ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
5月初日から早くも1週間が経過した。茶柱先生の言葉を受けてクラスメイト達は真剣に授業を受けていた。須藤も頑張って黒板の字を写している。その後に分からないところを聞いて、それを教えることを繰り返していた。夜になったら綾小路の部屋で須藤に綾小路と私で勉強を教えることを1週間繰り返し続けた。
須藤は勉強を頑張っている。綾小路も教えるのが普通に上手だった。最初は私の見よう見まねだったが、どんどん自分の言葉で教えていた気がする。須藤も分かりやすかったらしく、私が料理で離れている時は綾小路が教えていた。本当に頭が良いのかもしれない。
関係ない話だけど、私はオカンかと思う日が増えている。なんでだろう?
そんなこんなで昼休み。昼食を食べ終わった私は同じく教室にいる須藤に分からないところを教えていた。それでも分からない場合は放課後に借りてきた教材を通して分かりやすく説明することになっている。
そういえば綾小路、今日の様子変だったな。たうわって叫ぶし、疲れているのかな?
「須藤、それに開道。ちょっと良いか?」
「綾小路」
「どうしたの?」
噂をしてたら綾小路が声を掛けてきた。どうしたんだろう?
「今度の中間テスト、どうするつもりなんだ?」
須藤は苦い表情をする。
「分かんねえが……今よりも難しいんだろうな」
「私は大丈夫だと思う。勉強してるから」
「そうか。須藤、良い方法がある。今日から放課後、毎日勉強会を開こうと思うんだ。参加しないか?」
「それって私達が集まってるとは別の?」
「そうだ。ちなみに勉強を教えるのは堀北だ。……オレも可能な限り教えようと思ってる」
堀北さんが勉強会やるんだ。なんか胡散臭いな。本当に須藤を勉強会に参加させたいのなら自分の口で伝えればいいのに。でもこれは須藤を赤点から回避出来るチャンスかもしれない。
「堀北か……。正直に言って胡散臭い。それに今日もいつもと同じだ。……でも、開道が一緒で明日からの話なら受けても良いと思ってる」
「須藤」
私と堀北さんの仲はよろしくない。それでも須藤は勉強会に参加する為には、私も参加するしかない。
「綾小路、私も参加する」
「……そうだな。分かった。堀北にはオレの方から言っておく」
「とにかく今日は諦めてくれ。部長に話を通してくる。勉強会は明日から参加する」
「ありがとう」
「んじゃ、続きだ。綾小路も教えてくれるか?」
「いや、池と山内も勉強会に誘うつもりなんだ。また後でな」
そう言って綾小路は離れていった。私と須藤は暫く様子を見ていたが綾小路は奮闘空しく撃沈した。
翌日の放課後。私と須藤は教室に出て図書館へと向かおうとする。昨日、綾小路が堀北さんから許可が取れたことを報告して貰った。と言っても渋々みたいだ。
「開道さん、須藤君!」
「櫛田さん?」
後ろから櫛田さん、池君、山内君、沖谷君が現れた。
「もしかして、勉強会に行くの? なら一緒に行こう」
目的地は同じみたいだ。
「分かった」
私達は図書館に一緒に行く。それにしても凄い。池君と山内君を誘うことが出来たのは櫛田さんのおかげだ。流石、クラスの人気者。……それでも危ういと思ってしまうのは勘違いなのかな。
そんなことを考えていると図書館に到着した。
「連れて来たよ~」
図書館に入ると既に綾小路と堀北さんがスペースを確保していた。
それから沖谷君、櫛田さんが勉強に参加したいと言って、堀北さんは許可した。
勉強会が始まった。まず堀北さんが今回テストで出る範囲をある程度まとめてきた。それを元に勉強をするのだが、いきなり問題が発生。最初の問題が分からないときた。
最初の問題は連立方程式だった。一応須藤には基礎で教えているが、考えている様子だった。池君と山内君は本当に分からなそうだ。沖谷君は書き始めている。
私は表を書き始めた。文章問題で分からない時は表や図に表すに限る。堀北さんも連立方程式で解くことを教える。須藤は連立方程式かと思ったみたいでノートに書こうとするが、これは文章問題だ。何をどう書けば良いのか分からなくなる。
「須藤、これを見て書いて」
そこで私は表を須藤に見せる。須藤は表と睨めっこしながら式を書き始めた。池君と山内君は櫛田さん頼りで、正直申し訳なさを感じる。
「こうか?」
どれどれ……間違ってるね。
「須藤、何処を間違えてるか分かる?」
「……そうだな」
