【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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おもしれー男であるイグゼキュターとお茶会する話


貴方のための/イグゼキュター

「ドクター、失礼します」

 そう言って執務室へ入ってきたのはイグゼキュターだ。白銀に薄青の瞳。表情はほとんどなく、硬質な印象を受ける男だ。事実、感情の起伏が少なく『機械のよう』と評されることもある。話してみるとなかなかに愉快な男なのだが、それを知っている人間はさほど多くない。

「まだ仕事をされますか」

「いや、ちょうどいいから休憩にするよ」

「承知しました」

 イグゼキュターはさっと身を翻すと外へ出て、しばらくするとまた帰ってきた。なんとなくなにをしていたのか想像はつくが、一応確認しておく。

「地雷を設置しました。これで何者も貴方の休息を妨害できません」

「あー、イグゼキュター?」

「ああ、以前貴方の意見を頂いたので、地雷は非殺傷のものにしています」

 そういうことじゃないんだが、という言葉はこの男には意味がない。『常識』というものを他者の偏見として捉え、社会通念上人々を枠に収める圧を無視して目的のために動く。Common sense is not so common.(常識はそう一般的ではない。) まあ、それはたしかに間違っていないのだが。

 勝利とは一種の幻覚で、法だけが真実だとのたまう男。少しも笑わぬ鉄面皮の男。彼はときに「機械のようだ」とも称される。

 彼は合理的で効率的だ。目的の達成のためであれば、普通(・・)の人間が考えないだろうことを当たり前に遂行する。──今の地雷の設置のように。

 ここで彼に『常識』を説いてもあまり意味がない。命令であれば従うだろうが、『理解してくれ』と願うことは彼の行動を変える理由にはなりえないのだ。

 だからドクターは彼に一枚の紙を渡した。貼り付けられるように上にはテープが付けられている。

「これをドアの前に貼っておいてくれないか」

「わかりました。ですが、わざわざする必要はないのでは?」

「……うるさかったらイヤだろう」

「なるほど」

 渡した紙には「休憩中 !地雷注意!」の文字がある。これで無防備に踏み込んでくる者はいないだろう。……おもしろがって地雷を爆発させそうな者に心当たりがあるが、まあそういう者は自業自得だ。罪のない者が不用意に踏んで無駄な怪我を負わなければいい。

 

 執務室に併設されている簡易キッチン。そこに置かれたテーブルの前にふたりして座る。

 机の上にはイグゼキュターが持参した菓子とふくよかな香りをたてる紅茶。紅茶はイグゼキュターが淹れてくれるというので任せた。意外に彼は紅茶を淹れるのがうまい。効率を考えて水でも飲んでそうなのに。

「それで、今回は?」

「はい、これです」

 イグゼキュターが菓子の蓋を開けた。現れたものを興味深く見やる。

 いつからはじまった習慣化は覚えていないが、ドクターとイグゼキュターは遠征に行った際に互いにみやげを交換するようになっていた。

 はじまりはたまたまだった。ある時、足を伸ばした先の村でおもしろいもの──オリジムシの一夜干し。いわゆるゲテモノ──を売っていて、愉快で買ったのだ。特別美味くもないが不味くもなく、まあ悪くない味だった。しかしロドスに帰って他の者にすすめてみたところ皆に遠慮され、唯一受け取ったのがイグゼキュターだったというわけだ。

 彼は丁寧に礼を述べ、しかし「味は悪くないですが、わざわざ食べるものでもない気がしますね。栄養価も特別いいというわけでもありませんし」という身も蓋もない感想を述べてくれた。だが次のひとつを勧めても特に問題なく手を伸ばし、結局そのみやげはふたりで食べ尽くした。

 なかなかシュールな時間だったな、という感想を抱いてドクターはそのことを忘れていたのだが、後日イグゼキュターは律義にも〝おかえし〟としてみやげを持参した。任務先で買ったというその地の特産だった。

 そしてまたドクターが返し、イグゼキュターも返し……、と繰り返して今がある。

「これは?」

「とても甘いらしいです」

 ドーナッツを蜂蜜で煮込んだ菓子だという。ドクターが好きそうなので、と言うイグゼキュターに思わず頬が緩んだ。

 イグゼキュターは機微に欠ける。感情の意味が理解できない。しかしそれはイコール、感情がない、というわけではない。

 ──貴方が幸せそうにしているのを見るのは悪くありません。

 いつだったか、彼がドクターを見ながら呟いた言葉だ。

 わずかな戸惑いも混じったそれは、彼自身も理解しきれていなかったのかもしれない。だがこうしてみやげの交換が途切れることなく続いていることが〝答え〟なのではないかと思う。

 彼は感情の意味が理解できないと言う。しかし同時に生き方だけで自分を否定しないロドスの者たちと話すのは気楽でいいとも言う。変人とよく呼ばれる自分をその特異性だけで排除しないことがありがたい、と。

 鉄面皮の機械人間。情緒というものが爪の先ほどもない男。しかしドクターは彼のことをおもしろいと思うのだ。

 裸で踊るのが掟と言われたとしてそれが任務遂行に最適解であれば戸惑いもなく服を脱ぎ捨てるだろう男が。結果が伴えば過程を気にしないある意味脳筋とも言える人間が。感情という枷を外した合理性の塊のような者が。

 そんなやつが。みやげなんてパッケージがご当地になっているだけのどこにでもあるクッキーでも買ってくればいいのに、ドクターの好みのものを選んで買ってくる。他人のために思考を割いている。それがどうにも嬉しいのだ。

 歯が痛くなるほどの甘さのみやげをドクターは妙にツボに入って泣き笑いをしながら、イグゼキュターは真顔でいつもの倍以上の紅茶を消費しながら食べた。

 そして遠征先でのイグゼキュターの話を聞く。

 閉じ込められたが重火器で壁を破壊して脱出したこと。目的のものを見つけたが直前で爆発で消し飛んで任務が無駄に伸びたこと。ボスらしき相手を倒した後に三度追加の戦闘があった際はさすがに眉をひそめたこと。などなど。

 アラームが鳴って休憩時間を終わりを告げる。イグゼキュターは余韻などないように立ち上がった。机には食べきれなかった悪魔的を超えた甘さの菓子が残る。

「また、時間がある時にお茶しよう。これの残りもその時に」

 ドクターは言った。たぶんこの菓子を他人に勧めるのは難しいだろう、という言葉は言わないでおく。

「はい。ですが、私はすぐに次の任務が入っています」

 つまり〝次〟はだいぶ遅い。この菓子はそこまで長くは保たないだろう。ならば、と口を開く。

「じゃあ、帰ってくる頃には別の菓子を用意しておくよ」

「はい」

 イグゼキュターはひとつ頷くと、「では」となんでもないように立ち上がって部屋を出ていった。ドクターはそれを見送ってから、ぐっと腕を伸ばす。まだ仕事は残っている。そうしてちいさな笑みが口角に上がった。

 見間違いでなければ、去っていくイグゼキュターの口元はゆるく弧を描いているように見えた。

 

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