ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
茶柱先生がいなくなった教室は混乱を極めていた。ポイントが無くなり不安になるクラスメイト、このクラスに振り分けられたことに納得がいかない幸村君。これらの問題は解決まではいかなくても、平田君と櫛田さんが治めてくれた。
そんな平田君が教壇に立つ。
「皆、授業が始まる前に少し真剣に聞いて欲しい。特に須藤君」
「チッ、なんだよ」
指名されたのも相まってか須藤君は不機嫌である。
「今月、僕達はポイントを貰えなかった。これは、今後の学校生活において非常に大きく付き纏う問題だ。まさか卒業まで0ポイントで過ごす訳にもいかないだろう?」
「それは絶対に嫌!」
「もちろんだよ。来月は必ずポイントを獲得する。その為にはクラス全体で協力しなきゃならない。遅刻や授業中の私語はやめるように互いに注意するんだ。そうすればポイントはマイナスにはならない」
「なんでお前に指示されなきゃいけねえんだ。それに納得がいかねえ。真面目に受けてもポイントが増えないなんてよ」
恐らくそれは普通で当たり前のことだと思うから。私が思っていたことを櫛田さんが発言してくれた。しかし納得していないし、ポイントの増やし方が分からなくてやるだけ無駄だと須藤は主張した。
「それでも須藤君、いや皆の協力がなければポイントを得ることが出来ないのは事実だ」
「……お前が何をやろうと勝手だけどよ、俺を巻き込むな。分かったな」
この場の居心地の悪さに嫌気がさしたのか須藤君は教室を出ていてしまった。……この問題は須藤君一人の所為じゃない筈なんだけどなぁ。
いなくなったことを良いことに、須藤君の遅刻について言及する者や一緒のクラスなのに嫌そうにしている者がいた。
このままじゃ須藤君はクラスで孤立しちゃう。そして須藤君自身も改善する気が無い。きっとポイントがプラスになるまで今までの態度を変えるつもりはないのかもしれない。それじゃ、その期間でクラスメイトから見放される可能性だってある。
私は席を立ち、教室の扉の前まで行く。
「ま、待って開道さん!」
平田君が私を呼び止めるが、私は振り返って言った。
「須藤君追ってくるね」
それだけ言い残して教室を出る。
さてと、あの特徴的な赤髪な須藤君は何処にいるかな。私は須藤君を探して発見することが出来た。
「須藤君!」
「あぁん? お前かよ、教室に戻れってか?」
「須藤君は戻りたくない、よね」
「当たりめえだろ。授業を受けても分からねえし、真面目に受けるにも関わらずポイントは増えねえからな」
真面目に授業を受けることは別に特別なことじゃないと学校側は判断している筈だ。それを言ってしまえば須藤君は更に不機嫌になる。
だから、須藤君を説得するには言葉と行動で示すしかない。
「須藤君って運動、得意?」
「そうだな、俺はバスケ一筋だ」
「なら、私とバスケで勝負しよ」
「……はぁ?」
く、苦労した。職員室に行ってバスケットコートの使用許可を取ってきた。最初は無理だと言ってきた。まぁ当たり前と思いながら粘って、なんとかポイントを使用して許可をもぎ取ってきた。ポイントで支払うと言って許可が取れたことには本当に驚いたけど、今考えても仕方ないか。
私と須藤君はバスケットコートに入る。須藤君は自前のバスケットボールを持ってきていた。
「勝負するんだから、賭けをしてみない?」
「なら、俺が勝ったら二度と俺に関わるな。前から思っていたが、うぜぇよ」
「じゃあ私が勝ったら、お願いを聞いて貰うからね」
「お願い? 良いぜ。何個でも聞いてやるよ」
相当自信があるみたいだ。
私はブレザーを脱いで腰に巻き付ける。Yシャツの袖を捲りあげた。須藤君と対面する。
