ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
あれから綾小路とは仲良くなれた。時々部屋に行っては料理を振る舞ったり、振る舞ってくれる。
神室にも料理を振る舞っている。美味しそうに食べてくれるから私としては嬉しい。いずれは料理を教えようとも考えている。
一方で教室での立ち位置はあまり、いや結構よろしくない。私は授業中の私語が多いことを危惧して注意して回っていた。しかし女子の一部は注意を全く聞いてくれない。完全に無視されているのが現状。
更に池君、山内君、須藤君の3人も話を聞いてくれない。正直騒がしいし遅刻が多いから改善して欲しいが、聞く耳を持ってくれない。
神室に現状を話すと――
『えっ? あんたの言うこと聞いてくれないの?』
と半ば呆れていたことは記憶に新しい。
このままだとポイントはどうなるんだろうか……1ポイントも貰えない可能性だってある。もしかしたら疑似0円生活って理想的な生活方法では? と現実逃避も決めてしまうのだった。
今日も今日とて騒がしい教室。最早遠慮など無い。さっきだって遅刻してきた須藤君に、話していた池君と山内君、女子の一部に注意を促したが聞いてくれなかった。
思わず溜め息が出そうになって――
「大丈夫か?」
綾小路が声を掛けてくれた。私は携帯を出しながら答える。
「うん、大丈夫だよ」
と言いつつ私は携帯で綾小路にメッセージを送った。
『大丈夫じゃないよ』
綾小路は通知が鳴った携帯を見て心配そうな目線を送る。私は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「そうか」
すると綾小路が携帯を打つ。そして私の携帯から通知が鳴った。
『飯、奢るぞ』
嗚呼、綾小路の親切心が身に染みる。おかげで少しだけ元気が出た。
「ありがとう」
「友達、だからな」
3時間目の社会で茶柱先生が入ってきた。教室のテンションは残念ながら悪い意味で変わってくれなかった。
「ちょっと静かにしろー。今日だけは真面目に受けて貰うぞ」
「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」
「月末だから小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」
私達の机に小テストが配られる。主要5科目の問題が数問載っている、まさに小テストだった。一部生徒はやる気が出てない風に見える。
「そう言うな。今回のテストは今後の参考用で成績表には反映されない。安心して受けるといい。ただしカンニングは当然厳禁だ」
言い方的にまるで成績表以外には反映されるみたいだ。どうしてこの学校は生徒を試すようなことばかりするんだ、誤魔化しも多いし。
心の中で愚痴を呟きながら小テストを受ける。ふふっ、中学で先生の代理をした私に不可能なんて……あれ、これはこうで。多分合ってる筈。
「?」
最後の3問全然分からないんだけど? なにこれ? ……この3問は空欄にしよう。
こうして小テストを終えるのであった。
オレは昼飯を食べ終えて、須藤達と自動販売機の前で雑談をしていた。須藤達とは友達になれた、かもしれないと僅かながら自信があった。
「お前さ、正直に言えば許すぞ?」
「何を言っているんだ?」
突然、池がオレに詰め寄ってくる。いったいどういうことだか分からない。
「俺達は友達だよな?」
「……あ、ああ」
「彼女が出来たら報告するよな?」
「はぁ? そりゃ、出来たら報告するぞ」
「堀北と付き合ってるんじゃないだろうな。抜け駆けは許さないぞ」
「?」
池は何を言っているんだ? それに気付けば須藤と山内も怪しむような目つきでオレのことを見ていた。
「いや、全然、マジで付き合ってないぞ」
「だってお前ら今日も色々と話してただろ。デートの話か? ああ、裏山!」
「ないない。そもそも堀北はそういうキャラじゃないことくらい分かるだろ」
「知らねえよ」
「話したことすらねえからな」
「性格はきついけどな。俺はああいう女はダメだ」
池、山内、須藤が順に答える。堀北、人間関係築いた方が良いぞ。
「……嫌われているといえば、開道だよな」
「? なんで開道が出てくるんだ?」
何故開道が嫌われているのか不思議で仕方なかった。開道は堀北と違って普通に接しやすい。それなのに、嫌われるものなのか?
「だって、休憩時間でねちねち言って来るんだぞ? 『授業中は静かにして欲しい』って」
「いい加減聞き飽きたし、先生は注意しないのになんでお前に注意されなきゃいけないんだって思うわ」
「俺の場合は遅刻だな。うぜぇよと思って聞き流してる」
嗚呼、池も山内も須藤も開道に対する不満を口にした。……それだけじゃない。恐らく女子にも不満はあるだろう。前途多難だな、開道。
「お前はどう思っているんだ、綾小路」
開道について話を振られる。当然、不満など無く、むしろ――
「オレは居心地の良さみたいなのを感じる」
須藤達からは変わった目で見られる。オレから言わせれば須藤達の方が可笑しいと思うのだがな。口に出したりしないが。これ以上話すこともないだろう。オレは平田と軽井沢が付き合っているのかと話を逸らすのであった。
放課後、私は綾小路と一緒にスーパーで買い物に行こうとしていた。今日の夕飯は綾小路君が奢ってくれるみたいだが、材料くらいは買わせて欲しいとお願いしたら、一緒に行くと連絡が来て、OKと返信した。
そんで学校を出ようとしたところ――
「開道……に綾小路か」
茶柱先生が現れて近付いて来た。
「開道、少し話がある。なに、簡単な話だ」
「私は大丈夫ですけど……」
「オレなら大丈夫だ。待ってる」
「少し開道を借りていく」
綾小路の言葉を聞いた私と茶柱先生は職員室の近くにある指導室へと入った。
「それで、話とはなんでしょうか?」
「開道は生徒達に注意を促しているみたいだな」
「はい」
「何か狙いでもあるのか?」
「言ってしまうと、Dクラスは当たり前のことが出来ていません。それに真面目に授業を受けている人にも悪い影響を与えます。どうして自分は真面目に受けているのに、とストレスを感じてしまうでしょう」
これは私が考えたことである。茶柱先生は探るような目だけは変わっていなかった。
「他に理由はあるか?」
うーん無いと言えば嘘になる。ある程度分かっている情報を話そう。
「支給されるポイントに影響があると考えました。だからこそ、注意して回っていた気持ちもあります」
「ほう、いつからそう考えるようになった」
「……初日からです」
「そうか」
茶柱先生の考えていることが分からないけど、ここで嘘を言う理由無いんだよね。
「最後に、いじめにはあっているか?」
表情は変わらないけど、心配してくれていると思う。だから心配を掛けないように言った。
「大丈夫です」
「そうか。話は以上だ。戻って良いぞ」
「分かりました。失礼します」
私は指導室を出て綾小路と合流するのだった。
そして5月1日。
「お前らは本当に愚かな生徒達だな」
そう口にした茶柱先生を本当に先生なのかと疑問に思った。