【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め 作:むとう
ポプカルは朝一番にドクターの執務室のドアをノックした。中から声がかかり、言われたように入る。
「おはよう、ドクター。きょうはポプカルがお手伝いに来たよ」
「ああ、おはよう」
どこかくたびれた様子のドクターにむむむと眉を寄せる。ポプカルの〝手伝い〟に求められるのはドクターの適度な休憩を促すことである。この頃は事件もなく平和なので執務室の中に護衛はいない。
ポプカルはドクターの顔をじろじろと眺めた後に、持ってきた本を片手にドクターの近くの椅子に座った。昨日は寝たと言っていたが、嘘ではないだろう。ポプカルはドクターの顔色がもっととんでもないことになっていたのを見たことがある。あれが難破直前の泥舟だとすると、今日のこれは船底に穴が空きそうな
ドクターは仕事中毒、というわけではないが、やろうと思えばいくらだって仕事が積み上げられるから、たまに手を伸ばしすぎて苦しむらしい。ドクターもドクターで自分でやりたいと手をあげた仕事でもあるから、余計に。
仕事の優先順位を振り分けることはポプカルには難しいから、そういったことは別のひとたちがやっている。ポプカルはただ時折本から顔を上げて、ドクターの様子を眺めて、疲れていそうだったら声をかけるだけだ。
昼休憩を終えてしばらくしてすこしお腹が空いてきた頃。持ってきた本は読み終えて、パズルをして遊んでいた。ちょうど絵を完成し終えたタイミングで、ポプカルはドクターに声をかけた。
心なしかドクターの細々とした動作が鈍いような気がする。もしかしたら気の所為かもしれないけれど、時間的にも休憩を取って問題ないはず。ドクターは「もう少し」を三度繰り返し、結局ポプカルに手を引かれて休憩用のテーブルに移動した。
「きょうはね、オーキッドお姉さんが焼いたクッキーを持ってきたよ」
一日ドクターと一緒にいるのだと言うと、いつもより多めに持たせてくれたのだ。
「なんだっけ、えっと、ドクター用にさとうはひかえめだって。あと〝びよう〟にいいんだって」
〝びよう〟というのがどういうものか、ポプカルにはいまいち分からないけれど、彼女が勧めるものだからきっと良いものなのだろう。
「あとね、ポプカルが淹れたお茶」
多少まごつきながらも準備をすると、ドクターはにっこりと笑って「ありがとう」と言ってくれた。それにポプカルも笑顔を返す。ポプカルのお茶は隊のみんなにも好評だ。ポプカルはお茶を淹れて「ありがとう」と微笑まれるのが好きだった。
ドクターがクッキーを摘んで「おいしい……」と呟いていたのを、あとでクッキーをくれた彼女に教えてあげようと思った。彼女もドクターの様子を気にしていたようだっただから。
それからポプカルは今日していたことだとか、隊の話だとかをした。隊のみんなから離れて彼らの話をする時、いつも気になることは決まっている。
「……みんな、ケンカしてないかな?」
ポプカルの隊は喧嘩が多い。その度にポプカルが止めに入るのだが、今日はそのポプカルがいないのでどうしているだろう。喧嘩をしていないだろうか。ポプカルがその場にいればしっかりと止めるのに。ポプカルはちらりとチェーンソーを見ながら考えた。
「あー、たぶん大丈夫じゃないか? たしか今日はミッドナイトもカタパルトもそれぞれ別の任務が入っていたはずだ」
「あ! そういえば、そういってたかも……。だったら、だいじょうぶかな……」
のこるメンバーはふたり。どちらかというとどちらも仲裁に入る側だから、喧嘩をする可能性は限りなく低いだろう。
安心すると途端に眠たくなってきた。腹に物を入れて満足したのもあるだろう。「ふわぁ……」とあくびをすれば、ドクターは微笑ましげに笑った。
「眠るといい」
「でも……仕事が……」
「そんなにずっとは眠らないだろう? 一時間もしたら起こすさ」
「うん……じゃあ……。…………ドクター……ちゃんと起こしてね……?」
「ああ」
ソファーに横になれば、さらりと頭を撫でられる。その心地よさにますますまぶたが重くなった。
このロドスに来るまでは、己が不幸であることすら分からなかった。今でもまだ
しかし今は、安全な場所で、なんの不満も覚えず、眠ることができる。家族と呼べるような相手もいる。かつての自分が〝不幸〟であったかどうか、それは今もなお分からない。けれどたしかにこれだけは言える。今は、ほんとうに──
「しあわせ……」
温かな手に頭を撫でられながら、ポプカルはぬるま湯のようなまどろみの中に落ちていった。