ようこそ開拓者がいる教室へ 作:アイボウ
放課後、平田君が対策会議の準備をしていた。そんな平田君の元に私と須藤は近付いていく。
「あっ、開道さんに須藤君」
平田君は近付いてくる私達に気付いたみたいだった。
「……おう」
「平田君、早速で悪いんだけど今日の対策会議には出られない」
「……それはどうして?」
「俺の勉強の為に教材を借りに行くんだ」
平田君の疑問に須藤が答えてくれた。平田君は目を開いて驚いている。それに私から見れば須藤の口から勉強をするって言ってくれたのもポイントが高い。
「その為に図書館に行くんだ。だから参加出来ない、ごめんね」
「すまねえ……」
「いや、良いんだ。むしろ僕は応援するよ。もし分からないことがあったら聞いて、力になるから」
「ありがとう」
平田君は私と須藤を見て瞳をキラキラと輝かせていた。その後、私達は平田君に見送られながら教室を出て図書館へと向かった。
図書館に向かうまでの間に小学生と中学生の時の話を聞いた。真面目に授業を受けてはこなかったらしい。ならその辺りの基礎が抜け落ちている可能性がある。だから小学生と中学生の基礎が載っている教材を借りた。数冊借りて、中学校で習うものを中心に抜け落ちていたら振り返る形にしよう。
借り終わると、須藤は遅れているが部活に行くらしい。図書館から離れて、学校で私と須藤は連絡先を交換した。その直後である――
『1年Dクラス綾小路君、1年Dクラス開道さん。担当の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来て下さい』
え? 何かやらかした?
須藤と後に合流することに決めて私は職員室に向かう。すると職員室と指導室の間に集団があった。
そこにいたのは綾小路、茶柱先生、ピンク色の髪をした少女、セミロングの先生がいた。どういう状況? 私は4人に近付く。
「へぇ、開道さんも呼んでたんだね」
「そうだな。さて、私は2人が揃ったので行かせて貰う」
「……あっ、そうだ。最後に自己紹介だけさせて」
セミロングの先生が私の前に移動する。
「星之宮知恵って言うの。よろしくねぇ」
「開道星奈です」
「星之宮」
「はいはい。これ以上揶揄うと怒られちゃいそうだから、またね。綾小路君、開道さん。行きましょう、一之瀬さん」
星之宮先生と一之瀬と呼ばれた生徒は職員室へと向かって行った。私達は指導室に入る。茶柱先生が口を開いた。
「良いか、2人はこの中に入ってくれ。そして黙っていて、私が良いと言うまで決して物を音を立てず静かにしてくれ。破ったら退学にする」
「は? 言っている意味が全く――」
給湯室に2人きりになってしまった。正直、2人でギリギリの広さだと思う。なにが目的なんだろう。
やがて指導室の扉が開く音がした。それから耳に入ってきたのは堀北さんと茶柱先生の会話だった。堀北さんはDクラスになったことに納得していない様子だ。まるで自分を優秀と思っている、いや小テストの結果を見る限り優秀なのかも。
しかし茶柱先生は一歩も引かずに堀北さんに言葉を返し続けた。堀北さんが常識について話すと、茶柱先生は世の中の常識が今のダメな日本を作ったと語る。正直、私には難しい話だと思った。
本当の意味での優秀な人間とはなんなんだろうか。ただ私が考えていることは、そこに心が無ければ駄目だということくらい。心の無い人間なんていないと思うけどね。
「残念だがDクラスに配属されたのはこちらのミスではない。お前はDクラスになるべくしてなっただけだ」
「……そうですか。改めて学校側に聞くことにします」
堀北さんは自身の評価に未だ納得していないみたいだ。茶柱先生はAクラスに上がれる可能性はあると話すが、堀北さんは簡単な道のりとは思えないと発言。多分、難しいと私でも思う。
やがて椅子が引く音がした。ここで茶柱先生が発言した。
「あぁ、そうだった。お前に関係する人物を呼んでいた。――出てこい綾小路、開道」
私無関係じゃない? 堀北さんとはそんな会話をする人間じゃないと思うんですが!?
