ようこそ開拓者がいる教室へ   作:アイボウ

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オレと私の会話

 オレ――綾小路清隆には友達がいる。灰色の髪を伸ばして、金色の目をした彼女。開道星奈とは友達である。

 

 きっかけはオレが学食に行った時である。学食に到着したのは良いが、一人で食べることが気が引けた。そんな理由もあって諦めようとした時――

 

『やっ、覗いてどうしたのかな綾小路君』

 

 オレは一瞬驚いた。そこにいたのは前の席の開道だった。オレは学食を覗いていただけだと告げるが、開道は学食に入りたいという本心を当ててみせた。入りたかったのは事実だが、1人で食べることになると思っていた。

 そんな時に開道はオレのことを誘ってくれたのだ。こんなオレを誘ってくれたことには感謝しかなかった。

 

 開道は唐揚げ定食を頼んだのは良いが、オレは無料の山菜定食を頼んでしまった。興味が湧いたのだ。いったいどんな味がするのだと。しかしオレは食べて後悔した。不味くはない、だが美味くもなかった。これではご飯が進まない。

 そんな時に開道が唐揚げを分けてくれた。条件として山菜定食を完食するように言ったが、それで唐揚げが、しかも2個付いてくるなら安いものだった。唐揚げは美味しかった。おかげでご飯が進んだ。

 

 オレは思った。開道は顔が良くて、スタイルも良い。そんな彼女と共にご飯を食べる。これは青春なんじゃないかって。思わず口にも出していたが、開道は特に何も言わなかった。

 

 それから部活動の説明会に行くこと、オレの事なかれ主義について話した。開道は事なかれ主義について否定しなかった。そして開道はオレに友達とは何かということを彼女なりの言葉で伝えてくれた。

 

『私は、友達って自分の行動によって作られるものだと思ってるんだ。数とか質とか、そんな難しいことは分からない。ただ分かるのは、たとえ同じ道じゃなくても共に歩んでくれる人だって思ってる』

 

 素直に感心した。いったいどれくらいの人達がここまで友達について語れるのか。オレは彼女が本当にそう言っているのだと思った。そして、彼女は絶対に友達を大切にする人物だと確信する。

 オレには友達が何なのか分からない。それでも……友達になりたいのだ。

 

『オレにはまだ友達がどういう意味を持って、どんな姿が相応しいのか、分からない。だから開道のように答えを探してみる。その一歩として、開道……オレと友達になってくれないか?』

 

 気付けば言葉を出していた。自分が思っていることを言う経験はこれが初めてのように思える。オレの言葉に開道は答えてくれて、友達になった。

 その後連絡先を交換もした。

 

 さて、そんなオレだが現在心にモヤモヤがあった。こんなことは初めてなことで困惑した。

 原因となる言葉は『頑張れ』だ。開道は単なる応援の言葉として使った。それは間違えではない。だけど、オレは一度も頑張れなんて言われたことはなかった。

 

 オレは事なかれ主義だから水泳の時も目立たず、補習にならなければ良いと思った。元から1位なんて考えてもいなかった。

 だが、開道に頑張れと言われた瞬間、心が熱くなった気がしたんだ。未知の経験で、応えたいと思ったんだ。事なかれ主義と応えたい気持ちがぶつかり合った気がした。

 そしてオレは迷いながらも2位を取って、5位になってしまった。

 

 開道はオレの気持ちを知らず頑張ったと言ってくれたが……違うんだ。オレは頑張ってなんていない。気付いたらこの順位になっていただけなんだ。

 それが開道の気持ちを裏切っているみたいで、嫌になって離れた。

 

 最後にオレが勝ってさえいれば、それでいい。それがオレの全て。

 だから開道、教えてくれ。――お前はオレに、何を見せてくれる。そして、オレに勝てるのか。

 

 屋上の扉が開いた音がした。

 

 

 

 私は綾小路君が待つ屋上へとやってきた。そこには既に綾小路君がいて、来たことに気付いたのか振り返る。綾小路君は無表情だった。人はこんなにも感情を表に出さないことが出来るのかと考えてしまうほどに。

 

「お待たせ、綾小路君」

 

「いや、そんなに待っていない。早速だが、開道に話がある」

 

 話ってなんだろう。

 

「開道はどうして、無駄で意味のないことが出来る」

 

「無駄で、意味のないこと?」

 

「教室でみんなを注意しても、聞いているのはほんの僅か。他のクラスメイトは今後も繰り返すだろう。今日の水泳だって残る必要は無かった。オレには、無駄で意味のないことにしか思えない。どうしてこんなことが出来る」

 

 そんな、ただ一つの理由しかない。

 

「私が、そうしたいと思ったから」

 

「なに?」

 

「クラスメイトの殆どが聞いてないことは分かってる、このままじゃ繰り返すってことも。水泳だって本当は残る必要は無いかもしれないけど、自分なりに教えたかっただけ」

 

「……後悔するかもしれないんだぞ」

 

「かもしれないね。それでも、私は――私がやりたいと思ったことをする」

 

 私だって後悔無く生きてきた訳じゃない。それでも、私はこの生き方を変えるつもりはない。

 綾小路君の瞳は、キラキラと輝いていた。まるで星を見つめる子供のように。だが、仮面を被るように再び無表情になった。

 

「最後にオレが勝ってさえいれば、それで良い。これがオレの全てだと思っている。開道、お前はオレのこと、どう思う」

 

 私は綾小路君がどんな気持ちで言葉を告げたのか分からない。だけど、必死に考えて言葉を紡いだ。

 

「私は綾小路君のこと友達だって思ってる。たとえ歩んでいる道が、考えが違っても友達だよ」

 

「……たとえ考えが合わず、敵対するとしてもか? オレがお前のことを見捨てるとしてもか?」

 

「もしその時は――」

 

 私は胸に手を置いた。

 

「どんと来い、綾小路! 私はあんたの気持ちや考えを受け止めて上げる! そしてより良い未来へ進んでみせる!」

 

 それが私に出来ることで、やりたいことだから。

 綾小路は私の発言に驚いたのか大きく目を見開いた。そして、口角を緩めて笑った。初めて見たかも、綾小路が笑った顔。

 

「開道は面白いな。……ならオレに見せてくれ、より良い未来を」

 

「勿論! 私に不可能はなーい!」

 

「ふっ」

 

 綾小路は私に近付いていく。そして手を出した。

 

「綾小路って呼んでくれ。これからもよろしく頼む」

 

「私は開道でも星奈でもどっちでも良いよ。よろしく、綾小路」

 

 私と綾小路は握手をした。お互いに良い表情になっていた。

 

 

 

 開道は期待を裏切らなかった。ぶつかり合うことも、考えが合わないこともある筈だ。それでもきっと良い未来を見せてくれるだろう。

 オレは勝った。そして開道もオレに勝ってみせた。

 

 これからの未来が楽しみだ。

 

「綾小路~、まだ~?」

 

「もう少しで出来る、待ってろ」

 

 それはそれとして今、オレはチャーハンを作っているのだった。

 オレは本当に良い友達に恵まれている。

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