【完結】信頼度MAXオペレータ短編詰め   作:むとう

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カシャ!/カシャ

「ホントに撮るの? 〝ロドス注意事項〟動画」

 こくりと頷いた責任者──ドクターにカシャは胡乱な目を向けた。しかしドクターは動揺することなく平然としている。

 むむむ、と頬を膨らまして──いいことを思いついたというようにカシャは顔を明るくさせた。

「わかったよ! あたしの全技術を持ってちゃーんと撮るよ。そ・の・か・わ・り!」

 ぴっと指を一本立てて要求したことに、ドクターはしばし考え込んだ後「わかった」と頷いた。

 カシャはニンマリと笑って、愛用の映像機器を手に取った。

 

 ■ ■ ■

 

「うはあー、おわったぁー!」

 カシャはソファに倒れ込むように座った。その横にドクターもドカリと音を立てて座る。

 重労働だった。とんでもなく重労働だった。

 企画書の段階から「え? それ、ホントにするの?」とか「ええ? そんなのアリ!?」というようなことがいくつもあったので覚悟はしていたのだが、思った以上にハードだった。

 当たり前の注意事項──訓練室を使った後はきちんと片付けるとか、館内の施設の入退室の注意だとかの当たり前のことはわかる。だが後半に行くにつれて、ロドス七不思議的な意味の分からないこと──ドクターの執務室の前が時折爆発するから気をつけるようにとか、どこどこの資料室は時々幽霊が出るので注意だとかもあって、混沌を極めた。

 だが、視聴者が好きそうな映える場面はめちゃくちゃあったので、とても腕が鳴ったのは確かだった。

 疲労も感じるが、その底には充足感があって、こういう気持ちになるからカシャは動画を撮るのが好きだった。

 この後に動画の精査や編集が必要だが、それは明日以降に回そう。たぶん撮影のときのように大変、大変と騒ぎながらも、自分は楽しく作業をするのだろう。

「あー、カシャ。それで、報酬の話だが……」

「あ、うん」

 ドクターが言うのは動画作成の作業代とは違って、ドクター個人が支払うと約束してくれた報酬のことだ。

 疲れただろうから、まと今度にするか? と訊かれるのを首を振って答える。

 確かに疲れてはいるが、それ以上に創作意欲というか、撮影意欲はある。どうせならば今からやりたい。そう主張するカシャに、ドクターは半笑いで頷いた。

 

「アンニュイな顔して! いいよー、いいよー!」

 艦外で地平線を見るドクターをパシャリ。

「真面目感じで! そうそう! いい感じ! いい感じ!」

 適当な事務室で──ドクターの執務室は撮影NGだった──書類に向き合うドクターをパシャリ。

 ……なにを隠そう、カシャはドクターの撮影会をしていた。

 動画作成に使う機器とは別の機器でドクターを写真におさめていく。

 なぜこんなことをするのか。カシャの趣味? いや、ある意味ではそうだが、違う。いくらカシャが撮影が好きだからといって、こういうものは畑違いだ。

 が、カシャはこうする必要があった。なぜか?

 ──ドクターのブロマイドはよく売れるのである。

 買っていくのは一部のオペレーターや職員。どこの誰というのは個人情報なので公開しない。だが、いい写真を撮るとそこそこいい値段で売れていく。

 給料はそれなりにもらっているが、それでもいいものをと思えばいくらだって金が飲み込まれていくのが映像機器である。もっと良いものを、と思えば軍資金はいくらあっても足りない。……つまりそういうことだった。

 カシャ個人の信条で盗撮はしない。となると、自然なタイミングで撮るしかなく、それができないとはいわないが、しかし場所によっては外部流出NGの時もあり。つまり、こちらが指示をして被写体になってくれるといつもの何倍も楽にいい写真が取れるということだった。……ちなみにドクターはブロマイドの料金の一部を肖像権料としてちゃっかり要求している。

 カシャは指が痛くなるほど撮影をして、ようやく、ほう、と満足を息を吐いた。

「終わりか?」

 だいぶ疲れた顔のドクターが、むしろ「終わりであってくれ……」というように訊いてきたのに顔を向ける。仕事があるとでも言って抜ければいいのに、約束をしたからとカシャが満足するまで付き合ってくれるのが律儀だなあと思う。

 おわり、と頷こうとして、「いや」と小さく首を振る。せっかくだから。

 今まで使っていた撮影機器を置くと、カシャはドクターのそばに立った。そして自撮りができる端末で自分たちを映す。

「これで最後!」

 カシャ!

 

 ■ ■ ■

 

 自室に戻って道具などを置くと、カシャはベッドに倒れ込んだ。

「あー、つかれたぁー」

 久しぶりにここまで疲れた。腕を上げるのさえ億劫だ。だが腹の底には愉快な気持ちもある。

 カシャは端末に最後に撮った写真を表示させて眺めた。

「ふふっ」

 写真の中のふたりはどちらも疲れた顔をしている。だがカシャは目の奥に熱があるし、ドクターはそれに少し圧倒されながらも許容するような笑みを浮かべている。

 数年後にこの写真を見返したとき、きっと今日あったことを鮮やかに思い出せる。そんな写真だ。

 カシャは写真を「お気に入り」のフォルダに放り込んだ。

 これはSNSにも載せないでおこう。

 広く人々に見られることも楽しいけれど。自分だけのものというのも、時に嬉しいものだから。

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