【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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背中/アレーン

 人よりも器用な方だと思う。教わったことはそれほど労せずにできるようになるし、頭の回転も悪くない。大概のことはひとりでできる。

 だから、いけなかったのだろうか、と思う時がある。

 アレーンの両親はラテラーノの銃研究に携わっていた。アレーンの記憶にある限り、彼らはつねに忙しそうで自分たちの息子へ使うことのできる時間は限りなく少なかった。目を閉じてみても彼らの顔はぼやけていて、その背中ばかりが思い出される。

 彼らはどんな顔をしていただろう。もう写真の中でしか確かめることのできない存在になった両親をわざわざ見返すこともなく、きっと死ぬまで自分はあの背中ばかりを思い出すことになるのだろうとぼんやりと思う。

 両親が生きていた頃は、アレーンは自分がこんな道を歩むことになるとは思っていなかった。

 アレーンは鉱石病に感染し、ラテラーノから出されてリターニアへ送られた。しかしその後、陰謀に巻き込まれた両親の死によって厄介事が舞い込み──紆余曲折を経てアレーンはロドスに足を踏み入れた。

 好奇心を満たす、という点において、ロドスの戦闘オペレーターは悪くない。

 ゲームのようなものだ。頭に詰め込んでおいた戦術を試し、うまくいけば楽しいし、うまくいかずとも次のことを考えれば楽しくなれる。

 スタートとゴールを決めて、その間の空白をデザインするのだ。どのようにパズルを組み立てて、自分はどのように動き、敵はどう対応したか。馬鹿のひとつ覚えのように物量で押してくる相手に、気づかれないように誘導してひとまとめのところに爆弾を落としたりだとか、地の利を得て一方的に相手の兵を溶かしたりだとか。

 予想外のことも面白い。あっと驚くような展開があると、心が踊る。時間をかけて作った積み木が、想定外のもので崩れ落ちる。そしてそれをひっくり返すとゾクゾクする。

 どのような状況下で、相手がどう動くのか。焦りで自滅するか、胆力で覆すか。

 敵の反応を観察する時、相手の心を解剖しているような気分になる。

 なるほど、ヒトというのはそうやって行動するのか、感情をもつのか、体を動かすのか。

 それらの観察はアレーンの好奇心を満たしてくれる。そして次のゲームの役に立つ。

 他者対して実験用のマウスのような、あるいはゲームの駒のような視線を向けるのは、アレーンに感情がないわけではない。ただ、人よりも他者に興味──同じ大地に生きる人間としての興味が薄いだけだ。そしてそれは他者のみならず、己にも同じ眼差しを向けていた。怒り、泣き、傷つき、悲しむが、どこか薄膜を隔てたように、それらが遠い。己もまた駒のひとつのように思う。

 そのことを幼少期より親の干渉が薄かったための情緒の未発達、という者もいるが、アレーンにも真実は分からない。

 ただ、このところ、特に興味を惹かれる者がいた。

 課された仕事を終え、執務室へと続く廊下を歩く先で、目的の人間を見つけた。

「センセー」

 このロドスの指揮官──ドクターと呼ばれるそのひと。アレーンが先生と呼ぶひと。

 ドクターは呼びかけに振り返った。アレーンの姿を認めると、口元に笑みを浮かべて「どうした」と訊いてきた。

「あのさ、この間の任務のことなんだけど」

 時間ある? と訊ねると、「この後にミーティングがあるから、あまり時間は取れないが」と言いながら自分の執務室へアレーンを招いた。

 アレーンはドクターから戦術を学んでいた。そして任務が終わればその振り返りをする。少し前の任務の後は、ドクターが忙しく振り返りができていなかったのだ。

 ドクターの戦術は細部まで計算され尽くされている。一種の芸術に似ているように思う。ただの紙に書かれた文字が、研鑽を重ねた書評家の手に掛かれば価値をもつのと同じだ。

 普通ならば負けるだろうところで勝つ。多数の犠牲なくいられないようなところで、ほとんど犠牲を出さずに終わる。

 いくら器用だと自覚のあるアレーンといえど、ドクターほどには深く戦術を編むことができない。自然と、師事を願った。ゲームをするならレベルが高いところでやりたい。

 ドクターは忙しい。忙しいが、アレーンとの時間を定期的に取ってくれる。殺人級に忙しい場合は別として、そういう時は落ち着いてから多めの時間をもらうのだ。

 ふと、思うことがある。

 ──自分は、ドクターに〝親〟の役目を求めているのだろうか。

 与えられなかったものを取り返したいと思っている? 記憶を覗けば背中ばかりの親。顔を合わせるのが日に一度もないこともあった。当然、会話も少なかった。

 「親」と「教師」の違いはどこにあるだろう。

 どちらも、良いことをすれば褒めて、悪いことをすれば叱る。そのはずだ。

 アレーンは親からそのどちらもほとんどされなかった。……彼らはアレーンよりも銃に熱心だったから。

「……センセー」

「なんだ?」

 呼ばれて顔を上げたドクターと目が合う。そのことに、ふわりと胸の奥が暖かくなる。同時にそんなことに感情を動かされる自分が恥ずかしかった。もっと自分はひょうひょうとしていて、気楽に生きていたはずなのに。

 けれど、それが嫌ではないからたまらない。浮いていた体が地に足をつけ、その重さに煩わしさを感じようとも、〝前〟に戻りたいとは思わない。思えない。

 短い時間の振り返りは、概ね満足するもので終わった。

 前回の内容でもミスらしいミスはなかったが、いくつかは改善点があった。レポートにまとめて後で提出すると言うと、「ありがとう」と言われてくしゃりと頭を撫でられた。

「頭、ぼさぼさになっちゃうじゃん」

 アレーンは文句を言いつつも、ドクターの手から逃げなかった。数度撫でるだけで離れていく手を無意識に目で追う。「もう少し」とねだるのは自分のキャラクターと合わない。アレーンはむっつりと黙り込んだ。

 別のミーティングに行くというドクターと一緒に執務室を出て、ドクターの背中を見送る。ドクターが廊下の角に消える前にアレーンも踵を返して歩き出した。

 さて、レポートはどうやってまとめようか。自分たちが見るだけならば簡単なのだが、提出して問題がなければ作戦中の記録映像と合わせてオペレーターたちの教材になる。構成を考えて書かねばならない。

 アレーンは小さく息を吐いた。

 あの多忙な人が時間を割いてやろうと思える程度には、優秀な生徒でいてやろうと思う。

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