ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
オレと堀北は須藤達を再び集めるべく立ち上がった。その際、集めるには櫛田の力が必要になるが、オレは堀北に指摘する。
「堀北、言っておくが櫛田の力を持ってしても、恐らく須藤は来ないかもしれない。来たとしても、話を聞く姿勢になってくれるか怪しい」
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「開道に説得して貰う」
「開道さんに?」
「嗚呼、須藤を勉強会に参加させる為には開道の力が必要だ」
オレは開道が必要だと伝えるが、堀北はちょっとだけ納得していないみたいだった。
「分からないわね。どうして開道さんが必要なの?」
「須藤に関係がある。須藤が授業を受けるようになったのは開道が説得したからだ。それに、須藤はオレの部屋で放課後、基礎を勉強している」
堀北は驚いた表情をしながらも、その後は納得したような感じになった。
「……聞いてない、けど何処か納得する私がいることに腹が立つわ」
「初めて言ったからな。とにかく、開道に須藤を説得するように頼んでみる」
「……開道さんは私が嫌いなのよ。とても協力してくれるとは思えない。根拠はあるの?」
「無い」
オレは堂々と根拠が無いと言い切った。堀北は溜め息を吐いてしまう。だがオレは言葉を続ける。
「開道を信じろ、なんて言わない。だが、開道を信じているオレを信じてくれ」
「……分かったわ」
オレは開道に須藤をどうにか、堀北の勉強会に参加するように説得してくれと連絡を送るのだった。……頼んだぞ。
綾小路から堀北の勉強会に参加するよう須藤を説得して欲しいと連絡が来た。やっぱり本気なんだと思いながら決断した。
今、私と須藤はカフェパレットにいる。須藤はここに来たことが無いからそわそわしているみたいだ。取り合えず、ジュースでも注文してから話に入った。
「須藤、もう一度堀北がやる勉強会に参加しない?」
「あんなのは勉強会じゃねえ。それに堀北は俺の夢を否定した。それが……許せねえ」
須藤は自分の夢を否定されたことに怒りを感じているみたいだった。
「だけど、勉強しねえと赤点になっちまう。俺は、どうすれば……」
「……夢を諦めるの?」
「それは絶対にしねえ!」
須藤は否定した。堀北に夢を否定されたけど、諦めていなかった。ならやるべきことはただ1つ。
「なら、勉強して赤点を回避しなきゃね。夢を追いかける情熱を少し勉強にも分けて欲しい」
「……バスケットのプロに、なれる可能性が高くなるか?」
「勿論だよ」
あと一歩、須藤の心を押す。
「私は堀北が嫌い。だけど勉強や教えるのは上手いと思う。堀北を信じて欲しい」
「俺は……」
「私は堀北を信じてる。そんな私を、信じて」
「……嗚呼、分かった。堀北を信じるお前を、俺は信じる」
「ありがとう」
須藤の説得を終えた私は綾小路に連絡を入れる。すると扉が開く音がした。
「池に山内?」
「えっ?」
振り返ったら本当に池君と山内君がいた。どういうこと? 池君と山内君は正直ここに来るような人ではないような……
あっ、綾小路から連絡が来た。
『そうか。助かった。早速だが集合したい、カフェパレットで頼む』
『私達も、カフェパレットにいるよ。池君や山内君見えたし』
『マジ?』
『マジ』
私は須藤と共に席を移す。そこには綾小路達がいた。池君は須藤を見るなり、こう言った。
「須藤、お前からも何か言ってくれ」
須藤は一瞬私を見てから、堀北に向かう。
「堀北、俺を勉強会に参加させてくれ」
「そうだ。参加……ええっ!?」
「ま、マジかよ!?」
須藤は堀北に参加することを伝えた。そのことに池君や山内君、櫛田さんが驚いていた。驚いていないのは綾小路と堀北だけである。
「今でも俺の夢に対する言葉は忘れてねぇ」
「私は……貴方が嫌いよ須藤君」
「そうかよ。……だけど、俺は夢を諦めたくねえ。だから赤点を回避する。その為に参加すんだ」
「そうね。私はAクラスに行く為に、貴方達に勉強を教える。貴方達は、貴方達の為に勉強しなさい」
「分かったぜ。勉強を教えてくれるんなら、挑むだけだ」
この後、堀北は今までの勉強とは異なる方法を伝えた。須藤達はそれを聞いている。時々池君と山内君は分からなそうな顔をするが、それでも必死に聞いていることは分かった。堀北、やっぱり頭は良い方。
「勉強に近道や裏技なんて無いわ。それはバスケットでも同じでしょう?」
「そうだな。何度も何度も練習して、初めて上手くなる」
「その力を少しで良いから勉強の為に回して欲しい。貴方がこの学校でバスケットを続けていく為に、自分自身の可能性を捨てない為に」
「捨てない為に、か。上等だ、やってやる」
須藤は完全にやる気だ。堀北も言葉は不器用だけど須藤に歩み寄っている。池君と山内君は綾小路と櫛田さんのおかげで勉強会に参加することが出来た。私の役目は終わりかな。
「勉強会のメンバーは揃ったみたいだから、私はここら辺で――」
「何を言っているの? 貴女も勉強会のメンバーよ。教える側のね」
? 堀北は何を言っているの?
