【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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ある日の休憩時間/グラウコス

「私って秘密主義のように見えるんでしょうか」

「どうしたんだ、急に」

 休憩中の執務室。菓子をつまみながらぼんやりとしていると、グラウコスが突然顔を上げた。そして、ほとんど無表情で──慣れた人間には落ち込んでいるのが分かる表情で──そんなことを言った。

 執務の間の休憩時間は、たまにオペレーターの相談時間になることは珍しくない。明日の服装はどうしようというような他愛もないことから、それは別に時間を取った方がいいんじゃないかというようなことまで。

 さて今回はどんなことだろうか。

 聞けば、よく一緒にいるオペレーターに「あなたは考えをひた隠しにしている」と言われたらしい。そんなつもりはないのに、とグラウコスはしゅんと眉を下げている。

 ドクターは思わず苦笑した。彼女はけっこうぼんやりとして寡黙だから、そう思われてしまっても不思議ではない。

「その顔は……。ドクターもそう思うんですね」

「まあ、たまに」

「そんなつもりはないのに……」

 グラウコスは肩を落とした。

 なんというか、グラウコスという人間は口数は少ない。ゆえに人嫌いなのかと遠慮がちにされることがあるが、そういうことでもなく。それに、話しかければちゃんと返してくる。そして話してみれば案外彼女が素直な感性を持っていることが分かるだろう。

「話すのは嫌いか?」

「べつに嫌いではないです。ただ……」

 言いよどむ彼女をじっと待つ。グラウコスは身につけているパワードスーツの表面を指でなぞった。

「ただ……その、ここに来る前はあまり……自分から話すことを許されていなくて」

 グラウコスの下肢の筋肉は弱い。成人の平均の二分の一ほどしかない。そして今も萎縮し続けている。遺伝疾患だという。

 彼女はここロドスでパワードスーツを身に着け、大地を駆ける楽しさを知った。

「だからあまり話さないのも、ただの習慣です」

「それを相手には……?」

「あの、まだ言っていません。その……ドクターにはじめに聞いてもらいたくて」

 その言葉に、思わず微笑んだ。

 グラウコスは口数こそ少ないが、話すときにはあまり言葉を飾らない。シンプルで一直線。そんなふうに言葉を操る。

「話さないでいるのは嫌だった?」

「まあ、たまに面倒だなと思うときはありましたけど。それだけです」

 かつてのグラウコスの世界はほとんど自分で完結していたのだろうと、なんとなくそう思う。外部からの刺激はあるが、自分も同じ刺激として外へ出すということをしてこなかったのだろう。だから自分を表現するという意味の言葉の使い方が拙いのではないだろうか。

 ただ、それはそのまま彼女の心が乏しい、というわけではない。

 以前グラウコスにコレクションを見せてもらったことがあった。機械の色々な部品の中に、電池がいくつか混じっていた。パワードスーツのそれと、彼女の武器のものもあった。「これは?」と聞くと「使えなくなった電池です」と答えられた。

 その答えに、なるほど、グラウコスとはこういう人間なのか、と思ったのを覚えている。

 使えなくなった電池。普通の人間にとってゴミでしかないそれは、彼女の中でそれは役に立たないものではなくコレクション足り得るものなのだ。

 彼女はモノをただのモノではなく、それが経た歴史に感情を抱くことができる。そういうものを大切にできるひとだ。

「それじゃあ、それをそのまま伝えてみたらどうだ?」

「あの……大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思うよ」

 少なくとも自分は話してもらえて嬉しかった。そう伝えるとグラウコスはうっすらと微笑んだ。

「それで、まあ、もっと話した方がいいと思うなら、そこそこ頑張ってみたらいい」

「そこそこですか?」

「そうだ。君は話すようにそこそこ頑張って、相手も話されないことにそこそこ頑張る。人間関係は持ちつ持たれつだからな。どちらか一方が頑張る必要もない」

「そういうものなんですか」

「そういうものだよ」

 まったく別の人間が一緒にいようとするならば、互いに互いの生き方をある程度は妥協しなければならない。その努力が片方にばかり求められれば、破綻しやすくなる。

 もちろん、必ず破綻するわけでもないし、もっと頑張りたい、というのならば否定はしないが。

「わかりました。そこそこ、頑張ってみます」

 グラウコスは素直にこくり、と頷いた。

 同時に、休憩時間の終わりを告げるアラームが鳴った。

 ドクターはアラームを止めて、改めて時間を設定する。……まあ、十分でいいか。

「あと一杯お茶を飲もう。それから仕事だ」

「……はい。分かりました」

 仕事に適度な休憩は必要だ。ドクターにとっては今の時間は十分に気分転換ができたが、グラウコスにとってはそれなりに気を張っていただろう。それでは休憩していたとはいえない。

 それに、菓子は気分が軽くなってから食べた方が美味しい。

 ドクターはせっかくだから、と激励も込めてとっておきの菓子をいそいそと取り出した。

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