹂躙された。森が踏み荒らされる。人々の悲鳴が響く。動物たちは混乱して逃げ惑った。
ぱあん、と情なく乾いた音が耳を掠る。
前を走っていた仲間がビクリと震えて、一拍後に倒れた。とっさに立ち止まろうとする私の手を、また別の仲間が引いた。何か叫んでいる。もう間に合わない、私達は逃げなくては、先に進むのよ。そういった言葉だ。その言葉の意味を私は半分だって理解できないまま、強引に手を引かれ、引きずられるようにして走った。しかしその仲間もまた、地面に倒れた。繋いでいた手が外れる。伸ばしても届かない。
──場面が変わる。
いつしか、私は静かな森にいた。歩き慣れた道を軽やかに進む。肺いっぱいに森の空気を吸い込んで、今日はなんの任務があっただろうと考える。日常は硝煙の匂いと共にあるが、信頼できる仲間がいる。辛いこともあるが、それ以上の喜びもあった。
進む、進む。そして開けた場所に出た。広場だ。さんさんと太陽が照って、植物たちを輝かせている。
息を飲む。
そこに、彼らはいた。皆、地面に倒れている。赤く流れる血さえも光が輝かせて、一瞬、その鮮やかさに目がくらむ。太陽は彼らの顔もまた明確に照らした。
皆、皆、皆、私の知っている人だった。共に戦う仲間。大切な人たち。彼らの姿を呆然と見つめる。
ざあっ、と風が髪を巻き上げた。
次の瞬間、『私』は『ファイヤーウォッチ』となっていた。ロドスに身を寄せて戦う復讐者──ファイヤーウォッチに。
倒れ伏す彼らを見る。わずかに首を傾げた。彼らを見ると、いつもならば怒りと憎しみの炎が吹き上がる。しかし、この時は違った。ただ深い悲しみと祈りがあった。
それはなぜかと考えて、すぐに思い至る。彼らの顔が穏やかだからだ。まるで眠るように目を閉じている。
風に吹かれて落ち葉が彼らに降り注ぐ。それは彼らを安寧の底へと導く手のひらのようだった。
ファイヤーウォッチは目を閉じる。
心から希う。彼ら、彼女らにどうか救いを──。
ぱちり、と泡が弾けるようにして目が覚めた。
どうやら居眠りをしていたらしい。直前まで読んでいた本が床に落ちている。それをぼんやりと眺めて、数度瞬きをした。眠気がまだ身体の奥に残っているが、いつもよりもずっと後味の良い寝起きだった。
風に乗って、ハーモニカの音が聞こえた。演者はすぐに分かった。ドクターだ。ファイヤーウォッチが教えた曲を吹いている。ところどころ失敗するが、曲調は掴めている。拙いながらも耳に心地良かった。
それが物悲しい曲なのは、ファイヤーウォッチのその時の選曲がそれだったからだろう。君が吹いているものを教えてくれと言われ、願われたままにそれを教えた。
鎮魂歌。死んだ者の魂を慰める曲。安息を希う曲。
しばしファイヤーウォッチは祈るように目を伏せた。
自分を残して死んでしまった彼らを想う。死者を慰めるその曲は、ファイヤーウォッチに復讐の煉獄の炎ではなく、眠りに落ちる死者の静寂を思わせた。熱く、自身をも焼く灼熱の炎が今ばかりは小さくなり、ただ純粋に死した彼らの悲しみを想うことができた。
ふう、と息を吐いて目を開けると、ブランケットを身体に巻いて部屋を出る。ドクターのハーモニカはまだ続いていた。
その曲が生まれる場所──ドクターの居場所へと歩を進める。元々自身がハーモニカを吹いていた場所だ。迷うことはない。
死者のためのその曲を聞きながら、しかし、と思った。
しかし、ドクターにこんな悲しげな曲ばかり吹かれていては、他の職員が心配するだろう。彼の人は復讐だけの人間ではないのだ。──ファイヤーウォッチとは違って。
かつてならば、そんなことも思えなかっただろうことに、ファイヤーウォッチは気づかない。以前ならば他者に教えるためとはいえ、鎮魂歌以外の曲をなどとは考えられなかっただろう。
そうした思考をもたらしたのは時か、あるいはロドスでの生活か。その答えを出すのはもう少し先になるだろう。囚われていた森の奥から一歩踏み出したのだと自覚は今はまだ、ない。
ブリッジには思ったとおり、ドクターがいた。今度はもう少し賑やかな曲を教えてやろうと思う。気づいて、手を振るドクターに、ファイヤーウォッチも手を振り返した。
穏やかな日差しに、銀色の髪が淡く光る。故郷とは異なる土の匂いのしない、けれど柔らかな風が、ファイヤーウォッチの頬を撫でた。