「えっ、それ聞いてないんだけど?」
「今決めたの。人数が多い方が良いと思ってね。受けるわよね?」
「全く……強引なんだから」
そう言葉では表したが、恐らく私の口角は緩んでいたと思う。
再結成した勉強会はなんだかんだ順調に回り始めていた。正直この方法では勉強の楽しさなんて2の次3の次だが……それでもみんな必死になって食らい付いていた。
今日も昼休みの20分間、図書館で勉強していた。
「フランシス・ベーコンだ!」
正解してちょっと騒がしくなっちゃった。近くにいる人達大丈夫かな?
「おい、ちょっとは静かにしろよ」
大丈夫じゃなかった。池君はへらへらと謝罪する。それじゃ怒ってしまうよ。私は代わりに謝ろうとして――
「あ? ……お前ら、ひょっとしてDクラスの生徒か?」
なんでさっきの会話だけで私達がDクラスの話になるんだろう。実際合ってるから否定はしないけど。隣の男子達は一斉に顔を上げて、私達を見回す。
「そうだけどよ」
「俺はCクラスの山脇だ。よろしくな」
私の直感が言っている。これ絶対よろしくする態度じゃないって。
「ただなんつーか、この学校が実力でクラス分けしてくれて良かったぜ。お前らみたいな底辺と一緒に勉強させられたらたまんねーからなぁ」
「……」
うわぁ、須藤怒ってる。でも言葉にしない辺り、まだ理性がある。
「本当のことを言っただけでそんな怒んなよ、赤髪。まぁ、暴力行為しても失うポイントが無いんだっけか」
「……っ」
須藤の表情がどんどん怖くなってくる。これ以上は不味い!
「私達のことを悪く言うのは構わないけど、貴方もCクラスなんでしょう? 正直自慢出来るクラスじゃないわね」
ここで堀北が乱入する。不安しかない!
堀北と山脇がお話をしている。自分の容姿について触れられた堀北が不愉快と直球で言うものだから山脇が立ち上がった。周りは止めるが、もう止められない。そして――
「大体、フランシス・ベーコンだとか言って喜んでいるが、正気か? テストの範囲外の所を勉強にしてなんになる?」
テストの範囲外?
「もしかしてテスト範囲もろくに分かってないのか? これだから不良品はよぉ」
おっと、ぼうっとし過ぎたかも。ここは私が話を変わろう。私は席を立ち山脇の前に立つ。
「そうなんだ。親切にありがとう。あとで先生に確認しにいくよ」
「ああ? なんだお前」
「だって貴方が言ったことでしょ。嘘でも先生に確認すれば分かるからね。それと、騒いじゃってごめんね」
私は手を合わせて山脇に謝る。騒いだことは事実、煽り合いに意味は無い。そもそも同じ舞台に立つ必要は無いから。
そう、私はこの場を穏便に済まそうと思ったんだ。だけど――
「不良品の癖に、調子乗んじゃねえぞ!」
そう言って山脇が詰め寄ろうとする。私が聞いた音は席から誰かが立つ音と来る音であった。
「はいはい、ストップストップ!」
ストロベリーブロンドの少女が私と山脇の間に割って入ってきた。その姿に見覚えがあった。あと、後ろに引っ張られると綾小路がいた。
「あ、綾小路……」
「大丈夫か」
「う、うん」
なんか近いけど、まるで私を守っているような感じがする。それくらい近い。
「君達、挑発が過ぎるんじゃないかな? それにこの子に向かって何かしようとしたら、すぐに学校側に連絡するところだったよ。これ以上続けたら、本当に連絡するからね」
「わ、悪かった。おい行くぞ、こんな所に居たら馬鹿が移る」
悪役が残すような捨て台詞を残して去っていった。
「君達も、ここで勉強を続けるなら、大人しくやろうね。以上っ」
「ありがとう」
ストロベリーブロンドの少女は颯爽と去っていく。
色々と考えたいことはあるが、私達には確認すべきことがあった。
「……そうか、中間テストの範囲は先週の金曜日に変わったんだったな。悪いな、お前達に伝えるのを失念していたようだ」
茶柱先生は至って平常な表情で私達に伝えた。ここまで表情に変化が無いことに恐怖すら感じてしまう。ただ、冷静になって周りを観察してみると茶柱先生のミスを注意することはおろか、表情の変化すらなかった。
私達は職員室を出る。変更された範囲は櫛田さんがみんなに伝えてくれることになった。更に須藤は明日から部活を休むことにすると言う。どうやら先程の茶柱先生の態度やCクラスに何か思う所があったようだ。
そういえば、茶柱先生はなんて言っていたっけ?
『――お前らが赤点を乗り切れる方法はあると確信している』
確信している。それがもし、赤点を取った生徒にも含まれているのなら……覚えやすい簡単な問題が出ているか、それこそ、一夜漬けでも最悪なんとかなる方法。もしかして――
「開道」
綾小路から声が掛かってくる。
「手伝って欲しいことがある」
「分かった。いつやる?」
綾小路は一瞬目を大きく見開いた。そして笑みを浮かべた。
「明日の昼休みだ」
「綾小路君、開道さん、どうしたの?」
気になった櫛田さんが質問してくる。私と綾小路は目を合わせて答えた。
「「気になることがある」」