【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
「ドクター、これ」
「ああ、
ジュナーは滑車に載せられたダンボールをちらりと見て、バインダーに挟まれている書類をドクターに渡した。ドクターは含みのある口ぶりで頷く。
「中を検めていいか?」
「……まあ、いいけど」
ダンボールを開けると、中には『工業原料』と書かれたシンプルなパッケージが整然と並べられていた。「よくできているな……」とつぶやくドクターにジュナーは心持ち自慢げな顔をした。
ドクターはそのひとつを手に取るとジュナーを見る。
「ひとつもらっても?」
「いいよ。あっ、でも、いちおう『言って』もらおうかな」
ドクターは片眉を上げて『本当にやるのか?』と視線で訴えるが、ジュナーは『まあまあ』と笑ってドクターの目を見返した。数秒後、諦めたようにドクターはため息を吐くと、ひとつ咳払いをして口を開いた。
「〝iatebatihsako〟」
「……OK!」
ジュナーはうんと頷く。ドクターは見合う金を渡すと『工業原料』と書かれたパッケージのそれをポケットに入れた。
「ドクター! 失礼します!」
と、突然部屋の扉が空いたかと思うと医療オペレーターのひとりが入ってきた。手に資料を持っているところを見るに、ドクターへの書類の提出だろう。彼女は部屋にジュナーもいることに気づくと『ジュナーさん?』と不思議そうに首を傾げた。そしてポケットに突っ込まれたままのドクターの手を見て、ジュナーの顔を見て、そうして「あ────!」と大きな声を上げる。
「もしかして『取引』したんじゃないですか!? そうですよね!? そうなんですね!?」
ドクターたちが反論する隙間もなく彼女は怒ったように人差し指をピンと立てた。
「ダメですよ、ドクター! 甘味の摂取はちゃんと医療班を通してもらわないと! この間の健康診断の結果を忘れたんですか? しばらくドクターの食事はこちらで管理する、という話でしたよね! 言ってくれれば私が代わりの物を用意しますよ!」
もうもうっ!、と頬を膨らまさせて怒る。ドクターとジュナーはなんとも言えない表情でその様子を見つめていた。
彼女の言う『取引』は十中八九ジュナーの『おやつ取引』だ。ロドスの新人オペレーターたちは教官の意向によりそういった嗜好品の類を制限されている。もちろん食事を抜かれているとか、そういったことはない。決まった時間に食堂で食事はできる。だが『おやつ』と呼ばれるたぐいのものは少なくとも研修中は許されないのだ。
そういった際に頼りになるのがジュナーだった。彼女はどこからか『おやつ』を調達して
そしてその手をドクターも取ったのでは疑われているのだ。医療班の中でも特に栄養学に造詣が深い彼女は番犬のごとく度々『おやつ取引』を摘発して替わりに彼女手製の栄養満点(ただし味には考慮しないものとする)の菓子を完全なる善意で渡すというテロを起こしていた。
ドクターはごくりとつばを飲み込んだ。
ここで『そんなことはしていない』と言うのは簡単だ。だがそう安々と彼女は納得するだろうか?
答えは否だ。きっと完全に納得できるまで色々と調べられるだろう。
──ならば。
「……ああ、実は少し口寂しくてな。少しねだってしまった」
ドクターはわざとらしく頭をかいた。彼女の視線がそちらに向いた一瞬を縫って先程『工業原料』を入れたポケットとは別のポケットに手を突っ込んだ。そうして今度はわざとらしく元のポケットに手を入れる。
「ジュナーにもダメだと言われたんだが、どうしてもと頼んでな。悪かったな、でも返すよ」
そう言って今まさに取り出したというように
「そうなんだよねー。どうしてもって言われちゃって。これくらいだったら大丈夫かなと思ったんだ。……ごめんね?」
「むー。たしかにそれくらいの小さいものならばそこまで影響はないですけど……。でもそれ以上はダメですよ!」
素直に申告されましたし、今回は見なかったことにしてあげます! と彼女は菓子をジュナーの手からドクターの手に移した。そうしてテキパキと本来の要件だった書類をドクターに渡すと、「いつでも相談に乗りますからね! 私の栄養食が必要になったら遠慮せずに言ってくださいね!」と善意百パーセントの笑顔で言うと嵐のように去っていった。
彼女の背中を見送って、どちらともなく息を吐く。顔を合わせるとクスクスと笑いあった。
「やるじゃん、ドクター!」
「ジュナーもな」
そうしてドクターは小さなチョコレートの包みをポケットに戻すと替わりに『工業原料』を取り出した。銀色の袋を破って中身を取り出す。出てきたのは先程の小包とは比べ物にならないほど大きなチョコレートケーキ。見るからにたっぷりと砂糖が使われていると分かるような代物。先程の彼女が見つけていたならば問答無用で取り上げられれていただろう。
それはジュナーが後方支援部の有志の協力者によって〝偽装〟された菓子だった。
ドクターは嬉しそうに頬張るとぐっと親指を立てた。口にものを入れたまま鼻歌を歌いそうなほど上機嫌でサラサラと書類にサインしてジュナーに返す。
「またのご利用をお待ちしています~」
ジュナーは
きっと時を待たずにロドスの『おやつ難民』たちは救われるだろう。