【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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プラチナの印/プラチナ

 硬質な音が部屋に響く。駒と盤がぶつかる音だ。プラチナとドクターは真剣な表情で、チェスの盤の前で対峙していた。

 プラチナが一手指すとドクターは腕を組んで唸った。それにプラチナは表面はポーカーフェイスを保ちながら、内心口角を上げた。もうプラチナはもう何度もドクターに負けてきた。

 そもそもにしてロドスの頭脳と呼ばれるドクターにハンデなしに勝てるのはよほどそちらの方面に特出して秀でた人間だけだ。プラチナはチェスは指せるが、さすがにそこまでではない。ハンデとして駒を落としてやっている。それでも勝率は高くないというのだから、ドクターのバケモノぶりが分かるといういうものだ。

 休憩時間の手慰みとしてはじめたものであったが、いつしか賭け事もするようになった。といっても、「ランチにデザートをおごる」だとか「仕事を少し手伝う」だとか大したものではない。だが今回は少しばかり特殊だった。というのは前回の掛けたもの──一緒に買い物に出かける──が支払われていないためだ。こうなった場合、ゲームの勝者がまたプラチナだった場合、新たにもうひとつねだるか、不履行のものについて更に大きな要求をしていいことになっている。つまり不履行が「ランチにデザートをおごる」だとすれば、「ディナーをおごる」にして良いし、今回の「一緒に買い物に出かける」だとしたら「一日付き合ってもらう」というように、より大きな要求が許される。まあ、あくまでも遊び(ゲーム)だ、無理なことは強いないが。

 が、所詮ゲーム、されどゲームだ。対峙しているからには負けたくないと思うものだ。

 悩んだ末に苦し紛れの一手を指すドクターの姿をプラチナが内心にやにやと眺めていると、ふとドクターは顔を上げて窓の方を見た。「あっ」と声を声を上げて指をさす。

「あっ、二アールがごきげんに踊ってる!」

「えっ!? 二アールさんがそんなこと……はっ!? ……あ────!!」

 思わず動揺したせいで、うっかりと手元が狂ってプラチナは考えていたのと別の場所に指してしまった。

「ははは、盤外戦術というやつだよ」

 犯人を睨みつけてやると、愉快愉快というように笑っている。大人げない奴である。しかし一手は一手。手を離してしまったのだからやり直せない。プラチナはじっとりとした目でドクターを見た。

 そんな視線を柳のように受け流して、ドクターは鼻歌交じりに一手指す。今度唸ったのはプラチナだった。有利に進んでいた盤面が先程のミスで差がなくなってしまった。むしろプラチナの方が不利になっている。

 うーん、と唸りながらまた一手指す。しかし相手は予想の範囲内だったのか機嫌が良さそうに駒を持ち上げる。それにプラチナは何気ない調子で話しかけた。

「ドクター、冷蔵庫に限定ケーキを隠していただろう」

「あ? ああ、あれか。あれはな、年に一回の限定品で──」

「それ、私が食べた」

「ええっ!? あっ!」

「ふっ、お返しだ」

 今度はプラチナの言葉に動揺したドクターがミスをする。ドクターは先程までの余裕はなんだったかというほど、悄然とした顔で盤面を見た。ここから巻き返すのは、医療チームの目の前で徹夜した上で暴飲暴食をするくらいレベルを必要とする。つまり、ひどく難しい。

 結局、今回のゲームもプラチナが勝った。

「で、どっちにするんだ? 追加のリクエストか? それともグレードアップ?」

「グレードアップだ」

「……聞こう」

 神妙な顔で聞く態勢に入るドクターに、プラチナはおもむろにポケットから封筒を取り出して渡した。ぐっと顔を上げる。相手の目を見る。「それで賭けの報酬だが──、」堂々と胸を張った。

「アンタの一日を貰おう」

 ドクターが封筒を開ける。中には遊園地のペアチケットが入っていた。それを見たドクターは小さく口元を緩ませる。そしてプラチナをわずかに頬を染める見て、目を細めて笑った。

「分かった。……週末、空けておいてくれ」

 

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