「勝敗はお前が決めて構わない」
さてと、私が有利の条件を出そう。
「1点でも決めたら私の勝ち。須藤君は何点決めても構わない。私が諦めたら須藤君の勝ち。相当私有利だけど、これで良い?」
「構わねえよ。お前と俺とじゃ差がある。お前が諦めるまで何点でも決めてやるよ」
須藤君は私の罠に嵌った。何故なら、私は諦めが悪いから何度でも挑むよ。
ボールを交互に出し合う。須藤君とのバスケ勝負が始まった。
10分間、私と須藤君はバスケットコートで走り回った。私は色々なことを頭の中で考えて実行してきた。しかし須藤君に全て弾かれた。逆に須藤君は私のディフェンスを軽く突破してきた。倒れたりすることは多々あったが、途中から須藤君が手を伸ばして起こしてくれた。
休憩も挟みながらバスケをすること、1時間。私は未だに点を取れてない。体力もかなり消費したと思う。須藤君は体力は減ったっぽいけど余裕が見える。私は攻める前に須藤に聞いてみた。
「須藤君って夢あるの?」
「嗚呼。俺は、バスケットのプロになる」
「そうなんだ。良い夢だと思うよ」
尚更この勝負負けられない。今度は須藤君から口を開いた。
「開道は、諦めねえな。なんでだ?」
「私は諦めが悪いんだ」
「そうかよ」
私と須藤君は見つめ合う。もしかしたら、これが最後になるかもしれない。
「来い」
「行くよ」
私はドリブルして進む。須藤君はディフェンスをする。この流れで何度もボールを奪われてきた。だから、一歩下がって跳躍。
「っ!」
須藤君も跳躍して手を伸ばそうとする。だけど、間に合わない。私はボールを押し出す。ボールはそのままゴールへと入った。一点を取ることに成功した。
「……俺の、負けだ」
「勝ったぁ……」
こうして私は須藤君に勝負で勝つことが出来た。終わった後はモップでコートを綺麗にする。
そして今はコートを出たところで話をする。
「で、お願いってなんだよ。授業に出ろ、か?」
「その前になんで私達は勉強をすると思う?」
須藤君は考える。しかし答えが思い浮かばなかったのか口を開いた。
「……なんでだ?」
「私の考えなんだけどね、人は勉強で可能性を広げることが出来るからだと思う」
「可能性……」
「バスケと同じかもね。須藤君はバスケを練習して、試合に必要な技術を身に付けた。勉強した知識は必ず自分の為に使える。……思い浮かべて欲しいんだけど、英語を勉強して知識が身に付けば、外国人と全力のバスケが出来ると思わない? そしてお互いに称賛することも出来るんだよ」
「……俺、難しいことは分かんねえ。だけど、全力でプレイすることの大事さは分かっているつもりだ。それに繋がるなら、悪くないって思える」
須藤君は勉強が苦手かもしれない。それでも、これは須藤にとって大きな一歩になる。
「じゃあ、お願いを言うね。……勉強を諦めないで欲しい。分からないところがあったら、私が教える。もし私が分からなくても、分かる人を必ず連れてきたり、教材を使って説明する。言っておくけど、諦め悪いから覚悟してね」
「上等だ、やってやるよ。……それとすまねえ。うぜぇとか言っちまって」
「うん。謝罪も受け取ったよ」
「……俺は須藤健だ。よろしく頼む」
「開道星奈。開道でも星奈でもどっちの呼び方でも良いよ」
「そうか。じゃあ、開道って言う」
私と須藤は教室に向かって歩き出す。ふと須藤の手を見ると本当に大きいことが分かる。
「須藤の手って大きいね。きっとバスケを沢山練習したからかな?」
「……そうだな」
僅かな空白があって須藤が何を考えていたのかは分からない。それでも、今須藤は変わろうとしていることは分かっているつもりだ。
その後は教室に戻って遅刻したことを謝罪する。私と須藤は頭を下げるのであった。