「出て来ないと退学にする」
先生が言っていい言葉ではない。しかしこちらに出来ることは何一つない。私と綾小路は給湯室から出る。
「いつまで待たせれば気が済むんですかね」
「私を呼んだ理由ってあるんですか」
散々な言い様である。綾小路も私も未だに茶柱先生に呼ばれた理由が分からない。
「さて、綾小路、開道。お前達を呼んだワケを話そう」
茶柱先生はクリップボードに視線を落としながら笑みを浮かべる。
「お前は本当に面白い生徒だな、綾小路。全教科50点、今回の小テストも50点。これが意味するものが何か分かるか?」
「偶然って怖いっすね」
「ほう、あくまでも偶然全ての結果が50点になったと? 意図的にやったんだろ」
茶柱先生は綾小路が50点を揃えたことをまるで確信しているみたいな言い方だった。茶柱先生は数学の問題を例に出して私と堀北さんに説明してくれた。なにしてるの綾小路。
「おい開道。そんなでオレを見ないでくれ」
「私の心の半分は偶然だって信じてるよ」
「開道!」
綾小路は喜びの表情を浮かべる。信じてくれることに感動しちゃってる。
「貴方……どうしてこんなわけの分からないことをしたの?」
「いや偶然だって。開道みたいに半分でも良いから信じてくれよ」
「どうだかな。ひょっとしたらお前よりも頭脳明晰かも知れないぞ堀北」
茶柱先生は綾小路が頭が良いと見ているらしい。……もしそうだとしたら、頼んでみるのも有りかもしれない。
「お前も面白いな開道、後から聞いたとはいえ初日でクラスポイントの仕組みに気付いているとは思ってもみなかったぞ」
今度は私に驚きの表情が向けられる。茶柱先生は本当に驚かせるのが得意らしい。
「偶々ですよ。10万が毎月貰えるなんて思いませんでしたからね」
「それだけじゃない、2年生、3年生の教室に向かっているな」
「退学者がいることには気付きました。ただ、クラス分けの評価の基準には気付きませんでしたよ」
「もっと精進するんだな」
それから会話を少し続けて、茶柱先生が話を切り上げた。
指導室を出て、廊下へと放り出された。綾小路と堀北さんは会話、というか一方的に堀北さんが話を進めているみたいだ。綾小路は断りを入れているにも関わらず、無理矢理話を進める。大変そうだな。
「それと開道さん」
「ん、どうかしたの?」
堀北さんから急に会話を振られた。
「貴女は今後一切、何もしないで」
「はい?」
「貴女の行動は不確定要素が多過ぎる。今回みたいな行動を取られると迷惑なの。それでポイントが減ったら堪ったもんじゃないわ」
「軽率なのは認めるけど、何もしないのは無理」
「私は貴女の行動そのものが不愉快なの。とにかく、貴女は勉強だけして頂戴」
そう言い残して堀北さんは離れていった。いったい何が彼女にここまで言わせるのか不思議で仕方ない。
「堀北がすまない。まさかここまで言うとは思ってもみなかった」
「……ううん。軽率なのは認めるよ。だけど、やっぱり何もしないでただ見てろって言うのは無理かな。……それをダメだしされた訳だけど」
「オレは好きだぞ。やりたいと思えることを率先してやること。好き勝手出来そうだ」
「それ褒めてる?」
綾小路なりに慰めてくれているのかな。
「それに、私に出来ること、やりたいこと、そしてやるべきことがあるのかもしれない」
「そうか……でもやるんだろう?」
「もちろん。私は出来ること、やりたいこと、やるべきこと。全部やってみる」
「オレにも、出来るだろうか……」
「きっと出来るよ。綾小路の人生の主役は綾小路だから」
「そうだな」
そろそろ切り出そうか。
「綾小路、頭を使うけど頼みがあるんだけど」
「聞こう」
「須藤の勉強、手伝ってくれない? 1人でも多い方が良いと思うんだ」
私だけで教えても良いけど、思考や教え方にも違いがあった方が良いと思うし、頼りになる気がする。
「条件がある。開道の飯を食べさせてくれ」
どんだけ私のご飯を食べたいんだ綾小路。だけどそれで須藤の為、ましてや自分の為になるなら悪い条件じゃない。
「分かった。堀北さんのこともあるのに――」
「気にするな。開道のはその、オレがやりたいと思ったんだ」
「じゃあ、早速手伝って貰って良い?」
「嗚呼、行こうか」
こうして私は綾小路を仲間にして須藤に勉強を教えるのであった。ちなみに須藤にも飯をごちそうすることになった。