ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
昼休み。私と綾小路は席を立って食堂に向かう。綾小路が人間観察を始めた。私も同じように人を見てみる。うーん、僅かな変化も逃しそう。すると綾小路が動き出した。きっと見つけたんだ。
綾小路と私はとある先輩の元へと移動した。先輩は3年生であった。ここは綾小路に任せて、もしもの時に備えよう。
「一昨年の一学期、中間テストの過去問を持っていますか? もし先輩が、或いは先輩のクラスメイトの中に過去問を持ってる人がいるなら、それを譲ってもらいたいんです」
過去問について問われた先輩は驚いていた。やっぱり過去問はあるんだね。
それから綾小路と先輩の交渉は続いて、過去問を譲ってくれることになった。話の最中に何人も退学になった話を打ち明けた時は、悲しみを感じた。
礼として綾小路がポイントを支払い、ついでに小テストの回答も貰えることになった。交渉成立すると、先輩は立って離れていった。
「驚かないんだな」
「うん、過去問は頭の中に浮かんでいたからね」
「違う、ポイントを使って入手したことだ。あと、過去問を使うことをずるいとか思わないのか?」
「嗚呼、私も須藤とバスケ勝負する時に先生に対してやったから特に驚きはないかな」
「先生にも交渉として使えるのか……」
「過去問に対しては、まぁ……ルールは破る為にある」
「……いや、破っちゃ駄目だろ」
私はウィンクしながら答えたが、綾小路は呆れながら返していた。
「そういえば、開道が過去問に辿り着いたのも驚いた。いつ気付いた?」
「疑問に思ったのは茶柱先生の発言。確信してるって言ってたから。過去問に気付いたのは昨日だけどね」
「意外と頭は回るんだな。須藤と勉強している時も教え慣れていたし」
「意外って……」
綾小路が意外そうな表情をする。私をなんだと思ってるんだ。同じ人間だよ。そんな会話をしていたら、綾小路が携帯を見る。過去問と小テストの回答が届いたみたい。
「どうだった?」
「一語一句全て同じだった」
「そっか。それで、どうするの? 3日前くらいにみんなに明け渡す?」
「いや、前日の方が良いだろう。まだこれは保険の域を出ない。が、有効活用するには前日の方が良い。緊張感も継続するし、勉強している時に水を差したくない」
「そうだね。問題は……誰が言うか、だよねぇ」
綾小路は不思議そうな顔をする。
「開道で良いだろ」
「いや、私って女子の一部にも嫌われてるから」
「そうなのか?」
「注意したからね、根に持ってるんじゃない? 女子は怖いよ」
「確かにな。……あっ」
「どうしたの?」
「櫛田に説明して貰おう」
確かに、みんなから信頼されている櫛田さんは適切な人物だろう。……あっ、忘れる所だった。
「綾小路、もう1つ疑問になっている、というか違和感があるんだけどさ」
「なんだ?」
「今回の赤点、変わると思う?」
中間テスト前日。私と綾小路は頭を下げて櫛田さんを説得した。
櫛田さんは綾小路が入手した過去問を配った。前日にして正解だった場面も見て取れた。更に、私の疑問である赤点が変わることも櫛田さんが伝えてくれた。これで私が出来ることは全て出来たと思う。あとは、本番に向けて頑張るだけだ。
それで今回は過去問を見ることに集中させる為、勉強会はなしにした。……この所為で大変なことになることを私達はまだ知らない。
中間テスト当日。茶柱先生が入ってくる。
「欠席者は無し、ちゃんと全員揃っているみたいだな」
茶柱先生は不敵な笑みを浮かべていた。平田君は自信をもって発言する。赤点を取る人物は出ないと。
「誰一人赤点を取らなかったら、お前ら全員夏休みにバカンスに連れていってやる」
「そうだな……青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」
ん? これは、プレッシャー? なんか感じ取っちゃうんだけど。
「な、なんだこの妙なプレッシャーは……」
「皆、やってやろうぜ!」
『うおおおおおおお!』
男子が叫び声を上げる。綾小路も混ざってたような気がする。男の子なんだから。
それから中間テストが始まった。問題を見てみると過去問と同じような問題が並んでいた。これならいけるかもしれない。
時間は進み、次は英語だった。ただ問題が起こる。須藤が寝落ちしたらしく、休み時間である今に初めて英語の過去問を見たのだ。すぐに堀北が動いてくれた。私は綾小路と櫛田さんに声を掛ける。
「綾小路、櫛田さん。ちょっと来て。それで提案があるんだ。……可能な限り点数を下げて欲しい」
私の提案を綾小路と櫛田さんは頷いて答えてくれた。無情にも休み時間は過ぎたが、後は須藤を信じるしかない。そんな気持ちで英語のテストに挑んだ。
最後のテストが終わり、私達は須藤の周りに集まった。堀北が素直に須藤を褒めたり、1つの訂正として自らバスケットのプロについて調べたらしい。須藤はどんなことがあっても、バスケのプロを目指すと言った。そして――
「今は後悔してる。バスケットの難しさ、大変さを理解していない人間が、その夢を馬鹿にする権利なんてありはしないと。須藤君、勉強会で培った努力や頑張りを忘れず、バスケットに活かして。そうすれば、貴方はプロになれるかもしれない。少なくとも私はそう感じたわ」
「あの時はごめんなさい。……私が言いたかったのはそれだけ。それじゃ」
堀北は須藤に謝罪して教室を後にした。私は驚きもありながらも、堀北の素直さを称賛して何も言葉にはしなかった。
「や、やべえ……俺……堀北に惚れちまったかも……」
中間テストの結果発表が始まった。生徒の大半は今回のテスト、良い点数で受けることが出来た。歓喜の声が上がる。だけど私はむしろ不安な気配がした。それは現実になる。
「お前は赤点だ、須藤」
茶柱先生が残酷な宣告をする。私の予想通り、赤点は変わる。赤点の求め方は平均点割る2だった。あと1点足りなかった。
これに須藤は何も言えなかった。ただ、俯いてしまっている。この状況にホッとしているクラスメイトもいた気がした。
平田君、堀北が須藤の赤点をなんとかしようと動くが、揺るがなかった。しかしまだ、全部やり尽くした訳では無い筈だ。
茶柱先生が教室を出る。その後に綾小路が動いた。綾小路はトイレと言っていたがきっと……。
私が立ち上がったのと同時に堀北も動き出した。視線が合って頷き合い、一緒に綾小路の元へと向かった。
到着した時に話していたのは過去問の話であった。綾小路が過去問を入手したことが堀北にバレた。ついでに私が一緒にいたこともだ。
「須藤の英語、そのテストの点数を、1点売って下さい」
それはそうと綾小路が茶柱先生に交渉を開始した。1点10万ポイントを支払うなら、売っても良いと言った。
「――私達も出します」
堀北と私が姿を現す。
「堀北、開道……」
「一人で何とかしようと思わないで、綾小路。堀北の言う通り、私達も出します」
「これで足りますよね」
「クク、やっぱり、お前達は面白い存在だ」
そんなにユニークなことをした覚えは、ない筈なんだけどね。私達から学生証を取り上げて、受理してくれた。
その後、堀北と茶柱先生が会話をする。Dクラスの多くは不良品だけど、ほんの少し修理、変化を与えるだけで良品へと変わる可能性を秘めていると語った。
「楽しみにしようじゃないか。担当として、行く末を温かく見守らせて貰う」
そう言って茶柱先生は職員室へと去っていった。私達はなんとか須藤を助けることが出来た。教室へと戻るのであった。
・あと1話を挟んで2巻の内容に入りたいと思います。