須藤は考える。これが一番重要だ。自分の頭で考えて、何処を間違えているのか把握すること。こうすれば同じミスをすることは少なくなる。最後にテストで間違えなければ良い。今は考えて、間違えてを繰り返して初めて正解に辿り着けると思うから。
「須藤君も見て欲しいんだけど」
「あっ、わりぃ」
須藤も一度櫛田さんが書いた式を見る。これは正解だが、何処をどうやって正解に辿り着いたのか須藤には分からなかったようだ。
「どうやったらこうなるんだ? もうちょっと――」
考えさせてと言おうとしたのだろう。
「貴方達を否定するつもりじゃないけれど、あまりに無知、無能過ぎるわ」
堀北さんの不満が爆発した。棘のある言葉が飛んでくる。
「こんな問題も解けなくて将来どうしていくのか、私は想像するだけでゾッとするわ」
「俺だって考えているんだ。そんな言い方ねえだろ」
堀北さんの言葉に須藤は反論する。しかし堀北さんは止まらない。
「考えてる? いいえ、貴方は人生ずっと辛いことから逃げてきたんでしょうね」
「っ! 確かに今まで勉強してこなかった。けど、俺はバスケットのプロを目指しているんだ。その為に勉強を――」
「本当にそうかしら? 貴方はきっと自分に都合の良いルールでバスケットに取り組んできたんじゃない? 練習に対しても真摯に取り組んでいるとは思えないし。何より周囲の和を乱すような性格。私が顧問ならレギュラーには――」
「堀北さん、黙って」
私はお願い、というよりも強い口調で堀北さんに言う。堀北さんはこちらを見る。
「何故私が黙る必要があるのかしら?」
「須藤のことを何も知らないで知った風に言わないでよ」
堀北さんは須藤が夢の為に勉強をしていることを知らない。だからそんな勝手なことが言えるんだ。だけど、私の言葉は届かなかった。
「いいえ、見ていれば大体分かるわ。バスケットのプロを目指す? そんな幼稚な夢が簡単に叶う世界だとでも思ってるの? 貴方のようにすぐ投げ出すような中途半端な人間は、絶対にプロになんてなれない。仮にプロになれたとしても、納得のいく年収が貰えるとは思えない。そんな現実味のない職業を志す時点で、貴方は愚か者よ」
「っ! ……そうかよ。もうお前とはやってられねえよ」
「そう、私もよ。今すぐ、勉強を、いえ学校をやめて貰えないかしら? そしてバスケットのプロなんてくだらない夢は捨てて、バイトでもしながら惨めに暮らすことね」
「……良い夢だって、言ってくれねえのか」
「なんですって?」
「何でもねぇ、こっちの話だ。俺は抜けるぜ。こんなの、勉強会でもねえ。苦労するが、達成感はあったのによ。あばよ」
須藤は図書館から出て行った。
「可笑しなことを言うのね。勉強は苦労するもので、達成感なんて二の次よ」
堀北さんは尚、そんなことを言い続ける。堀北さんは池君とも話して、池君、山内君、沖谷君の3人も図書館から出ていく。櫛田さんも限界だったらしく、後を追うように出て行った。残ったのは私、綾小路、堀北の3人だ。
「堀北、あんた本当は馬鹿なんじゃないの?」
「なんですって」
「頭は良いのに、人の気持ちを考えられない馬鹿だよ。それに夢は理屈じゃないんだ。夢を叶えたいと努力している人を馬鹿に、何より否定することはやっちゃいけないことなんだよ」
「それは貴女の考えでしょう。私に押し付けないで」
本当に人の心とか関係ないみたいだ。……正直話すだけ無駄だ。私も参ってる部分がある。
「今日、はっきりと分かったことがある」
私は鞄を持って堀北を睨み付ける。
「私は、あんたのことが嫌いだ」
そう言い残して、私は図書館を出るのだった。
あんなにも開道が感情を剥き出しにしたところを初めて見た。理由は分からなくもない。堀北は自分が見たものだけで判断して、須藤に当たった。それが開道にとって許せなかったものなんだろう。
堀北に届いたのかは定かではないが。
「まさかあんな愚か者がいるなんてね」
「愚か者、か……」
多分、開道は自分が愚か者だと言われてもへこたれたりはしないんだろうな。きっと笑って受け流すと思う。ただ、友達を愚か者呼ばわりされるのは、少し嫌だな。
「堀北。オレから言うことはただ1つだ」
「なに?」
「友達を悪く言うのはやめてくれ。流石のオレでも怒るぞ」
「誰に何を言おうと、私の勝手よ」
「……そうか」
堀北の言葉を聞いたオレは図書館を出る。せめて櫛田には勉強会を開く為に力を尽くしてくれたお礼と謝罪をする為に探した。
まさか、櫛田の闇を見ることになるとは知らずに。