「いやだ……!いやだ……!」
今日、長年やってきたオンラインゲームが終わる。
それはクリック制の見下ろし型MMORPG「ファンタジーオメガ」で、僕はそのゲームでずっとソロプレイをしていた。
拠点を作り、侵略してくる他のプレイヤーを迎撃し、そしていつのまにか有名ギルドとなっていた。
昔は多少の他のプレイヤーも入れたこともあるが、そりがあわなくキック(BAN)をして、一人だけで楽しんでいた。
拠点ごとに作られる限界までNPCを作り、防衛や侵略などの仕事に振っていた。
「アリア……」
その中でも特にお気に入りだったのはアリアというNPCで、僕の理想の女性像をこれでもかと組み込んだキャラクターだった。
黒髪ショートカット、オッドアイ、美しい白装束、巨乳、スタイルのいいくびれ、大きな尻、透き通る声、ボーイッシュな性格、主人に絶対に仕える従順性、そして何より良き相談役だった。
ある程度AIで性格は組み込めたため、何度も試して理想的な性格にしていた。
そして拠点名の名前は不落城メドロイヤ、多くのプレイヤーが侵略に来て、結局最後まで攻略されなかった城だ。
その拠点も今日まで、そして僕は今日、
自殺する。
できればどうか、異世界転生であのファンタジーオメガの世界に、行けますように……。
「げほっげほっ」
ドアノブにベルトを引っ掛けて、睡眠薬をたくさん飲んで死のうとしたが、結局死ねなかった。
よろよろとしながら、ゲームのアイコンをクリックすると、サービスを終了しましたと出る。
「おお……」
僕は大号泣し、よろめきながら倒れる。
そしてそのまま何時間もぼーっとしていた。
僕は孤児だ。幼い時に両親が死んで、施設で育った。
でもその施設でも馴染めず、いじめられることが多かった。施設ガチャでは外れたのだろう。高圧的な施設の人たちは、僕をおどおどとした性格に成長させるのにうってつけだった。
そして無理言って生活保護で一人暮らしするようになった。
それで僕は偶然見つけたオンラインゲーム、ファンタジーオメガにハマるようになった。
現実の辛さ、醜さから逃れるにはゲームはうってつけだった。
そして食費を削り課金をして、有名ギルドとなったのだった。
三日、水だけ飲んで過ごした。
四日目からは食パンを少し齧った。
無性にお腹が空いて、七日目には普通の食事を取れるようになった。
学校を無断で休んだからか、電話がひっきりなしに鳴ったが無視していた。僕が学校に行かなくても誰も気にしない。行く必要なんてなかった。
なんとはなしにテレビを見ると、おかしなニュースが放送されていた。
「太平洋に謎の島出現!?ぼんやりと見える城のようなものは一体!?」
「島……?」
その島をよく見てみると、確かに城のようなものが見えた。
どうやら島に乗り込もうとアメリカや日本、ロシアなどの軍隊が躍起しているようだが、なぜか船やヘリコプターが何者かに迎撃されて、乗り込めないらしい。
「というかこの城、不落城メドロイヤじゃないか……!?」
僕はこの島と城についてネットで調べまくった。けどゲームと連想して考えてる人はいなさそうだった。
というかゲーム、ファンタジーオメガに対するサイトが閉鎖していた。まるで最初から何もなかったかのように、アクセスができなくなっていた。
そして公式ホームページもアクセスができない。何が起きている?
どうやら衛星写真では、人のようなものが出入りしているのが見えたようだったが、外見まではわからないようだった。
行ってみたい……けれど行く術がない。
仕方はなしに僕は久しぶりに学校に行くことにした。自分ではどうすることもできないと諦めたからだった。
「おい……あいつ来てるぜ」
「神坂くん?」
「自殺したと思ったわw」
「やめとけ、いじめがバレたら内申点下がるぞ」
「関わんなきゃいいだろ」
僕は耳を塞ぎたかったし、羞恥で肌が焼けそうだった。
無言で自分の席につき、イヤホンをつけ本を読む。
そうすればいくらか外界から閉ざして、安全にいられる。
僕は一人ぼっちで、いつもそうだった。
ーあの子が来るまではー
「転校生を紹介するぞー」
「ええ!?マジ!?」
「どんな人だろう」
そしてドアから入ってきた人を見て、僕の時間が止まった。
「みなさん初めまして、海外から来ました、私の名前はアリア・メドロイヤ。アリアと呼んでください」
「え……」
みんな呼吸を忘れていた。ショートカットの黒髪に、少し外国人じみた顔立ち、緑と青のオッドアイに、大きな胸と尻、ぷりっとした唇、艶かしい目立ち。
あまりにも美少女で、僕たちは声を出すこともできなかった。
そしてその少女はもちろん、僕が作り出したキャラクターそのものだった。
その少女が僕を見て笑う。
アリアが、求めていたアリアが、そこにいた。
「隣だね、よろしく」
「う、うん」
僕は恥ずかしくて目を合わせることもできなかった。
最初に話しかけられたのが僕だったからなのか、クラスメイトが僕に嫉妬の視線を向ける。
「君の名前は?」
「え、えと、神坂はじめって言います……」
「へえ、いい名前だね」
「あ、ありがとう」
「おい、そんなやつじゃなくて俺の名前も聞いてくれよ!」
「わたしも!」
「こいつ陰キャだから関わらない方がいいよ、犯罪犯すでしょ、こんなやつ」
「そいつキモいって」
「は?ボクは今神坂くんと話してるんだけど?」
ぞっとした。首の後ろに氷がつけられたかのように、ひやりとした。
周囲の温度が10度も下がったかのように、震えが止まらない。
みんなも冷や汗を垂らして、喋ることができなくなっている。
「ああ、ごめんね、みんなあとで話そう。今は神坂くんと話したいから、それでいいかな?」
「え、う?は、はい」
「すみませんでした……」
アリアは僕に軽くウインクした。そしてみんなはそれぞれの席に戻って行った。
「なんであんな奴が……」
「くそ、殺してえ」
「チッ」
ただ、みんなは納得してないみたいで、恐ろしい嫉妬の視線をみんなから感じていた。
アリアは僕に耳打ちする。
「ご主人様、一週間ぶりだね、後でご主人様の家に行っていいかな?」
「ひゅっ」
蕩けるような甘い美声が吐息と共に耳を通る。
「う、うん」
「じゃあ放課後、一緒に帰ろうね、ご主人」
僕は股間に熱がともるのを感じていた。
しばらく惚けて、何も考えることができなかった。
アリアが、僕に会いに来てくれた。